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 翌朝、目を覚ますとローズ様はいなかった。


ベッドの上には三毛猫さんが……夢だったのかと思うほど静かな朝だ。
三毛猫さんを撫でてからベッドを出る。

クリーンをかけて身支度を済ませようと服を選ぶ。
皆さんとご挨拶もしたし、今日は昨日よりも動きやすいワンピースでもいいかな……お城で着ても大丈夫だよね。

着替えを済ませるとすぐにノックがしてメイドさんが入ってきた。

「おはようございます。あら、もう着替えをなさったのですね」

と微笑まれたので一応確認してみる。

「こういうワンピースを着てお城を歩き回っても大丈夫ですか?」

メイドさんは素敵なワンピースですね、と微笑み

「お城にお客様がいらっしゃる時は着替えをしていただくこともあるかと思いますが、普段はそこまでキッチリとした格好でなくても大丈夫ですよ」

それに、クロエ様もローズ様の大切なお客様ですから過ごしやすいようになさってください、と。

「ローズ様が楽しそうにしていらっしゃると私達も嬉しいですから」

昨夜は遅くまでありがとうございました、と言われた。
ローズ様は一人で私の部屋に来ていたけれど皆さん知っているのね……

「朝食は皆様それぞれお取りになっています。クロエ様はどちらでお召し上がりになりますか?」

朝は三毛猫さんと食べようと思って、部屋で食べてもいいですか、と聞くとすぐにお持ちしますと言ってくれた。

食事が運ばれてからゲートで山の家に戻る。
三毛猫さんのご飯を持ってくるついでに庭を見ると熊さん親子とキツネさん親子が遊んでいたので肉や魚を出してそれを食べ終わるのを見てから野菜や果物を置いておいた。

それから三毛猫さんのご飯を持ってお城の部屋へ戻り三毛猫さんと一緒に朝食を済ませた。
メイドさんが食器を下げにくると

「殿下方が本日お茶をご一緒に、とおっしゃっていました。クロエ様のご都合はいかがでしょうか」

と聞かれた。そうだ……昨日は後でお茶をしようと言っていてそのままだった……

「ご一緒させていただきます」

そう返事をすると

「その様にお伝えしておきます、本日も雨が降っているのでお庭で、とはいきませんが美味しいお菓子も用意致しますので楽しみなさっていてくださいね」

と言いメイドさんは食器を片付けていってくれた。

メイドさんが部屋を出る前に今日の昼食は必要ないです、と伝えておいた。
お茶を飲むときにお菓子をたくさん食べるだろうから太ってしまう……と。

「あら、コルセットも着けずにその細さは羨ましいですよ。では、お腹が空きましたらいつでもおっしゃってください」

と言ってくれた。有り難い。
でも午前中は皆さんそれぞれやることがありそうだから、一旦三毛猫さんと山の家に帰ってお昼もそっちで食べようと思っている。

という訳で、

「三毛猫さん、帰ろうか」

「ニャン」

ゲートをくぐり帰ってきた。

「こっちは雨が降っていないね」

三毛猫さんと庭に出ると熊さん親子とキツネさん親子がゴロゴロしていたのでそこにダイブする。
気が済むまでモフモフナデナデしてから

「熊さんたちはやっぱり冬眠するの?」

熊さん親子に聞いてみる。

「ガウ」

するのか……そうか……

「たくさんお食べっ」

とお昼ご飯を一緒に食べるときにも肉と魚を多目に出す。

「キツネさんたちはたくさん遊びに来てね」

モッフモフを堪能するぞっフフフッ。
キツネさん親子がジッと見つめてくる……
ほらほらたくさん食べてねぇ、と果物も勧める。

食事が終わりみんながじゃれているのを眺めながらぼんやりと考える。

ノバルトに会ったらお礼を言おう……夕食の時は皆さんがいて何となく言えなかった。

それから……私……ノバルトに気持ちを伝えてしまうところだった……言わなくてよかったような……
でもあの時伝えてしまいたかったような……

伝えていたらどうなっていたのだろう。

ノバルトに明確に言われた訳ではないけれど……好意は持ってくれていると……思う。
元の世界での友達にはよく鈍感だとは言われていたけれど、それがわからない程恋愛に疎いつもりではない……

ただ王子様や貴族といった身分の高い人達に元の世界で出会ったことがないからなぁ……ましてや異世界……何かいろいろと感覚が違っていてもそういうものと言われたらどうしようもない。

一度この世界の、というか庶民ではない方々の恋愛や結婚観についてきちんと教えてもらわなければならない……誰かに。

レクラス王国に来る前にメアリとあんな話をしたからか事あるごとに考えてしまう。
友達……恋人……家族…………ふと三毛猫さんはどうなのだろう、と思った。

私達はこの世界で一番似ているのかもしれない。
異世界から来てこの世界には無い毛色で……


とんでもないことに気が付いた。
私……三毛猫さんになんてことを……

何も考えずに結界を張っていたから三毛猫さんの出会いの機会を奪っていたのだ……

「……三毛猫さん……」

三毛猫さんがジッとこちらを見つめる。

「ご、ごめ」

「ニャー」

く、食いぎみっ……やっと気が付いたかということか……
でも気にするな、と言っているような気も……
都合よく考えすぎか……

「これからは猫達には見えるように結界を張るからね」

ごめんなさい、と撫でるとスリスリしてくる。可愛い……
こんなに可愛いくて素敵な毛色の三毛猫さんはきっとモテモテだね。ちょっと心配。
恋人ができたら紹介してね、と更に撫でるとパンチを食らった。……しつこかったか。

「さて、そろそろ戻ろうか」

三毛猫さんはもう少しここにいるらしいから一人で戻る。
レクラスは雨が降り続いている。

ノックがして、メイドさんがお茶の用意ができたので案内してくれると言う。

案内されたのはピアノのある部屋……ノバルトがピアノを弾いている……

私……ノバルトがピアノを弾けるなんて知らなかった。
それだけじゃない。好きな色も苦手なこともどんな子供だったのかも聞いたことがない。
ちゃんと向き合った事がないということ……なのかな……

長く綺麗な指でピアノを弾いているノバルトはなんだか……王子様だ。

テーブルを見るとロイク殿下とノシュカトとセオドアが椅子に座りノバルトのピアノを聴いている。
何と言うか……王子様だ。

そんな中、私も静かに席に着く。

リュカ様は図書室に籠っていて、ローズ様とセルジュ殿下はそれぞれお勉強があるらしく今回は来られないらしい。

ピアノの演奏が終わり皆さんが拍手をする。
綺麗にお辞儀をして微笑むノバルト。

ノバルトも席に着くとお茶会が始まる。

「ノバルト、すごく素敵だった……あの……ピアノ……」

「ありがとう」

と……キラッキラの笑顔。
いかん、何か恥ずかしいぞ。普通に褒めているだけなのに。

「み、皆さんもピアノを弾けるの?」

みんなを見る。

「あぁ、バイオリンも弾けるぞ」

セオドアが得意げ。

「私はどちらもあまり得意ではないな」

ロイク殿下は控え目。

「子供の頃から習っているからね」

僕も兄上達も弾けるよ、とノシュカト。

へぇーと感心していると

「トーカは?」

聞かれてしまった。

「楽器は得意じゃなくて……得意という訳ではないけれど歌は好きかな」

人前で歌える程でもないけれど。

「トウカの歌声は美しいし私を安心させる」

? 私、ノバルトの前で歌ったことがあったかな?

「……そう? ありがとう」

どうだったかな? 思い出せないけれど褒められたのは嬉しいのでお礼を言う。

それは今度ぜひ聞かせて欲しいですね、とノシュカトが微笑んでから

「ところで、トーカ」

ニッコリ笑顔のままのノシュカト……え? ……お説教……ではないよね……

「これはどういうことか説明してくれる?」

何それ? 

「何それ?」

声にも出して首も傾げる。ノシュカトが……いや、皆さんが何か紙を持っている。
一枚借りて読んでみる。

こ、これはっ……


  ~ 招待状 ~

今夜、皆様を恐怖の館へご招待いたします。

夕食の二時間程後にそれぞれのお部屋のドアをノックいたします。ノックが聞こえたらフロラの木の絵の前にお集まりください。

勇気ある皆様の参加をお待ちしております。
 
                 R


ローズ様の招待状ぉー! 今夜の……

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