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しおりを挟むお城に着くとローズ様が……
本人はこっそり、のつもりかもしれないけれどなんせお姫様だからメイドさんも一緒だ。あと護衛の騎士様も少し離れたところにいる。
「トー……コホン、こちらよ」
名前ややこしくてすみません。
怪しく見えると思ったけれど、カイル様に呼ばれた時のようにローブを被っている私を、なるべく人目に付かないようにローズ様がお部屋へ足早に案内してくれる。
三毛猫さんもちゃんと付いてきてくれている。
お部屋に入るとローズ様が人払いをして二人きりと一匹になる。
ギュッと抱き締められて
「トーカ、よく来てくれたわ」
嬉しそうに微笑むローズ様は可愛い。
「男装姿も美しいわね」
褒めてくれているけれど傍らにはすでに数着のドレスが……
「パーティーでは他国からの留学生ということにするつもりなの、両親にも学園に通う留学生と言ってあるわ」
やっぱりセオドアが考えたのと同じ……きっと一番無難な設定なんだろうな。
「ローズ様、本日からお世話になります。よろしくお願いいたします」
「えぇ、来てくれて嬉しいわ。よろしくね」
フフフッと楽しそうに笑うローズ様。
「ノアのお名前なんだけれども、クロエ・ラングにしようと思うのだけれど大丈夫かしら?」
はい、大丈夫です、と言うと良かったわ、と微笑むローズ様。いろいろと考えてくれて有り難い。
「それでは早速着替えましょうか」
その前に、
「髪と瞳の色を変えておきますね」
カイル様のお屋敷と寮のみんなに女性の姿を見られているから暗い色か明るい色か極端に変えた方がいいかな……
ルルーカ公爵家の皆さんには黒髪を見られているから……明るい色にしよう。
ブロンドヘア、とまではいかないけれど髪と瞳の色が明るくなり、髪はロングヘアーにもしたからだいぶ印象が変わる。
これはバレないな。得意気に三毛猫さんを見ると毛繕いに夢中なよう……
「素敵! ドレスはそうねぇ……」
ドレスもアクセサリーも全てローズ様が選んでくれて
着替えをしてからローズ様のご両親、国王陛下と王妃様にご挨拶をしにいく。
三毛猫さんはドアが開くとどこかへ行ってしまった……
とりあえず……ご挨拶に行かなければ。
そういえば……ちゃんと入り口からお城に入るのは初めてだったかも……
そんなことを考えながらローズ様の後について歩いているとドアの前で立ち止まるローズ様。
「ここよ、二人とも優しいから緊張しないでね」
そう言ってノックをするローズ様。国王陛下と王妃様……緊張するって……
「失礼いたします」
ローズ様に続く。
「ローズ、お友達がいらしたのね」
王妃様が微笑む……美しい……おっと、見とれている場合ではない。
「初めまして、国王陛下、王妃様。クロエ・ラングと申します。お城へご招待いただきありがとうございます」
カーテシーをする。リアザイアの王妃様に礼儀作法を習っておいて良かった。
「私はローズの父のディオンだ。こちらは妻のマハレンだよ。よろしくね」
国王陛下がローズ様の父親として挨拶をしてくれた。見た目は渋くてカッコいいのに少しお茶目な感じがして緊張がほぐれる。
「ローズがとても楽しみにしていたのよ、クロエさんも楽しんでくれると嬉しいわ」
ありがとうございます、と私も微笑む。
「クロエにお城を案内してくるわ」
ローズ様が嬉しそうに私の手を引く。
あらあら、と笑うお二人に失礼いたします、とご挨拶をしてお部屋を後にする。
「素敵なご両親ですね」
そう言うと嬉しそうにありがとう、と微笑むローズ様。
それからいろいろなところを案内してくれた。
お城の図書室はやっぱり圧巻だったしお庭もおとぎ話の中のように綺麗に手入れされていた。
お庭の東屋の椅子に座るとメイドさんがお茶を持って来てくれた。
ローズ様がちょっと失礼しますね、すぐ戻ります、と言いどこかへ行ってしまった。お手洗いかな。
一人でお茶を飲んでいると
「こんにちは」
と声をかけられた。声のする方をみると
「……セルジュ殿下」
ダンストン伯爵家のお茶会でお会いしたリアム様と同じ年の第二王子だ。
「? 失礼……どこかでお会いしたことがありましたか?」
そうだった……とりあえず立ち上がりご挨拶。
「初めまして、私はノ……ト……クロエと申します」
偽名が増えてきたな……
「ノ・ト・クロエさんか、変わった名前だね」
あ、違います。
「すみません、緊張してしまって……クロエと申します」
クロエとお呼びください、と言うとクスクスと笑うセルジュ殿下。
「すまない、クロエ。初めまして。ところでなぜ一人でここに?」
ことの経緯を説明すると
「貴方が姉上が話していたお友達でしたか。パーティーまでは一週間ほどありますがゆっくりとお過ごしください」
ありがとうございます、と微笑みあう。
本当にしっかりしていますね、と思っているとローズ様が戻ってきた。
「あら、セルジュ。もうクロエとご挨拶をしたみたいね」
「はい、姉上。僕はこれから剣術を習う時間なのでもう行きますが……姉上、姉上も最近増やした算術のお勉強の時間ではないのですか? 設計に必要だとかで……」
何を設計するのかな……
「女性で習う方が少ない分野だから先生が喜んでおられましたよね? まさかお願いしておいてサボったりは……」
「い、いやだわセルジュったら、そろそろ行こうかと思っていたところよ。クロエをお部屋へ案内してからね」
メイドさんに案内してもらってもいいのだけれど……
セルジュ殿下に追い詰められているローズ様が可笑しくてクスクスと笑ってしまう。
セルジュ殿下と別れてからローズ様が部屋へ案内してくれた。
フゥッとため息をつくローズ様。
「トーカ、こちらがトーカのお部屋よ。くつろいでくれると嬉しいわ」
ローズ様も偽名を呼ぶのに慣れていないご様子。
「ローズ様、いろいろと……こんなに素敵なお部屋も用意していただいてありがとうございます」
二人の時はもっとくだけた話し方をして欲しいわ、と少し照れながら言うローズ様。
「じゃあ、そうさせてもらうね」
そう言うと嬉しそうに微笑む。
「そろそろ行かなくては……トーカ、お城の中とお庭も自由に歩いていいわ、楽しんでね」
と言うローズ様に
「ありがとう。あの、私にはメイドさんを付けてもらう必要はないからね」
と言っておく。四六時中付いて回られると落ち着かない……なんせ庶民なもので……それにこっちの世界では使用人として働いていることも多い。
「わかったわ、何かあったら誰でもいいから声をかけてね。また後でお兄様のところに一緒にいきましょう」
そう言って微笑むローズ様。
ローズ様とも別れて改めて用意してくれた部屋を見回す……広い……いいんですか、私一人でこんなに広い部屋……
三毛猫さん……どこかな……
広い部屋に一人……落ち着かない。
自由に歩いていいと言われているからもう一度図書室に行ってみようかな。面白い本があるかも。
というわけで、部屋を出て図書室へ向かい……迷った。
「迷った……」
声にも出してみた。おかしいな? いや、おかしくはないかな……こんなに広いのだもの。
誰かに聞いてもいいけれど、せっかく自由に歩いていいと言ってくれたのだから図書室にこだわらず自由に歩いてみようかな。
「一週間後のパーティー、たくさんの貴族様がいらっしゃるわ」
メイドさんかな? 話し声が聞こえてきた。
「他国の王子様方が滞在されているから皆様気合いを入れて来ますよね……」
少し不安そう……
「そうねぇ……何事もなければいいけれど」
何事って……なんだろう。まぁ、私には関係ないかな。
さぁ、パンッパンッと手をたたき仕事に戻りましょう、と聞こえたので何となくその場を離れる。
さて、もう少しウロウロしてみようか……
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