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 みんなが一斉に私を二人から見えないように背中で隠してくれる。


……ごめんみんな、ハリスさんとセドリックさんはもう知っているのよ……

退きなさい、とハリスさんが言いながらこちらへ来て私を見ると……左眉が上がる。

すみません、着替えるのを忘れていました……と眉を下げるとセドリックさんが近づいてきて

「おや、ノア。その格好が気に入ったのか? こちらへおいで、他の服もあるから」

着替まで用意してくれたのですか……すみません、と思いながら差し出されたセドリックさんの手を取るとグイッと……
担ぎ上げられた。そんな様子を見ながらみんなが……

「セ、セドリックさんの趣味なのか……?」

セドリックさんに着せられたと思われてるっ

「ノア……ノアか……そうか」

ようやく気が付いてくれたのね……

「俺……どっちも好みだ……どうしよう」

ありがとう、でもどうもしなくていいよ……

「まさかノア……セドリックさんと……?」

違う違う。

ザワつくみんなの間をスタスタと歩き出すセドリックさん……

「あ、あの……自分で歩きます」

聞こえているはずなのにニコニコと微笑むだけで下ろしてはくれないセドリックさん……嫌な予感……

「あの……二階まで私を担いで行くのは大変なので下ろしてください」

二階……私の部屋に行くのですよね……?

「大丈夫だよ、私の部屋に行くからね。一晩過ごしてどちらの格好をするか決めたらいいよ」

全然大丈夫じゃない……
今夜はどう過ごそうか、とご機嫌なセドリックさん……

トマスッ……トマスと目が合う……首をふられる……
テオッ……はお茶を飲んでいる……
アルとイーサンッ……はただただ驚いている……

「ハ、ハリスさんっ」

手を伸ばすけれど自業自得だ、というような表情で見送られる……

ジタバタと暴れてみるけれどもセドリックさんの力は強い。
いやぁーー!! このままじゃ連れ込まれるぅーーっ

魔法を使うか迷っていると、セドリックさんの部屋の前でハリスさんが止めてくれて……セドリックさんが私を下ろしてくれた。

「まったく……お前はただでさえ隙だらけなのだからもう少し警戒心を持て」

怒られた……

「そこがノアの可愛いところでもあるけれどね」

セドリックさんはそう言いながら部屋のドアを開けて自然な流れでどうぞ、と促す……

どうも……って入る訳ないでしょう。

ハリスさんがまたため息をつく。

「ノア、君も大人だから私達があれこれ言うのもどうかと思うが、男同士だとしても力も体格的にもノアが不利だ。知り合いならば無理強いもしない、と思い込まないことだな」

それに、と続く……

「全く知らない相手だと手加減なく襲われてしまうことが多いらしいからな。そんな目にはあいたくはないだろう?」

今回の誘拐事件を思い出す……はい、と頷くと頭を撫でられた。セドリックさんからも

「そういうところは変わって欲しくはないとも思うけれど、ノアが酷い目にあうのは嫌だからね」

そう言われて撫でられる。
それから明日からまたよろしく頼むよ、と言われ

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

あの場から連れ出してくれたことと、心配してくれた二人にお礼を言ってから二階の部屋へ戻る。
三毛猫さんをモフモフしてから温泉に入り気持ちをリセットする。

よしっ! 明日からまた頑張ろう……


次の日、元の……というか男装姿で仕事に戻った私をみてガッカリする人や本当にノアだったのか、と驚く人やどっちもあり……と呟く人や……反応はそれぞれ違ったけれど、みんなおかえり、と言ってくれた。

三毛猫さんと一緒にリアム様の元へ行き、クルクスさんとも久しぶりの再会を果たした。
相変わらず真っ先に三毛猫さんに突進していたけれども、その後でちゃんと私のところにも来てくれた。

「リアム様、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

改めてそう謝ると

「ノアはクルクスのために怒ってくれたのだろう? ありがとう」

そう微笑みお礼を言われた……リアム様が大人に見える……
出会った頃は生意気な感じしかしなかったのに。
クルクスさんの事を一人で守ろうと必死だったけれど人を頼ることができるようになって余裕が出てきた感じ……

クルクスを頼んだよ、と微笑むリアム様を見送る。

クルクスさんと庭に出ると使用人の皆さんがクルクスさんを撫でながら挨拶をする。クルクスさんも嬉しそうに尻尾を振っている。

クルクスさんが皆さんに馴れている……ということは私の役目もそろそろ終わりかな……

庭の木にもたれながらクルクスさんが三毛猫さんを追いかけているのをボンヤリと眺めながら考えていると、イアン様がやってきた。

「メイド服は終わりか。カイルはなかなかいい趣味をしているな」

「イアン様……いろいろとありがとうございました。カイル様は……良いところもありましたよ……?」

ちょっと考えてしまったし最後にうっすら「?」をつけてしまった……
イアン様はクスクスと笑い

「知っているよ」

風が吹きフワリとイアン様の髪が流れる。

「あいつは面白いヤツだ」

それにしょうがないヤツだ、と呟き困った様に優しく笑うイアン様。
カイル様の気持ちに気付いている……? もしかしたらイアン様も……? と思ってしまった。
けれどもイアン様の表情はすぐに戻る。

「ノア、二週間後に城でパーティーがある。城の方からノアに手伝いに来て欲しいと依頼があった。リアザイアとザイダイバの王城でも働いたことがあるのだろう? 両国の王族も滞在中だ、信頼できる使用人は一人でも多いと助かるとのことだ」

なるほど、休暇をわざわざ取らなくてもお城に行けるらしい。

「私とリアムも参加するから城で会えるかもな」

カイル様もきっと来るから……気付かれないといいけれど……

「城に慣れるためにパーティーの一週間前、来週から来て欲しいそうだ。頼めるか?」

お城からの依頼なんて断れないのに一応私にも聞いてくれる優しいイアン様。

「はい、頑張ります」

そう言って微笑むとイアン様も微笑み頷く。
頼んだよ、と言いお屋敷へ戻って行くイアン様を見送る。

それから一週間、みんなにワンピースはもう着ないのかとか、もう一度あの時のノアに会わせてくれとか、部屋においでとか部屋に行っていいかとかいう誘いやお願いをかわしつつダンストン伯爵家での仕事をこなした。

まったく……もはやネタにされているとしか思えない……
まぁ……みんなのそういうところ、嫌いじゃないけれどね。

お城へ向かう当日、有り難いことにダンストン伯爵家から馬車をだしてくれるという。

荷物をまとめて三毛猫さんと一階に降りるとハリスさんが待っていてくれた。

ハリスさんが私の荷物を持ってくれて一緒に馬車へ向かう。
仕事や学校があるので見送りは私だけだが、とハリスさんが言い

「頑張るんだよ」

と優しく微笑まれた。

「ありがとうございます! 頑張ります」


ハリスさんに行ってきます、と挨拶をして私は三毛猫さんと一緒にお城へ向かった。

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