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しおりを挟む「さむっ」
ブルッと震えて自分の身体を抱き締める。
天気のいい日中は暖かいのに……いつの間に季節が巡っているんだなぁ……目を閉じたままぼんやりとそんなことを考えていると
「君は……そんなところで何をしているのだ」
何って……なんだっけ?
カイル様のお屋敷で……ちがう……ルシェナ様が迎えにきてくれて……
!! そうだっルシェナ様! 戻らないとっ
目を開けると柵の向こう側には知らない男性……
「わ、私……どれくらい寝ていました? 戻らないとっ」
焦って入ったときと同じように柵に足をかけてのぼる。
そんな私を呆気にとられた表情で見守る男性。
スカートが柵に引っ掛かりバランスを崩した私を素晴らしい反射神経で抱き止め、ゆっくりと下ろしてくれた男性。
「すみませんっ、ありがとうございます」
頭を下げる。
「あ、あぁ……いや、君は……」
急いで戻らないと……もう暗くなりはじめている。
「あの……ナイスキャッチです!」
そう言って親指をたてて、それでは失礼しますともう一度頭を下げてからお屋敷の方へ走り出す。
そういえば、誰だったのだろう? 逞しかったしかっこよかった……動物達のお世話をする人かな?
……今はそれどころじゃない……ルシェナ様が心配しているかも……寝てしまうなんて……
お屋敷に入るとアリアが
「ノア! どこへ行っていたの? ルシェナ様がお呼びよ。見かけたらお部屋に来るようにって」
「すぐに向かいます! ……アリア、その……案内してもらえるかな……?」
仕方がないわね、と微笑み案内してくれるアリア。
ありがとう、と言ってアリアとはお部屋の前で別れる。
ノックをしてノアです、と名乗るとどうぞ、と言ってくれたのでドアを開ける。
「失礼いたします。戻るのが遅くなり申し訳ありません」
バッと頭を下げるとクスクスとルシェナ様が笑う。
「自由に過ごしてもらって構わないわ。何かあった時は教えてほしいけれど」
と言ってくれた。リアム様もそうだけれどルシェナ様も大人びているなぁ……ローガン様は……身体は大きいけれど中身は年相応かな……
「はい、ありがとうございます」
ドアがノックされる。ルシェナ様がどうぞ、と言い入ってきたのは
「カミラメイド長、こちらはノアです」
そう言えばメイド長にご挨拶をしていなかった……焦る私を見てルシェナ様が
「ノア、こちらはカミラメイド長よ。今日はお仕事で外に出てもらっていたので今来てもらったの」
そうだったのか……
「はじめまして、カミラメイド長。ノアと申します。よろしくお願いいたします」
カミラメイド長は微笑み
「こちらこそ、よろしくお願いします。うちのルシェナ様のわがままで連れて来られたのだとか……ごめんなさいね」
違うのです……むしろ助けてくれたのです……
ルシェナ様は楽しそうに笑っている……そうか、カミラメイド長はわかっているのだ。
ルシェナ様が一人のメイドを救った事を……
「もしかして……今までにも何度か……?」
そう聞いてみるとカミラメイド長はえぇ、と優しく微笑み
「うちのお嬢様のわがままは今に始まったことではありませんからね」
なんとも優しいわがままだ。
思わず私も微笑んでしまう。
「もうすぐ旦那様が戻られます。お夕食の準備が整いましたら参りますのでこちらでお待ち下さい」
「私もお手伝いします」
そう言うとカミラメイド長がルシェナ様をチラリと見る。
ルシェナ様が頷くと
「では、一緒に付いてきて下さい。ルシェナ様、失礼いたします」
カミラメイド長に続いて私もルシェナ様のお部屋を後にする。
「夕食はご家族そろわれるのですか」
ご挨拶は夕食の後かな……
「いいえ、奥様はほとんどお部屋からお出にならないので。だから食事はお部屋に持っていくのです」
でも……とカミラメイド長の表情が曇る。
「最近は食がますます細くなっているような気がします。以前はよく食べてよく笑う方だったのだけれど……」
旦那様もあまり笑わなくなってしまって……と。
「ルシェナ様はご両親の負担を少しでも減らそうと……あんなにしっかりとしたお嬢様になられて……」
もっと子供らしくいてほしい気持ちと誇らしい気持ちが混ざって複雑な表情……そうか……だから大人びて感じたのか。
奥様にお会いできないかな……
「あの……ご挨拶もしたいので奥様へお食事を運ぶのは私に任せていただけませんか?」
カミラメイド長はそうですねぇ……と少し考えて
「旦那様に聞いてみるので今夜は無理だけれど……もしかしたら後でお願いするかもしれませんね」
と言ってくれた。
それからテーブルのセッティングを手伝い、近くにいるはずだからアリアと一緒にマイロ様を呼んで来てくださいといわれてアリアを探す。
「アリア、一緒にマイロ様をお連れするように言われたのだけれど……」
ナプキンを何かの形に折り畳んでいる。
「わかったわ、もうすぐ終わるから……これでよしっ。お待たせ、行きましょう」
そう言って先に歩き出すアリアの後に続く。
「マイロ様は時々体調を崩されるの?」
アリアの背中にそう問いかけると
「普段はお元気なのだけれど……時々ね……」
原意不明は不安になる。一番不安なのはきっとマイロ様……
マイロ様のお部屋のドアをアリアがノックするとメイドさんがドアを開けてくれた。
お屋敷の入り口でマイロ様をお部屋にお連れしたメイドさんだ。
「アリア……」
あ、三毛猫さん! メイドさんの後ろからひょっこり顔を出す三毛猫さんに思わず手を伸ばして抱き上げそうになる。
「パドマ、こちらはノアよ。今日からルシェナ様付きのメイドとして働くことになったの」
よろしくお願いします、と頭を下げながらも三毛猫さんを見る。こっちにおいでー
「ノア……? 貴方が……私はメイドのパドマです」
お屋敷の入り口でお見かけしたわね、よろしくね、と微笑むパドマにアリアが
「パドマ……もしかして……」
不安げにきく……
「ええ、マイロ様……熱があるわ。咳はそれほどでもないのだけれど、これからますます熱が上がるかもしれない……」
あんなに小さいお体で可愛そうだわ……と呟くアリア。
「私はマイロ様に付いているからアリアはこの事を皆さんにお伝えしてくれるかしら」
アリアがわかったわ、と言いパドマがドアを閉める、その瞬間三毛猫さんが……出てくることはなかった……三毛猫さーん……私の部屋どこかわからないよね……後で迎えに行くからね……
アリアはそのままルシェナ様のお部屋へ行きマイロ様のことを伝える。
「そう……食事の前にマイロのところへ行くわ。お父様もお母様のお部屋へ行ってからくるでしょうし。それからノア、今日はもうお部屋に戻っていいわよ。慣れない場所で疲れたでしょう。」
お父様にはまた後でご挨拶をすればいいわ、と……気遣いのできるお嬢様だ……ありがとうございます。
食事は使用人の居住エリアとお屋敷のキッチンが近いのでお部屋に持っていってもいいしお屋敷のキッチンの隣の部屋が食堂になっているのでそちらでも食べられるとアリアに教えてもらった。
トイレは一階と二階にそれぞれあって、お風呂は男女隣り合って一階にあるときいている。
アリアにもお疲れ様、と言われて私の今日の仕事は終わった……
いや、終わっていない。マイロ様の様子を見に行きつつ三毛猫さんを回収しなければ。
キッチンやお風呂の場所を確認しながら一度部屋に戻った。
全身にクリーンをかけて動きやすい……というか楽チンなワンピースパジャマに着替えて結界を張る。
よしっ今行くからねーっ三毛猫さーーん!
真っ直ぐマイロ様のお部屋へ向かう。
そう……真っ直ぐ向かったつもりだったのだ……
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