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 翌朝、身支度を整えて部屋を出るとすぐにマリアナメイド長に会った。


私の部屋に向かっていたらしい。

「おはようございます、ノア。カイル様がお呼びです。すぐにお部屋まで行ってください」

「おはようございます、マリアナメイド長。承知いたしました」

カイル様のお部屋へ向かう……どこだっけ……?
マリアナメイド長……はもういない……ピンチ!
……まぁいいか。適当に歩いて会った人に聞こう。

そういえばカイル様のご両親にまだご挨拶ができていない。
両親が屋敷にいて時間がある時でいい、とカイル様には言われたけれど……お二人とも忙しいみたい。

そんなことを考えながら歩いているとミアを見つけた。よかった、

「ミア! おはよう」

小走りで近づくとミアも

「おはよう、ノア。急いでいるの?」

そうなの、とミアの前で息を整える。

「カイル様のお部屋の場所がわからなくて……」

「お呼び出しがあったのね。案内するわ」

ニコリと微笑むミア……頼もしい先輩だ。
廊下を曲がったり階段を上ったりスタスタと歩いていくミア……歩くの速いな。

「こちらのお部屋よ、頑張ってね」

そう言ってスタスタと行ってしまった……手を上げていたから私のありがとうは聞こえたと思う。

さて、少し遅くなってしまったけれどドアをノックする。
……返事はない。念のためもう一度……
やっぱり返事はない。まだ寝ているのかな?

そっとドアを開けてお部屋に入る。
いない……ということは寝室かな……

着替えで使わせてもらったカイル様の寝室に繋がるドアをノックするけれど……静かだ……
寝ているかもしれないからなるべく音をたてないようにドアを開ける。

カーテンは開いていて朝日が差し込んでいる。
ベッドにカイル様の姿はない。私が迷っている間に起きてどこかへ行ってしまったのかな……

ガチャ

寝室の奥にあるバスルームのドアが開く。
髪が濡れて上半身裸のカイル様と目が合うと

「遅かったね、迷っていたのかな? 明日からは私を起こしに来てもらうよ」

いいね? と言われはい、と頷く。
カイル様がベッドに座り私にタオルを差し出す。

「髪、乾かしてくれるかな」

タオルを受け取りカイル様の前に立つ。
カイル様の頭にタオルを被せてワシャワシャと……

「おい、何をしている……」

なにって……

「髪を乾かそうかと……」

弟たちにしていた様にやってしまったけれど違った……?
タオルを取ると乱れた髪のカイル様……
おぅ……色気が……でも顔怖いです。

「髪をとかしながらタオルで丁寧に乾かしてくれるかな」

微笑んでいるのに微笑んでいないあの微笑みでヘアオイルみたいなのを渡されながらそう言われた。
ドライヤーとかないから整えながら乾かすのかな……

でもそれだとベッドに上がらないと……移動はしてくれなさそうだし……いやっ、さすがにベッドはないか……このまま正面からいってみよう。

ヘアオイルを少量手に取り毛先につけて髪をとかしながらタオルで丁寧に乾かしていく……結構手間だな……いつも魔法で簡単に済ませていたから忘れていた。

それにしても……前からは失敗したかも……後ろ髪がやりにくい。
ウロウロとカイル様の前を行ったり来たり……最終的に触れない様にだけれど抱き込むような体勢になる。

そうすると無言のカイル様が突然私の腰を両手でガシッと……

「ひゃぁっ」

驚いて変な声が出た。
そんな私をふぅん……と見上げるカイル様……近いっ

「ノアは華奢だね。いい香りがするし女性のようだ。この胸も……私が渡した下着をちゃんと着けてくれているのかな」

胸も下着も自前のものです。
自然な流れでスカートをまくりあげようとするカイル様。

「朝から私をこんな気分にさせるなんて……いけないメイドだね、ノアは」

私の足に指を沿わせながらゆっくりと上へ……
不味いぞ……私にはあるべきものがないっ女性だとバレる!
あと普通にやめて欲しい。勝手にそんな気分にならないでください。

あれ? でも男性だとバレたらダメで……ん? 女性だとバレてもダメ……? とにかくこれ以上はだめだ。

「カイル様、私はカイル様のものではありません」

ピシッと言っておかないとね。

「そうだね、まだ……ね。それでは私のメイドに仕事を続けてもらおうかな」

楽しみは後に取っておくよ。とクスクスと楽しそうに笑うカイル様……

自然乾燥ですぐ乾くくらいにタオルドライをしてから適当にカイル様の髪を整える。
それでは失礼します、といい足早に……というか勝手に部屋を後にする。

何も言われなかったし用があればまた呼ばれるよね……
カイル様の部屋を出てドアを閉める。

ふぅ…………

「普通に身の危険を感じるんですけどっ!?」

思わず声を大にして言ってしまった後、周りを確認する。よかった、誰もいない……

それから一日お屋敷の仕事をこなしてカイル様から呼び出される事もなく今日の仕事は終わりかぁ、と部屋に戻ろうとしたところでマリアナメイド長にカイル様のお部屋に行くようにと言われた。

えーー、と思ったけれど顔には出さずに畏まりました、といいお部屋へ向かう。

ドアをノックしてお部屋に入る。カイル様は本を読んでいたようでラフな格好でくつろいでいる。

「やぁ、ノア。こちらにおいで」

なんで? と言いたいところをぐっと堪えて言う通りにする。
かけて、と隣に座るように言われる。
私が座るとカイル様が話し始める。

「今日、ダンストン伯爵家のリアムからローガンに謝罪があったらしい。まぁ私がそうするようにリアムに指示したのだけれどね」

私からの手紙をリアムに渡させておいて何もなかったらローガンが可愛そうだろう? と。

そうか……私をここで雇うのはローガン様にも秘密にしているのだった。

私はリアム様に謝らせてしまったのか……

「私はこれでもいい兄でいたいと思っているからね」

そう言いながら私の髪に触れるカイル様……カツラかぶっていないからバレないように気を付けなきゃ……と妙なところで緊張してしまう私……

「それからね、明日イアンが私に会いに来るそうだよ。君の事でだろうねぇ……ずいぶんと大切にされているのだね」

カイル様の手が私の頬に触れ……顔を近付けてキス……ではなく私の耳元で

「今夜……君をメチャクチャに犯したらイアンは怒るかな」

ギシッとソファーがきしむ……

ヒィッ……怒ると思いますっ! ダメッ絶対!
ガチガチに固まってしまった私を見てクスクスと笑いながら

「冗談だ、まだしないよ」

まだ? その予定があるのかな?

「ただし、イアンにもその姿でノアだとバレないようにね。もし気付かれたら……君は私のものだ」

いいね? と言われて嫌です、とは言えず……はい、と返事をする。

部屋に戻っていいと言われたので失礼します、とカイル様のお部屋を出る。どっと疲れた……

部屋に戻って三毛猫さんをナデナデ……窓を開けてフワリと飛ぶ。
高いところからお屋敷を眺めながらどうしてこうなったんだっけ? と考える。

このまま逃げてしまったらダンストン伯爵家に迷惑がかかる……かといって襲われたりした時にカイル様に魔法を使って抵抗しても……やっぱりダンストン伯爵家に迷惑がかかる……

記憶を消す魔法はこんなことで使いたくはないし使ってはいけない気がする……自分の都合で人の記憶を消すなんて……

この魔法はよっぽどの事がない限り使わないと決めている……

きっとリアム様もイアン様も私が早く戻れるように考えてくれているはずっ……もうしばらく様子を……

でもこれ以上迷惑がかかるようなら……どうしよう。


考えれば考えるほど……私……詰んでない……?


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