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しおりを挟むそれから数日後、いつの間にか面接が行われていたみたいで新しい使用人が男女十名ずつ増えていた。
彼らは今日の昼から来てくれるみたいで男性寮、女性寮ではそれぞれ今夜紹介も兼ねて集まりがあるらしい。
今夜? もしかして…………
「ね……ねぇアル、イーサン。短期でお屋敷で働いてくれる方達は通いなのかな?」
そうだよね?
「俺達も昨日聞いたばかりだがノアにはまだ伝わっていなかったのか」
…………イヤな予感……
「一月程の短期だから私達と相部屋になるよ。少しの間だからね、十名だから二階の部屋全員相部屋になるね」
一階は年長で先輩だから相部屋をお願いするわけにもいかないからね、とイーサンが教えてくれた。
まずい。相部屋はまずいよ。どうしよう。
どうしよう、どうしよう、と考えて何も思い付かないまま夜になってしまった……あぁ……どうしよう……
夕食を終えてとりあえずお茶をいれて落ち着こうとキッチンでお湯を沸かしていると、早めに寮に戻ってきたハリスさんとセドリックさんが談話室に入ってきた。
私に気が付くとキッチンへ来たのでお茶を飲むかきくと頂くよ、と言うので三人分のお茶をいれて持っていく。
再度確認しなければ……
「あの……新しく来られる方々と相部屋になるというのは…………」
「ん? あぁ、今夜から二階は相部屋になるが短い間だからよろしく頼むよ」
ハリスさん……もう少し早めに教えて欲しかったです……
「ベッドはどうするのですか? 部屋には一つしかありませんが……」
「寮のベッドは大きめだろう、少し狭いかもしれないが二人でも寝られるよ。今までもそうしてきたが……身体が大きい者は簡易ベッドを部屋に持ち込んで寝やすい方に寝てもらっていたな、ただ簡易ベッドも何台もあるわけではないからな」
確かにベッドは大きい……と言ってもダブルベッドくらいだ。
いや、それよりも今夜初めて会う人と同じベッドで寝るって……みんな平気なの!?
皆さん貴族のお屋敷で働いたことがあるみたいだから紹介状も持ってきているだろうし……変な人はいないだろうとかそう言う……?
えーー身元はちゃんとしているかもしれないけれどどんな人かはわからないよね……
それに三毛猫さんと一緒に寝られなくなっちゃう……
グルグルといろいろ考えていると、
「知らない人と相部屋が嫌なら私の部屋に来るかい?」
セドリックさん……それはそれで何故か危険な気がします。
「ノアは小柄だしな、私の部屋でも構わないが…………」
構わないが…………何ですかハリスさん……
そもそも私だけそんな事したら良くない気が……せめてアルかイーサンに相部屋を頼もうか……そう考えているとエントランスが騒がしくなって皆さん戻って来たみたい……
仕事が終わり夕食を済ませて来たらしく新人さん達とも仲良くお喋りをしている。
部屋に戻っていた寮の皆さんも出てきて私達もエントランスへ向かう。
人が多い……皆さん背が高くて……思わずテオを探してしまう。
コホン
ハリスさんが前に出て咳払いをすると皆さん静かになり注目する。隣にはセドリックさんも立っていて微笑んでいる。
「皆さん、ダンストン伯爵家使用人寮へようこそ。あいにく空いている部屋がないので相部屋となり不便かもしれないが仲良くやって欲しい。短い間だがよろしく頼むよ」
それから隣は女子寮だけれど緊急時以外は行かないように、とか私が最初に聞いた注意事項なんかを話していた。
「部屋割りだが……」
そう言って皆さんを見渡すハリスさん……
「こちらで決めてもいいがすでに仲良くなっている者もいるようだな……」
フム、とハリスさんが考えているのを私はどうしようもないけれどどうしようかなぁとボンヤリと見ていると突然目の前が真っ暗に……
手で目を覆われ首に腕を回される……
「俺、ノアと相部屋します」
私の頭に顎を乗せてそう言うのは誰だっ……
無理矢理振り向いて顔をみる…………!
褐色の肌に茶色い髪の
「セオドグァッ」
絞まってるっ絞まってるっ…………
「やぁノア、久しぶり。君の親友のレオンだよ。元気だったかな?」
クビックビッ! セオドアの腕をバシバシと叩くっ
「おっと……ごめん、久しぶりに会えて嬉しくて」
フフッと本当に嬉しそうに笑う…………
ずるいぞ……怒れないじゃないか。
腕をほどかれて深呼吸をする。
「君は確か……ザイダイバ王国の王城で働いていたというレオンか。私も紹介状を読ませてもらったよ。ノアと知り合いだったのだな」
ハリスさんその紹介状って……たぶんセオドアが自分で書いたやつ……チラリとセオドアを見る。
「はい、ノアとは城でも一緒でしたし風呂も一緒に入る仲なんですよ」
ねぇー、とこちらに微笑みかけるセオドア……ちょっとっ……余計な事を……
このお風呂に一緒発言に皆さんがザワつく。
ここでは誰とも一緒にならないようにお風呂に入っていると思われているのか……
「ノアとレオンってもしかして……」
いけない……トマスが……というか皆さん誤解している……
「違います。誤解されるような言い方はやめてください」
ハッキリ言っておかないと。
パンッパンッとハリスさんが手をたたく。
「とりあえず、ノアはレオンと相部屋でも大丈夫なのか?」
……大丈夫ではないけれどセオドアは私が女だと知っているからいろいろと助かる。
「はい、大丈夫です」
それが一番いいような気がする。夜は私が山の家に帰ればいいのだ。
やったぁー、と私の頭に頬ずりしながら喜んでいるセオドアを尻目にそんな事を考える。
「では、他の者も気の合いそうな者と組んでもいいし、特に希望がなければこちらで決める」
相部屋が決まった順に部屋へ戻っていく。
私はセオドアに一階の案内をしてから部屋へ向かった。
「どうぞ」
ドアを開けて部屋の中に入るとセオドアが後ろ手にドアを閉めて鍵をかける……
「やっと二人きりになれたね……おや、ミケネコサンもいるね」
ベッドの上には三毛猫さん……ジリジリと近づいてくるセオドア……圧を感じて後ろに下がる私……
「久しぶりにニャンニャンしようか」
ニャンニャンってなんだ……
「ニャン」
三毛猫さんにはわかるのかい……? 困惑する私を見て笑いだすセオドア……
「相変わらず面白い顔をするね、トーカは。フフッそれにしても……男装とはねぇ」
そう言って私の全身を見る。
「まぁ理由は何となくわかるけれど……この国では他の国よりも恋愛に関しては性別があまり関係ないことを知らなかったんだね」
私の短い髪を触りながら大正解を言うセオドア。
「これでは余計に男の興味を引いてしまいそうだ」
彼の手が頬に触れ顎まできてクイッと顔をあげられ唇が触れそうなくらい近づいてくる。
「トーカの男装姿でも俺は欲情する……」
ぎゅぅっ、とセオドアの頬をつねる。
「イタタッ! 酷いなぁ」
もぉ、と頬をさする。
「相部屋する相手に欲情するって言うなっ」
もぉ、はこっちの台詞だよ。
「ごめん、ふざけすぎた」
そう言って急に真面目な顔になる。
「あれ以来会っていなかったから嬉しくてつい……」
まぁ……私も嬉しいけど……
「改めて、我が国を救ってくれてありがとう。仕事も増え皆生き生きとしている。リアザイア王国とも強い絆で結ばれこれまでに無い程平和な日々を送れている。トーカのお陰だよ。感謝している」
そう言って頭を下げるセオドア。
……ずるい……急に王子になるから調子が狂う。
「私は別にっ……」
顔が熱くなる……
セオドアがフワリと微笑み私を優しく抱き締める。
「うん、ありがとう……」
小さな声でそう言われて私は何も言えなくなる…………
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