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 それから数日後、私は今イアン様と乗馬をしている。


リアム様から乗馬の練習をする許可がおりた日の夜、珍しく寮でハリスさんに会った。

「ノア、リアム様からもお許しを頂けたみたいだね。時間が出来たら知らせるからよろしく頼むよ」

「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」


と言った夜から数日後の今日、リアム様のお父様のアダム様に許可を頂いて、アルとテオとトマスにも手伝ってもらいながら庭に棒を数本立てた。

クルクスさんが棒の間を縫うように走ったり、棒と棒を紐で結びジャンプして遊べるようにした。

クルクスさんの遊び場が完成してアルにも説明をして実際にクルクスさんに遊んでもらっているところへハリスさんがやってきた。

「ノア、午後からこちらに来られるか?」

アルにも話してあるけれど……アルをみると頷いてくれたので午後から伺います、と返事をした。

三毛猫さんはクルクスさんについていてあげるみたいで私の方にはついてこなかった……何だかんだで面倒見がいいんだから。

そして午後、ハリスさんに言われた場所、馬屋に向かうと柵の中に三頭の馬が放されていて近づくと三頭とも寄って来た。可愛い。

私の肩に顔を乗せたり頬にスリスリしたり脇の下に顔を突っ込んだり、こんなに逞しくて大きいのに甘え方が可愛くて思わず笑ってしまう。

「驚いたね。三頭とも気難しい性格なのだけれど」

「イアン様、本日はよろしくお願いいたします」

振り返り、挨拶をすると

「うん、よろしくね。それにしても動物に好かれると言うのは本当みたいだね」

このような事もあるのですね、とハリスさんとセドリックさんも少し驚いている。

「さて、紹介するよ。私の愛馬のブルウだ」

イアン様のブルウ。このコとはすでに鼻先を合わせた仲だ。

「クロスだ」

ハリスさんのクロス。

「アドマだよ」

セドリックさんのアドマ。

このコ達のことは名前だけで呼んでね、その方が喜ぶからと言われたので

「ブルウ、クロス、アドマ、よろしくね」

と言うとグイグイと顔を押しつけてきて可愛い。

それじゃぁ始めようか、とイアン様がブルウに乗ると、さぁと手を差し出してきた。

まずは二人乗りか……今回は女性のように横乗りは出来ないよね……

イアン様の手を取るとグイッと引き上げられ一気に目線が高くなる。少し驚いて思わずブルウの首にしがみつきそうになると後ろから腰に腕を回され支えられる。

「大丈夫だよ」

そう言って私を抱き寄せて、ちゃんと支える、と耳元で囁かれた。

耳は弱いんだって…………そんな事イアン様は知らないか……

気を取り直して……と思ったら今度は右手を取られ

「ここ……握ってごらん……ほら、両手で」

上手だよ、と手綱を握らせるんだけれどなんかっ……!
イヤらしく聞こえるのは私だけだろうか……

「それじゃぁいくよ、少し腰を浮かせて……落として……そう、大丈夫か? 痛い所はない? 始めはゆっくり動くからね」

ほらほら……これっ……考えすぎかな……?

パカパカと進むブルウの動きに合わせて動く。基本の動きを覚えておかないと馬の負担にもなるみたいだからしっかり覚えておこう。

しばらく練習しているとイアン様が話しかけてきた。

「ノア、私の頼みなのだけれど」

乗馬を教えてくれる代わりにっていうアレね。

「今度、うちで茶会があるのだがその手伝いをして欲しい。リアムも参加するがノアには私の側に付いて欲しいのだ」

お茶会のお手伝いか、確かに私にも出来ることだ。

「今回の茶会はいつもより招待客が多いのだよ。だから大変かもしれないけれど手伝ってくれるかい?」

なるほど人手が足りないのか。それなら

「お任せください。精一杯勤めさせて頂きます」

「良かった。ありがとう」

そう言って私の頭を撫でるイアン様。本当に私に出来ることで良かった。

お茶会は一月程先に開かれる予定でこれからいろいろと準備が始まるらしい。
今までで一番人数も多くダンストン伯爵家よりも身分の高い貴族もたくさん来るらしい。

これはかなり忙しくなりそう。

その日の夕方、リアム様からもお茶会のお話を聞いた。
リアム様はイアン様からお話を聞いているみたいで、よろしく頼む、と言われた。

リアム様のご学友も来られるみたいだから失敗しないようにしなければ。

「本来ならばノアの仕事ではないのだが……今回は僕達よりも身分の高い方々もいらっしゃるから、王城でも働いたことのあるノアにも頼んでみようということになったのだ。……すまない」

リアム様は俯いてそう言うけれど頼ってもらえて嬉しい。

「お役に立てるのなら嬉しいです。お茶会当日はクルクスさんはどう過ごすのですか?」

「庭師のトマスとテオに頼もうかと思っている。クルクスは二人にも馴れているし、トマスとテオはお茶会の前までは庭の手入れで忙しいが当日は庭に出るわけにはいかないからな」

そう、庭でお茶会をするからそれに向けて庭仕事が忙しくなるみたい。
雨が降った時のためにお屋敷の広間も用意しておくらしいけれど、招待客の多さからできれば庭でしたいみたい。

お茶会の日まで私もトマスとテオのお手伝いをしよう。

寮に戻りテオとトマスともお茶会の話をした。

「そうなんだよぉ、今回は気合いを入れていかないとな! 植え替えやら配置替えも考えないといけないかも。ノアが手伝ってくれるなら助かるよ」

トマスがそう言いテオが頷く。

「こちらこそ、当日はクルクスさんの事、よろしくお願いします」

そう言うと任せておけっ、と笑うトマスと頷くテオ。

お屋敷の使用人だけでは足りないので一月程短期で働いてくれる経験者を数名募集するらしい。

そんな訳で私も少しの間忙しくなる事をリアザイアの皆さんにも伝えておこう、と週末お城へ行ってみた。

王妃様が出迎えてくれたのだけれど、本当に皆さん忙しいらしくノバルトとノシュカトには会えなかった。

「ごめんなさいね、バタバタとしていて。トーカさんが来るのを楽しみにしていたのに……」

「いえ、私の方も一月程は忙しくなりそうなのでその間こちらには来られないかもしれないとお伝えしにきたので……」

「まぁ、そうなの? 忙しくしているのね。お仕事は楽しい?」

「はい。私がお世話をしている犬のクルクスさんはどんどん賢くなっていって嬉しいです。お屋敷の皆さんもいい方達ばかりで楽しく働かせて頂いています」

それを聞いて王妃様はそう、と優しく微笑む。

「確かトーカさんが働いているのはダンストン伯爵家だったかしら。優秀な息子さんが二人いらっしゃるらしいわね」

「はい、長男のイアン様と次男のリアム様ですね」

「長男のイアン様は植物にもお詳しいのかしら。ノシュカトの話しに時々お名前が上がっていたような気がするわ。ノシュカトはお会いしたことはないようだけれど、植物研究仲間でザイダイバ王国のリュカ様とは交流があるとか」

「イアン様もその様におっしゃっていました。リュカ様とはお手紙のやり取りをしているみたいです」

「ノシュカトもいずれお会いすることになるかもしれないわね」

フフフッと王妃様が微笑む。

少しするとノクトとオリバーもやってきて、一緒にお茶を飲む。王妃様は一旦席を外しどこかへ行ってしまった。本当にお忙しそう。

「イアン様の事は俺もノシュカト殿下から聞いた事があるよ。植物に関してはレクラス王国で三本の指に入るほどの研究者だとか」

ノシュカトがオリバーに植物の話をよくするからその時にきいたみたいでそう教えてくれたけれど……そんなにすごい方なの? イアン様は全然そんな感じで話していなかった……まぁ……自分では言わないか。
むしろ私が知らないことがアレなのかも……

「弟のリアム……だったか? 弟の方はかなりの動物好きみたいだな。魔獣化してしまう動物達を元に戻す方法はないか、もし少しでも研究が進んでいるのなら情報の共有を願い出る手紙がリアザイアの国王宛てにも届いていたな」

自分の考えもまとめて論文のようにしたものと一緒に送られて来ていたからかなりの枚数だったな……とノクトが教えてくれた。

リアム様……あの若さでそんな事までされていたとはっ……何か急にお二人の存在が遠く感じるっ……

「その手紙ならノシュカト殿下が興味深そうに読んでいたよ。似たような事を考える者はどこの国にもいるものだな、と嬉しそうだった」

フフッとその時の事を思い出しているのかオリバーが笑う。

それから二人に最近の様子を聞いて私も一月程忙しくなると伝えると無理はするなよ、と言われて頭を撫でられた。

戻ってきた王妃様からも身体には気を付けてね、と抱き締められて、皆さんの優しさに胸の奥がホカホカと暖かくなる。

リアザイアから山の家に帰るときはいつも皆さんの優しさが胸に染みる。


お陰で私は今日も暖かい気持ちで家路につくことができた。


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