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しおりを挟むリアム様は午後から家庭教師が来るらしく、早速午後から私がクルクスさんを預かることになった。
本当は学園に通われていたけれどもクルクスさんの事があり行かなくなってしまったのだとか。
私にもクルクスさんのお世話ができるようならリアム様は学園に戻りお友達ともたくさん学んで遊べるだろう。
リアム様とクルクスさんが昼食をとっている間にノアも昼食を済ませておいで、とイーサンに言われてアルと一緒に使用人用の食堂へ向かった。
三毛猫さんは移動中にお庭の方へ駆けて行った……追いかけたいのを我慢する。ちゃんと私のところに帰ってきてね。
食堂にはいろいろな料理が並べられていて美味しそう。
自分で好きなものをお皿に盛り付けていくんだ、とアルが教えてくれた。
全部食べてみたいけれど無理なので少しずつ数種類のおかずとパンとスープを持ってアルと一緒に席に着く。
さて、頂きましょうかと食べ始めようとしたら突然耳元で声がした。
「君が新しく入ったコかな? ……いい匂いだ、美味しそうだね」
そう囁かれて身体がビクンと反応してしまった。
耳を押さえながら振り返ると思っていたよりも近くに綺麗な男性の顔が……誰ですか?
「セドリックさん、今日から働くことになったノアです」
ノア、イアン様の従者のセドリックさんだ、とアルに紹介されたので席を立ちご挨拶をする。
「初めまして、ノアと申します。よろしくお願いします」
「初めまして、君の事はハリスから聞いているよ。よろしくね」
ニコリと微笑むセドリックさん。何か色気のある人だな……
さっきの美味しそうはまさか……
「せっかくの食事が冷めてしまうね、私はもう済ませたから先に行くよ」
そう言って行ってしまった……そうですよね、ご飯の事ですよね、自意識過剰かっ……と恥ずかしがっていると
「ハリスさんとセドリックさんはイアン様よりも少し年上で旦那様方からも信頼されているんだ。落ち着いていてカッコいいよな」
どうやらアルは憧れているみたい。
アルも何だかんだで面倒見はいいし器用だし……私からみたら十分カッコいいけどなぁ……
「何言ってるんだよ……さっさと食べるぞ……」
アルの顔が赤い……声に出てたのか……ゴメン。
食事をしながらアルが午後の事を話す。
「リアム様は午後から授業があるから今日は俺とノアでクルクスの世話をするぞ」
イーサンはリアム様がお勉強中に昼食を済ませて授業と授業の合間の休憩の時にリアム様のお世話ができるようにしておくらしい。
食事を終えてリアム様のお部屋へ戻りクルクスさんを預かるとリアム様は別室に移動するためお部屋を出て行った。
お部屋に残されたクルクスさんとアルと私……そういえば今三毛猫さんがいない……
とりあえずアルにいつもはどうしているのか聞いてみる。
「いつもは……俺達ではクルクスに近づけないし、クルクスもリアム様が戻るまで部屋からは出なかったな」
天気もいいし外に出たいところだけれど付いてきてくれるかな。
「クルクスさん、お外に行こうか」
三毛猫さんもいるよ、と囁いて誘ってみる。
三毛猫さんがいる時程の勢いはないけれどこちらに来てくれた。ホッとしながらクルクスさんを撫でて行こうか、といいドアへ向かい歩き出す。
チラリと後ろを見るとクルクスさんは二、三回足踏みをしてから私の後を付いてきてくれた。
アルが驚きながらもドアを開けてくれて一緒に部屋を出てみんなで外へ行く。
庭へ出るとクルクスさんが三毛猫さんを見つけて勢いよく走り出す。
「あ、おいっクルクス!」
アルが慌ててそう言うけれど大丈夫。
三毛猫さんがクルクスさんにネコパンチをしてからこちらへ走ってくる。
そしてネコパンチを受けて嬉しそうに三毛猫さんを追いかけるクルクスさん……パンチでもかまってもらえて嬉しいみたい……
勢いよくこちらへ来たクルクスさんを受け止めて落ち着かせる。側にいる三毛猫さんを見ながら大人しく撫でさせてくれている。
そろそろいいかな?
「アル、リアム様はこれまでにクルクスさんに躾をしたことはある?」
「お屋敷に来た頃のクルクスはとにかく警戒心が強くて、最初はリアム様も咬まれたりしていたくらいだからな。だから躾というより慣れさせるという感じで今まではやってきたかな」
そうか、それじゃぁお手とかお座りはできないのかな?
「クルクスさん、お座り」
……私の顔を見て首を傾げる……可愛い。
三毛猫さんがトコトコとクルクスさんの隣に行く。
クルクスさんがまた首を傾げる。
もう一度
「お座り」
三毛猫さんが腰を落とし座る。クルクスさんがそれを見て真似をする。
か……可愛っっ! ヨーシヨシヨシと撫でながらアルにバレないように三毛猫さんにお礼を言う。
何度か繰り返すと三毛猫さんを見なくてもお座りをしてくれるようになった。賢いねぇ、可愛いねぇ。
お手も出来るかな? まずは
「お座り」
完璧です。そして
「お手」
手を差し出して言ってみるけれどクルクスさんは戸惑って首を傾げる。
三毛猫さんがやれやれ、という感じで私が差し出した手にタシッと片前足をのせる……可愛い。
それを見てクルクスさんも私の手に片前足をのせる。
……っ可愛いっ……何だこの三毛猫さんとクルクスさんはっ…………
「クルクスさんお手ができたねぇ偉いねぇ可愛いねぇ」
どさくさに紛れて三毛猫さんもナデナデ。
そして繰り返し繰り返し続けているとクルクスさんはお手も覚えてくれた。
少しずつ近づいてきてもらって今は私の後ろでクルクスさんの様子をみているアルも驚いている。
リアム様も驚いて喜んでくれるといいね、と撫でながら思っているとアルがそろそろクルクスの三回目のご飯の時間だ、と教えてくれた。
いつの間にか東屋に用意されているクルクスさんの食事と私達のお茶。ずっと外にいるから水分補給をしなさい、と言う事らしい。有難い。
それからボール遊びをしたり合間合間にお座りとお手を挟んだり遊びと練習を繰り返しながら、お庭にリアム様が来るまではそうやって過ごした。
「クルクス」
リアム様が呼ぶとクルクスさんが走り出す。
リアム様にジャンプして体当たり。すごく嬉しそう。
クルクスさんが覚えたお座りとお手を見てもらうととても驚いていた。
リアム様がクルクスさんにお座りとお手をしてもちゃんとできたのですごく喜んでくれた。
「なかなかやるじゃないか、ノア。少しは認めてやる」
リアム様……まだ一日目なのによっぽど嬉しかったのかな?
エヘヘ、と笑うとフンッとそっぽを向かれた。
照れているのか反抗期なのか……難しいお年頃だわ。
こんな感じで三毛猫さんのお陰もあって一日目のクルクスさんのお世話を無事に終える事が出来た。
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