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 翌日から先王様ご夫妻のお世話が始まった。

こっそり少しずつヒールをかけて私がいる時の食事は私が作ったものを食べて頂くと日中目を覚ます回数が少しずつ増えてきた。

シュゼット様のご両親も2週間程経つ頃にはバンダラ様はもう歩きまわれるようになられているし、アメリア様もベッドから起き上がりバンダラ様に支えられながら立ち上がったり歩いたりしている。

お二人にはコリンヌさんに気が付かれないようにシュゼット様へ今の状況をお手紙に書いて頂きシュゼット様からも現状を記したお手紙を預かった。

シュゼット様からはエリアス陛下へのお手紙を預かることもあるのでその時は結界で姿を消してから陛下の執務室の机の上にある手紙の束に紛れ込ませておくようにしている。

そうしているとエリアス陛下からもシュゼット様へのお手紙を机に置かれるようになった。


エリアス陛下からのお手紙を初めてシュゼット様へお渡ししたとき、手紙を胸に抱き締めてポロポロと泣き出してしまった。


ずっとコリンヌさんが手紙をすり替えていたから毎日お手紙を書いてもお返事を1度もいただけなかったのだから仕方がない。

これで王家とベルダッド家はお互いの状況の把握が出来るようになった。

ゲートがあって良かった。こういう時移動時間がないのは助かる。

山の家ではココさんが熊さん達とキツネさん達、三毛猫さんと一緒に走り回ったり出来るようになっていた。
蝶々を追いかけたりお花にじゃれたりして可愛い。


順調にそんな日々を過ごしていたある日お城がにわかに騒がしくなった。


王弟のセオドア殿下が戻られたそう。


彼は果たして味方なのだろうか……


実は少し疑っていた。王位に興味がない振りをしておいて…………毒を盛ることもお城に仲間を残しておけば簡単に出来るだろうし遠くにいればアーロン様のように疑われる事もない。

エリアス陛下の代で争いを起こさせリアザイアも手に入れてから王位を継ぐ。

そのためにジェイドのいう彼らと手を組んだ…………彼らはセオドア殿下が王位を継げばおそらく新しい国で貴族に返り咲く事が出来るのだろう。

こんな考えが頭をよぎる。


帰ってくるタイミングも良すぎる気がする……


そんな事を考えながら先王様ご夫妻のお世話をしていると、エイダさんが交代しましょうと言ってくれたので少し外に出て散歩をすることにした。

まずは馬達の所へ行って癒されよう。
ガイル様には誰かいる時、と言われたけれどそんなに都合よく誰かはいなかった。
私が近づくとあの一番大きな馬が近づいてきた。

可愛いねぇ可愛いねぇと撫でてからマジックポケットからスッとニンジンを取り出す。
馬達のためにニンジンを育てるのもいいかもしれない…………


「食堂から持ってきたのか」


ビクゥッ!


「ガ、ガイル様! 気配を消して近づくのやめて下さい!」

「ん? 別に消してはいないが……ノアが鈍感なんじゃないのか?」

ニカッと少年のように笑っているけれどこちらは心臓バクバクだ。

毎朝先王様ご夫妻のシーツを代える時に会ってはいるけれど後ろからいきなり話しかけられるのには慣れない……絶対気配消しているし。


身体は大きいのに子供のような人だ……


「王弟のセオドア殿下が帰って来られたから城が騒がしいな。今、エリアス陛下とご両親に挨拶にいかれているらしい。ノアもいずれ顔を会わせることになるかもな」

「ガイル様はここにいて大丈夫なのですか?」

騎士団長なのに。

「あぁ。もう挨拶も済ませたしやることはやったから大丈夫さ」

一体どんな方なのだろう。ガイル様は親しいのだろうか。

「セオドア殿下はどんな方なのですか」

「ん――? 掴みどころのない方だな」

なんのヒントももらえなかった。

「エリアス陛下もそうだったが、女性からは物凄い人気だぞ。ノアもご本人に会ったら惚れてしまうかもしれないな」


へぇ――――


まぁそんなにすぐに会う事もないでしょう。
会ってもご挨拶をするだけだし。

ガイル様と馬達とお別れして今度はお庭の散歩をする。

お城のお庭は見事に手入れされていて美しい。
いい気分転換にもなるし、せっかく自由に歩き回る許可を頂いているのだから今のうちにたくさん見ておきたい。

天気が良くて気持ちがいい。先王様ご夫妻も早く元気になられてお散歩などできるようになったらいいな。

街の姿絵を見た時から思っていたけれどザイダイバの王族は色素が薄くそれがまたより美しく見せているのだろうけれど、ほとんどお外に出られなくなってベッドに横になっているお姿は蝋人形のようでもう目を覚まさないのではないかと何度思ったことか……

早く元気になってお外にも出て欲しいところだけれどここで焦ってはいけない。順調にいっているときほど慎重にならなければ。

ノバルト達ももうこちらへ向かい出発しているからここで私が台無しにするわけにはいかない。

そんなことを考えながら散策を続ける。

この広いお庭には所々に東屋がある。
そのまわりにも様々な花が咲き綺麗に手入れをされているので東屋を見つけるとそこで一休みしたりするのだけれど、今日は先客がいる。

こんなことは初めてだけれど、好奇心もありどんな方が座っているのかもう少し見えるところまで近づいてみようと思った。

段々と見えてくるその横顔には見覚えがあった。


レオン…………


しかも変な変装までしている。あれでは余計に目立ってしまう。

私はそのまま東屋へ向かいレオンに近づくと彼も私に気が付いた。

レオンが一瞬私の左右に視線を走らせたような気がして振り向いたけれど何もなかった。

「やぁ、ノア。こんなところで会えるなんて驚きだね」

「レオン……その格好……フフフッ変装にしては派手すぎない? 変なの! カツラまでかぶっちゃって」

「い、いや、ノアこれは」

座っているレオンの髪の毛に手を伸ばしグッと引っ張ってみる。

「イタッ……ひどいなぁもぉ抜けたらどうしてくれるのさ」

え? いつもの悪ふざけ? もう一度引っ張ってみる。

「痛いってば、ノア。こっちが地毛なんだよ」


だってこの髪の色はまるで……それに肌の色だってちがう。


「おいっ! 無礼だぞっ! セオドア殿下大丈夫ですか!?」

突然後ろからそう言われて振り向くとたぶん近衛兵っぽい人が2人…………何て言った?


「セオドア殿下?」


「何で出てきちゃうかな。全く」

もう一度レオンの方へゆっくりと振り向くと、いつも会っているレオンと同じ褐色の肌に、エリアス陛下と同じ白に近いプラチナブロンドヘアのまるでダークエルフのような色合いと綺麗な顔をしたレオン……いや……セオドア殿下? 
ダメだ……混乱している

「フッ……クックック……ノアその顔っ……」

この笑い方……お腹を抱えて笑っているレオン……いやセオドア殿下……

私はニコリと微笑み爆笑している彼の頬にそっと手を添えギュゥッとつねる。

「イタタッ! ノア、笑いすぎた、悪かったよ!」

「貴様! その手を離せ!」


怒られてもビクともしない私をとうとう近衛兵が取り押さえ、それをみたセオドア殿下がまた笑う……

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