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100 ジェイド

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 ――― ジェイド ――――


 疲れた…………

俺は彼らがしようとしていることを知ってしまった。

何も知らなかったとはいえ、いや……何も考えずにただ言われた事に従ってしまったのだ。
少し考えればおかしい事をしていると気付けたはずだ。

やってしまった事はなかった事には出来ない。
もう元には戻せない。

気付いて考え始めたけれど遅かった。

それから俺はもう嫌だと言った。

「それなら孤児院の女の子達は成人したら娼館行きだ。可愛そうにお前のせいだぞ」

そう言われ黙ると、そんなに嫌ならとトンネルを掘る仕事にまわされた。

そこにはたくさんの大人の男達がいたけれど、誰もなぜトンネルを掘っているのかは知らなかった。

少し前の俺だ。恐ろしくなった。

けれどもここに来る前にしていたことに比べれば、体力的にはキツイけれどましだろうと思った。

絶望とやってしまった事の後悔の中ただひたすらトンネルを掘る。
身体はボロボロになるけれど傷はいずれ癒えるし疲れきってしまえば眠ることも出来る。

何の希望も無い中、ある日教会にノクト殿下と騎士団長のオリバー様が来た。
俺に話があると…………怖かった。何もかも知られているようで。俺が何をしてしまったか知っているようで…………

ノクト殿下とオリバー様はやっぱり大体の事を知っていた。
だから俺は……今までの事を、俺がしてしまったことも全て話した。

ずっとずっと誰かに聞いて欲しかった。責められるとしても。

「すまない。来るのが遅くなってしまって。大変だったな」

オリバー様がそう言い

「だがもう少しだけ堪えてくれ。終わりは見えている」

ノクト殿下も俺を責めることはしなかった。

俺はみっともなく泣き出してしまったけれどお二人とも落ち着くまで待っていてくれた。

それからお二人とこれからも情報共有をすると約束した。

ノクト殿下から時々ここにお菓子を持ってくるトーカという女性を知っているかと聞かれた。

突然どうして? 覚えてはいる。お菓子を持って来てくれるお姉さん……
コクリと頷くと、ノクト殿下も頷き話し始めた。

「いずれ彼女がジェイドを訪ねてくるだろう」

その時に俺がしてしまった事をお姉さんには黙っていること。それ以外のことは話しても構わない。と言われた。

俺がしたことがあんまりな内容だからか……とうつむきかけると、

「我々もその事は話さないつもりだ。悪いのはアイツらだ。あまり自分を責めるなよ」

そう言ってノクト殿下が俺の頭を撫でる。

「ただその事を彼女に知られたくないだけなのだ。事が動き出せば知られてしまうだろうができれば知られずに終わって欲しい」

オリバー様も頷いている。

それから、とノクト殿下が続ける。

「トーカが来て不思議な事が起こるかもしれないが、他言無用で頼む」

そう言われた……よくわからなかったけれどとにかくお菓子のお姉さんが本当にここに来たらその時の事は誰にも言わないでおこうと思った。

「わかりました」

そう言いった約1ヶ月後、ノクト殿下とオリバー様が言った通りあのお姉さんが来た。

いつの間にか部屋に入っていて少し驚いたけれどお二人が言っていた通りになったので思わず言ってしまった。

「本当に来た」

起き上がると不思議な事に身体の傷が治っていて驚いた。不思議な事……これはお姉さんが…………?

それからいろいろ聞かれた。
聞かれた事には全て答えたけれど、1つだけ嘘をついた。
ノクト殿下とオリバー様に口止めされていること。

全て話が聞けたと思ったからかそろそろ帰るというから傷をなおしてくれたお礼を言うとさらりとかわされた。

帰ると言いながらなぜか窓の方へ歩いていくトーカお姉さん。
これも不思議なことの1つだろうか。
窓の前でため息ついてそれからゆっくりとドアへ向かって歩きだした。


何の疑いもなく俺の話をきいていたトーカお姉さんに後ろめたい気持ちがわいてきて部屋から出る瞬間思わずごめんなさい、と謝っていた…………


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