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しおりを挟む確認したい事がいくつかあるのですが……と切り出す。
「シュゼット様、噂で聞いたことなので確認したいのですが、シュゼット様が使用人を紹介状も出さずにクビにしているというのは本当ですか」
「表向きはそういうことにしているの。私はここで働いてくれている方々を1人も解雇したことはないわ。皆さんにはしばらく別邸や別荘に行ってもらっています」
どうやらやっぱりコリンヌさんが来てから貴族平民はもちろん爵位の序列による差別が使用人の間で酷くなり、あまりにひどい仕打ちを受けているような使用人を気に入らないから解雇だといい、こっそり別邸か別荘の従業員に迎えに来てもらっているのだとか。
だから紹介状がないのか。
やっぱりすっごい良いコ。
「では、これはお手紙の内容についてなので答えたくなければ答えなくてもいいのですが、エリアス陛下に弟のセオドア殿下に王位を譲りシュゼット様を王妃にというような要求を書いた事はありますか」
シュゼット様の表情を伺う。声や話し方は変わらないけれど無表情になり怒っているようにもみえる。
「そんな恥知らずな要求、思い付きもしませんわ」
「では、毒殺未遂後のエリアス陛下のお顔はご覧になりましたか」
「拝見しましたわ」
「どう思われましたか」
「別に何も。あの方の……エリアス陛下の素晴らしさは外見とも身分とも関係はありませんわ」
「エリアス陛下は素晴らしい王ですか」
「とても。この国は周辺の国々に比べれば冬も長く土地は痩せていて恵まれてはいないでしょう、だからこそより良い国をつくり、私達を支えてくれている国民が安心して生活出来るようにしていかなければならない、といつも考えておられていたわ。国を、国民の事をそんな風に思っているエリアス陛下を尊敬しているし支えていきたいと思っているわ」
シュゼット様はエリアス陛下の事はたくさん話してくれる……ならば、
「シュゼット様はエリアス陛下をどう思っていらっしゃるのですか」
「愛しております。私はエリアスを……ずっと愛しているのです」
即答。まるで今まで言えなかった言葉をようやく言えたかのように…………それとも言ってしまったと思っているのか…………
そう言ってポロポロと涙を流すシュゼット様はやっぱり人形のように美しかった。
…………まずい…………泣かせてしまった……どうしよう…………
とりあえずシュゼット様にはソファーに座って頂き、私はお茶をいれ直そう。
その間、三毛猫さんがシュゼット様を慰めてくれていた。
シュゼット様が三毛猫さんに微笑み、お茶を飲み落ち着いたところでもう一度ココさんの事を切り出す。
「私に預からせていただけませんか。安全な場所で必ず元気になりますので」
「……皆にはなんと説明するのです」
「ココさんは今夜亡くなってしまったことにして埋葬も済ませたと言って下さい。私に頼んだと言って頂いて構いません。あとはしばらく悲しみにくれていれば誰もその事には触れてはこないでしょう」
シュゼット様は三毛猫さんをそっと撫でてから頷いた。
「それでは、ココさんは私と三毛猫さんがお連れしますのでコリンヌさんや他の方には先ほどお話したようにお願いいたします。ココさんが元気になってお屋敷の安全が確認できましたらまたお連れしますのでご安心ください」
シュゼット様がココさんにお別れをして私に託してくれた。
カゴに入って寝ているココさんと三毛猫さんに結界を張りココさんにはフライも使う。
シュゼット様には聞きたい事がたくさんあると思いますが全て終わったら説明します、と言うと頷いてくれた。
本当にもうどうしようもない状態で追い詰められながらもシュゼット様はたくさんの人達を守りながら1人で戦っていたのだろう。
ティーセットを乗せたワゴンを押しながらシュゼット様のお部屋を後にする。
ワゴンをキッチンに戻して使用人棟の部屋から山の家に戻る。
急いで以前ノシュカトを寝かせていたベッドの上にカゴを置いてココさんの状態をみる。
病気ではない……ということはやっぱり薬で眠らされているのか……どんな薬が使われていたのだろう……シュゼット様のご両親も同じ薬を使われているのなら、突き止めておいた方がいい気がする。
そんなことを考えていると突然ガチャッとドアが開いた。
「キャァァッ! ってノシュカト!?」
ビックリした。
「ご、ごめん。ノックはしたんだけれど……」
驚いた私に驚いている。ごめんなさい。
「作業部屋を使わせてもらっていたんだよ」
物音がしたから私が帰って来たかと思っておりてきたらしい。
「研究を任せっきりにしてごめんね。何か進展はあった?」
「元々僕がやりたかった事だからね。作業部屋と集めてくれた植物で十分トーカには協力してもらっているよ。今まで出来なかった植物の組み合わせでどんな反応があるか試しているんだ。リュカにも手紙を出しているから彼が参加してくれたらまた新しい発見もあるかもしれないよ」
ノシュカトがカゴに気付いた。
「……その猫は……」
「し、知り合いのコから預かったの! 薬で眠っているみたいなんだけれど起きなくて……どんなものが使われているのかな? ヒールをかける前に知りたいんだけれど……」
誰かいると思っていなかったから何も考えていなかった……
ふぅん……ニコリとノシュカトが微笑む。
「そうなんだ。みせてもらってもいいかな。そういう効果のある薬草にはいくつか心当たりがあるから」
「ありがとう! ぜひお願いします!」
ノシュカトがココさんをみてくれている間お腹が空いた私は夕食の準備……といっても便利なマジック冷蔵庫から作り置きを取り出すだけなんだけれど。何があるかな?
ノシュカトも食べていくか聞いてみようと思って部屋へ入ると
「分かったよ。ユキツクミ草が使われているね。量を間違えたり長期間使うと起きていられなくなり眠ったまま弱っていき、それが更に長く続くと死んでしまうんだ」
適切な量でなら薬として流通しているから今はこの薬で亡くなってしまうことはないらしい。
故意でなければ。
「薬を与えられて初期や中期の頃なら気付け薬で無理矢理目覚めさせたり薬が抜けるのを待つこともできるけれど、長期間となると薬が抜けるのに時間もかかるからそれまで体力が持つかどうかだね」
このコは長い間眠っているようだね、とノシュカトがココさんを撫でている。
「身体がだいぶ細くなっている…………薬の特定も出来たしヒールをかけても大丈夫だよ」
「ノシュカトありがとう。助かったよ」
ヒール……
三毛猫さんがココさんの近くで様子を伺う。
ココさんの目がうっすらと開く。
三毛猫さんが小さく「ニャ――ン……」と鳴くと、声は出なかったけれどココさんの口が(ニャ――)と動いた。
……か……可愛っっ!
「ところでトーカ、このコはどうしてこんな状態だったのかな?」
振り向くとすぐ後ろに天使の微笑みのノシュカト。
「そ……れは、え――と……」
キョトキョトと目が泳ぐ私に迫り来るノシュカト。
ベッドにポスンと座ってしまい逃げ場が無くなってしまうと私の顎にノシュカトの指が触れる。
顎を上げられるとノシュカトと視線があう。
ん? と近づいて来るノシュカトの綺麗な顔……本人にその気がなくてもまるでキスをされそうなこの状況に顔が熱くなる。
心なしかノシュカトの頬もうっすらピンク…………なんて余計な事を考えている間も近づいてくるノシュカトの……くちび
グゥゥゥ――――――――ッ
盛大に私のお腹がなりました。
ノシュカトは素早く向こうを向いて肩を震わせている……
既視感っ!!
私は真っ赤な顔のままテキパキとリライのしずくをココさんの口に含ませ、今度は薬ではなく体力回復のための眠りについたところを確認してから、みんなでダイニングへ移動してこちらもテキパキと夕食の準備をした。
そうしているうちに私もノシュカトも落ち着いてきて三毛猫さんと楽しい夕食を囲んだ。
ノシュカトが帰る前に私がいない間、三毛猫さんがいるけれどノシュカトもココさんの様子をみて欲しいと頼むと快く引き受けてくれた。
それならとノシュカトが研究も進めたいしたまにここに泊まり込んでもいいかと聞かれたのでナイスアイディア、ともちろんOKした。
開いている部屋がいくつかあるから好きなところを使ってと言うとノシュカトは少し複雑な表情をしていたけれど、ありがとうと言ってくれた。
こちらこそありがとう。
ノシュカトはゲートでお城に帰って行った。
明日からまた気を引き締めていかなければ。
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