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しおりを挟む翌日、仕事が終わってからコリンヌさんの後をそっとつけているといくつかわかってきたことがある。
コリンヌさんがお城に手紙を持って行くときに必ず一緒にいく男性の名前はビリーでお城で毎回手紙を受けとるのがバリー。
2人は兄弟らしい。
お城に着いて3人が集まる。
「準備は出来ているか」
「あと少し……あと2週間程で繋がるだろう」
「あのコ達の様子は? ちゃんと眠らせているのでしょうね」
「大丈夫だ。十分な数も揃えたし、リアザイア側ももう十分だろう。何年もリアザイアの孤児院のガキにも手伝わせていたからな。あいつら何を手伝わされているかも知らずに……これだから平民は扱いやすくていい」
グヘグヘと嫌な笑い方をする。
「だがあのジェイドとかいうガキは計画の一部に気付いてゴネてたじゃないか」
「大丈夫だ。逆らったらこの先ずっとお前のせいで、成人してあの孤児院を出る女はすぐに娼館に売り飛ばされることになる、と言ってあるからな。大人しく従うさ」
「では、あとはタイミングね」
「そうだな。それにしてもコリンヌ、あんな手紙を出し続けて……まさか本当に惚れてしまった訳では無いだろうな」
「歴史に名を残すことになる王ではあるけれど興味はないわ。元の美しいお顔なら側に置いてもいいけれど。私だけが心のより所になるのが理想的だけれど、いずれちゃんと狂ってくれればそれでいいわ。そのために私も手紙を書いているのだから」
フフフッと物騒な事を言っている。
これはもうベルダッド家だけの話ではなくなっている。
レオンに知らせなければ、とその日の夜宿屋へ行ってみたけれどいなかった。
いつも通り金曜日の夜8時頃また来ると書いた手紙を宿屋のお兄さんに預けておいた。
翌日から私はシュゼット様とお話をしてみようと試みたけれどそう簡単には行かなかった。
シュゼット様の側には常にコリンヌさんがいるし、私の側にはティナ様がいる。
やっぱり仕事が終わってコリンヌさんがお城へ向かう時間しかないだろう。
でもどうやって? 誰にも気付かれずシュゼット様にも警戒されないように……無理じゃない?
何も思い付かないまま仕事が終わり山の家で三毛猫さんに相談する。
三毛猫さんはいつも私の取り留めもない話をフムフムと最後まで聞いてくれる。
すると三毛猫さんが私の服のポケットのあたりを踏んづけてきた。可愛い。
そう、ポケット……私の着ている服のポケットもいつの間にかマジックバッグと繋がっていた。
もはやバッグも持たなくていいとは。
ただのマジック……フフッ
そんなことより三毛猫さんの踏んづけが意味する事はこの中に使えるものがあるということ。
王妃様から頂いたお手紙。
内容はわからないけれど、いざとなったら私が怪しい者ではないと証明してくれるはず。
その日の仕事が終わり三毛猫さんとコリンヌさんがお城に向かったタイミングでシュゼット様のお部屋へと急いだ。
ドアをノックしてノアです、というと入室を許可された。
「お仕事は終わったのではなくて?」
「シュゼット様、差し出がましいようですがお疲れのようでしたのでリラックス効果のあるお茶をお持ちしました」
ちょっと怪しいかな……
「…………そぅ…………」
いや、毒とか盛りませんよ……何かちょっと諦めた感じ出さないで下さい……気のせいならいいんだけど……
「シュゼット様のネコさんはご病気なのですか?」
お茶をいれながらダメ元でお話をしてみる。
「……あのコは……ココは目を覚まさないだけよ」
答えてくれた……ココっていうんだ。可愛い名前。
「ココちゃ……ココさんはいつからシュゼット様の元にいらっしゃるのですか?」
「あのコは3年程前にエリアス陛下と遠乗りをした時に見つけたコなの。ケガをしていて……回りに家族や仲間がいないかしばらく隠れて様子をみたのだけれど……だから私が連れて帰ることにしたの。ココという名前はエリアス陛下と2人で考えたのよ」
懐かしむような愛おしむような表情でお話をされる。
エリアス陛下とはかなり仲が良かったのかもしれない。
シュゼット様は元々使用人とよくお話をされていたのかもしれない。
見下す感じもなく聞いたことに答えてくれる。
「でも結局不幸にしてしまったわ」
そんなことはない。大切にしていると思う。
「なぜ眠ったままなのですか?」
「……それは……今は眠ったままの方が安全だからよ」
私が敵か味方かまだ迷っていらっしゃる。
「シュゼット様、私が安全な場所でココさんを目覚めさせることが出来ると言ったら預けて下さいますか」
…………沈黙。
「なぜ、あなたが?」
ごもっとも。
「私もネコは大好きなのです」
ニコリと微笑んでみるけれどシュゼット様の表情は動かない。私の真意を探っている。
三毛猫さんが私の足をポンポンしてくる。
どうしたの? とみると「ニャーン」 と鳴いた。
姿を見せてもいいと? 本当にいいの?
三毛猫さんを撫でるともう一度「ニャン」と鳴いた。
三毛猫さんは王妃様のお手紙を見せるよりも自分の姿を見せた方がいいと判断したみたい。
「シュゼット様、私もネコと一緒に住んでいるのです」
そう言って三毛猫さんの結界を解く。
シュゼット様からしたら突然私の足元にネコが現れたように見えただろう。
シュゼット様は声は出さなかったけれど目を見開いて驚いている。
「驚かせてしまい申し訳ありません。実は私の三毛猫さんがシュゼット様のココさんのことをとても心配していまして……」
シュゼット様が立ち上がると、三毛猫さんもシュゼット様の方へ歩いていく。
シュゼット様はためらいもなく床へ座り三毛猫さんを膝の上に乗せてとても優しい表情で撫でている。
「私のココを心配してくれているの? ありがとう」
え? すっごい良いコっ!
噂とあまりにも違う。
それからシュゼット様が話し始めてくれた。
このお屋敷が……この国がおかしくなり始めた時のことを。
始まりはやはりコリンヌさん。それと同時期に入って来たビリーと同じ頃お城で働くことになったバリー。
彼らが働くようになってから不可解な事が起こるようになったとか。
もう一度紹介状を確認しようとしたけれど、なぜか彼らのものだけが無くなっていて確認が出来なかったこと。
ネコのココさんがよく眠るようになったのもその頃からでしまいには起きている時間がほとんど無くなってしまったらしい。
ベルダッド家の旦那様と奥様もボンヤリとすることが増えて、奥様はベッドから出られない日もあるとか。
おかしいと思ったシュゼット様のお兄様、アーロン様が友人でもあるエリアス陛下に相談に行ったところ、あの毒殺未遂事件が起こった。
アーロン様はそのまま戻っておらず捕らえられたのか逃げているのかわからないそうだ。
国からは犯人はまだわかっておらず調査中と発表されているらしい。
シュゼット様はもちろんアーロン様がそんなことをするはずはないと訴えたけれど疑いをはらすこともできず、エリアス陛下の王妃候補の話も全てのご令嬢が白紙にされた。
こんな時にお茶会なんてしたくはなかったのにコリンヌさんが勝手に決めて手配してしまったのだとか。
しかも皆さん元王妃候補…………シュゼット様も辛かっただろう。
エリアス陛下にお手紙を書いてもお返事は頂けないし、会うことも叶わない。
もはや味方がいるのかすら分からなくなっていた所に私と三毛猫さんが現れたという訳らしい。
私はシュゼット様に確認したい事がいくつかあるので聞いてみることにした……
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