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 翌日からはシュゼット様もお部屋にこもることもなく通常の日常業務が始まった。

シュゼット様に直接聞いてみたい気もするけれど、私から話しかけることは難しい……というかそれこそ初日の失敗(?)もあるしシュゼット様だけではなくコリンヌさんにもクビにされてしまいそうだ。

けれど、あのネコさんの様子を見ているだけでは何もわからない。

獣医さんにはみてもらっているみたいだけれどいつも栄養補給のための注射をするだけで帰ってしまう。

それ以上どうしようもないのか聞くことも出来ない。


ベルダッド家で働きはじめて何の進展もみられないまま1ヵ月程経ったある日、シュゼット様がお茶会を開くことになった。
お茶会と言っても公爵家、侯爵家のご令嬢20数名いる中でシュゼット様と年齢の近い10名程が招待される小さなものらしい。

ティナ様は給仕でとはいえハイクラスなその場に参加出来ることに大興奮している。


お茶会では、というか社交の場でも通常の業務の中でも、基本的にメイドは存在しないものとして扱う。

あまり守秘義務を過信しない方がいいと思うけれど、使用人も生活がかかっているから滅多なことは口にしないのだと思う。

お茶会当日はベルダッド家のお庭での準備が終わると必要最低限の人数が少し離れた所に残った。

それぞれのご令嬢付きのメイドはもう少しテーブルに近い位置で控えることになる。

ティナ様はご令嬢方に顔を覚えて頂きたいらしく張りきってお仕事をしている。

チラリとシュゼット様を観察すると相変わらずの無表情……かと思いきや微笑んでいらっしゃる。

うちのお嬢様が美しい。

「シュゼット様のご両親のお加減はいかがですの? 私の父も心配していますわ」

「ご心配ありがとう存じます。両親は回復に向かっておりますわ」

ニコリと微笑んでいるけれど……知らなかった。
旦那様と奥様が臥せっておられるとは。

どうりでお屋敷で働くようになってから1度もお見かけしないと思った……

「エリアス陛下はお変わりないのかしら」

どなたかがそう言うと一瞬静かになった。

「私達も王妃候補として教育を受けてきた身。やはり気にはなりますわね」


なるほど。ここにいる皆様は王妃候補だった方々らしい。


「私はつい先日婚約が決まりましたの。いつまでも待ってはいられませんし、結婚は早くした方がいいに決まっていますわ」

「エリアス陛下がどうお考えかはわからないけれど、どちらにしろセオドア殿下もお城にはいらっしゃらないようですし」

「もしルシエル殿下が……ということになればどのみち私達の年齢では無理ですものね」

シュゼット様は微笑みを絶やさずに聞いている。


「シュゼット様のお兄様のアーロン様も確か婚約者はいらっしゃらないはずよろしければお会いしたいわ。本日はどちらにいらっしゃるのかしら」

使用人でもアーロン様がお屋敷にしばらく帰ってはいないと知っているのになぜそんなことを……それにしてもティナ様もだけれどご令嬢って結構押しが強いものなの?


「……確かに兄には婚約者がおりませんわ。兄に会ったら伝えておきますね」

可愛らしく微笑んでいるけれど……あの行方不明のお兄さんだよね? 
シュゼット様はどこにいるのか知っているのかな。

「そういえば今日はシュゼット様が飼っていらっしゃる猫はご一緒ではないのですね、以前はよく連れていらしていたのに」

「今はお昼寝中ですわ。起こしては可哀想ですから」

それから今流行っている恋愛小説のお話やドレスのデザインなど女の子らしいお喋りが続きお茶会はお開きになった。

シュゼット様は無表情に戻ってしまい、コリンヌさんがお疲れでしょうから少しお休み下さいと、シュゼット様とお部屋へ向かわれた。

私達は少しだけ片付けのお手伝いをしてシュゼット様の着替えが終わった頃、お茶とお菓子を持ってお部屋に向かった。

やはりお茶会は疲れるものなのか今日はもう下がっていいと言われたので本日の私達のお仕事は終了した。


早くお仕事が終わったので一度帰って三毛猫さんとお屋敷に忍び込むことにした。

他人の生活を覗き見るなんてどうかと思うけれど仕方がない。

今日はお茶会というイベントがあったから何かいつもと違うことが起こるかもしれない。

まずはシュゼット様のネコさんのお部屋へ行ったけれど変わりはない。
ドアをそっと開けて応接室へ行くと私達が持って来たお茶とお菓子が手付かずのまま残っていた。

寝室へ続くドアを少し開ける。


シュゼット様はここにいるけれど……泣いている……


どうしよう。声は押し殺しているけれど入るのがためらわれるくらい泣いている。

そっとドアを閉める。

「三毛猫さん別の所に行こうか」

シュゼット様のお部屋を出てウロウロしているとコリンヌさんを見つけた。
ついていくとここはコリンヌさんのお部屋かな?

コリンヌさんは机に向かい手紙を書いている。

ごめんなさい。と少し覗いて読ませてもらう。

宛名はエリアス陛下…………エリアス陛下!?

シュゼット様とは別で出しているのかな? と思ったけれど内容がなんだか……恋文の類いというか……

そしてコリンヌさんが机の引き出しを開けるとかなりの数の封筒がまとめてしまわれていた。
どうやらこの封筒はシュゼット様がエリアス陛下に宛てた手紙のようだけれどどうしてここに?

シュゼット様のお手紙がエリアス陛下を傷つけてしまう内容だから代筆で書き直しているのかと思ったけれど、差出人はコリンヌさんだ。

シュゼット様のお手紙はコリンヌさんがお城に持って行っているとレオンは言っていた。

まさか……すり替えている? 

でもそれならシュゼット様のお手紙は処分してしまった方がいいんじゃないかな? わざわざしまっておくなんて……

ノックげ聞こえてコリンヌさんが、どうぞと言うと見覚えのある人が入って来た。

「時間通りね」

コリンヌさんが迎え入れたのはリアザイアの孤児院でジェイドと話していた何か嫌な感じのした2人組の1人だった。

この人はザイダイバから来ていたのか。

「準備は出来ているか」

「ええ、行きましょう」

そう言って2人は馬車に乗りお城へ向かい、私と三毛猫さんはその後ろをフライでついていく。

ザイダイバのお城は初めて。

馬車はお城の使用人用の入り口近くに停まると中からリアザイアの孤児院で見かけたもう1人の男性が出てきた。

この3人が繋がっているということは…………

何なんだろう? さっぱりわからない。
私は感の鋭い家政婦にも名探偵にもなれないみたい。

シュゼット様の手紙とコリンヌさんの手紙

コリンヌさんとあの2人の関係

エリアス陛下とコリンヌさんの関係

あの2人とジェイドとリアザイアの関係

眠らされているネコさん

シュゼット様の涙


1日もかからずボロボロと情報が…………
チート万歳。


私はお城に残って手紙を預かった男性に付いていく。
手紙は更に別の男性の手に渡り運ばれていく。

男性はしばらく廊下を歩いてドアの前で立ち止まるとノックをして中に入って行った。

ドアをすぐ閉められたから私は入れなかったけれど、男性はすぐに出てきた。
廊下の窓から1度外へ出て入れなかった部屋の窓側へ移動するとバルコニーになっていた。
ノバルトの執務室みたい。窓は開いている。


失礼します。


そっと窓から部屋へ入るとそこにはエルフ……

エルフッ!? 会ったこともみたこともないけれど人並外れた美しさ、なイメージ。

目の前にいる男性はまさにそれ。

白に近いプラチナブロンドの髪は長くて真っ直ぐでサラサラ、グリーンがかった瞳はガラス玉のよう。

真っ白い肌に尖った……尖ってない……耳……人間だった。

エルフがいるなら獣人もいるかもと期待したのに……いや、まだわからない。どこかにいるかも。

彼は姿絵でみたエリアス陛下だ。実物の美しさは凄い。

けれど……その美しい顔の一部は黒くなった血管が浮いていてまるで植物の根のように見える。

呪い……なるほどツタのように見えなくもない。

エリアス陛下はコリンヌさんの手紙にさっと目を通すと、ゴミ箱に捨てた……


一体この人達は何をしているのだろう。


エリアス陛下は宙に視線を彷徨わせたかと思うとヒタリと私に視線をあわせた……ように見えた……

すぐに視線は外されたけれど、何となく落ち着かなくて私は部屋を出てその日は家に帰ることにした……


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