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 今日は珍しく三毛猫さんが付いてきてくれた。

何だかお母さんが授業参観に来てくれた時のような気持ちになる。
エヘヘと微笑みながら一緒にゲートをくぐり、使用人用の私の部屋へ移動する。三毛猫さんに結界を張ってあげてからドアを開ける。

タッタッタッタッタッ…………

え?………………え――――――――っ!?

三毛猫さんどこ行くのっ!?

あっという間に見えなくなってしまった……どうして……

も、戻ってくるよね!? こんなに広いお屋敷だけど……

追いかけたいけれど仕事があるし、いざとなったら私も結界を張って探しに行こう。

そう思いながらもやっぱり仕事中はソワソワしてしまう。
三毛猫さんはどうしちゃったんだろう……

頭の中は三毛猫さんの事でいっぱいだけれど仕事はちゃんとする。

食堂へ行くとやっぱり平民出身と貴族出身とでキレイに別れている。

ティナ様達はお喋りに夢中で私には気が付いていないみたい。
何となくだけれど、ティナ様からいじめられてると思ったのは間違いだったのかもしれない。
ティナ様のは差別とわがままのような気がしてきた。
やりたくないことをやらないだけのような……間違ってはいると思うけれど貴族らしくあろうとしているというか……


「しばらくお姿が見えないのだけれどアーロン様はどちらにいらっしゃるのかしら」


こんな感じでティナ様はいじめとかより殿方に興味があるようだし。
まぁつねられたり嘘をつかれたりはしたけれど。
それ以外で陰湿な嫌がらせとかは今のところ受けていない。


「アーロン様はしばらく王城でお仕事をされるとか。様々な分野の官僚様の元で一通り学ばれるそうですよ」

「あら? 私はご学友だった方々と別荘地の方へ行かれているときいたけれど」

「おかしいわね? 私は隣国に視察に行かれているときいたわ」


もはや行方不明じゃない…………?


「とにかく早く戻ってきていただきたいわ。私がアーロン様の専属メイドになったらそのまま婚約することになると思うの」


……ティナ様………………


キャーキャー盛り上がるメイドさん達……楽しそう……


「専属メイドと言えば、シュゼット様付きのメイドは誰になるのかしら」

「ミランダメイド長がお決めになる事だけれど私は絶対に嫌だわ。婚約にも有利な役職だけれどクビになった時のダメージが大きすぎるわ」

「いっそのこと平民の方の中から選んで頂ければいいのに。結婚も家柄を考えずにどなたとでもいいでしょうしお仕事も何だっていいのだから」


好きな人と結婚したいし夢がある人もいるでしょうが。


「それはいい考えね。シュゼット様は平民ではお気に召さないと思うけれど……それとなくミランダメイド長に提案してみるわ」


……ティナ様………………


食堂を後にして残りの仕事に取りかかる。
今日はお仕事中の手の荒れが気にならないくらい三毛猫さんの事が気になって仕方がなかった。

仕事が終わったらレオンに会いに行く予定だけれど三毛猫さんが戻らなければ日を改めてもらおう。

今のところレオンの言う違和感が何なのかわからない。

思いの外時間がないというか……少ない人数で大量の仕事をこなさないといけないから1ヶ所に拘束される時間が長くて全然動き回れない。

食堂で聞こえてくる噂話はあんな感じだし。

まぁまだ始まったばかりだからもう少しこのまま様子を見よう。

仕事が終わり本格的に三毛猫さんを探しに行こうかと思っていたらミランダメイド長に呼ばれた。

ドアをノックしてお部屋へ入るとミランダメイド長…………とティナ様。

なぜかティナ様には睨まれた。

「ノア、こちらへ。シュゼット様の専属メイドについて、ティナから提案がありました。これまでは子爵以上の家柄のメイドがついていましたが、ティナが平民出身のメイドにも高貴な方々のお世話をする機会を与えてみてはどうかと言うのです」

……ティナ様………………

「シュゼット様には許可をいただきましたので貴方方2人にお願いしようと思います。よろしいですか?」

ティナ様をチラリ……めちゃくちゃ睨まれている……
きっとこんなはずではなかったんだろうなぁ

「おそれ多い事でございます。私に務まるか不安です」

ティナ様がそうよ、断りなさいと言うようなお顔をされている。でも……

ですが、と続ける。

「ティナさんがせっかく下さった機会なので全力で務めさせていただきます」

ティナ様がお怒りです。
でもようやく動き回れそうなお仕事が出来る。

専属メイドのお仕事は時間帯も他のメイドとは変わるらしく、来週からは朝8時から午後4時までになるみたい。
午後4時までと言ってもシュゼット様次第で定時には終らないと言うことらしい。

シュゼット様は朝8時に起床されてお顔を洗ったりお着替えをしたりする。そのお手伝いは侍女の方がされるそうなので、その間にシーツを代えたりベッドを整えるのが私達のお仕事。

その後は常にシュゼット様のお側に控えていて雑務をこなす。
せっかくティナ様がくれた機会だからクビにならないように気を付けなくては。

では来週からお願いしますね、とミランダメイド長に言われ、ティナ様と私はお部屋を後にした。

「………………」

「ノア、あなた」

「ティナ様、このような貴重な機会を頂き感謝致します」

ティナ様に睨まれる。

「そう……一緒に頑張りましょうね!」

ニコリと微笑むティナ様……覚悟しなさいという副音声が聞こえてきそうな笑顔。

私は明日明後日とお休みなので、また来週よろしくお願いいたします。とご挨拶をしてお別れする。

さて! 三毛猫さんを探しに行こう! と振り返ると、トコトコトコと三毛猫さん。

「どこ行ってたのぉ――――――!!」

と抱きつきたいのをグッと我慢してお部屋まで一緒に歩いて行く。

部屋に入りドアを閉める。

「どこ行ってたのぉ――――――!!」

ケガとかしてないか撫で回して確認する。
うわぁ―――ん! 良かったぁ戻って来てくれて!

帰ろう、一緒に帰ろう。


その日の夜は三毛猫さんに無理矢理一緒に寝てもらったんだけれど、三毛猫さんは何だかいい匂いがした…………



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