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57 国王ノイガルト 王妃エイベル
しおりを挟む――― 国王ノイガルト ――――
私達の目の前でトーカの姿が消えた。
それにしても想像を遥かに越える話だった。
それぞれ今夜の事を考えて明日また話をする事にした。
私はエイベルと共にノヴァルトの執務室を後にする。
お互い無言のまま寝室へと向かう。途中使用人と会ったので、部屋にハーブティーを持ってきてくれるよう頼む。
寝室へ入り、使用人がハーブティーを用意し出ていくと、エイベルが口を開く。
「とても不思議なお話でしたわ。それにトーカさん…………貴方はどう思いまして?」
確かに不思議な話だったが目の前であの力をみてしまっては信じることしか出来ない。
「彼女に望みをきいた時、金でも宝石でも領地でも…………王子との結婚でもなくただ静かに暮らしたいと言っていたな」
一国の王子の命を救ったのだ。年頃の女性ならば結婚を望むところだが…………
それよりも母熊のために子熊を引き取りたいとも言っていた。
「そうね……息子達の誰かとの結婚を望まれるかも……と彼女に会う前までは私も思っていたわ。会ってみたらそれもいいかもと思ってしまったけれど……ウフフ」
確かに彼女の容姿……特にあの艶やかな黒髪に黒い瞳は神秘的だった。だが……
「貴方は彼女の力についてはどう考えているの?」
「彼女の力は、脅威であり武器であり自然現象なのだと思う。彼女自身が気が付いているだろう。多くの者が知るところとなれば必ず利用しようと画策する者は出てくる」
そして彼女自身が危険な目にあってしまう。
「私はね、エイベル。彼女の力は自然現象だと考えることにしようと思う。彼女は元の世界から、家族から友人から訳も解らず引き離されこの世界に来た。こちらの世界に来てから使えるようになった力は知られれば恐れられ、利用しようと考えられてしまう事が多いだろう」
それではあまりにも……
「それではいつまでたっても彼女はこの世界で1人だ。彼女が望んでいるかは解らないが、私達がこの世界での彼女の家族になれればと考えているのだが……きみはどう思う?」
魔獣を浄化できるとはいえ、その時彼女は彼らの感情を感じてしまうのだ。その負担は計り知れない。
この世界は果たして彼女に優しいのだろうか……
※※※※※※※※※※※※
―――― 王妃エイベル ――――
寝室で夫とノヴァルトの執務室での話をする。
確かに彼女はお金や宝石など、褒美は何がいいかと問うと大抵の者がいうような事は望まなかった。
そして年頃の娘が望む王子との結婚もまるで考えてもいないようだった。
彼女が幼い頃のノヴァルトがみたという女神様なのかしら……黒髪に黒い瞳……実際に見るととても神秘的でその容姿だけで人々の注目を集めてしまうでしょう。
それに加えてあの能力……新たな信仰対象を祭り上げ崇める人々……人が増えれば争いもふえる。確かに脅威であり、戦争では使われる武器にもなる。
実際に息子達を救われた母親からすれば彼女は神様だわ。
私も幼い頃から人の機微に敏感な事と、ロジックを立てる事が得意で先読みの力があると思われていた時期があった。
そしてそれはノヴァルトにも受け継がれているのだけれど。
恐れる者、崇拝する者、利用しようとする者、殺そうとする者。幾度誘拐されそうになったことか。
たったこれだけの能力でこの有り様。
あの力を目の当たりにしたら……
私の経験が少しでも彼女の役に立てばいいのだけれど……
私達がトーカさんの後ろ盾になれば滅多な事は起こらないと思うけれど…………あの力は知られない方がいい。
顔立ちは幼く見えるけれどトーカさんはとても賢い女性だと思う。
きっとどこの国にも誰かにも肩入れしないように考えているのかもしれない。
だからこそ、彼女は静かな生活を望んでいる。
そして人との関わり方に迷っている。
たまたまこの国に降り立っただけで、国が彼女を利用しようとすればすぐに何処かへ消えてしまうでしょう。
せっかくお友達になれたのにそれでは寂しいわ。
夫の言う通り、彼女の力は自然現象と捉えて彼女自身を大切にしよう。
私達家族がそうして来たようにトーカさんの悩みや苦しみも一緒に背負わせてくれるような存在になりたい。
この世界でただ一人だなんて思わせないほど可愛がることにしよう。
息子達の誰かと結婚して本当の家族になってくれたら嬉しい。
好きになって愛してくれるなら3人共と結婚してくれても構わない。
何となく息子達は彼女を待っていたような……彼女しか選ばないような気がするけれど……彼女は全く気が付いていないみたい。
だからまだこの事は私の胸に留めておく。
まずは私が仲良くなりたいから。
「娘がいたらしてみたかったことを全部してみたいわ。トーカさんは嫌がるかしら?」
夫は少し困ったように優しく笑いこちらを見つめて言った。
「ありがとう」
私はこの人に出会えて本当に良かった。
彼だけは、私の能力を無視して私をみてくれた。
この幸せな気持ちを息子達にもトーカさんにもいつか感じて欲しい…………
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