上 下
52 / 251

52 ノヴァルト

しおりを挟む

 ふと、外が気になり窓を見る。

トウカを見つけた。思っていたより早く来てくれたようだがノシュカトに何かあったのだろうか。

部屋の中に入ってもらい、トウカが姿を現すと隣にはノシュカトもいる。

あぁ。無事意識が戻って良かった。

ノシュカトを抱き締める。温かい……生きていて本当に良かった。

トウカも抱き締め礼を言う。

「無事に弟さんを連れてこられて良かったです。色々と説明をしたいのですが、急な事で申し訳ないのですが、本日はご家族皆様と騎士団長のオリバーはお城にいらっしゃいますか?」

私達家族にトウカの事を話してくれる覚悟を決めてきてくれたらしい。
それにしてもオリバーとも知り合っていたとは……という事はおそらくノクトとも会っているだろう。
討伐でカーティス領に行ったときか。

これで帰って来たときの2人の変化に納得がいく。

夜ならば皆揃うと伝えると一度家に戻ると言う。

ミケネコサンとは猫のことだろうか……それからキツネ達とご飯を食べてから戻って来るらしい。

昨日来た頃に来るようなのでこちらも夕食後になる。

トウカが窓から帰り、戻って来るまでにノシュカトに詳しい経緯きくことにする。

だが、まずは皆にノシュカトの無事を知らせよう。

ノシュカトが正門からも裏門からも入らずに突然城内に現れると騒がれるので、両親とノクトとオリバーには私の執務室へ来てもらう。

トウカには夜ならば皆揃うと言ったが、一度私とノシュカトから彼女と出会った経緯と私達が知っている彼女の事を皆に話しておこうと思った。

ノクトとオリバーはトウカに会っているだろうが、両親は違う。
私達がこれから話す内容と、今夜トウカが話す内容の辻褄が合えば彼女の話しも信じてくれるだろう。

トウカは話す覚悟を決めてくれた。私も皆に彼女を受け入れて欲しい。


ノシュカトには仮眠室に再び入ってもらい、使用人を呼ぶ。
急ぎの用なのでなるべく早く私の執務室に来て欲しい、と伝えてもらう。

まずは両親が来た。次いでノクトとオリバーが一緒に執務室へ入って来る。

お茶を入れてもらい、使用人には席を外してもらう。

「兄上、急ぎの用とは何ですか? 雨が上がったので明日、明るくなり次第ノシュカトを探しに行く予定をオリバーと組んでいたのですが」

オリバーも頷づく。

父上も母上も普段は見せない不安そうな表情をしている。

「父上、母上、ノクト、オリバー約束して欲しい。これから話すことを口外しないと。ノシュカトにも関係があることです」

「ノヴァルト一体何なのだ。ノシュカトは見つかったのか?」

「……あなたがそう言うのならよっぽどの事なのでしょう。あなたの言う通り口外はしないし……あなた1人には背負わせないわ」

さすが母上。

私と母上はこういう所が似ている。
父上もわかっているからか母上がそう言うならと納得してくれた。

ノクトとオリバーも頷く。

「ノシュカト、こちらへ来てくれ」

奥の部屋からノシュカトが出てきて皆驚いている。

母上が歩みよりノシュカトを抱きしめ無事を確認しながら、

「あぁ! ノシュカト……無事で……無事で良かった」

「母上、父上も心配かけてすみません。泣かないで……」

父上もノシュカトを母上ごと抱きしめている。

ノクトとオリバーは驚きこちらを見ている。
説明しようと私は頷き、ソファーにかけてもらう。

まずはノシュカトに私もまだ聞いていない事の経緯を話してもらう。

子キツネを助けようとして密猟者が仕掛けた落とし穴に落ちたこと。その際右足の足首を骨折してしまい、さらに落とし穴の底には短い槍がいくつも仕掛けられていて、その内の1本が右足の太ももに刺さり動けなくなってしまった事を話してくれた。

「これを見てください」

ノシュカトが何かを取り出す。
それは山へ向かう日に着ていた服だった。

話の通り右の太もも部分に穴が空き突き抜けている。

母上の顔が青ざめている。ノシュカトのケガは本来ならば生きてはいない、生きて帰れたとしても右足を失うようなものだった。

こんな短期間でどうにかなるケガではないのに、ノシュカトの足は綺麗に治っているようにみえる。
皆同じことを思っているようだが、まずはノシュカトの話を聞くことにする。


その状態で2日間、穴から出られなかったのだ。キツネ達が助けようとしてくれた様で、木の実やムカの葉まで持って来てくれ何とか生きていられたようだった。

しかし限界はくる。意識が途切れ途切れになり深い眠りについてしまい次に目が覚めた時はベッドの上だったという。

ここでノシュカトには少し休んでもらい、私が話を引き継ぐ。

私は幼い日の事を思い出す。あの頃と全く見た目の変わらないトウカの事を。

そこから話そう。父上も母上も当時の事は覚えているだろう。
これからあり得ない話が続くから順を追って話そう。

トウカはこの世界の理から外れている様で、この世界から愛されているようにも感じる。

まずはここにいる全員でトウカを受け入れ、トウカにも受け入れてもらいたい。


私の知っている彼女の事を話そう。
熱に浮かされていたあの夜から今日の事までを……


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

華蓮
恋愛
妹は私のものを欲しがる。両親もお姉ちゃんだから我慢しなさいという。 私は、妹思いの良い姉を演じている。

影の刺客と偽りの花嫁

月野さと
恋愛
「隣国の若き王を、暗殺せよ」そう勅命を受けた魔術師フィオナ。世界を揺るがす、残忍で冷酷無慈悲な王、エヴァンを暗殺するために、王の婚約者に変身してなりすまし、暗殺しようと企てるが・・・・。 実際に王に会ってみると、世界中で噂されている話とは全然違うようで?!イケメンで誠実で優しい国王を、殺すに殺せないまま、フィオナは葛藤する。夫婦を演じて体を重ねるごとに、愛情が湧いてしまい・・!! R18です。 そして、ハッピーエンドです。 まだ、完成してないので、ゆっくりと更新していきます。 週1回を目指して更新します。良かったらのんびり読んでください。

処理中です...