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39 冬華 ノシュカト
しおりを挟む――― 冬華 ―――
今日も雨……彼はまだ目を覚まさない。
キツネさん達も心配そうに見ている。
「彼は大丈夫だよ」
キツネさん達をそっと撫でる。本当は激しく撫でたいっ。
昨日彼をベッドに寝かせてから何度か様子を見に行ったけれど、眠り続けている。
あれだけの大ケガだったしゆっくり休んで欲しいけど、ヒールを初めて使ったという不安もあって、一応リライの雫を集めて寝ている彼の口に含ませた。
三毛猫さんとキツネさん達も一緒に朝ごはんを食べて、庭の結界に雨が通らないようにしておく。
こんな時だし家に閉じ籠らずに気分転換をして欲しい。
子キツネさん達もいることだし遊ぶのも大事。
その間に私は男性用の服を買いに街へ出た。
雨が続いているせいかいつもより人通りが少ない。
男性用の服がたくさん揃っているお店を見つけたので入ってみる。
サイズはわからないけれど、身長は弟達と同じくらいだと思うから何となくで選んでみた。
ワンピースタイプの男性用のパジャマと高すぎず安すぎずの価格帯で一般的(?)なシャツとズボンのラフな感じの服を買ってみた。
下着は……さすがに買えなかった……クリーンでキレイにしているからいいよね。
家に戻ると、庭で三毛猫さんとキツネさん達と熊さんも来て一緒に遊んでいる。
ここは楽園か。
一緒に遊びたいけれど、とりあえず荷物もあるし家に入る。買った服にクリーンをかけて、彼のいる部屋のドアをノックする。
返事はないからまだ寝ているかな。
そっとドアを開けて中へ入る。
一応確かめてみると静かな寝息をたてているので安心する。
風魔法で彼の身体を浮かせてパジャマを着させる。
これでよし!
また布団をかけて彼の様子を伺う。
時々うなされていたり怯えているような表情をすることがある。
あんな目にあったのだから仕方がない。本当に死んでしまうところだった。
「もう大丈夫だよ。あんなに可愛いキツネさん達を助けてくれてありがとう」
小さく呟き彼の頭を撫でる。
フワフワの髪は触り心地がいい。
ヨシヨシと撫でて部屋を後にする。
庭に出てモフモフ達と合流する。熊さんダイブをして撫で回す。熊さんも長い雨にウンザリしていたみたい。
ひとしきり遊んで東屋でみんなでお昼ごはんにする。
その後はみんなが遊んでいる間に庭の手入れをする。魔法を使えばあっという間なのですぐに終わる。
何か忘れている気がする。何だったかな?
男性用の服は買ったし、食材も街に行くたびに買い込んでいるし……彼を連れてくる前に何をしてたかな…………
眠り続けている彼……髪は柔らかくてフワフワで三毛猫さんともまた違うなかなかの触り心地だった……あの髪の色……
ノクトと同じだ…………
ノクトはサラサラストレートだから繋がらなかったけど顔立ちも似てるような気がする……
そういえば手紙にノクトの弟さんが山に向かったとか書いてあったような……手紙……そうだ! 手紙読んでいる途中だった!
家の中に戻り続きの10通目の封を切る。
弟さんの事何か書いてあるかもしれない。
※※※※※※※※※※※※※
――― ノシュカト ―――
気が付くと王都の街中に座り込んでいた。
ここは……よく知っている場所なのに帰り道がわからない。
帰りたい。道行く人に尋ねようと声をかけるが誰も立ち止まってはくれない。
よく見ると周りは皆私に、私達王族にすり寄ってきた貴族や令嬢達ばかりだ。
しかし今はそんなことどうでもいい。
帰りたい。誰か誰か帰り道を教えてくれ。
彼らの態度は素っ気なく私をいない者のように扱う。
……それは……僕が彼らにとってきた態度だった。
彼らの事は好きではなかったけれど僕の態度も酷かった事に気が付いた……兄上達はもっと上手く付き合っていた。きっと僕の態度に困っていたことだろう。
僕は帰ってもいいのだろうか……城には素晴らしい兄達がいる。僕は…………そうだ右足も失ってしまって山に薬草も取りに行けなくなったのだ。
僕は街中でみっともなく泣き出した。
声をかけてくれる者も手をさしのべる者もこちらを見るものすらいなく皆通り過ぎて行く。
――――――――――――――――――――
しばらく泣いていると
優しく頭を撫でられた。
「何をそんなに泣いているの?」
母上の声がして顔を上げる。母上も父上も若い。
僕も小さくなっている。
兄上達も幼い。帰ってこれた!
安心するとまた涙が溢れる。
兄上達は「仕方がないなぁ」と僕を抱き締めてくれる。
温かい……ずっとここにいたい。
兄上達は僕があまりにも泣くものだから後でとっておきの秘密を教えてくれるという。
昔、確かにこんなことがあった気がする。
どんな秘密だったか……
泣き止んだ僕をみてクスクスと兄上達が笑う。つられて僕も笑う。
幸せだ。
ここにいたい。あの暗い穴の中には戻りたくない。
暗い穴……? 僕はそこで……何をしていた……?
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