上 下
39 / 251

39 冬華 ノシュカト

しおりを挟む

 ――― 冬華 ―――

 今日も雨……彼はまだ目を覚まさない。

キツネさん達も心配そうに見ている。

「彼は大丈夫だよ」

キツネさん達をそっと撫でる。本当は激しく撫でたいっ。


昨日彼をベッドに寝かせてから何度か様子を見に行ったけれど、眠り続けている。

あれだけの大ケガだったしゆっくり休んで欲しいけど、ヒールを初めて使ったという不安もあって、一応リライの雫を集めて寝ている彼の口に含ませた。

三毛猫さんとキツネさん達も一緒に朝ごはんを食べて、庭の結界に雨が通らないようにしておく。

こんな時だし家に閉じ籠らずに気分転換をして欲しい。
子キツネさん達もいることだし遊ぶのも大事。

その間に私は男性用の服を買いに街へ出た。
雨が続いているせいかいつもより人通りが少ない。

男性用の服がたくさん揃っているお店を見つけたので入ってみる。
サイズはわからないけれど、身長は弟達と同じくらいだと思うから何となくで選んでみた。

ワンピースタイプの男性用のパジャマと高すぎず安すぎずの価格帯で一般的(?)なシャツとズボンのラフな感じの服を買ってみた。

下着は……さすがに買えなかった……クリーンでキレイにしているからいいよね。

家に戻ると、庭で三毛猫さんとキツネさん達と熊さんも来て一緒に遊んでいる。

ここは楽園か。

一緒に遊びたいけれど、とりあえず荷物もあるし家に入る。買った服にクリーンをかけて、彼のいる部屋のドアをノックする。

返事はないからまだ寝ているかな。

そっとドアを開けて中へ入る。

一応確かめてみると静かな寝息をたてているので安心する。

風魔法で彼の身体を浮かせてパジャマを着させる。

これでよし!

また布団をかけて彼の様子を伺う。

時々うなされていたり怯えているような表情をすることがある。
あんな目にあったのだから仕方がない。本当に死んでしまうところだった。

「もう大丈夫だよ。あんなに可愛いキツネさん達を助けてくれてありがとう」

小さく呟き彼の頭を撫でる。

フワフワの髪は触り心地がいい。
ヨシヨシと撫でて部屋を後にする。


庭に出てモフモフ達と合流する。熊さんダイブをして撫で回す。熊さんも長い雨にウンザリしていたみたい。

ひとしきり遊んで東屋でみんなでお昼ごはんにする。

その後はみんなが遊んでいる間に庭の手入れをする。魔法を使えばあっという間なのですぐに終わる。


何か忘れている気がする。何だったかな?

男性用の服は買ったし、食材も街に行くたびに買い込んでいるし……彼を連れてくる前に何をしてたかな…………

眠り続けている彼……髪は柔らかくてフワフワで三毛猫さんともまた違うなかなかの触り心地だった……あの髪の色……

ノクトと同じだ…………

ノクトはサラサラストレートだから繋がらなかったけど顔立ちも似てるような気がする……

そういえば手紙にノクトの弟さんが山に向かったとか書いてあったような……手紙……そうだ! 手紙読んでいる途中だった!

家の中に戻り続きの10通目の封を切る。


弟さんの事何か書いてあるかもしれない。


※※※※※※※※※※※※※


――― ノシュカト ―――


気が付くと王都の街中に座り込んでいた。

ここは……よく知っている場所なのに帰り道がわからない。

帰りたい。道行く人に尋ねようと声をかけるが誰も立ち止まってはくれない。

よく見ると周りは皆私に、私達王族にすり寄ってきた貴族や令嬢達ばかりだ。

しかし今はそんなことどうでもいい。

帰りたい。誰か誰か帰り道を教えてくれ。

彼らの態度は素っ気なく私をいない者のように扱う。
……それは……僕が彼らにとってきた態度だった。

彼らの事は好きではなかったけれど僕の態度も酷かった事に気が付いた……兄上達はもっと上手く付き合っていた。きっと僕の態度に困っていたことだろう。

僕は帰ってもいいのだろうか……城には素晴らしい兄達がいる。僕は…………そうだ右足も失ってしまって山に薬草も取りに行けなくなったのだ。

僕は街中でみっともなく泣き出した。

声をかけてくれる者も手をさしのべる者もこちらを見るものすらいなく皆通り過ぎて行く。


――――――――――――――――――――


しばらく泣いていると

優しく頭を撫でられた。

「何をそんなに泣いているの?」

母上の声がして顔を上げる。母上も父上も若い。
僕も小さくなっている。

兄上達も幼い。帰ってこれた!
安心するとまた涙が溢れる。

兄上達は「仕方がないなぁ」と僕を抱き締めてくれる。
温かい……ずっとここにいたい。

兄上達は僕があまりにも泣くものだから後でとっておきの秘密を教えてくれるという。

昔、確かにこんなことがあった気がする。
どんな秘密だったか……

泣き止んだ僕をみてクスクスと兄上達が笑う。つられて僕も笑う。

幸せだ。

ここにいたい。あの暗い穴の中には戻りたくない。


暗い穴……? 僕はそこで……何をしていた……?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...