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24 ノクト

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 昨夜、騎士団長のオリバーから夕食後、話があると言われた。

領主が用意してくれた部屋は、応接室がありテーブルとソファーがある。
その奥にドアがあり寝室となっている。

応接室でオリバーが来るのを待つ間、領主の話を思い出す。

我々討伐隊が到着する前日から、熊の大型魔獣が姿を現さなくなったと。

やはりトーカ……彼女が…………

コン コン コン
オリバーがきた。

「入れ」

「失礼します。ノクト殿下、お疲れのところ申し訳ありません。」

「かまわない。酒でも飲むか?」

「いえ、遠慮しておきます」

この会話を聞いて控えていたこの館の執事が紅茶の準備をする。
俺の向かいにオリバーが座る。
オリバーの頼みで、執事には紅茶を置いたら下がってもらう。
紅茶を一口飲む。

「それで、話とは」

「……はい。先程の兄の……領主の話をどう思われますか」

「魔獣が現れなくなったという話か。まだ何とも言えないな」

「魔獣が現れなくなったのは我々が街へ着く前日です。我々は森の湖の近くで野営をしていました」

「……そうだな」

オリバーは昔から勘がいい。

「ノクト殿下は夜明け前に湖へ行き、戻ってから様子がおかしかった様に思います」

「………………」

そして周りをよく見ている。

「そして今日森へ行った時、ノクト殿下は何故か この魔獣はおそらくもう居ない、とおっしゃっていた。……どういうことですか」

「………………」

「……もしかして、湖に向かう時に魔獣に出くわしたのではないですか。そして致命傷を与え……」


逃げられた、と言いたいのだろう。


「しかし湖の周りには魔獣は近寄れないはずです。万が一遭遇し致命傷を与えたのなら、なぜ今まで黙っておられたのかが分かりません。何か理由があるのですか」

彼は……だからこの若さで騎士団長なのだろう。
身体ばかり鍛えるのではなく物事を他より少し深く考える。

「俺もまだ確信を得ていないのだ。明日は日が昇る前と、日暮れ前の二度森へ行き調査するのだから何かわかるかもしれない」

「そう……ですか。……そうですね。明日も早いですし今夜はこれで失礼します」

これ以上は何も聞かずにオリバーは部屋を出ていく。


「私の事は誰にも言わないでください――――」

トーカは消える瞬間にそう言った。
彼女の正体が分からないまま誰かに彼女の事を話す訳にはいかない……

いや、誰にも話したくないのか……
俺は……トーカの事をもっと知りたいのだ……

翌日、日が昇る前に討伐隊は森へ向かう。
等間隔に広がり森へ入る。

しばらく進むと違和感を感じる。皆も気が付いたようだ。
大型どころか小型の魔獣も一匹もいないのだ。

ペットにするには小型の動物が捕まえやすいし可愛いと人気があるから高く売れる――――以前捕らえた密猟者が言っていた。

大型の魔獣は滅多にでないが出た時は被害が大きい。
小型の魔獣は頻繁に出るが被害は少ない。

森へ入り、小型の魔獣を一匹も見なかったことはない。

これは…………これもトーカなのか?
彼女に会いたい。会って話がしたい。


森の調査を終え、騎士団は街へ、俺とオリバーと近衛兵は領主の館へ戻り、遅めの朝食を取る。

それから報告書をまとめ、今日はもう一度森へ行かねばならないので仮眠を取る。

昼過ぎに目が覚め、執事に少し出てくると伝え、馬に乗る。
街の賑わいを通りすぎ、教会を目指す。
神に祈ってみようと思ったのだ。

トーカにもう一度会いたい……と。

教会の扉は開け放たれていて、中はひっそりと静まり返っていた。
奥へ進むとシスターが一人、祈りを捧げている。
熱心に祈っているようでこちらに気が付く様子はない。

このまま近づくと驚かせてしまうと思い、少し離れたところで様子を伺う。
少し……違和感を覚える。ベールをしているがシスターの服ではない…………?

すると奥の方から年配のシスターが一人出てきた。
やはり服が違う。
祈っていた女性もシスターに気が付いたようだ。

二人は何か話していたが、女性が包みを取り出しシスターに渡す。
シスターが女性を教会の裏にある孤児院へ誘っているようにみえる。
ふとシスターがこちらに気が付いたので、そちらへ向かう。

「まぁ……!ノクト殿下」

「こんにちは。シスター………お名前を伺っても?」

「申し遅れました。私はこの教会のシスター長をしておりますクラリスと申します。こちらは……あら! ごめんなさい! まだあなたのお名前も伺っていなかったわ」


フワリと……花のような甘い香りが漂う………
彼女がゆっくりと振り返る。


。ノクト殿下、クラリスシスター長。私はトウカと申します」


  …………会えた…………


まさかここで会えるとは……! 何故ここに? 偶然か?


それにしても、初めまして……だと? 
気が付いていないのか? 湖で会ったときと少し印象が違うが、確かにトーカだ。
また消えてしまう前に、今すぐ抱きしめて捕まえてしまいたい。

だが、トーカは  を貫くつもりらしいのでこちらも少し付き合う事にする。

クラリスシスター長、シスタートーカ」

「あぁ……ノクト殿下、訳あってベールを被っていますがトーカさんはシスターではないのですよ」

「それは失礼しました。では、トーカと呼ばせていただきます」

「……はい」

「それで、お二人はどこかへ行くところですか」

「そうなんです! トーカさんが孤児院の子供たちにお菓子を買って来てくれたので、子供たちも喜びますし皆で一緒にお茶でも、とお誘いしていたところなのです! 大したおもてなしも出来ませんが、よろしければノクト殿下もご一緒にいかがですか?」

「あの、クラリスシスター長、ノクト……殿下のお口には合わないかもしれないので……」

「ぜひご一緒させて欲しい。子供たちの顔もみたいしな」

離れないぞトーカ。

「まぁまぁ! 子供たち大喜びしますよ! みんなでお茶にしましょう。さぁトーカさんも行きましょう」

トーカに手を差し出す。
エスコートのためでもあるがなるべくトーカに触れていたい。
彼女は戸惑いながら恐る恐るという感じでそっと手を合わせてくる。

手が触れた瞬間ゾクゾクと身体が痺れる。

すぐに指を絡めて手を繋ぎ直す。
聞きたいこともやりたいこともたくさんあるが、まずは子供たちとの時間を楽しむとしよう。


その後は、逃がさないからな。 トーカ。


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