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15 セアラ

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 ーー― セアラ ―――

 
 今日は魔獣討伐隊の騎士様方がこの街にいらっしゃる。

私は洋服店で働いている販売員。私がデザインした服も置かせてもらっているので、デザイナーでもある。

今年20才になるのでそろそろ真剣に結婚を考えなければならない気がする…けど、王子様方が未だ結婚せず独身を貫いていることから、貴族の間でも晩婚が流行りつつあるとかないとか…? 

私だって素敵な出逢いがあればその気になる。
もしかしたら騎士様の中に運命のお相手がいるかもしれない!

お店を閉めるわけにはいかないので夜の出逢いに掛ける。
みんなパレードに行っているから今日はお客さん来ないかもなぁ…と思っていると女の子が入ってきた。

初めてみる顔の女の子。キョロキョロしてから出ていきそうな感じだったので、思わず声を掛ける。

「いらっしゃいませ」

少し困ったように振り向いた彼女は…

「なんか……着ぶくれしていますね。それにその頭は何なのかしら?」

思わず口に出してしまった。
それほどトンチンカンな格好をしていた。

「わ、私、久しぶりに外に出て……頭は…その……病気で……」

しまった! 事情を知りもしないで批判的な事を言ってしまった……しかも女の子なのに病気で髪が………本当に申し訳ない事をしてしまった。

「それは………ごめんなさい」

怒られても仕方がないことをしたのに、何だか彼女の方が申し訳なさそうな顔をしている。

「素敵なお洋服がたくさんあるので好きなだけみていってください。もちろん試着も出来ますよ」

お買い物は楽しくして欲しいもの。

「私、お洋服の事よく分からなくて…店員さんにお任せしてもいいで」

「お任せ下さい!」

食いぎみに返事をしてしまった。

とりあえずリラックスして欲しくて私の名前を伝える。

「私はセアラよ。今日はパレードがあるからお客さんが全然来ないの。たくさん試着しましょう! よろしくね!」

「セアラさん、私はトウカです。よろしくお願いします。パレードでお客さんが………みなさん楽しみにしてますよね………?」

彼女も名乗ってくれたけど…騎士様目的でこの街に来たわけではなさそう……?

「私のことはセアラでいいわ! そうなの! 王都から魔獣討伐に第二王子率いる討伐隊がいらっしゃるの! さっき到着されてみんなそっちへ行っているのよ。私も行きたいところだけとどちらにしろ騎士様方は夕食を食べに外に出られるはずだから夜までお祭り騒ぎが続くはずよ!」

「私のことはトウカと呼んでください。騎士様方に会えるといいですね」

女の子なら絶対盛り上がる話題なのにあまり興味がないみたい。
彼女の服を選ぼうと思い失礼にならない程度に全身をさっとみる。
少し待っていてもらい、服を選びながらやっぱり違和感を覚える。何だろう…?

お化粧で大人っぽく見せようとしている感じがするけど年はたぶん私と同じくらいよね。
お化粧を落としたらもう少し幼く見えると思うけど、身長も同じくらいだし着ぶくれしていても私にはわかる。
身体のラインが大人だ。

整った顔立ちに大きな目、瞳の色は見たことがない黒い色をしている。

病気と言っていたけど…だからと言って寝間着じゃあるまいしあんなにサイズの合わない服で外に出るかな。

それにあのワンピース。
そんなにいいものではないのに頭に巻いている布はみたことがない。
日に当たっていなかったからかお肌も透明感があり、どこかのご令嬢のよう。

久しぶりの外出と言っていたけど病気は治ったのだろうか?お医者さんにみて貰うにはかなりのお金がかかるはずだけど……

チグハグなのだ。ご令嬢が平民の振りをしているような……でもお金があるなら頭に布を巻かずにカツラを買うだろう。それに一人では外出しないはずだし。

とりあえず、彼女が着ているワンピースよりもう少し良いものを選んで持って行こう。

「サイズはこれくらいで大丈夫だと思うわ。まずはこれから着てみましょう」

サイズ確認をしている間魔獣や討伐隊のお話をしたけど、どちらもほとんど知らないような感じで魔獣の話をした時はショックを受けたような感じだった。
子供でも知っている話だけど……

色々違和感はあるけど悪い人ではなさそう。
私のこういう勘は当たるのよ。人をみる目があるということね。

それに病気のせいで女の子なのに髪の毛をアレンジしたり出来ないなんて……せめて……と思いワンピースとお揃いの大きめな布をお会計が終わった後にあげることにした。

被り方を教えるととても喜んで貰えた。
ラベンダー色のワンピースにお揃いのベールを被り、紙袋を抱き締めて帰って行った。

病気を患っている人にも楽しんで貰えるお洒落があるのか……何だか勉強になるお客さんだったなぁ。

それにしてもとても黒い瞳だったわ。他所から来たのかしら? この街に住んでいるのかしら?

また来て欲しい。


あのシスター風のオシャレベールを流行らせるのもいいかもしれない。


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