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10 ノクト

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 ――――――空から女神が降りてきた

光の粒を追い空を見上げると光が強くなり、突風が吹いた次の瞬間、突然上空に女性が現れた。

このままでは湖の真ん中に落ちてしまう! と思った瞬間、彼女はフワリと浮いた。

そのままゆっくりと回りながら降りてくる。

光の粒を纏い、この国では見たことのない長い黒髪。

彼女は夜の女神だろうか。

すると彼女は、まるで優雅にダンスをしているかのように岸へ向かい進み出す。

気づかれたら消えてしまうかもしれない。

かなり距離はあるが、俺はもっと近づくため再び森に入り彼女が向かった岸の方へ走り出す。

森の中を進みしばらくすると、魔獣の気配がする。

バカな……湖の周辺には現れないはずだ!

なぜだ!? その魔獣はかなり大型のもので湖に向かっている!?
魔獣は水を嫌い近づかないはずだ! ありえない!!


しかも俺と同じ方向へ向かっているようだ……


どういう事だ?
このままだと彼女が危ない!


魔獣が岸までたどり着くと彼女もその存在に気が付く。


すると彼女は怯えた様子も見せず魔獣に近づいていき、なぜかポロポロと泣き出した………

わかるのだろうか?
魔獣が苦しんでいる事が……

胸が……熱くなる。

そして彼女が両手で魔獣に触れると……暖かい光に包まれ魔獣は安らかな終わりを迎えた。

彼女は一体何をした?

これまでみてきた魔獣は最後まで苦しみの感情が残っているようだったが今のは………!

目の前で起きた事が信じられず呆然としていると、彼女は再び湖の中心辺りで止まる。
考え事をしているようにもみえる。

魔獣に気を取られていて気が付かなかったが……

彼女は何て格好をしているんだ……!
みたこともないドレスだが…肌の露出が多すぎないか!?
何て脱がしやすそうな……いや……そのままでも……いや!

上空に現れた時はもっと肌は見えていなかったように思うが……

何気なく周りを見ると服が干してある。
あれは……下着姿か。
俺が移動している間にいろいろ見逃し……いろいろあったらしい。


すると突然勢いよくこちらへ向かってきた。

近づいて来るとよくわかる。

顔は少女のような幼さがあるがスラリと長い手足にくびれた腰に張り出した………胸。
リアザイア王国では18才で成人だが……おそらく成人はしているだろう。

彼女がもう少しで岸に着くというところで俺は思わず岸に向かって歩きだしてしまった。


驚いた顔をした彼女と目があった瞬間、胸がふるえた。
初めての感覚に戸惑いながらも、彼女と視線を交わせた喜びが溢れてくる。


「避けてぇ――――――――!!」


止まれないのか、叫びながらこちらへ飛んでくる。


 (避けるものか……受け止めてやる!)


両腕を広げると彼女が俺の胸にフワリと飛び込んできたので抱き締める。

サラリと長く艶やかな黒髪が俺の腕にかかる。

お互い露出の多い格好だから肌と肌も合わさる。

甘い匂いにクラクラする。

胸の柔らかさに下着を着けていないことに気が付く。

思わず長い髪を指ですくと彼女がフルフルと身体を震わせる。

……俺は我慢強い方だと思っていたが…………理性が保てなくなる……

すると俺の胸に収まっていた彼女が身をよじる。

「あ、あの………」

小さな可愛らしい唇が動く。
顔を見ると真っ赤だ。
きっと困っているのだろうが離したくない。

聞かなければならない事がたくさんあるのに彼女の存在を感じることに夢中になってしまう。

もう一度髪に触れ、仕方がないので彼女を解放する。
胸元と下着の裾を押さえながら恥ずかしそうにこちらを見上げる。………俺は試されているのだろうか。

「あの…………」

彼女は戸惑っているのか言葉が続かない。

俺はなるべく怯えさせないように微笑みながら話しかける。

「失礼しました、お怪我はありませんか」

「!……………はい」

少し驚いたような表情をして返事をする彼女。

たったこれだけの会話でも彼女が応えてくれたことを嬉しく感じる。

「俺は……ノクトと申します。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

この国の者ならば俺の顔と名前は知っているはずだ。

だが彼女は………

「ノクト……さん…?私はトウカと申します。……あの……受け止めて下さってありがとうございます。お怪我はありませんか」

やはりこの国の者ではないようだ。

「トーカさん、ですね。私の事はノクトとお呼びください。怪我はありませんよ」

「………本当にありがとうございました。私の事はトウカとお呼びください。」

「では、トーカ。トーカはどこから来たのですか?
名前も髪の色も顔立ちも服もこの国では見かけないのですが…」

本当は人間なのか女神なのか聞きたい。

「…………………」

「突然上空に現れたように見えたのですが……それから湖の上を浮いていましたがあれはどういう………?」


トコトコトコトコ………


どこからか猫が歩いてくる。
猫………だよな?見たことがない毛色だ。
猫の毛色は大抵1色だ。
2色の猫も稀にいるが、3色は見たことがない。


「三毛猫さん!」

ミケネコサン? こちらも変わった名だ。
猫はトーカに近づいていき、あの胸元に抱き上げられる。
物凄く……羨ましいっ!

猫に嫉妬してしまうとは……

邪な事を考えていると辺りに光が差す。

夜明けだ。

湖が日の光を反射して輝きだし草木の緑は濃くなる。

トーカも輝いてみえる。
いや、実際に輝いている!?

現れた時と同じく光の粒を纏っている。

光と風が強くなり思わずトーカに手を伸ばす。

「トーカ!! 待て!!」

あと少しで届くところで


「私の事は誰にも言わないでください――――」


そう言うと、トーカは猫と共に消えた。

干してあった服も全て消えていた。

辺りには甘い香りとトーカに触れた感触だけが残っていた。
結局名前しか知ることが出来なかった。

彼女はまたこの国のどこかに現れるだろう。
何故かそう思う。

聞きたいこともまだ沢山あるし、なによりまた触れたい。


彼女を探して、必ず捕まえるぞ……!



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