上 下
7 / 251

7 ノクト

しおりを挟む

 
 出発して王都を抜けるとのどかな風景が広がる。
広い畑には様々な作物や薬草が植えられ、果樹園には瑞々しい果物が成る。

俺はこの景色が好きだ。王都の賑やかな雰囲気も好きだがこちらは心が落ち着く。

やがてその景色もまばらになり、遠くに森が見えてくる。

森に近づくと入り口周辺はまだ明るく、可愛らしい小動物が警戒しながらもこちらの様子を伺っている。

そんな姿を横目にこちらも警戒は怠らない。

今のところ魔獣の気配はない。
被害を訴えているのはこの森を抜けた領地だ。

森の真ん中辺りに湖があり、その向こう側に魔獣がいる可能性が高い。

さらに森の奥へ進む前に、馬を休ませるため休憩をとる。

俺達もパンと干し肉をつまみ、軽く腹ごしらえをする。

再び森の奥へ向かう。
木々が生い茂り薄暗くなっていく。
小動物がいなくなり小型の魔獣が出てくる。

(可哀想に……お前達の無念は俺が晴らしてやる)

だから今は…………

剣を振るう。

魔獣化した動物を斬るとボロボロと崩れ黒い粉となり消えていく。
何故かはわからないがそうなる。

2度目の死は何も残らないのだろうか。

最後の一瞬だけでも苦しみから解き放つことが出来ているのだろうか。

こんなことが続くと段々と気分も暗くなっていく。
動物達を魔獣化させた奴らをどうしてやろうかと考える。


そろそろ中間地点の湖へ向かうため脇道へ進む。

湖に近づくにつれて再び魔獣は減っていく。

予定通り湖から少し離れた場所に野営をするため、テントを張る。
夕飯は食事当番がしっかりしたものを作ってくれるようだ。


野営地に15名の兵を残し、残りは暗くなる前に周囲の安全確認と湖の様子を見に行く。
安全なようならついでに水浴びも済ませよう。

湖は、相変わらず美しかった。

薄暗い森の中、日の光を反射して輝く湖。
底が見えるほど綺麗な水で動物達も水を飲んだり水浴びをしたりしている。
その美しさと微笑ましい姿はみているだけで癒される。

交代で兵達にも水浴びをさせる予定だ。
周囲の安全を確認し、ひとまず俺と近衛兵の6名が見張りに立ち、今いる騎士団兵10名に水浴びをしてもらう事にする。

森の中にはパプルという白っぽい葉が所々に生えている。

それを水に濡らし揉み込むと段々と泡立ってくる。

石鹸の材料にも使われているが街で売られているもののように色や香りがついているわけではない。
湖や自然の中でなんの影響もなく使える天然の石鹸だ。

湖近くにも生えているのでそれぞれ使う分だけ摘み、水浴びに向かう。

交代で、俺と近衛兵が同じようにパプルを摘み湖へ向かう。
土埃を洗い流してからパプルを泡立てる。

頭から身体から全て洗い流し、湖へ入る。
ひんやりとして気持ちがいい。

ゆっくり泳ぎたいところだが、待っている兵もいるので手早く身体を拭き野営地へ戻る。

ちょうどテントも張り終わり少し早いが夕飯も出来上がったところだった。
夕飯は、厚めの肉を焼いたものと具だくさんの野菜スープにパンにチーズだ。

野営にしては贅沢かもしれないが、これからの事を思うとしっかりと食べて欲しい。
夕食は野営地に残った兵が先に取り、我々は後から食べた。

食後の後片付けは近衛兵5名が引き受け、水浴びをしていない兵15名と見張り役の兵10名が湖へ向かう。

日が暮れはじめ辺りはうっすら暗くなってきている。
戻るときは暗くなっているだろうからランプも持っていかせた。

私は2ヵ所に起こした火の番と、周囲の警戒をする。
森の中では比較的安全な場所だが、魔獣ではなくとも野生の動物の行動は読めないので注意が必要だ。

日が落ち辺りが暗くなる頃、兵達は戻ってきた。
皆リフレッシュできたようで表情が柔らかい。

ここからは交代で見張りをたてて休む。

これまで湖の周囲1キロ以内に魔獣が現れた事はない。
報告によると、ここから10キロ程先で大型の魔獣が目撃されている。
報告書と照らし合わせ騎士団長のオリバーと再度確認を行い、見張りの割り当ても決める。

見張りは5名2時間ずつで行い早朝の出発とする。

近衛兵は私と行動を共にするので、ここは6名となる。
まずは私達が見張りに立ち、他の兵を休ませる。

皆が寝静まり辺り静かになると薪がはぜる音と夜行性の動物たちの鳴き声や動き回る音が聞こえてくる。

何事もなく見張りを交代し、我々もやすむことにする。



俺は日が昇る前に起き、1人湖へ向かう。
見張りの者達には湖に行く事と誰も付いてこないよう伝えておく。
俺の強さは知っているから黙って行かせてくれる。
たまには一人になりたい。

ランプを片手にもちろん帯剣もして、再び湖へ向かう。

月明かりのなか輝く湖はやはり美しく、夜の静けさの中ではより神秘的に見えた。

夜行性の動物たちの気配を感じる中、素振りを暫くして汗をかく。

服を全て脱ぎ湖に入り泳ぐ。

冷たくて気持ちがいい。

湖に浮かび星空を仰ぐ。


しばらく泳ぎ満足した俺は身体を拭き下履きとズボンを履く。

何となく名残惜しく、上半身裸のままぼんやりと湖を眺めていると、湖のちょうど真ん中あたりに光の粒が降り注いでいることに気がつく。


どこからかと不思議に思い少し上を見ると----



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す

狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
 男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!  主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー! ※現在アルファポリス限定公開作品 ※2020/9/15 完結 ※シリーズ続編有り!

処理中です...