七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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59 弟

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 「おはよう、エイダン」


朝食の準備をしながら、気配を感じてエイダンがいる方へ視線を向ける。

「エ……エイダン?」

なんか疲れてる?

「どうしたの? 大丈夫?」

エイダンの側へ行くと私をじっと見つめて……見つめている。

顔色が良くないし目も充血している……目を擦ったのかまるで泣いていたような……

ちょっと待っていて、と言い脱衣所からタオルを持ってきて濡らしてからエイダンの元へ戻る。

「これで目元を冷やして……」

あれ? 温めた方がいいのかな?
一瞬迷っていると

コン コン コン

とドアをノックする音。
玄関へ向かおうとするエイダンを止めてタオルを渡してソファーに座ってもらう。

それから玄関へ向かいドアを開けると……

「……おはよう、エリオット……」

ブラコンのエリオットが来た。

一瞬の嬉しそうな顔の後、出迎えが私だけだとわかると眉間にグッとシワが寄る。

「おまえ……本当にいたのか」

……はい。

「ハッ、なんて迷惑なヤツだ。兄さ……兄上の優しさにつけ込みやがって」

返す言葉もありません……

「エリオット?」

私の後ろからエイダンの声。

「兄上! あ……兄上?」

満面の笑みのエリオット……

エイダンの顔を見て表情が曇る……そして私を睨む。
なぜか罪悪感を感じて目をそらしてしまう私。

「どうしたのです兄上っ、なぜそんなに疲れて……」

また私を睨む……やっぱり私のせいですかね……

「あぁ……、私は大丈夫だよ」

そんなフラフラで言われても…………睨まないで。

「と、とりあえず中に入って……」

おまえが言うなっていう目で見ないでください……

「エイダン、ごめんね。もしかして私、昨日の夜うるさかったかな……その……寝言とか……イビキとか……歯ぎしりとか……」

だから眠れなかったのかも……今までルウには言われたことはなかったけれど……

もしそうなら隣の部屋まで聞こえるとか恥ずかしい……

とりあえずエイダンにはソファーに掛けてもらう。

「やっぱり私、一階の空いている部屋に……」

「それがいいだろうな。兄上の隣の部屋は僕が使う」

私とエリオットの言葉にエイダンが首を振る。

「ハル、逆だよ。静か過ぎて……本当にいるのか不安になるくらい静かだったよ」

そんなことあるんだ……

それからハルの部屋をハル以外に使わせる気はないよ、とエリオットに優しく微笑む。

「私、お茶をいれてくるね」

キッチンへ向かい二人分のお茶をいれてだす。

「朝食を作るからゆっくりしていてね」

そう言ってキッチンへ戻る。
エリオットは家で食べて来たのかもしれないけれど三人分用意しよう。

「ハル、手伝うよ」

少しするとそう言ってエイダンが私の隣に立つ。

「エイダン、こっちは大丈夫だから休んでいて」

私の仕事だし……

「ハルがいれてくれたお茶を飲んだら気分が良くなったよ」

そう言いながら手を洗うエイダン。
普通のお茶だけれど……確かに顔色は良くなったかな。

「兄上がやるなら僕も兄上を手伝う」

エリオットも私の隣に立つ。
キッチンは広いから二人とももう少し離れようか。

「エリオットも手伝うなら手を洗ってね」

ムッとしない。

「僕の手はキレイだ」

そうかもしれないけれどね、

「料理をするときは手を洗うでしょう?」

少し考えるエリオット……

「料理なんてしたことはないな」

……なんで手伝うって言った……
エイダンを見ると困ったように微笑んでいる。

「エリオット、手を洗おうね」

とエイダンが言うとはいっ、と……とてもいい返事。
それからいきなり包丁に手を伸ばすから

「……料理、したことないんだよね?」

フンッと私を見下し

「剣の腕には自信がある」

はい、ストップ。

「エリオット、ちょっと向こう側でエイダンを見ていてくれるかな」

一瞬、は? という顔をしてからエイダンが料理をしているところを見られることに気が付いて素直に従う。

良かった、ケガとかされたらうるさそうだし面倒だ……

とりあえずエイダンの体調も考えて朝は軽めにしてお腹が空いたら早めのお昼にすればいいかな、と考えながら手を動かす。

エイダンが完璧なアシスタントをしてくれたお陰で思っていたよりも早く出来上がりそう。

「兄上、さすがですっ」

目をキラキラさせてエイダンを見るエリオット。

「ハルの手際がいいのだよ」

眉を下げて笑うエイダン。
エイダンに褒められた私を睨むエリオット……

「次は僕も手伝うからな」

……次…………

エリオットは何をしに来たのだろう……
朝から来ているのに急ぎの用というわけではなさそうだし……私が聞いたら怒りそうだし。

とりあえず、皆で食卓を囲み朝食をとる。

「エイダン、無理はしないでね」

残しても大丈夫だから、と言うと

「ありがとう、でももう大丈夫だよ。ハルと作っている間にお腹が空いてきた」

そう言って微笑むエイダンは本当にもう大丈夫そう。

「……なんか夫婦みたいだな……」

エリオットが呟く……

え……?

「え?」

ハッとするエリオット。

「違うっ、兄上にふさわしいのはもっと品があって美しくて女神のような女性だ」

ほぉ……

「そう……か、私とハルは夫婦に見えるか」

エイダン……さっきのエリオットの言葉、聞いてなかったのかなぁ……

「ちっ……違っ」

嬉しそうに優しく笑うエイダンを見て口元を手で覆い頬を染めるエリオット……

なんだこれ……

「……食べようか」

一人心の中で頂きますをして食べ始める。
しばらくするとエイダンが

「ところでエリオット、何か用があったのではないか?」

やっと聞いてくれた。

「兄上、冬の間僕も兄上の家で過ごします」

……ん?

「それは……父上と母上が許さないのではないか」

そうなの?

「もう許可は取っています。兄上の家から仕事へもいくので」

ここからだと通勤大変そうだけど……

「しかし……」

チラリと私を…………見ないでください……睨まれるから……

「い……いいんじゃないかな! 私はここに来る日数を減らしてもいいし」

エリオットがそうしろ、というように微笑み

「それは駄目だよ」

とエイダンが言う。

「エリオット、本当に父上と母上の許しを得ているのか」

そう聞くエイダンの表情は硬い。

「も、もちろんですよ、兄上」

なんだろう……

「本当に?」

口をはさめないこの感じ……家族の……

「本当です……兄上宛の手紙も預かってきています……」

そうか……と手紙を受け取り宛名と送り主を確認しただけでテーブルに置くエイダン……後でゆっくり読むのかな……

「わかった……」

少し困ったように微笑み

「ハル、すまないが……いいかな」

私に聞かなくてもいいのに……
エリオットもそんな顔で見ている。

コクリと頷くとエイダンがありがとう、と小さな声で言う。

「エリオット、仕事にはちゃんと行くのだよ」

エリオットが嬉しそうにエイダンをみて

「はいっ、兄上」

と元気良く返事をする。

話がまとまり食事も終え、後片付けを手伝おうとするエイダンにはお昼になったら声をかけるからと言い仕事部屋へ行ってもらう。

私のやることがなくなっちゃうから……本当に。

エリオットは今日は仕事なのか休みなのかは知らないけれど聞いたら面倒そうだから放っておこう。

キッチンでお皿を洗っているとエリオットが隣に立つ。

なんだろう……じっと見られている。

「手伝う」

え……、とエリオットを見上げて

「できるの?」

思わず口にしてしまった……

「バカにしているのか?」

しまったぁ……

「一年程、騎士団で集団生活をしていたから……これくらいはできる」

おや? もっとうるさく言われるかと思ったら……

「兄上の命を救ってくれてありがとう……」

と小さな声で……どうしちゃったの!?

「う……うん、偶然だけれどね。ちゃんと家に帰ることができて良かったよ」

あぁ、とエリオットが微笑み

「兄上がいなければ僕は……」

僕は? と首をかしげる私から目をそらし

「だからと言ってお前を信用しているわけではないぞっ」

と睨んでくる……情緒が不安定……なんなの……

「お前が兄上に手を出さないように見張っているからな!」

「出さないしっ」

思わず言い返してしまう。

「ハッ、どうだか」

って……なんかムカつくんですけど……
もしかしてそのためにきたの?

兄好きもここまで来ると本物だな……

それに、いろいろ言いながらも皿洗いは手伝ってくれているこの感じ……ロゼッタを思い出さなくもない……

「そういうわけだから、これからよろしくな」

と言われ……よろしくお願いします、と返すと

「見ているからな」

と睨まれた。

こうしてうまくやっていけるか不安を感じる中……


三人での生活が始まった……

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