59 / 87
59 弟
しおりを挟む「おはよう、エイダン」
朝食の準備をしながら、気配を感じてエイダンがいる方へ視線を向ける。
「エ……エイダン?」
なんか疲れてる?
「どうしたの? 大丈夫?」
エイダンの側へ行くと私をじっと見つめて……見つめている。
顔色が良くないし目も充血している……目を擦ったのかまるで泣いていたような……
ちょっと待っていて、と言い脱衣所からタオルを持ってきて濡らしてからエイダンの元へ戻る。
「これで目元を冷やして……」
あれ? 温めた方がいいのかな?
一瞬迷っていると
コン コン コン
とドアをノックする音。
玄関へ向かおうとするエイダンを止めてタオルを渡してソファーに座ってもらう。
それから玄関へ向かいドアを開けると……
「……おはよう、エリオット……」
ブラコンのエリオットが来た。
一瞬の嬉しそうな顔の後、出迎えが私だけだとわかると眉間にグッとシワが寄る。
「おまえ……本当にいたのか」
……はい。
「ハッ、なんて迷惑なヤツだ。兄さ……兄上の優しさにつけ込みやがって」
返す言葉もありません……
「エリオット?」
私の後ろからエイダンの声。
「兄上! あ……兄上?」
満面の笑みのエリオット……
エイダンの顔を見て表情が曇る……そして私を睨む。
なぜか罪悪感を感じて目をそらしてしまう私。
「どうしたのです兄上っ、なぜそんなに疲れて……」
また私を睨む……やっぱり私のせいですかね……
「あぁ……、私は大丈夫だよ」
そんなフラフラで言われても…………睨まないで。
「と、とりあえず中に入って……」
おまえが言うなっていう目で見ないでください……
「エイダン、ごめんね。もしかして私、昨日の夜うるさかったかな……その……寝言とか……イビキとか……歯ぎしりとか……」
だから眠れなかったのかも……今までルウには言われたことはなかったけれど……
もしそうなら隣の部屋まで聞こえるとか恥ずかしい……
とりあえずエイダンにはソファーに掛けてもらう。
「やっぱり私、一階の空いている部屋に……」
「それがいいだろうな。兄上の隣の部屋は僕が使う」
私とエリオットの言葉にエイダンが首を振る。
「ハル、逆だよ。静か過ぎて……本当にいるのか不安になるくらい静かだったよ」
そんなことあるんだ……
それからハルの部屋をハル以外に使わせる気はないよ、とエリオットに優しく微笑む。
「私、お茶をいれてくるね」
キッチンへ向かい二人分のお茶をいれてだす。
「朝食を作るからゆっくりしていてね」
そう言ってキッチンへ戻る。
エリオットは家で食べて来たのかもしれないけれど三人分用意しよう。
「ハル、手伝うよ」
少しするとそう言ってエイダンが私の隣に立つ。
「エイダン、こっちは大丈夫だから休んでいて」
私の仕事だし……
「ハルがいれてくれたお茶を飲んだら気分が良くなったよ」
そう言いながら手を洗うエイダン。
普通のお茶だけれど……確かに顔色は良くなったかな。
「兄上がやるなら僕も兄上を手伝う」
エリオットも私の隣に立つ。
キッチンは広いから二人とももう少し離れようか。
「エリオットも手伝うなら手を洗ってね」
ムッとしない。
「僕の手はキレイだ」
そうかもしれないけれどね、
「料理をするときは手を洗うでしょう?」
少し考えるエリオット……
「料理なんてしたことはないな」
……なんで手伝うって言った……
エイダンを見ると困ったように微笑んでいる。
「エリオット、手を洗おうね」
とエイダンが言うとはいっ、と……とてもいい返事。
それからいきなり包丁に手を伸ばすから
「……料理、したことないんだよね?」
フンッと私を見下し
「剣の腕には自信がある」
はい、ストップ。
「エリオット、ちょっと向こう側でエイダンを見ていてくれるかな」
一瞬、は? という顔をしてからエイダンが料理をしているところを見られることに気が付いて素直に従う。
良かった、ケガとかされたらうるさそうだし面倒だ……
とりあえずエイダンの体調も考えて朝は軽めにしてお腹が空いたら早めのお昼にすればいいかな、と考えながら手を動かす。
エイダンが完璧なアシスタントをしてくれたお陰で思っていたよりも早く出来上がりそう。
「兄上、さすがですっ」
目をキラキラさせてエイダンを見るエリオット。
「ハルの手際がいいのだよ」
眉を下げて笑うエイダン。
エイダンに褒められた私を睨むエリオット……
「次は僕も手伝うからな」
……次…………
エリオットは何をしに来たのだろう……
朝から来ているのに急ぎの用というわけではなさそうだし……私が聞いたら怒りそうだし。
とりあえず、皆で食卓を囲み朝食をとる。
「エイダン、無理はしないでね」
残しても大丈夫だから、と言うと
「ありがとう、でももう大丈夫だよ。ハルと作っている間にお腹が空いてきた」
そう言って微笑むエイダンは本当にもう大丈夫そう。
「……なんか夫婦みたいだな……」
エリオットが呟く……
え……?
「え?」
ハッとするエリオット。
「違うっ、兄上にふさわしいのはもっと品があって美しくて女神のような女性だ」
ほぉ……
「そう……か、私とハルは夫婦に見えるか」
エイダン……さっきのエリオットの言葉、聞いてなかったのかなぁ……
「ちっ……違っ」
嬉しそうに優しく笑うエイダンを見て口元を手で覆い頬を染めるエリオット……
なんだこれ……
「……食べようか」
一人心の中で頂きますをして食べ始める。
しばらくするとエイダンが
「ところでエリオット、何か用があったのではないか?」
やっと聞いてくれた。
「兄上、冬の間僕も兄上の家で過ごします」
……ん?
「それは……父上と母上が許さないのではないか」
そうなの?
「もう許可は取っています。兄上の家から仕事へもいくので」
ここからだと通勤大変そうだけど……
「しかし……」
チラリと私を…………見ないでください……睨まれるから……
「い……いいんじゃないかな! 私はここに来る日数を減らしてもいいし」
エリオットがそうしろ、というように微笑み
「それは駄目だよ」
とエイダンが言う。
「エリオット、本当に父上と母上の許しを得ているのか」
そう聞くエイダンの表情は硬い。
「も、もちろんですよ、兄上」
なんだろう……
「本当に?」
口をはさめないこの感じ……家族の……
「本当です……兄上宛の手紙も預かってきています……」
そうか……と手紙を受け取り宛名と送り主を確認しただけでテーブルに置くエイダン……後でゆっくり読むのかな……
「わかった……」
少し困ったように微笑み
「ハル、すまないが……いいかな」
私に聞かなくてもいいのに……
エリオットもそんな顔で見ている。
コクリと頷くとエイダンがありがとう、と小さな声で言う。
「エリオット、仕事にはちゃんと行くのだよ」
エリオットが嬉しそうにエイダンをみて
「はいっ、兄上」
と元気良く返事をする。
話がまとまり食事も終え、後片付けを手伝おうとするエイダンにはお昼になったら声をかけるからと言い仕事部屋へ行ってもらう。
私のやることがなくなっちゃうから……本当に。
エリオットは今日は仕事なのか休みなのかは知らないけれど聞いたら面倒そうだから放っておこう。
キッチンでお皿を洗っているとエリオットが隣に立つ。
なんだろう……じっと見られている。
「手伝う」
え……、とエリオットを見上げて
「できるの?」
思わず口にしてしまった……
「バカにしているのか?」
しまったぁ……
「一年程、騎士団で集団生活をしていたから……これくらいはできる」
おや? もっとうるさく言われるかと思ったら……
「兄上の命を救ってくれてありがとう……」
と小さな声で……どうしちゃったの!?
「う……うん、偶然だけれどね。ちゃんと家に帰ることができて良かったよ」
あぁ、とエリオットが微笑み
「兄上がいなければ僕は……」
僕は? と首をかしげる私から目をそらし
「だからと言ってお前を信用しているわけではないぞっ」
と睨んでくる……情緒が不安定……なんなの……
「お前が兄上に手を出さないように見張っているからな!」
「出さないしっ」
思わず言い返してしまう。
「ハッ、どうだか」
って……なんかムカつくんですけど……
もしかしてそのためにきたの?
兄好きもここまで来ると本物だな……
それに、いろいろ言いながらも皿洗いは手伝ってくれているこの感じ……ロゼッタを思い出さなくもない……
「そういうわけだから、これからよろしくな」
と言われ……よろしくお願いします、と返すと
「見ているからな」
と睨まれた。
こうしてうまくやっていけるか不安を感じる中……
三人での生活が始まった……
36
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる