七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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58 拒絶

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 考えてみたらルウ達と暮らしはじめてから数日とはいえ離れるのは初めてかも。


だから寂しく感じているのか、と納得しながらお風呂を出たけれどなんとなく寂しい気持ちは残ってしまった。

実家を出て一人暮らしを始めたときと同じ感じ……

あの時は一晩泣いて次の日にはスッキリしていたけれど……明日になればこの気持ちも落ち着くかな。

エイダンは私のわずかな変化に気が付いたようだったけれど今日は早めに休ませてもらうね、と言って彼が用意してくれた私の部屋のベッドに入った。

久しぶりに一人で寝るベッドは冷たくて広く感じた。
ルウ達もちゃんとご飯を食べてお風呂に入ったかな。
おやつばかり食べていないかな。

みんなのことを考えていると身体の力が抜けて眠気がおそってくる…………


温かい……人の温もり? なんだかすごく落ち着く……

確かめたくて目を開けようとするけれど目蓋が重くて開かない。

いつの間にか眠ってしまっていたのか……

……そうかこれは夢……それならこの心地よさに……身を任せよう…………


-- ルウ --

 ハルをエイダンの家の近くまで送り届け姿を消してからハルについていく。

ハルの部屋を見たときはこの男を殺してやりたいと思ったが……

とりあえずエイダンとハルの部屋を繋ぐドアは開かないようにしておこう。
それからハルの部屋の壁の一部に魔力を流し森の家に繋げておく。


その日の夜、ハルの部屋と繋いでおいた壁を通って眠っているハルを抱き上げ僕達の家に帰りベッドに一緒に入る。

ハルを抱き締めながら考える……

王妃となったあの女……
魔王城を見てこちらの方が贅沢に暮らせると考えたらしい。

まだその姿をみたこともない魔王と婚姻を結ぶとまで言うとは。

昔から美しいものや贅沢が好きなあの女らしいが……
こうもあっさりと国も家族も捨てることができるのか。

魔族の僕が言えることではないのかもしれないが本当に薄情な女だ……

ハルの温もりを感じる。

ハルはなぜこんなにも違うのだろう……
こことは違う世界から来たからか?

それならば尚更見たこともない魔獣や魔族や魔法を怖がるのではないか?

それらを知っているこの世界の人間達でさえ怖がり押さえつけようとする。

それなのにハル……

ハルは僕がその性質を伝えて魔族だと言ってもそうなんだ、とあっさりと受け入れ一緒にいようと言ってくれた。

魔法を凄いと喜び使いすぎではないかと心配をする。
ハルと一緒に街へ出て知ったこともある。

人間は城にいるような奴らばかりではなかった。

郊外に住む魔力の少ない魔族と友好的な関係を築いている者もいた。

気に掛けて食料などを持っていき街の様子やただのお喋りをして帰る、そんなときは魔族も人間も笑っていて和やかな雰囲気だ。

マカラシャがなければ魔族と人間はそういう関係を築けていたのかもしれない。

魔力を搾り取られ使われるだけの人生から解放してくれたハル……

マカラシャを外す事ができるのはハルだけだ。
僕達が嵌められていたものは全て壊してはいるけれど複製品はある。

よりにもよってそれを作っているヤツの元にハルを送り出すことになるとは……

全ての事が煩わしく思えてくる。
ハルを連れてどこか遠くへ行ってしまいたいけれど……

ここにはハルの大切なものが増えてしまった。

こことは違う世界の大切な人達と離れてしまったハルから……また奪うことなど出来ない。

僕と会うまではたった一人でこの深い森の中で生活していたのだ。
僕の力も戻り、ようやくハルが安心して暮らせる場所を作ることができる。

それにハルと過ごしたこの小さな家は僕にとっても大切な場所だ。

僕の腕の中で安心しきって眠っているハルの唇に触れる……

僕のハル……これからもずっと一緒だよ……


-- エイダン --

 突然舞い込んできた幸運に柄にもなく踊り出したい気分になる。

ハルが私の家にくると、そう殿下から聞いた。

どういう流れでそうなったのかはわからないが、殿下がハルを心配して冬の間城に来ないかと提案したがハルにそう言われたと……

殿下は……森に住むハルと関係がある魔族がいるか探りを入れたかったのだろう。

ハルは城よりも私のところの方がましだと思ったか……本当に金がなくて私のところで働こうと考えていてくれたのか……

どちらでも構わない。
私のところにハルが来てくれるのなら。

ようやく来てくれたハルに制服だといいながらワンピースを渡すと少し疑問に思ったようだが喜んでくれた。

メイド用の制服姿も見てみたいが普段着のようなワンピースを着てもらった方が……

恋人……というかまるで夫婦のようで……

ハルがいるだけでこんなにもいつもの生活が楽しくなるとは……浮かれてしまっている自分にも戸惑う……

ハルはこれまで会った女性達とは違い少し変わったところがある。

若いうちは様々な場所へ移動するという狩人の生活は大変なものだと聞く。

動物の痕跡のたどり方や罠のはり方などいまだに昔ながらのやり方が多い仕事だ。

狩り用の魔道具を作ると乱獲されるという理由でそういう類いの魔道具は出回ることはない。

趣味や遊びで動物が絶滅してしまってはたまらない。

そういうわけで、裏ではそれとはわからないように作り高値で売りさばく者もいるようだか……

密告すれば城からそれなりの金をもらえるから捕まる者も多い。

そんなわけで狩人は男性が多い……というか女性の狩人には初めて会った。

ハルのことをもっと知りたい……聞きたい事がたくさんある。
これからずっと一緒にいるのだからゆっくり聞いていこう。

ハルの手作りの菓子を食べながら一緒に茶を飲む。
ハルとの穏やかな時間……魔道具のカップを見て感心する彼女を隣で見つめる。

ハルの頬に触れたとき……ネックレスをしていることに気が付いた。

以前会ったときはつけていなかった……いや、服に隠れて気が付かなかっただけか?

誰かからの贈り物だろうか……しかしパーティーではパートナーがいる様子はなかった。

自分で買ったものか母親から受け継いだものかもしれない。

マカラシャの複製と同じ方法でハルに首輪……いや、ネックレスを贈ろうと思っていたがブレスレットにするか……それとも……

カップを持つハルの細い指を思い出す……指輪か……

狩りには邪魔になると言われそうだが、これから先私と暮らすことになるのだからもう狩りをする必要はないだろう。

そう決めてハルの喜ぶ顔を想像するだけで頬が緩む。

しかし……そんな私とは対照的にふとした瞬間に暗い表情を見せるハル。

何か心配事でもあるのだろうか……ハルが風呂から出てくるまで待ちそれとなく聞こうとしたがハルはすぐに部屋へ行ってしまった。

少し時間を置いて私も寝室へ向かう。

ハルはもう寝ているだろうか。
私の部屋からハルの部屋へ続くドアをそっと…………

開かない……?

力を込めても全く動かない。どういうことだ?
今度は廊下からハルの部屋へ……

やはり入れない…………一体どうなっている……

鍵などはない。中から何かで押さえているようでもない。

ドアがピタリとくっついてしまっているような……ドアノブすらも回せない。

チラリと魔族の存在が頭をかすめたが、それよりも……

まるでハルに拒絶されているようでとても悲しい気持ちになった。

何か……ハルが嫌がることをしてしまったのか……

明日の朝にはおはよう、と言って笑ってくれるだろうか……

両親に拒絶されたときでさえこんな気持ちにはならなかった……

コン……コン……コン…………コン……コン……コン…………

ドンッ

寝ているだけなのか……私を拒絶しているのか……


何度ドアを叩いても……結局ハルは出てきてはくれなかった…………

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