七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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 エイダンが帰ってから二週間程過ぎた頃、今年初めての雪が降った。


チラチラと降っただけで積もったりはしなかったけれど、そろそろ街へ行かないと、と思った。

「魔力があれば服なんて年中同じで大丈夫だよ」

とルウは言うけれど、見ている方が寒いし……あと、ただ単に私がみんなにいろいろな服を着させたい。

それに、今なら街でエイダンに会ったとしても変に思われることはない。

「ハル、この魔道具は壊れているみたいだ」

魔力を補充したけれど使えそうにない、とルウにエイダンからもらった連絡用の魔道具を返された。

それならと、グレンに直せるか聞いてみたけれど、難しいと言われてしまった。

けれども、もう少し調べてみるから預かってもいいかな、と言ってくれたのでそのままグレンに預けておくことにした。

だからエイダンが帰った日から連絡は取れていない。

街へ行く準備を整えてルウにお願いする。
街に着くとルウは用事を済ませてくる、と言い

「何かあったらすぐに戻るから」

と私の首元に触れる。
ルウがくれたネックレス……あの日から毎日着けている。

それから、みんな今日はバラバラに過ごすからハルも街でゆっくりしておいで、と言ってくれた。

街を一人で歩きながらやっぱり最初は肉屋のファルのお店かな、と行き先を決める。

「いらっしゃいっ、おぅ、ハル!」

「こんにちは、ファル」

ニカッと笑うファルに笑顔を返す。

「ファル、最近どう?」

前回街に来たときは騎士団が街を巡回していたけれど、今日は見かけなかった。

「それがなぁ……」

いつも明るいファルの表情が曇る。

「急に魔道具の価格が高騰しちまって……教会も魔石の魔力補充を渋るし一体何がどうなっているのか」

街を歩いているときに何となく感じた暗い雰囲気はそのせいか。

「もう冬が来るってぇのに……今残っている魔石の魔力で冬が越せるのか不安になっている奴もいるぜ」

これは……大変なことになっているのでは……
まぁ、でも一時的なことかもしれないし……

「だからな、その……すまん! これまでのような金額では買い取れないんだよ」

なるほど、私の懐にも直撃するわけか。
ファルも心苦しいのだろうがこういうときは仕方がないよね。

「私は大丈夫だよ、こういうことってたまにあるの?」

数年に一回とか……

「いや、初めてだぜ。なんだかよくわからなくて街のやつらも不安なんだよ」

物価高騰……需要と供給のバランスが崩れた……?
……この辺の事情はよくわからないけれど理由もわからず物価が上がるのは不安だよね……

ファルにお肉を買い取ってもらってお店を後にする。

買取金額がいつもより低くて申し訳なさそうにしていたけれど……
ファルは元々少し高めに私が持っていったお肉を買い取ってくれていたからこういうときは協力したい。

皆が大変なときだからなるべく売値を上げたくはないだろうし。

それに調理するにしても魔道具を使うから……そうなると節約のためにお肉も売れなくなってきたり……

どんどん状況が悪くなってくる……

次は日持ちがするように燻製にしたものも持っていってみようかな。

そんなことを考えながらティファナの薬屋へ向かう。

「ハル、いらっしゃい」

「こんにちは、ティファナ」

薬草をテーブルに並べながら

「ファルから街の様子を聞いた?」

ファルから聞いたことを話す。

「そうなのよ、私みたいなお店はまだましだけれどファルやララみたいに食品を扱っているお店は大変よ」

大型の魔道具を使っているからね、と。

「今のところそういうお店の魔石の魔力補充は優先されているけれど……どうなるかしらね」

教会やお城からは何の説明もないらしい。
一時的なことだとしても皆を不安にさせたままにしておくのはよくないと思うけれど……

ティファナにも前ほどの金額で買取ができなくてごめんなさい、と謝られたけれどティファナは悪くない。

お金を受け取りお礼を言ってお店を後にする。

次はミリアの雑貨屋へ向かう。
確かに街の屋台も少なくなっている気がする。

「いらっしゃぁい」

「こんにちは、ミリア」

お店の中をグルリと見回して、やっぱりこのお店好きだなと思う。

「この間のリボンは気に入ってもらえたぁ?」

いつの間にか近づいてきていたミリアに少し驚く。

「うん、とっても……綺麗なリボンだからお気に入りだよ」

何となくぼんやりとした答え方をしてしまう。
ミリアにも最近どうかと聞いてみた。

「なんかいろいろと高くなっているぅ。もしかしたらお城の魔道具が壊れちゃったのかもねぇ」

そうか……魔力はお城に集められてそこから教会や街へいくと言っていた。

ルウ達が役目を終えて、代わりに魔力提供をしてくれる魔族もいると言っていたからそうなのかもしれない。

ミリアのお店にあった女性用の手袋を二組と男性用の手袋を五組選んでお会計をお願いした。

ミリアは何も聞かずに袋を別々にしてリボンを付けてくれた。

「お友達、喜んでくれると思うよぉ」

うん、ありがとう、とお礼を言って次はララのパン屋を目指す。

「いらっしゃい、ハル」

「こんにちは、ララ」

少し元気がなさそう……

「ハル、最近の街のこと、皆のお店で聞いたでしょう?」

うん、と頷く。

「パンを焼くための大型の魔道具が使えなくなったらお店を休むしかないわ」

もし……この状況が長く続けばお店を畳むことになるかも……と。

それは困る……ララのパン屋がなくなると困る人はたくさんいると思う。

お店の商品も魔石の消費を押さえるためか種類が少なくなっている。
今日は他のお客さんのことも考えて買い過ぎないようにしないと……

「ごめんね、ハルにこんな話……今ならこのパンが焼きたてよ」

と、いつもの笑顔……とまではいかないけれど微笑んでくれた。
パンをいくつか選んで袋に入れてもらってお会計を済ませてお店を後にした。

状況がわからないから皆に慰めの言葉もかけられなかった……本当に何て言ったらいいのかわからなかった。

街を歩きながら、プレーンのパウンドケーキなら一週間くらい常温で日持ちがするのではなかったかな、と考える。
それなら焼く回数が減らせるかも……

でもパウンドケーキだけというわけにはいかないだろうし……

騎士団が街に来ていたとき……こうなることがわかっていたのだろうか。

全員が知らなかったとしても騎士団長や上の立場の数人なら知っていたのかもしれない。

いや、想像だけで考えてはいけないよね……
モヤモヤしながら服屋へ向かう。

みんなの冬服とオーバーコートを選んでお会計を済ませた。

お金は少しだけ手元に残った。
使おうと思えば使える……けれどもとりあえず残しておこうかな。

そう決めて歩き出す。
ルウが来るまでブラブラしていよう。

「ハル?」

呼ばれた気がして振り返ると

「エイダン」

エイダンが走り寄ってきて目の前に……そして抱き締められた。
まるで何年も会っていなかったような反応……

「ハル、よかった……!」

エイダン……?

「どうしたの? 何かあった?」

エイダンが腕を緩めて両手で私の頬を包む……温かいし近い。

「連絡が途中で途切れてしまっただろう? 何かあったのかと思って何度かハルの家へ行こうとしたのだよ」

あ…………

「でもなぜか毎回たどり着けなくて……」

家の方向は覚えているし魔道具も使っているのにいつの間にかぐるりと回って戻って来てしまうのだとか。

「そんなに心配してくれていたなんて知らなくて……ごめんなさい」

「いや、いいんだよ。ハルが無事ならそれで……」

いい人だなぁ……

「そうだ、エイダンが貸してくれた魔道具だけど、壊れてしまったみたい……」

そうだったのか、といい

「今持っている? みてみようか」

と聞かれた。

「ごめんなさい、家に置いてきてしまったの」

グレンが直してくれるかもしれない。

「いいのだよ、私もまさか今日会えるとは思っていなかったからね。本当に何事もなくてよかった」

ホッとしたような顔で笑うエイダン…………あれ?

「エイダン、最近眠れている?」

目の下の隈が薄くなっているような……

「うん、ハルからもらった茶を飲むようになってから以前よりは眠れている」

ハルの家で眠れたときほど深くはないけれど、と。
少しでも改善されたならよかった。

「ハル、街での用事は済んでいる?」

売る物は売ったし買うものも買った、うん。

「それなら、これから家へ来ないか?」

エイダンの家?

「途中で切れてしまったけれど、家を建てると伝えたかったのだよ」

完成したんだ、帰りは送るから、と。


ど……どうしよう…………

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