七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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 ーー ルウ ーー


 ハルと街で別れて城へ向かう。

一緒にいたかった…………

さっさと終わらせてハルの側へ行きたいが情報を集めてみんなと共有しておいた方がいい。
僕達がいなくなってからの人間の動きも気になる。

姿を消して城の中へ入る。

八年……この城にいたがあの部屋の外に出たことはなかった。
廊下を歩いても飾ってある絵を見ても懐かしさもなければ気分が悪くなることもない。

だが、前を歩いている使用人を見たとき……吐き気が込み上げてきた。

あいつら…………殺してやる。

僕らを痛めつけ、辱しめ、踏みにじった奴らのうちの二人。
背後に忍び寄ると話していた内容が聞こえてくる。

「しかし一体どうやっていなくなったんだか」

「あぁ、あのガキどもな」

「まったく、ストレス発散の道具がなくなってイライラするな」

「発散させていたのはストレスだけじゃないだろう」

「あぁ、ロゼッタが恋しいよ。あの小さな身体で必死に抵抗して結局……クフフッ」

「変態が」

「よく言うよ。お前のお気に入りはレトって男のガキだったじゃないか」

「フフッ、あの子の泣き顔は最高だったよ。あの顔を思い出すだけで……」

綺麗な服を着て上品な言葉使う奴らの裏の顔はこんなものだ。

「王子はミアというガキに夢中だったな」

「王妃様を迎え入れたら止めるかと思ったが」

「まぁ、表向きは仲が良さそうにしているし、王妃様も顔のいい貴族や使用人と遊ぶのに忙しいのだからいいのではないか?」

「王妃様のご実家でも城に来る前の魔族を一人預かっていたよなぁ。まさか……」

「いや、それはないな。皇太子妃になる前に身体検査があるし、それに子供には興味がないらしい」


ただ、憂さ晴らしはしていたが…………


「ルシエル、約束通り遊びにきたの。見て、私お姫様になったわ」

最初は王子から送られたドレスや宝石を見せびらかすように着飾って僕達の部屋へやって来た。

「貴方達は役に立っているわ。これからもよろしくね」

皇太子妃らしく、まるで自分は聖女だというように優しく振る舞っていたが、化けの皮はすぐに剥がれた。

「王子がそこのミアという子に夢中らしいわ。こんな子供に……気持ち悪いっ」

ミアの髪を掴み王妃が顔を近づける。

「お前も色目を使うなっ、何をしてもマカラシャは外せないしここからは逃げられないのだから」

ミアは首をふり涙を流していた。
彼女が色目を使ったことなどはない。

夜、ミアの部屋から小さな叫び声が聞こえて……まるでそれが合図かのように他の部屋からも抵抗する声や泣き声が聞こえてくる。

そんなことが繰り返されていた。

皇太子妃が僕を痛めつけるのは日中だ。
さんざん鞭で打った後に

「どうにかお前を成長させる方法はないものかしら」

と言うようになった。
成長させてどうするつもりなのか……考えただけで吐き気がする。

それからは成長できる薬だとか言いながら変なものを飲まされたり食べさせられたりした。

皇太子妃が持ってきたものを口にした後は必ず体調を崩していたからもしかしたら毒も入っていたのかもしれない。


「それで、君はどうするんだ?」

男の声で意識が戻る。

「どうするって何をだ?」

「魔道具だよ、魔力の補給ができなくなるから売値が高騰するだろう。平民が使っているようなものでも城勤めの我々では手が出せなくなるぞ」

「そ、そうかっ魔道具無しの生活など考えられないぞ! 街の奴らに知られる前に買いに行かなければっ」

ハルは魔道具無しでも生活ができる。
僕の負担になるのなら魔道具は使わないと言ってくれる。
魔力を使うと抱き締めて頭を撫でてくれる。

ハルのことを思い出すとさっきまで殺そうと思っていた目の前の男達のことなど急にどうでもよくなった。

それに……コイツらを殺して、今余計な騒ぎを増やすと情報収集ができなくなってしまう。

あぁ、早くハルの元へ向かいたい。
ハルのことを考えながら先へ進む

今度は茶と菓子を運んでいるメイドがいたので付いていく。

メイドに続き部屋に入ると王子とローガンと呼ばれる男がいた。

メイドがテーブルに茶と菓子を置くと王子がありがとう、と微笑む。
頬を染めたメイドが部屋から出て行くと王子がため息をつく。

「ミアは無理矢理連れていかれたのだ。彼女は私を愛しているのに」

可哀想に……と。

「彼女だけでも生きたまま連れ戻したいですね。他はマカラシャさえ回収できればいいでしょう」

ローガンという男がそう言う。
コイツらは何を言っているのか。

ミアが王子を? 魔族の執着心がどんなものか知らないのか?

執着する者がこの城にいるとしたらそもそもミアは出ていきたがらなかっただろう。

夜、悲鳴をあげることもなかっただろう。
人間には僕達の抵抗が、悲鳴が聞こえないのだろうか。

ハルは……人間だけれど心配しすぎるほど僕らのことを心配するのに。

しかし……勉強になった。
まだ大人の姿の僕に慣れていない様子のハル。
ハルが怖がらないように気を付けなければ。

ハルの事を考えると自然と頬が緩む。

「捜索と同時に例の研究がどれ程すすんでいるか確認をして報告をするように」

「あの研究には魔族も関わっていますよね。彼らに魔力補充の協力を仰げないのですか」

話の内容に意識が戻る。

「魔族を信用してはいけないよ。彼らがマカラシャの複製作りに関わるのは面白そうだから、ただそれだけだ」

それはそうだろう、魔族に不利なものを作る理由なんてそれしかない。
自分には関係のない他の魔族が堕ちていく姿が堪らなく面白いと思う奴もいる。

それにしても……やはりマカラシャの複製をしていたのか。

「研究所の場所はわかるな? 近衛兵数名と行ってきてくれ。騎士団が街で捜索をしているだろうが、何か聞かれたら郊外に住んでいる魔族に話を聞きに行くとでも言って森へ向かうといい」

研究所は森の中……
ハルが森で会った魔獣は実験に使われたのか。

僕達が住んでいるのは森のかなり奥の方だから人間が来ることはないが魔族が絡んでいるとなると気を付けなければならないかもしれない。

達の悪いヤツは人間にも魔族にもいる。
ハルは知らなくていいことだ。

王子とローガンの話が終わり部屋を出る。
その後、しばらく城の中を歩き回ったが役に立ちそうな情報は得られなかった。

ローガンと近衛兵達の出発の準備ができたようなので浮遊魔法を使いついていく。

ハルがいる街を抜け森へ向かう。
僕が森へ逃げ込んだときに捕まらなかったのは運が良かったのかもしれない。

森に入りしばらくすると二階建ての大きな建物が見えてきた。あれが研究所か……

家の隣に小屋があり数種類の魔獣を飼っている……というか閉じ込めているようだ。

ローガンと近衛兵に続き研究所の中へ入る。

「やぁ、大変なことになりましたな」

初老の男が近づいてくる。

「メイソン、どの程度まで進んでいる」

無駄話をしている時間はない、とローガンが早速本題に入る。

「複製品は全部で……えぇと、何本だったかな。何せ魔獣もなかなか集まらないもので……」

この森にはそこそこいるはずだが人間に捕らえることは……余程罠を上手く仕掛けられない限り難しいだろう。
もしくは……

「魔族は来ていないのか」

そう、魔族なら魔力を使い簡単に捕まえることができる。

「奴らは気まぐれだからなぁ、魔族が捕まえて持ってきた魔獣を一体逃がしてしまったよ」

ハルが会った魔獣のことか。

「一番魔力量の多い個体でマカラシャの複製品を片足に着けたままいなくなってしまったからどこかでゆっくり死んでいくだろうが……」

ハルが外したからその心配はなさそうだ。

「おいっ! 複製したものとはいえマカラシャが誰かの手に渡ったらどうするのだ!」

「大丈夫ですよ、魔獣は森の奥へ行くことはあっても街の方へは行かないでしょう」

複製品はすでに僕が消滅させているしな。

全く呑気なヤツだ、とイライラしながらローガンがブツブツと文句を言っている。

「メイソン様、怒らせるような言い方は止めてくださいよ。ローガン様も大変なのですから」

研究所の奥の部屋からもう一人若い男が出てきた。

「おぉ、エイダン。来たか」

この男……

「ローガン様、研究はちゃんと進んでいますよ」

隈の酷い顔でほほ笑む男。

「そうですぞ、エイダンは天才ですからな」

メイソン様、やめてください……、と恥ずかしそうにしているが

「私は感謝しているのですよ。このような素晴らしい研究を自由にさせてもらえることに」


やはりこの男……エイダンがマカラシャ複製の中心にいるのか。

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