七人の魔族と森の小さな家

サイカ

文字の大きさ
上 下
19 / 87

19 二人だけの生活

しおりを挟む


 ーー ルウ ーー


 ハルにみんなのマカラシャを外してもらった。

みんなの気持ちが……ハルに向き始めたのがわかる。
ごく僅かな変化……

人間に対する警戒心からか、それとも自分達でも気づいているのかいないのかはわからないが……

ハルに対する態度は変わっていないように見える。
だからこの僅かな変化にハルが気が付くはずもなく……


森の家にみんなを連れ帰り事情を説明したが……
正直なところ信じてもらえるとは思っていなかった。

ハルがマカラシャを外せることを…………
僕だって信じられなかった。

信じてはいなかったが、レトは興味本位からハルの状態をみてくれた。

アレスもアドバイスをくれた。

みんなには、信じられないのならハルを治して試せばいい、と言ったが……外せなかったらハルを殺すと言われてしまった。

まぁ……そんなことはさせないし、ハルはマカラシャを外せるからそんなことにはならない。

これまでのことを考えると僕だって人間には嫌悪感しかないからみんなの気持ちはよくわかる。

けれどもハルを殺そうとしたら……容赦はしない。

それに信じられないとは思ってはいても僕のマカラシャが外れているのを見ているから半信半疑なのだろう。

それでいい…………みんなにはハルを治してもらうために協力をしてもらえれば。

それから余計なことを言わないように口止めをした。

ハルはこの世界のことを何も知らない。
僕が教えたこと以外は。

僕達がどんな風に生きてきたかをハルが知る必要はない。

ハル以外の人間との関わり方を僕は変えるつもりはないけれど、ハルに先入観を与えるようなこともしないしハルと人間との関わりを邪魔するつもりもない。

僕が許す限りは。

ハルは僕が嫌だと言うまでずっと一緒にいてくれると言った。


可哀想に……魔族がどういうものか知らないハル。
けれどもそのままでいい。可哀想で可愛い僕のハル。


ハルがマカラシャを外したとわかった時の僕のようにきっと……みんなもハルに興味を持つだろう。

ハルも子供の姿をしたみんなを追い出すようなことはしないだろうから一緒に住むと言い出すことは予想ができた。

本当はすぐに出ていって欲しいけれど、ハルはきっとそう言うだろう。

ハルが再び目覚める前……マカラシャを外す前にみんなにはこの家の隣に家を建てるからそちらに住むようにと言っておいた。

「ここは僕とハルの家だ」

「マカラシャを外してくれればすぐにでも出ていくよ」

この時は人間と住むなんて考えてもいないというような感じだった。

ミアが一番弱っていたからマカラシャを一番最初に外してもらおうとハルのいる部屋へ連れて行こうとするとロゼッタに止められた。

「私も行く」

と。ロゼッタは……敵意が剥き出しだ。
この家にきた頃の自分を見ているようだ。

何かあったら躊躇わずにハルを殺そうとするだろう。

彼女達は……子供の身体なのに特に酷いことをされていたから当然と言えばそうなのだが、その殺意はそいつらに向けて欲しい。

ミアとロゼッタをハルの部屋へ連れていくとハルが挨拶をする。

怖がらせないように優しく、目線も彼女達よりも低くなるように床に膝をついて……優しい僕のハル。

ロゼッタのハルに対する態度が悪いから睨むと改めてくれたようだったが気に入らない。

ハルは気にせずに……いや、気づいてもいなかったのだろう。
ミアに優しく話しかけ、そっとマカラシャを外した。

驚きと嬉しさで泣き出すミアと良かったね、と優しく撫でるロゼッタ、そしてアクセサリーを外しただけなのになんで!? と困惑しているハル。

その後、ロゼッタと他のみんなもハルにマカラシャを外してもらった。

アレスがハルに余計なことを言いそうだったからお茶をいれると言うとハルがおやつを作ると言い出した。

ハルの一言に、これまで魔力を吸われ続けて常に空腹状態のみんなの目が期待に輝く。

熱が下がったばかりだから寝ていて欲しいのに……
ハルは自分も食べたいからと半ば強引にキッチンへ向かった。

キッチンに並んで立つといつも見上げていたハルが小柄で可愛いことに気が付いた。

そして、そんなハルが森で見つけた僕を家まで運び世話をしてくれたことを思うと…………

そんなことを思い出しているとハルも僕を見上げて微笑む。可愛い……思わず抱き締めてしまいそうになる。

隣で僕がそんなことを考えているとは知らず、ハルは手際よく材料を混ぜ型に流し込む。

あとは焼くだけなんだけれど……と考え込んでしまった。

ハルは僕が魔力を使っても負担になることは滅多にないとわかってくれたようだったが、これまでと変わらずあまり僕を頼ってはくれない。

僕が魔力を使い焼くとハルはとても喜んでくれた。

いつものように僕の頭を撫でようとして手が届かなかったことを少し恥ずかしそうにしている様子も可愛い。

僕が膝を床につき撫でやすいようにすると少し戸惑いながらも手を伸ばす。

頭を撫でてくれたあとはいつも抱き締めてくれるのに離れようとするから僕から抱き締めると慌てるハル。

けれども結局そっと僕を抱き締めてくれた。

華奢で柔らかい身体……温かい……大切にしたいような滅茶苦茶にしたいような……様々な欲が渦巻き少し自分が怖くなった。

そんな僕に優しく微笑むハル。

それから思っていた通りのことを口にした。

「ルウ……この子達、帰るところはあるのかな……」

駄目だ、ここはハルと僕の……

「ハル、魔族は早くから自立するものだし群れることもない。それに彼らは僕と同じくらいの大人だ」

それなら魔力が回復した僕も出ていくのか、と言われてしまった……

出ていかない、ずっとハルと一緒にいる。
けれどもハルは子供の姿のみんなが心配らしい。

みんなはマカラシャが外れればすぐにでも出ていくと言っていたけれどハルが本当にマカラシャを外すと様子は変わっていた。

設計も建てるのも自分達でするから隣に家を建てる、と。
ハルと僕の部屋も作ると言っていたけれど、それは断った。

魔族の家は人間の家に比べると魔道具がほとんどない。

必要がないから当然なのだが、みんなが作る家には魔道具をたくさん用意するのだとか。

魔道具は魔力が回復するまでの間に使う自分達のための物だと言われてしまい、それ以上は何も言えなかったけれども……

おそらく、ハルが遊びに行ったり食事を一緒にすることもあるかも知れないから快適に過ごせるようにしておきたいのだろう。

本当は……みんなにはすぐにでもここから離れて欲しかった。早く二人だけの生活に戻りたかった。

でもハルがみんなの心配をするから……仕方がない。

明日はハルと街へ行く。

マカラシャは城から借りている物だとハルには言ってあるから返しに行くと言うとハルに街へ買い物に行きたいと言われた。

ハルがみんなのマカラシャを外して僕に預けてくれたからすぐに粉々にして処分した。

だから城には用はないのだが……

気になることもあるから少し様子を見てこようと思った。

僕達がいなくなった後の様子もそうだが……ハルが森で出会った馬……魔獣が着けていたと言うマカラシャによく似た金の輪……

ハルはまだ動物と魔獣の区別がつかないようだが……あれは魔獣から魔力を吸い取るものだろう。

誰かがまた作ろうとしているのか……
ハルから聞いた通りの話をしてみんなにもそれを見せた。

「……どこかで似たようなものが複製されているようだね」

まだマカラシャには及ばないけれど……

「放っておけばいずれ……マカラシャと同じものが作られるようになるかも」

アレスがそう言うとみんなは無言で……怒っていた。

「僕は城と街で何か情報がないか探ってくる」

みんなが頷く。

その日の夜……

ハルが暖炉の前で明日街で買い物をしてくるから必要なものはないかとみんなに聞いている。

みんなはさっさと布団に入り、ハルも仕方なく横になる。

夜中、ハルが深い眠りについた頃、僕はハルを抱き上げベッドへ運んだ。

僕もベッドに入りハルを抱き締める。


明日からはまたこの家で二人だけの生活が始まる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

処理中です...