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13 どうして
しおりを挟む-- ルウ --
ゆっくりと意識が浮上する……
目を開けると僕の頭に手が伸びてくるのが見えた。
髪を掴まれる、と思い思わず乱暴に払ってしまった。
反抗的な態度を取ると余計に酷い目にあうとわかっているのに……
目の前にいるのは人間の女と、他には……
どこだ? ここは……
部屋を見回す……この部屋には女以外誰もいないようだ。
この女、僕の目を見て魔族だとわかったはずだ。
金のために僕を城へつき出すかもしれない……
魔力の回復は……遅いけれどちゃんと出来ている。
女を殺すことくらいはできるだろう。
女を睨み付ける。
女は微笑みながら……何て言った? 聞いたことのない言葉だ……言っていることがわからない。
試したことはないけれども言葉がわかるようになる魔法を自分にかけてみた。
「ご飯……食べる?」
少し不安そうに聞いてくる女。
お腹は空いている……魔力も回復するし食べておくか……それにこちらの言葉も通じるか試してみたい。
「いただきます……」
もし変なものが入っていたら女を始末してしまえばいいだけだ。
食事を持って来ると言い女が嬉しそうに部屋を出ていく。
魔法は上手くいっているみたいだ。
森のかなり奥まで来たはずだけれどこんなところに人間が住んでいるとは……どこにでも湧いてくるのだな。
ひとまず自分の状態を確認しておこうと思い魔力を…………? 何か変だ……
違和感を感じながら両手を見つめていると女が戻ってきてどこか痛いのかと聞いてくる。
白々しい、人間が魔族の心配なんてするはずがない。
けれども僕のお腹が鳴ると女はお粥をスプーンですくい冷ましてから僕の口元へ運んだ。
…………何をしているのだ…………これではまるで……
戸惑いながらも思わず口を開けると…………
「……おいしい」
本当においしかった。
これまで食べたどんなものよりも優しくておいしい……
思わずまた口を開けるとどんどん口に運ばれてくる。
食事が終わると女が自己紹介だと言って名前を名乗った。
僕は記憶がないといい名乗らなかった。
おいしい食事が出てきたことで警戒心はますます強くなった。
何か企んでいるに違いない。
すると人間の女……ハルは僕をルウと呼んで何か思い出すまで一緒に住もうと言ってきた。
……本気か?
一緒にいよう……と。
いや……油断させる気だ、もしかしたらもう他の人間を呼んでいるのかもしれない。
「それから足首に着けていた金色の輪は外してここ仕舞ってあるから……」
……何て……言った?
布団をめくって足首を見ると……なかった……
マカラシャが外れている……こんなこと……一体……
「どうやって……」
ありえない。
「ご、ごめんね。少し痛そうだったから寝ている間は外しておこうと思って……」
違う、責めていない……責めているんじゃない。
もう一度聞くとどうやって外したか見せてくれた。
そんなにあっさり……何でもないことのように、十五年間僕につけられた枷を外したのか……
「足首に痣が残っているからしばらくは着けない方がいいと思うけれど、これは返しておくね」
布に包んだマカラシャを返された。
彼女……ハルは本当にこれが何か知らないのか……
一体なんだ……なんなのだ……
混乱して色々と聞いてしまった。
一年ほど前からここに一人で住んでいるれしいがその前の事を聞くと……まだ話したくないのか話を逸らされてしまった。
翌日、彼女のことを探ろうと家の中を見て回った。
本があるけれどハルは読めるのだろうか。
テーブルには地図が二枚あり同じ内容のものだったがハルの話す言葉がわかるようにかけた魔法を解くと一枚は読めなくなった。
ハルはどこから来た……?
本はやっぱり読めないようで読んで聞かせたのだけれどどこか物語を聞いているような感じだ。
魔族も魔獣も魔力も全て現実の事なのに、まるで……全てを受け入れたくはないような……
けれども覚悟を決めたのか、自分の事を話し始めた。
とても不思議な話だけれども妙に納得できてしまうような内容だった。
ハルは魔族も魔獣も魔力もない、異世界からこの世界に迷い込んだ人間……
僕の目を見て綺麗だと言い僕が嫌だと言うまで一緒にいてくれる、と。
魔力を使うと僕の負担になるのでは、と心配して負担になるなら魔力は使わないで欲しいと言う。
これまで搾取され続けていた僕には信じられないような言葉を真剣な顔で僕に言う。
ハルがいた世界にはこんな人間ばかりなのだろうか。
いや……まだ信用はできない。
人間は人間だ。
魔力は金になる。それもかなりの……それがわかれば利用しようと考えるかもしれない。
ハルを困らせてやろうと色々と試すようなことも言ってみたがハルは僕の言うことを全てきいた。
風呂に入るときはハルの方が先に服を脱ぎ、布で隠すこともせずに裸になって……僕の方が少し困ってしまった。
魔族……というよりも男の僕の前でこんなに無防備に……まぁ……今は子供の姿だが……
ここまで警戒心がないのはなんなのだ……
風呂は……温かかった……ハルの身体も。
人の素肌に初めて触れ……優しく触れられた……
柔らかくて心地いい温かさの中ハルと色々と話をした。
ハルはこの森に住み始めてから一年程になるけれど魔獣に出くわしたことがないと言う。
動物はたくさんいるけれど……と。たぶんその中に魔獣もいたのだと思う。
魔獣は数が少ないけれども住んでいる場所は限られている、この森は魔獣が住む森だ。
知らずに一年も狩りをしながら生活していたのか。
まぁ……魔獣は魔力があるだけで他の動物と変わらない生活をしているから、ハルにとっては見たことはなくてもこの世界の動物、くらいにしか思わないのだろう。
それからハルが街へ行って買い物をしたいと言うので連れていく事にした。
僕のものを買いたいと……人間は……特に女は着飾ることが大好きなようだったがハルは違った。
大きめの服を重ねて着ているのを見て僕のものよりも自分の服を買った方がいいんじゃないかと思った。
けれども、街でハルは本当に僕のものばかりを買っていた。
その服もすぐに着られなくなるのに……
森の家に帰るとハルが今日の礼を言い僕を抱き締める。
僕がハルに使った魔力を返せると思ってそうしたみたいだけれど……
魔力を返す……これまでは取られることしかなかったから凄く新鮮で……理解するまでに少し時間がかかった。
ハルは僕が魔力を使うと礼を言い僕の頭を撫でたり抱き締めたり……心配したりする。
魔力を使うことが僕の負担になると思っているようだけれど全くそんなことはない。
これまでギリギリまで搾り取られてきて鍛えられたのか元々多かった魔力は更に多くなっていた。
魔力の回復はまだ遅いけれどハルに使ったくらいなら負担は感じない。
けれども……礼を言われて頭を撫でられるのも、抱き締められるのも、心配されるのも……悪い気はしない。
ある日、ハルが怪我をして帰ってきた。
外の小屋と柵を直してくると言っていたのにどうして怪我をするんだ……
ハルは何でもないように振る舞っていだけれどもかなり痛いはずだ。
そんなハルを見てなんだかわからないけれど……よくわからないのだけれどモヤモヤと……いや……イライラしているのか僕は……
そんな風になるなら僕に言えばいいのに。
僕にやらせればいいのにハルは何でも自分でやろうとする。
人間は今までさんざん僕を使って乱暴に扱ってきたじゃないか。
そうだ……人間は信用しない。どこから来ようと人間は人間だ。
だから僕の勝手にさせてもらおう。
後の事は全て僕がやることにしてハルには大人しくしていてもらう。
それから痛々しい手や身体についた傷は見ているこちらの気分が悪いから治すことにした。
けれども……どういうことだ……治らない……
それどころかハルは夜になると熱まで出した。
魔力量が一定以上の者に限るが、魔族が行う治癒はこの世界で最高のものだ。
次に魔道具、最後に人間が薬草で作った薬だ。
僕の魔力は十分だ……それなのに……どうする、どうしたらいい……
魔族に比べて人間は脆い……魔族の治癒も効かないハルはこのままでは弱って死んでしまうかもしれない……
子供のように泣き出しそうな僕と目が合うと苦しいはずのハルが優しく微笑む……
なんでそんな顔をするんだ……なんでハルには僕の魔法が効かないんだ……どうして……わからない……
「ハル……どうして……」
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