七人の魔族と森の小さな家

サイカ

文字の大きさ
上 下
13 / 87

13 どうして

しおりを挟む


 -- ルウ --


 ゆっくりと意識が浮上する……


目を開けると僕の頭に手が伸びてくるのが見えた。
髪を掴まれる、と思い思わず乱暴に払ってしまった。

反抗的な態度を取ると余計に酷い目にあうとわかっているのに……

目の前にいるのは人間の女と、他には……
どこだ? ここは……

部屋を見回す……この部屋には女以外誰もいないようだ。

この女、僕の目を見て魔族だとわかったはずだ。
金のために僕を城へつき出すかもしれない……

魔力の回復は……遅いけれどちゃんと出来ている。
女を殺すことくらいはできるだろう。

女を睨み付ける。

女は微笑みながら……何て言った? 聞いたことのない言葉だ……言っていることがわからない。

試したことはないけれども言葉がわかるようになる魔法を自分にかけてみた。

「ご飯……食べる?」

少し不安そうに聞いてくる女。

お腹は空いている……魔力も回復するし食べておくか……それにこちらの言葉も通じるか試してみたい。

「いただきます……」

もし変なものが入っていたら女を始末してしまえばいいだけだ。

食事を持って来ると言い女が嬉しそうに部屋を出ていく。
魔法は上手くいっているみたいだ。

森のかなり奥まで来たはずだけれどこんなところに人間が住んでいるとは……どこにでも湧いてくるのだな。

ひとまず自分の状態を確認しておこうと思い魔力を…………? 何か変だ……

違和感を感じながら両手を見つめていると女が戻ってきてどこか痛いのかと聞いてくる。

白々しい、人間が魔族の心配なんてするはずがない。

けれども僕のお腹が鳴ると女はお粥をスプーンですくい冷ましてから僕の口元へ運んだ。

…………何をしているのだ…………これではまるで……
戸惑いながらも思わず口を開けると…………

「……おいしい」

本当においしかった。
これまで食べたどんなものよりも優しくておいしい……

思わずまた口を開けるとどんどん口に運ばれてくる。

食事が終わると女が自己紹介だと言って名前を名乗った。

僕は記憶がないといい名乗らなかった。
おいしい食事が出てきたことで警戒心はますます強くなった。

何か企んでいるに違いない。

すると人間の女……ハルは僕をルウと呼んで何か思い出すまで一緒に住もうと言ってきた。

……本気か?

一緒にいよう……と。

いや……油断させる気だ、もしかしたらもう他の人間を呼んでいるのかもしれない。

「それから足首に着けていた金色の輪は外してここ仕舞ってあるから……」

……何て……言った?
布団をめくって足首を見ると……なかった……

マカラシャが外れている……こんなこと……一体……

「どうやって……」

ありえない。

「ご、ごめんね。少し痛そうだったから寝ている間は外しておこうと思って……」

違う、責めていない……責めているんじゃない。
もう一度聞くとどうやって外したか見せてくれた。

そんなにあっさり……何でもないことのように、十五年間僕につけられた枷を外したのか……

「足首に痣が残っているからしばらくは着けない方がいいと思うけれど、これは返しておくね」

布に包んだマカラシャを返された。
彼女……ハルは本当にこれが何か知らないのか……

一体なんだ……なんなのだ……
混乱して色々と聞いてしまった。

一年ほど前からここに一人で住んでいるれしいがその前の事を聞くと……まだ話したくないのか話を逸らされてしまった。


翌日、彼女のことを探ろうと家の中を見て回った。

本があるけれどハルは読めるのだろうか。

テーブルには地図が二枚あり同じ内容のものだったがハルの話す言葉がわかるようにかけた魔法を解くと一枚は読めなくなった。

ハルはどこから来た……?

本はやっぱり読めないようで読んで聞かせたのだけれどどこか物語を聞いているような感じだ。

魔族も魔獣も魔力も全て現実の事なのに、まるで……全てを受け入れたくはないような……

けれども覚悟を決めたのか、自分の事を話し始めた。

とても不思議な話だけれども妙に納得できてしまうような内容だった。

ハルは魔族も魔獣も魔力もない、異世界からこの世界に迷い込んだ人間……

僕の目を見て綺麗だと言い僕が嫌だと言うまで一緒にいてくれる、と。

魔力を使うと僕の負担になるのでは、と心配して負担になるなら魔力は使わないで欲しいと言う。

これまで搾取され続けていた僕には信じられないような言葉を真剣な顔で僕に言う。

ハルがいた世界にはこんな人間ばかりなのだろうか。

いや……まだ信用はできない。
人間は人間だ。

魔力は金になる。それもかなりの……それがわかれば利用しようと考えるかもしれない。

ハルを困らせてやろうと色々と試すようなことも言ってみたがハルは僕の言うことを全てきいた。

風呂に入るときはハルの方が先に服を脱ぎ、布で隠すこともせずに裸になって……僕の方が少し困ってしまった。

魔族……というよりも男の僕の前でこんなに無防備に……まぁ……今は子供の姿だが……

ここまで警戒心がないのはなんなのだ……


風呂は……温かかった……ハルの身体も。
人の素肌に初めて触れ……優しく触れられた……

柔らかくて心地いい温かさの中ハルと色々と話をした。

ハルはこの森に住み始めてから一年程になるけれど魔獣に出くわしたことがないと言う。

動物はたくさんいるけれど……と。たぶんその中に魔獣もいたのだと思う。

魔獣は数が少ないけれども住んでいる場所は限られている、この森は魔獣が住む森だ。

知らずに一年も狩りをしながら生活していたのか。

まぁ……魔獣は魔力があるだけで他の動物と変わらない生活をしているから、ハルにとっては見たことはなくてもこの世界の動物、くらいにしか思わないのだろう。


それからハルが街へ行って買い物をしたいと言うので連れていく事にした。

僕のものを買いたいと……人間は……特に女は着飾ることが大好きなようだったがハルは違った。

大きめの服を重ねて着ているのを見て僕のものよりも自分の服を買った方がいいんじゃないかと思った。

けれども、街でハルは本当に僕のものばかりを買っていた。

その服もすぐに着られなくなるのに……

森の家に帰るとハルが今日の礼を言い僕を抱き締める。

僕がハルに使った魔力を返せると思ってそうしたみたいだけれど……

魔力を返す……これまでは取られることしかなかったから凄く新鮮で……理解するまでに少し時間がかかった。

ハルは僕が魔力を使うと礼を言い僕の頭を撫でたり抱き締めたり……心配したりする。

魔力を使うことが僕の負担になると思っているようだけれど全くそんなことはない。

これまでギリギリまで搾り取られてきて鍛えられたのか元々多かった魔力は更に多くなっていた。

魔力の回復はまだ遅いけれどハルに使ったくらいなら負担は感じない。

けれども……礼を言われて頭を撫でられるのも、抱き締められるのも、心配されるのも……悪い気はしない。


ある日、ハルが怪我をして帰ってきた。
外の小屋と柵を直してくると言っていたのにどうして怪我をするんだ……

ハルは何でもないように振る舞っていだけれどもかなり痛いはずだ。

そんなハルを見てなんだかわからないけれど……よくわからないのだけれどモヤモヤと……いや……イライラしているのか僕は……

そんな風になるなら僕に言えばいいのに。
僕にやらせればいいのにハルは何でも自分でやろうとする。

人間は今までさんざん僕を使って乱暴に扱ってきたじゃないか。

そうだ……人間は信用しない。どこから来ようと人間は人間だ。

だから僕の勝手にさせてもらおう。

後の事は全て僕がやることにしてハルには大人しくしていてもらう。

それから痛々しい手や身体についた傷は見ているこちらの気分が悪いから治すことにした。

けれども……どういうことだ……治らない……

それどころかハルは夜になると熱まで出した。

魔力量が一定以上の者に限るが、魔族が行う治癒はこの世界で最高のものだ。

次に魔道具、最後に人間が薬草で作った薬だ。

僕の魔力は十分だ……それなのに……どうする、どうしたらいい……

魔族に比べて人間は脆い……魔族の治癒も効かないハルはこのままでは弱って死んでしまうかもしれない……

子供のように泣き出しそうな僕と目が合うと苦しいはずのハルが優しく微笑む……

なんでそんな顔をするんだ……なんでハルには僕の魔法が効かないんだ……どうして……わからない……


「ハル……どうして……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...