七人の魔族と森の小さな家

サイカ

文字の大きさ
上 下
10 / 87

10 この世界で初めての

しおりを挟む


 下心は無かった……と言えば嘘になります、はい。


さっきの黒い馬……うちのコになってくれないかなと思っていました。

飼い主がいないなら連れて帰りたかった……

馬がいればもう少し遠出もできるし……
あの家に住んでいた人もたぶん動物を飼っていたと思う。

家の外にある小屋と柵……直しておこう、次に会った時のために。

ランプ用のオイルを集めて早歩きで家に向かう。
少し時間がかかってしまった……ルウはまだ眠っているかな。

家のドアを開けると琥珀色の瞳と目が合う。
起きていた。

「おはよう、ルウ。昨日の夜はごめんね。私、思っていたよりも街ではしゃいでいたみたい」

買い物楽しかったね、と言うと

「……自分の物は一つも買っていないのに」

……二人のものは買ったし……毛布とかラグとかクッションとか……

「そ、そうだ、さっき」

「どこに行っていたの。起きたらいなかった」

「ランプのオイルをとりに……ルウが寝ている間に行ってしまおうと思って。それでね」

「また一人で森に行ったの? そういうときは僕の事を起こして欲しい」

これは……心配してくれているのかな……嬉しい。

「うん、そうするよ」

とはいったけれど、夜中にうなされているルウがようやく寝付けたところを起こすことはできないと思う……

「……何も……なかった?」

ルウは一人になるのが不安なのかな……

「うん、サンドイッチを作ったから一緒に食べよう」

何となくあの馬の事を言いそびれてしまった。
ルウと一緒に朝食を取りながら窓から外を見る。

「きょうは外の小屋と柵を直そうと思う」

「…………」

おーい、さっきまであんなにしゃべっていたのに……

「材料と道具はあるものでどうにかなるかな」

ちゃんと見てみないとわからないけれど今日中に……は無理かなぁ。

「寒いからルウは家の中にいてね」

「…………」

「サンドイッチ美味しいね」

コクリ…………よしっ反応あり、また作ろう。

一緒に後片付けをしてからルウには家の掃除をお願いする。

私は寝室へ行きサイドテーブルの引き出しにあの馬の金の輪をしまってから外へ出る。

さてさて、小屋も柵も今あるものを直すだけだけれども私には建築の知識がない。

つぎはぎだらけの不恰好な小屋になるかもしれないけれど……何となくでもしっかり補強もしておこう。

材料を運びながら、柱の補強をしてから壁や屋根を直して行こうと考える。

では、金づちを構えて釘を打ち付ける。

トン トン ト

「イタッ」

くぅっ……

もしかして……私って……不器用……?
サバイバル系は得意だから器用なのかと……

いやいや、まだ始めたばかりじゃないの。

板を打ち付け自分の指も打ち付けながら、いろいろなところを引っ掻きながら棘も刺さりながら作業を続けていく。

何てこと……思っていたよりも時間がかかりそう。
……よし、一旦落ち着いてお昼ごはんの準備をしよう。

ルウは掃除をしてくれて布団も干してくれたみたい。

「ルウ、掃除と布団も干してくれてありがとう」

ソファーで本を読んでいたルウがこちらを……二度見する。

「……どうしたの……それ」

アハハ……お恥ずかしい……

「今までやった事がなかったから……でも少しずつ上達しているから午後からは大丈夫」

手を洗いながら傷だらけの手や腕の説明をする。
水がしみるぅっ……

見せて、と近づいて来るルウ。
えー恥ずかしいなぁ、と手を後ろに隠してモジモジしていると

「いいから」

おふざけに付き合ってはくれなかった……
相変わらずの無表情でジッと……睨んでる?

「わ、わかったよー」

はい、と両手を出すとルウがその手を取り、見つめてから小さな声で歌のような言葉を呟く。

「温かい、魔力を流してくれたの? 痛みもましになった気がする」

傷も痛みも変わりはないけれどルウが流してくれた魔力が温かくて心地いい。

ありがとう、とルウに微笑むけれどルウはなぜか険しい表情。

「とりあえずお昼ごはんを作ったら薬を塗っておくよ」

そう言うと

「食事は僕が作る」

……えっ!?

「ダメだよ、包丁とか危ないし火傷もしたら大変……」

ルウはため息をついて魔力を使い始める。
なんかいろいろ勝手に動き出したんですけど!?

もう……魔法じゃん……魔法か……

美味しそうな食事ができた、凄い。
テーブルにセットもしてくれた、凄い。

「凄い」

席に着いて呆然としていると食べよう、と言われ食事を始める。

「美味しいね」

「ハルが作った方が美味しい」

おや? サラッと嬉しいことを言ってくれたような……

「ルウ、今……」

「小屋も……」

ん?

「外の小屋と柵も僕が直す」

え……

「え!? でも……」

「僕が、直す」

うっ……強めに言ってきた……
この際ちゃんと聞いておこう。

「ルウ、あのね。私、魔力のこととかよくわからないのだけれど……」

ルウが見つめてくる。

「魔力を使うと疲れたり……なんかこう……命が削られる……みたいな負担とかはないのかな」

少しでもルウのマイナスになるような事があるのなら自分のため以外には使って欲しくはないのだけれど……

「別に、僕は魔力量が多いし。使いすぎたところで回復はするし」

人間が走ったりしたときに休めば息が整うのと同じような感じらしい。

「命が削られるって……なに? 怖いこといわないでよ」

すみません。

「まぁ……命は削られないけれど………………」

? 声が小さくて聞こえない……

「とにかく、大丈夫だから小屋と柵は僕に任せて」

そう言われてしまった。

「じゃぁ……絶対に無理はしないでね」

お願いします、と言うと頷くルウ。
午後、ルウと一緒に外へ出て私は見学をさせてもらう。

ルウは小屋と柵をあっという間に直して、エサ箱や水入れを魔道具にしてくれた。
これだけの事をしてもいつもと変わらない様子……

「ルウは凄いね」

ありがとう、と言って頭を撫でてから、さっき私に流してくれた魔力がルウの回復の役に立ちますように、と抱き締めた。

「今夜の食事も僕が作る」

ルウが分かりやすく優しい。

「風呂も。手が治るまで僕がハルの髪を洗う」

ん?

「えっと……一日くらい洗わなくても……」

今夜、薬を塗って寝ればちょっとは良くなると思うし……

「僕が、洗う」

あ、はい。お願いします。
ルウが優しい……嬉しくてウフフ、と笑うとルウの眉間にシワが寄る。


その日の夜、私は結局ご飯も食べられなかったしお風呂にも入れなかった。

「……ハァ……ハッ……ごめん……ルウ……」

傷口は綺麗にしたつもりだったけれど……熱が出た。
ルウが不安そう……

「寝たら……良く……なるから……」

汗をたくさんかくから、ルウは今日だけソファーで寝てくれるかな、と言うと頷いてくれた。

この世界に迷い込んだときに持っていた鞄に解熱鎮痛剤はあったかな…………いや……使いきって買っておかないとと思っていたから…………

傷口には山に生えている薬草で作った塗り薬を塗ったけれど……作り方を間違えたのかな……

「ハル……」

ルウがお水を持ってきてくれて私が起き上がるのを手伝ってくれた。

節々が痛い……これは……傷のせいだけじゃないのかも……

元の世界でも寝込むことなんて滅多になかったから油断していた。

もっと備えておけば良かった……

お水を飲んで横になるとルウが私の頬を両手で挟む。

「冷たくて……気持ちいい……」

ちゃんと笑えたかな……ルウがいてくれて良かった……
こういうときに気付いてしまう孤独をルウが埋めてくれている。

泣きそうな顔のルウと目が合う……

「ハル……どうして……」

心配かけてごめん……

目を閉じるとまた呟くようなルウの歌声が聞こえてきて……ルウの温かい魔力がジンワリと身体に流れてくる。


その温かさに……いつの間にかまた眠ってしまっていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...