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3章

71話 血よりも濃い絆

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 暴走した白髪少女のクレアちゃん。その小さな体で、まるでドラゴンのように叫び散らかしています。クレアちゃんが一度声を上げれば雷と一緒に槍が降り、暴風に乗って炎や氷が飛んできます。

 嵐。竜巻。ハリケーン。
 すべて合わさったような、逆鱗を実体化したような惨状です。

「クレアちゃん。妄想するのは楽しいですか?」
「黙れ! 殺してやる!」

 激昂するクレアちゃん。
 狂暴です。

「フェンリィ! なんで余計怒らせるのよ!?」
「これでいいんですよ、ルーナ。まずは心から攻撃しましょう」

 リスクはありますが注意力を散漫にすることで可能なこともあります。

「な、なるほどね。フェンリィのくせに賢いじゃない」
「くせには余計です」

 普段の私をなんだと思ってるんでしょう。
 まったく、失礼しちゃいますね。

「それで、悪口言えばいいの?」

 ルーナが半信半疑で聞いてきます。
 私が目で頷くと考える素振りを見せました。
 すぐに浮かばないのかうーうー言って頭を悩ませ、閃いたのか分かりやすくパッと明かりを灯し、

「ば、ばーか!」

 勝ち誇ったような顔で言いました。
 終いにはオプションであっかんべーまで披露。
 ばかはこの子です。

「な、なによ」
「ふざけてるんですか? 真面目にやってください」
「う、フェンリィに怒られた。屈辱……」

 何故かナチュラルにディスられました。
 この子には後でお話があります。

「もういいです。ルーナは合図するまで自由に攻撃してください。私が合わせますから」

 人には向き不向きがありますからね。
 ルーナはピュアで心が綺麗なんでしょう。

「それとこれを持っていてください」
「ん? どうして?」
「ただのお守りですよ」

 意味が分からない様子のルーナ。でも多くは聞いてきません。私の目を見て理解してくれたみたいです。

「……わかったわ。でも本当にこんなやり方でいけるの?」
「私が出来るって言って出来なかったことあります?」
「それは無いわね。聞いてみただけよ!」

 最低限のやり取りだけを終えるとルーナは単独で攻撃を仕掛けました。正面から、横から、背後から……。ただ私の言葉を信じてクレアちゃんの防御を突破しようと奮闘しています。
 
 ならば私はこの期待に応える義務があります。
 さてと、チェックをかけに行きましょうか。


「クレアちゃん。あなたは妹さんのことどう思ってたんですか?」
「どうもこうも雑魚としか思ってねえよ。あの出来損ないの無能が。いっつも足引っ張りやがって囮にしか使えねぇ。流石に時間稼ぎもできねぇグズだとは思わなかったな。でもいい。テメェら二人まとめてぐちゃぐちゃにしてやる!」

 嘘は……残念ながら吐いてないですね。
 救う余地無しです。

「あなたは私が一番嫌いなタイプです」
「知るか。≪死んじゃえ!≫」

 クレアちゃんは叫びます。しかし私は死にません。
 いっぱいナイフが飛んできたので躱します。

「お前もさっきから≪鬱陶しいんだよ!≫」

 ルーナが斬りかかっていましたが盾を出してガード。
 その隙に私も銃口を向けて引き金を引きます。
 バン、という音は騒音にかき消されて私にしか聞こえません。
 真っ直ぐ飛んだ弾は軌道を変えてクレアちゃんを避けました。
 その後もミーちゃんを変形させて色々試しましたが、未だノーダメージ。

「わかったか? 遊んでやってるのはワタシなんだよ」
「あらそう見えますか? 思い込みが激しいんですね」

 余裕の笑みを浮かべるクレアちゃん。
 私もできるだけ嘲笑うように、見下すように煽ります。

「だって、あなたも言うほど強くないですよ?」
「ハ……? ワタシが強くないだって? 目ん玉ついてんのかゴラ!」
「はい、ちゃんとパッチリ二重です」

 狂暴化しても自我は残っているみたいですね。
 性格は凄い豹変ぶりですが。

「やっぱり頭の悪い人が凄い能力を手にしても意味ないですね。これじゃあ宝の持ち腐れです」
「アァ゛?」
「疲れるのでもう喋りませんっ」

 能力の穴は分かりました。≪想像≫の力は万能ではありません。何でもできるなら初手で私とルーナが死ぬところを想像すればいいだけです。ですから、他者には直接干渉できないって事でしょう。

 攻撃方法も何か出したり地形を変えたりする程度。薬で威力は増していますがそれだけのこと。災害を引き起こせるのは驚きましたが、自分を巻き込まないように気を使っているみたいなので、むしろデメリットになってくれています。脅しの玩具程度と考えていいでしょう。

 なので厄介なのは、攻撃を受けない想像をしていることだけです。

「ルーナ! 一気に攻めますよ!」
「了解!」

 私の合図でさらにルーナはギアを上げました。
 ですが攻撃しても防がれます。防御をかいくぐってもクレアちゃんに届く手前で速度がゼロになって、ダメージを与えることができません。

 私もひたすら撃ちます。
 バン、バン、バン──
 何発も何発も撃ちますが、やはり一発たりとも命中しません。

「テメェら馬鹿なの? 無駄だって言ってんじゃん!」

 それでも反撃を恐れず攻めます。
 たった一瞬の好機を逃さないように。
 待って、待って、その時が来るのを……

「しゃらくせえな! どいつもこいつもちょこまかウゼェんだよ! もう全部全部何もかも≪消えちゃえええええええ!!!≫」

 それは想像しうる最強の技。
 怒りの咆哮。感情の化身。
 超高密度の邪悪なエネルギーが一瞬で上空に集中しました。

「今です!」
「わかったわ!」

 敵が勝ちを想像した瞬間。
 意識がそちらに向いた、一瞬にして最大の隙。
 ピンチとチャンスはいつだって表裏一体です。

「終わるのはアンタよ」
「ハ────?」

 圧縮されたエネルギーが消滅。
 クレアちゃんの目先。
 その瞳に映る物。投げつけられた物。
 それは、ルーナが手にしていた鎌。
 クルクルとお月様のように回転して飛んでいきます。

 私たちに攻撃するという意識を塗りつぶすように。生物の本能に従って。クレアちゃんの体は反射で自己防衛が働いたのです。

「フフフ! なんだそれ? そんな悪あがきでワタシを倒せると──」

 もちろん鎌はクレアちゃんを避けるような動きをして、傷一つ付けることができませんでした。それなのにクレアちゃんは口をあんぐりと開けています。周囲の嵐も静まりました。

 これは私とルーナが作り上げた無音の空間。
 瞬きを忘れたような目は、ルーナの手元に釘付けです。

「だから、終わりって言ったでしょ」


 バン!


 ルーナの手に握られていたのは銃。
 私が渡しておいたハンドガンです。
 一発、クレアちゃんの肩を掠めました。

「い……っ!」

 肩を押さえるクレアちゃん。
 べっとりと付いた血を見て青ざめます。
 脳内が「痛い」「苦しい」の文字列で埋め尽くされたことでしょう。

「やっぱ難しいわね。フェンリィのこと見直したわ」

 散々攻撃したので私たちの武器は印象づいていたはずです。一瞬の動揺と思考の停止が、戦場では勝利をもたらしてくれます。

「私もルーナ凄いって思いますよ。よくこんなの振り回せますね」

 ルーナが投げた鎌です。
 私が受け取りました。

 重すぎですよこれ。
 こんなの乙女が持つ物じゃありません。
 ですが一回だけ。
 ただ振るだけなら私にもできます。

「はあああああああ!」

 思いっきり。全力で打ち砕きます。
 想像の先。コンマ数秒の世界。
 この一瞬のために築き上げた関係。
 一度しか使えない、私とルーナの奥の手──


宵夢想ナイトビジョン


 私とルーナの絆は想像ではなく確かなものです。
 どんなことがあっても消えて無くなったりしません。
 それが、私たちの勝因ですねっ。

「ぐあああああああああ!!!」

 物凄く苦しんでいます。
 私は火力不足なので一撃では倒せませんでした。

「いだい゛! くっそがあああぁ──うおッゲェ!?」

 地面に這いつくばっていたクレアちゃん。
 私はすぐさま髪を掴んで引き上げると、後ろから口の中に銃をねじ込みました。

「あなたは独りだから弱いんですよ」
「あぐッ! ごげぇ!」

 恐怖と激痛のせいか、抵抗する意思は感じません。
 私は冷徹に言葉を並べていきます。

「妹さんの気持ちを想像したことありますか? 信じて、少し大きくなった姿を想像しましたか?」

「ガアアアアア!」

「ちゃんと向こうに行ったら謝ってください。そして、来世はちゃんとお姉さんになってあげてください。もう誰も苦しまない世界にしますから」

 クレアちゃんも最初からこんな子ではなかったはずです。だって、本当にソレアちゃんに興味がないならそっくりな姿形で生み出すことなんてできませんから。きっとどこかで道を踏み外してしまったのでしょう。絶対に落ちてはいけない方へ。絶対に裏切ってはいけない人を手放して。

 ……まあ、そんな想像しても意味はありませんけどね。

 目の前の事実だけが現実です。私情や同情を切り離すのが戦場に立つ最低条件です。私には大切な人たちがいるので躊躇わず撃てます。それに、私もそちら側の人間だったかもしれません。

 もう随分昔の話ですが、自分のためなら他者を傷つけることも厭わない悪魔になっていた可能性があります。立場が逆だったらと想像すると酷く苦しい思いがします。

 だから送ってあげましょう。
 これ以上間違わせないために。
 償う機会を与えるために。
 いるべき場所へ、葬送します。

「さよなら」


 パァァァァァン!


 引き金を引くと、クレアちゃんは存在すらしていなかったように跡形もなく消えて無くなりました。私の手に、殺した感覚だけを残したまま──




◇◆◇




 はぁ……なんとか倒せましたね。よかったです。
 この調子でどんどん倒していきたいですが流石に少し疲れました。もうくたくたです。お腹ぺこちゃんです。主に頭と、詳しくは言いませんが肩が凝りました。


 あ、変な妄想はしちゃダメですよ?
 そんな人はミーちゃんでミンチにしてさしあげます!
 怒った私は怖いですからね!


 ……ごめんなさい冗談です。私も疲れたのでアホになっちゃったみたいです。悪気はないので許してください。本当です。


 えーごほんっ。話を戻しますね。
 実は戦いの最中に昔のこともちょっぴり思い出してしまいました。あんまりいい記憶じゃありません。リクト様やルーナに会うずっと前のお話です。言い直すと、私がロリっ子だった頃のお話です! まあこの話はどーでもいいや……。



 ふわ~ぁ。ねむたいです。
 余分なことに脳を割いてる場合じゃありませんね。
 一旦いつもの私にチェンジです。
 今は少しでもいいので休憩しましょ……ぅ。

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