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番外編

かわいい子には旅をさせよう 1

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※時系列的には第七章「ユーリと氷の女王」や第八章「新しい日常」の後辺りの話になります


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ユッ・・・ユーリ様!これを読んでください‼︎」

お願いします!と真っ赤な顔をした年若い政務官さんらしい人が頭を下げて私に封筒を渡して来た。

「え?えーと・・・」

ポカンとしてそれを見つめる。私に封筒を捧げている両手は緊張のせいかブルブルと小刻みに震えていた。

え、ヤダもしかしてラブレター?人生で初めてもらうんですけど!

うわあ、と思いがけないシチュエーションにまるでひとごとのようにちょっと興奮してしまう。

場所は王宮のとある回廊、私はリオン様のお父様・・・ナジムート陛下の庭園に行ってきた帰り道だ。

陛下の庭園は孔雀やらアヒルやら鹿やら羊と、たくさんの動物がいてそれは賑やかだ。

そしてその中の白鳥の一羽が元気がないということで、今日はその様子を見て癒しの力を使いに王宮へとやって来ていた。

首尾よく白鳥も元気を取り戻し、

「白鳥って思っていたより大きくて近くで見ると怖かったですねー」

なんて話しながら護衛の騎士さんや同行していた宮廷魔導士さん達とも和気あいあいと歩いていたら突然呼び止められたのだ。

「無礼な、一体どこの所属だお前!」

「その服装は地方自治省所属の書記官か⁉︎」

「ユ、ユーリ様に告白だと・・・⁉︎」

「おい、誰か今すぐレジナス様を呼んでこい‼︎」

周りが騒然として、私の目の前の封筒を持っていた人はあっという間に護衛騎士さんに羽交締めにされて取り押さえられた。

ちなみにどこからか、「ユーリ様、そんなに嬉しそうな顔をしないでください!」なんて声も飛んできたけど・・・。あれ?わたし、そんな顔してた?

でもラブレターだよ?この世界の人達はどんな事を手紙に書くんだろう?

あ、でも私はついこの間ダーヴィゼルドから帰ってきてすぐにリオン様から告白されたばかりだし、レジナスさんも無意識で独白という形とはいえ私が好きだって言っていた。

そんな二人のことを考えたら、これがもしラブレターで告白されているとしても断るべきだよね?二人の気持ちを聞いて多少なりとも私もリオン様達を意識し始めているし・・・。

色んな考えが一瞬で頭の中を駆け巡った。だけどなんにせよ、一度は受け取って読むのがマナーなのかな?

「あの、ありがとうございま・・・」

羽交締めにされながらも、まだ私にラブレターらしき手紙を渡そうと悪あがきしているその人の持つ封筒に手を伸ばした時だ。

私がそれに触れるよりも早く、横から別の手が伸びてきてそれをサッと掠め取っていった。

「あっ!」

私の人生初のラブレターが。慌てて見れば、

「清らかなるオレの女神に、俗世にまみれた者がその手で直接手紙を渡そうとするなど許せませんね。今すぐ燃やして消毒してしまいましょうか。」

手紙と羽交締めにされている人の両方を交互に見やり、金の瞳で射抜くように鋭い視線で牽制しながら艶っぽい低い声でそう言ったのはシェラさんだ。いつの間に。

あと「燃やして消毒」って言いながらそんな目で相手を見てると燃やすのが手紙なのか人なのか分からなくて怖い。どっち?とも聞けないし。

「シェラさん、どうしてここに⁉︎」

「小隊任務を終えて王都に戻って参りましたので何よりもまずはユーリ様へご挨拶をしたいと思いまして。本日はこちらにおいでとのことで、急ぎ馳せ参じました。」

いつものあの無駄に色気を垂れ流す笑顔でにっこりと返されたけど、その手に持つ手紙は私に返してくれない。

「あの、それ返して欲しいんですけど」

「ユーリ様、お出かけのご予定はございませんか?」

私の言葉を無視してシェラさんはヒラヒラと手紙を振りながらそう聞いてくる。

「はい?」

「ほら、オレは殿下との約束がありますでしょう?ユーリ様にイリヤ殿下からの剣が下賜されるまでの間の期間限定で、ユーリ様が王宮から出掛けられる時はオレが護衛を務めると。ですから本日もお出かけのご予定はないものかと。」

それを聞いて他の騎士さん達の顔色が変わった。

「レジナス様を差し置いてなんでシェラザード隊長が⁉︎」

誰からともなく上がった声にシェラさんはなんでもないように答える。

「レジナスはあくまでもリオン殿下の護衛ですからね。現状、貴重な癒し子たるユーリ様の専属護衛の座が空席のままなのはよろしくないので先日オレから申し出たんですよ。・・・それとも、オレやレジナス以上にユーリ様の専属護衛にふさわしい者がいるとでも?こんなたった一人の不審者すら止められないあなた達とか?」

これが手紙ではなくナイフだったら、今頃ユーリ様はとんでもない事になっていたのですよ?

シェラさんに鋭い眼差しで見られた騎士さん達は反論出来ないで固まった。

いや、それはそうかも知れないけどもうそのくらいにしてあげて。

騎士さん達がかわいそうになったので、私ももう一度声を上げた。

「私のお出かけ予定は当分ないです!それよりもシェラさん、それ返して‼︎」

そのまま、えいっとジャンプしてシェラさんの手から手紙を取ろうとしたけど、ジャンプ力が足りない。

十歳女児から中1程度に多少成長したとはいえ大の男のシェラさんが上げている手の高さには跳んでみても届かない上に、身体能力に恵まれていないこの体では手紙を狙ったはずの私の手も全然違うところで空振りをした。

「くっ・・・!」

何回かジャンプして挑戦してみても結果は同じだ。悔しい。

周りの騎士さん達がコソコソと「やべぇ・・・」「仔猫ジャンプだ・・・」「騎士団に戻ったらみんなに教えよう」なんて囁いているのも聞こえてきて、私の運動音痴っぷりを騎士団の人達に周知されるらしいのも屈辱だ。

そんな事を思いながら必死で手紙を取ろうとしていた、そんな私をシェラさんは興味深げにしげしげと見つめて

「そのように可愛らしく何度もオレに飛びついてくださるのは望外の喜びですが、一言命じてくださればそんな苦労をなさらなくてもよろしいのですよ?」

と言ってきた。え?命じる?命令すればいいの?お願いはしたことはあっても、今まで誰にも命令なんてしたことないんですけど。

ぜえはあと息をつきながらちょっと考える。

「女神の命令に従うことほど光栄なことはありませんからね。さあどうぞユーリ様、遠慮なくオレに命じてください。」

シェラさんはなぜか嬉しそうにいきいきと目を輝かせながら私を見てニコニコしている。

命じられるのが嬉しいとかマゾみたいだけどいいのかな?それじゃ、ええっと・・・。

「い、今すぐその手紙を私に返して!・・・返しなさい!」

自分よりも大きな大人の男性に命令するとか気が引けるしなんだか気恥ずかしい。

ちょっと赤くなりながら頑張って命令してシェラさんを見上げ、はい!と手紙を受け取るために手を差し出す。

するとシェラさんはこの上なく嬉しそうな色気たっぷりの甘やかな微笑みをこちらに向けて

「オレの女神の仰せのままに」

と片膝をついて差し出した私の手に口付けた。いや、違うから!口付けて欲しいんじゃなくて手紙が欲しくて手を差し出したんですけど!

ちなみに周りではまた騎士さん達がコソコソと「恥ずかしそうにしながら命令してるユーリ様最高・・・!」「あの顔で踏まれてぇ」「あの目で俺も睨んで欲しい!」とよく分からない事を言っていたのでそっちは聞こえないフリをした。

「だから!手紙‼︎」

私の人生初のラブレターを返して欲しい。きっとその返事はお断りすることになるだろうけど、手紙は記念に取っておきたい。

そう思いながら必死で訴えたらそこでやっとシェラさんは私の前にうやうやしく両手で手紙を差し出した。差し出してくれはしたけど、

「そんなにもこの不審者からの手紙を読みたいのですか?中に刃物や毒が仕込まれているかも知れませんよ、差し支えなければオレが開けてもよろしいですか?」

まだそんな風に食い下がってくる。

「ええ・・・?」

たかが手紙にそこまで用心する?それにこの羽交締めにされている人の、さっきの様子はどう見ても危険はなさそうだったけど。

「シェラさんの気持ちは嬉しいですけど・・・」

でも私宛てに、わざわざ直接渡してくれたものだしなあ。

シェラさんの心配してくれる気持ちはありがたいけど自分で開封して読みたいなあ、と思いながら手紙を受け取った時だった。

「ユーリ・・・シェラから何の手紙を受け取っているんだ?まさか恋文か・・・?」

一体いつの間にそこまで親しい仲に・・・?と、レジナスさんの呆然とした声がかかった。

え?とそちらを見れば、少しだけ騎士服のマントを乱したレジナスさんが私とその前に膝をついて手紙を差し出しているシェラさんを見て、珍しく表情を変えていた。

そういえばさっき騎士さんの一人がレジナスさんを呼んで来い!とか言ってたっけ。

だけどやって来たレジナスさんは、なぜかシェラさんが私にラブレターを渡していると誤解している。

「何言ってるんですかレジナスさん?」

小首を傾げれば

「『シェラの気持ちは嬉しいけど』と言いながらこいつから手紙を受け取るところでは・・・?」

まさか恋文ではなく告白か⁉︎とレジナスさんは更にクッ、と目を見開いた。
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