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番外編

好きだと言って 3

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マ、マリーさんもエル君もいるのに恥ずかしげもなく「自分とのキスは良かったか?」なんて聞いてきたシグウェルさんに勢いよく

「良かったです、もっとして欲しいです!」

なんて答えてしまった。恥もここに極まれり、だ。

あまりの羞恥心に顔が熱いし、泣けてきた。それなのにシグウェルさんを見上げて口から出る言葉は

「も、もう一回して欲しいです・・・!」

と更に誤解を招くものだった。違うから!みんなの前でもうこんな事しないでって言いたかったのに‼︎

「ち、違う・・・違わない・・・」

本当に、思ってることとは真逆の言葉が口から出てくる。

するとそんな私を見ていたシグウェルさんは大きくため息をはあ、と一つつくとずいっと近付き抱き締めてきた。

「・・・まずいな。君にそういう言動をされると、思っていた以上に愛おしく感じられる。言葉もそうだが、そんな風に涙ぐんで見上げられると庇護欲と同時にもっとその顔を見たくなりめちゃくちゃにしてしまい気持ちも湧いてくるんだが・・・。」

何というか、今までに自分の中に感じたことのない相反する感情だ、面白い。

自分の感情すら分析するように臆面もなくそんな事を言いながらシグウェルさんはまだ私を抱き締めたまま離さない。

その言葉の中身は間違いなく愛も囁いているのに後半のセリフが穏やかでない。どう考えても私が酷い目か恥ずかしい目・・・いや、どっちも同じ意味かな⁉︎そんな目に遭う予感しかしない。

だからその懐から顔を上げて「めちゃくちゃって・・・そんなの絶対にお断りです!」って言おうとしたら

「めちゃくちゃに・・・?してください‼︎」

とこれまたおかしな言葉が飛び出してきた。言ってしまってから自分でもハッとする。

しまった、思ってるのと逆の言葉が出るって言われてるのに学習しないな私も。

するとシグウェルさんが僅かに眉をひそめた。

「おい・・・自分で言っておいてなんだが、さすがにそれは言い過ぎじゃないか?薬のせいだと分かっていても本気にしたくなるからやめてくれ」

抱きしめている腕にぎゅっと力がこもり、ついでにその冷たい指先が私の頬を撫で上げながら耳たぶをなぞった。

「んっ・・・!」

目をつぶってもう何も喋るまいと口を閉じてくすぐったさを我慢すれば、おかしな声がもれる。

「だからそうやって煽らないでくれと言っているんだが」

目を閉じている暗闇の中、至近距離の耳元でシグウェルさんの囁く声がする。

何これ、喋ってもヤバいし喋らなくてもヤバい。

混乱したまま、恥ずかしさにシグウェルさんの顔を見ないように目を閉じて黙ったままの私の耳にマリーさんの

「ユーリ様、子どもの前ですよ!」

必死な呼びかけと、エル君の

「マリーさん、僕の目を塞いでいても意味ないですよ。あの人達のやり取りは全部聞こえていますし、どうせいつも通りの馬鹿らしいいちゃつきなのも分かっているので子ども扱いしなくて平気です。」

と冷静な返しが聞こえてきた。馬鹿らしいいちゃつきって!エル君、そんな風に私達の事を見てたんだ⁉︎あとどう見てもエル君はまだ子どもだから!

そうなのだ、子どもの前でこれは教育上よろしくない。

必死に頭を回転させて、話すことを組み立てる。えーと、真逆の言葉が出るんでしょ?

「やめてくださいシグウェルさん!早く元に戻して!」

やっとまともな事を言えた。ほっとしたら騒ぎの原因のシグウェルさんは面白くなさそうにしながらも解放してくれる。

「なんだ、もう慣れてしまったのか?元に戻してと言われても、今のところまだその魔法薬の効果を打ち消す薬は作っていないんだが。」

「ええっ⁉︎」

「直接的な経口摂取で魔法薬の原液だが飲んだ量自体は少ないからな。心配しなくてもじきにその効果は切れる。」

じきにっていつ?お茶で薄まった魔法薬を飲んだエル君で二、三時間なんでしょ?もう夕方近い時間だし、私は一晩くらいこのままなんじゃないの?

せめてここにユリウスさんがいてくれればその力も借りられて何とかなってたかも知れないのに。

そうだ、いっそのことユリウスさんが王宮から戻ってくるまでここにいよう!

そう思っていた時だった。

開けていた窓から白い小鳥が一羽、団長室の中に入ってきた。

「わ、かわいくない!」

声に出してからハッとして口を抑える。しまった、つい。

「分かってますよユーリ様、かわいいって言いたかったんですよね。」

マリーさんが大変ですねと気の毒そうな目で私を見てきた。それに黙ってこくこく頷く。

その間に部屋に入ってきた小鳥は部屋の中をパタパタと飛び回り、私達の頭上をくるりと一回りすると差し出されたシグウェルさんの手の上に止まった。するとその姿は一瞬で一枚の紙切れに変わってしまう。

え?何これ魔法?

目を丸くした私にシグウェルさんはふっと笑う。

「ユリウスの伝達魔法だ。見たことがなかったか?」

そう言いながらその紙切れに目を落とした。

へぇ、ユリウスさんの魔法。わざわざ魔法を使って連絡してくるなんて、何かよっぽど大事な用なのかな。

私としては早く戻ってきてもらってこの状態をなんとかして欲しいけど。

そう思っているとシグウェルさんが紙に書かれている事を教えてくれた。

「ユリウスは王宮での用が済んだら今日はそのままここには立ち寄らず直帰するそうだ。」

「え?」

「体力と精神力の限界で疲れたとか何とか書いてある」

それは多分、提出期限を過ぎた書類を出しに行ってあちこちで頭を下げまくったからでは・・・?

ていうか、ユリウスさん戻って来ないんだ⁉︎

じゃあ私、本当にこの魔法薬が切れるまでこのややこしい状態?

ガーンと密かにショックを受けていると、そんな私を眺めながらシグウェルさんは何事かを考え込んでいる。

え?何?どうかした?

話すとおかしなことになるので黙って見つめ返せば、

「・・・この状態の君を殿下達に見せたらどんな反応するだろうな?君の言動にどんな顔をするのか見てみたいものだ。」

と言われた。いやいや、リオン様達の反応まで面白がるなんてそんなの知られたらもの凄く怒られるんじゃないの?

ダメですよ、と言おうとしたら

「いいですね!」

という言葉が口から飛び出す。・・・ああもう、本当にややこしい。

するとシグウェルさんは私の言葉は気持ちと真逆のものだと分かっているはずなのに

「君も賛成ならすぐに奥の院に戻ろうか。俺が送っていこう、ついでに今日はそちらで夕食を取り泊まるとしようか。君の観察もしなければいけないからな。」

と私の手を引いた。そのままマリーさんとエル君にも自分の後をついてくるように促すと、シグウェルさんは団長室の扉を開く。

「ちょ、ちょっと⁉︎」

送っていくって言う割に、私の手を取り歩いて行くのは玄関とは真逆の団長室に隣り合った部屋だ。

なんで?と思えば部屋の扉を開いたシグウェルさんが

「この部屋には君の部屋に直通の魔法陣を敷いている。馬車を使わずとも一瞬で奥の院の君の寝室まで戻れるぞ」

と説明してくれたけど・・・。それって、あのいつの間にか無断で私の寝室に繋がってた魔法陣のこと?

寝室にいきなりシグウェルさんが現れてびっくりしたことがある。

あの魔法陣は一体どこから私の部屋に繋がっているんだろうかと不思議に思っていたけど、まさか団長室のすぐ隣にこんな部屋を作っていたなんて。

言いたいことは色々あるけど、今の私は何も言えない。一応、抗議するようにシグウェルさんを見上げてみたけど

「心配しなくてもここは俺とユリウス以外は入れないように扉に結界も張ってある。おいそれと他人が君の寝室に自由に出入りできるわけではないから安心しろ。」

思ってもみないことを言われてぽんと頭をひと撫でされた。

違う、そうじゃない。全然安心しないし。たまらずそう言おうとしたら口から出た言葉はまた

「いいですね!」

だった。これまた私の意思とは全然違う言葉だ。・・・ああ、もどかしい!
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