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番外編

王様は誰だ 2

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リオン様達が王様ゲームに興味を示して教えることになるとは思わなかった。

とりあえず実際やってみるのが分かりやすいだろう。

手近にあった紙を四本、縦長に切ってからそのうちの三つには数字を書き、残りの一つには王冠マークを書いた。

「はい、それじゃ四人とも好きな紙を引いてください!自分の引いた紙に書いてある数字は他の人に見せたり言ったりしないでくださいね?」

印を付けた紙の下の方をぎゅっと握ったままみんなにそれを取るように促す。

そうすれば四人は興味深げに私の言う通りに紙を引き、他の人達には見えないように自分の引いた紙に書いてある印を確かめていた。さあ、王様だーれだ?

「その中で王冠の印のついた紙を引いた人だけ手を上げてください!その人が王様です!」

そう言ったらリオン様が「僕だね」と手を上げた。

おお、さすが生粋の王子様。こんな時も引きが強い。

「ということは、リオン様以外の三人にはそれぞれ1番から3番までの数字がついた紙が渡ってますよね?王様の印を引いたリオン様はその人達の番号を指定して、好きな事を命令出来ます!あ、好きな事を命令出来るっていってもあんまりヒドイのはなしですよ?」

「三人全員に命令できるの?」

「あー、いえ。二人までです。例えば、3番が2番と握手をするとか、1番が腕立て伏せを五回するとか?」

私の拙い説明にもリオン様はなるほどと頷く。

「カードゲームみたいに勝敗を決めるようなゲームじゃないんだね?」

「はい!どちらかというと宴席を共にしている人達と交流して関係を円滑にするためとか場を盛り上げるための遊びみたいな?」

「面白いね、こちらの世界にはあまりない形のゲームだ。とりあえずやってみようか。」

ふーん、と少し考えたリオン様が口を開いた。

「・・・1番が3番にチーズを食べさせる。どうユーリ、命令ってこういうのでいいのかな?」

「はい、そんな感じです!」

初めてなのにゲームの意図をすぐに理解してそれらしい命令をしたリオン様に、さすがだなあと笑顔で頷く。

と、レジナスさんが

「いや、ちょっと待ってください・・・」

と戸惑いの声を上げた。・・・うん?

そちらを見れば、困惑したレジナスさんが3番の数字が入っている紙をじっと見つめていて、シグウェルさんが

「俺がレジナスに食べさせるのか?」

と1番の紙をひらりと振った。その顔はいつもの無表情だけどなぜか顔が死んでいるようにも見える。

あ、うわあ。シグウェルさんがレジナスさんに手ずからチーズを食べさせるんだ⁉︎

それに対して命令を免れたシェラさんは

「オレがレジナスに食べさせる役目に当たらず良かったです」

と面白そうに目をすがめて二人を眺めている。

命令をしたのはリオン様なのに、本気かユーリ?とレジナスさんもシグウェルさんも私を見ている。

「お、王様の命令は絶対ですよ?カードゲームのジョーカーみたいに順番飛ばしはないですし、あまりにひどいものでなければ命令のキャンセルもありませんからね?」

一応ゲームの補足をすれば、リオン様も

「そういうゲームだから仕方ないよね。さあ、命令に従ってくれるかな?」

と笑いを堪え切れずにもの凄く楽しげに二人に言っている。

「仕方ない」

渋々といった雰囲気でシグウェルさんは自分の目の前に盛ってあるお酒のおつまみの中から、形よく名刺サイズくらいに切られていたチーズの一つを手に取った。

「早く食え」

そのままずいとチーズをレジナスさんの口元に押し付ける。対してレジナスさんは口を真一文字に引き結んだまま、ぐっと顎を引いた。

その様子がなぜかお散歩を嫌がって歩きたがらない、いわゆる拒否シバを連想させる。

「レジナス、早く食べませんとゲームが終わりませんよ」

そう促すシェラさんの声が嫌に楽しげだ。

顎を引いたレジナスさんは「食べなければいけないのか?」と目で私に訴えているけどまあ、そういうゲームだからね?

「お願いします、レジナスさん!」

頑張って!と拳を握ってこくこく頷く。

シグウェルさんが私以外の人に何かを食べさせているのも、レジナスさんが誰かに何かを食べさせられているというのも、すごく不思議で変な感じがする。でも見ていて面白い。王様ゲームをしてなきゃ絶対に見られなかった光景だ。

「くそ・・・」

若干顔を赤く染めたレジナスさんが、あまりにも期待を込めた目で私が見るものだからか覚悟を決めたように口を開くと、ガブリと一口でシグウェルさんの手からチーズを奪い取った。

そのまますぐに咀嚼してごくりとそれを飲み込むと

「これでいいか⁉︎」

と私に聞いてくる。まるでお腹を空かせたワンコが一瞬でおやつを食べてしまったみたいな感じだ。

その様子にシェラさんがガッカリしたように

「なんですか、情緒もへったくれもない。もっとゆっくり食べて楽しませてくれませんか?」

と言ってまだ赤いままのレジナスさんに

「お前を楽しませるためのゲームじゃない!」

と怒られている。リオン様は

「ゲームのおかげでものすごく珍しいものを見せてもらったなあ。それでユーリ、これはこんな感じの命令をしていけばいいの?勝敗を決めないゲームならどうなったら終わりなの?」

と聞いてきた。王様ゲームの終わり方・・・?そういえば大体誰かが酔い潰れて終わるか適当なところで切り上げて終わるかだったけど。

「えーと、飽きるまでやってみるとか?」

適当なことを言ったらレジナスさんが「飽きるまで⁉︎」とぎょっとして私を見てきた。また自分があーんさせられるのはごめんってことかな?

するとリオン様がふむ、と懐から金貨を10枚出すとテーブルにそれを重ねた。

「じゃあとりあえず10回くらいやって見ようか?回数はこの金貨を目印にしよう」

命令一回ごとにコインを一枚ずつ空のグラスの中に入れて減らしていって、10枚の金貨が全てグラスの中に入ったらそこでゲーム終了らしい。

「グラスの中を満たした金貨はそのままユーリの装飾品を買う費用の一部にあてようか?もしどうしても従えない命令を王様に言われてそれを拒否したら、そこでゲームは終了だ。ユーリのためにグラスを満たす金貨もそこで終わりになるからね、頑張って王様の命令を聞いてユーリを着飾ってあげよう」

そんな事を言っている。いやいや、私のアクセサリー代だとか、そんなのはもう充分潤っているし。

そこでふと、今日仮縫いで訪れた王宮の衣装室の様子を思い出した。

着せ替え人形のように何度も何度も着替えさせられた私も大変だったけど、衣装担当の人達も相当疲れていた。

ドレスはどれもまだ仮縫い段階のものだったけど、それでもかなり繊細な編み込みレースや手縫いの刺繍が施されていたし『この後ここにはシェラザード様のご指示で様々な貴石が縫い付けられます』って死んだ魚の目と力無い笑顔で説明されたっけ。

どうせならこの金貨は私のアクセサリー代じゃなくて私のために疲労困憊している職人さん達の給料やお手当に上乗せして欲しい。

「この金貨、私達の結婚式のために働いてくれている人達のお給料に足してもらえませんか?」

そう提案したらリオン様は、ユーリがそうしたいならそれでいいけど?と了承してくれた。

するとシグウェルさんが

「それなら君もゲームに加わらないか?」

と口を開いた。

「え?」

「四人でゲームをするよりは君も加わる方が命令のしがいがある。それに人数が増えればその分だけ自分に命令の来る確率を減らせるからな」

そう言ってさっきレジナスさんに食べさせたチーズをつまんでいた指先を拭いた。

シェラさんもそれに同意している。

「なるほど、確かに。ユーリ様が加わってくれれば俺がレジナスに何かしたりされたりするかもしれない確率も下がるということですね。」

その言葉に「それは俺も願ったりだ」とレジナスさんも、シェラさんに自分が何かしたりされたりする図を想像したのか嫌そうに眉をしかめて頷いた。

「そうだね、そうすれば僕もユーリに何かしてもらえたりするのかな?」

リオン様も笑顔で賛成している。ついでに「よく考えたら、父上や兄上以外の誰かに命令されるなんて初めての経験だから楽しそうだね」なんて言っている。まあ王子様だしね・・・?

それを聞いたレジナスさんは初めて自分がリオン様に命じる側になる可能性があることに気付いたのか、

「リオン様に命令するなど・・・!」

とちょっと戸惑ってゲームから降りそうな雰囲気になってしまったけど。

リオン様自身は自分が命令されるかも知れないことは全然気にしていない・・・っていうか楽しみにしていそうだし、どうせならレジナスさんにも楽しんで欲しい。私も加わるって言えばやってくれるかな?

「じゃあ私もやります!頑張ってお城の人たちのお給料を稼ぎますよ、10回やり切りましょう!」

と王様ゲームに参加するのに同意して頷いた。





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