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番外編
王様は誰だ 1
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「ユーリはやらなくていいのか?」
レジナスさんの手元を覗き込んでいたら、その当の本人に遠慮がちに声をかけられた。
「あ、大丈夫ですよ!見てるだけでも面白いので。」
「それでいいんだ?」
リオン様も私を見てくすりと笑う。
「まだルールを勉強中です!」
からかわれた!ぷんと膨れっ面をした私は、円卓に隣り合っている二人の間に座ったままリオン様から顔を背けると、またレジナスさんの手元を覗き込んだ。
そんな私達に、円卓の向こうからシェラさんとシグウェルさんが口々に
「むくれた顔のユーリ様も大変愛らしいですが、学ぶというならオレの手の内も見ていただきたいですね」
「殿下はともかく、レジナスの手は直情過ぎてつまらなくないか?」
そう声を掛けてきた。
「それがいいんですよ!まだゲームのルールが良く分かっていない私に、基本に忠実なレジナスさんのやり方はすごく分かりやすくて覚えやすいです!」
と返す。レジナスさんも
「シェラやシグウェルのカードゲームのやり方は勝ちにこだわった変則技が多くて、今から覚えようとしているユーリには分かりにくいからな」
シェラさんを鼻で笑った。おお、珍しく好戦的だ。
「まあまあ君達、口よりも手を動かしてくれないかな?ゲームが止まってしまっているよ。これじゃいつまで経っても勝敗がつかないじゃないか。」
レジナスさんに鼻で笑われたシェラさんがキラリと目を光らせたのを見逃さなかったリオン様が無駄なケンカを避けようと仲裁に入った。さすが。
今リオン様達四人は円卓を囲んでカードゲーム・・・いわゆるトランプをしている。
結婚式まで半年を切り、王宮の衣装室で様々なドレスの仮縫い状態のものに袖を通したりそれに合わせる靴やら小物やらを選ぶなどの打ち合わせを終え、夕方になってからようやく解放されて奥の院に帰ってきた私の目に飛び込んできたのはカードゲームをしている四人の姿だった。
この四人が仲良く卓を囲んでゲームに興じている姿なんて初めて見た。なんて珍しい。
そうしげしげと見つめていたらリオン様に
「ユーリが知らないだけで、僕らはわりと伴侶だけの集まりをしているよ?」
と言われて、これまた驚いたけど。
「ええ?みんな仲良く集まって、一体なんの話をしているんです⁉︎」
この四人が集まって盛り上がるような共通の話題なんてある?
不思議に思ってそう聞けば、なぜかリオン様は私から目を逸らして「えーと・・・それは色々と・・・」と言い淀んだ。怪しい。しかもそれに助け舟を出したのがシェラさんで、
「オレ達が集まってする話題などユーリ様のこと以外にありますか?日々ユーリ様の愛らしさについて語りあい、どうすればよりユーリ様に喜んでいただけるかを考え話し合っているのです。」
とあの胡散臭ささえ感じる色気たっぷりの笑顔でにこやかに答えたのだ。
「なんかもう、その流れるように弁の立つ説明が怪しいんですよね・・・」
騙されないぞ、と生温かい目で見つめればそんな私にもシェラさんは楽しそう・・・って言うか嬉しそうに
「本当に、オレがこんなに頑張ってユーリ様の気を引こうと精一杯の色気を振り絞った笑顔を見せているというのに相変わらず全くなびく気配がありませんねぇ。」
と目を細めた。するとシグウェルさんが
「君が無駄に振りまく色気に惹かれないのはユーリぐらいのものだが、君はそれでいいのか?」
とトランプ片手にちらりと自分の隣に座っているシェラさんを見たけど
「それがいいんですよ。オレの笑顔に対してあんなに不審そうな目で見つめてくるのはユーリ様しかおりませんが、もっとそんな眼差しで見つめてもらっても構いません。むしろオレの女神にそんな目で見られるほど、その視線を一身に受けている喜びに胸が打ち震える思いです」
と、なぜか誇らしげにますます饒舌に語っている。大変だ。狂信者が変態の道に片足を突っ込み掛けている気がする。
だから私は、これ以上この話題を続けるのは危険だと判断して慌てて話を変えたのだ。
「そ、そういえばこの世界に来てからこうしたカードゲームを間近に見るのは初めてかもしれません!」
と、そのままリオン様とレジナスさんの間に割り込んだ。そんな私にレジナスさんは
「そうだったか?これは昔からあるカードゲームを勇者様が整備したものだから、もしかするとユーリのいた世界のゲームの形に近いかも知れないぞ?」
と教えてくれた。へえ、そうなんだ。
召喚されてこの世界に来てからはあちこちの土地へ加護を付けに行ったり病気の人を癒したりしていて、よくよく考えてみればこういう遊びに触れる機会は今までほとんどなかった。
通りすがりに他の人達がテーブルを囲んでカードゲームに興じている姿を見かけても「あれ?なんかトランプやってるなー、こっちの世界にもトランプってあるんだ」程度の認識だった。
改めてレジナスさんやリオン様が手にしているカードを見れば、なるほどトランプと同じハートやクローバーの印と数字がついている。
だけどジャックには勇者様であるレンさんの絵姿が、クイーンにはイリューディアさんだろう白い雌鹿、キングにはグノーデルさんらしい白い虎の絵が描いてある。
そしてジョーカーは2枚あり、一枚はヨナスの絵、もう一枚には黒いドラゴンが描かれていた。
そのドラゴンはどうやら勇者様がキリウさんのサポートを受けながら三日三晩戦ったという悪竜らしい。
そんなジョーカーはゲームによっては対戦相手を一回休みさせたり順番を飛ばしたり、カードを取る順番を逆転させたりもできるという。
それっていわゆるスキップとかリバースでは・・・?
なんだかトランプにウノの要素が混ざっていて、その辺りがいかにも勇者様が整備したこの世界独自のカードゲームっぽい。
そんなわけで、トランプのようで微妙にそうじゃないそのカードゲームをこの際私も覚えてみようと思ったのだ。
二人の間に割り込んだまま、椅子も持って来て腰掛けレジナスさんとリオン様に今やっているゲームのルールを教えてもらっていた。
ちなみに今四人がやっているのはいわゆるポーカーみたいなゲームだ。ルールもほぼ一緒。
聞けば他にも神経衰弱みたいな遊び方もあるらしいけど、人並外れて頭が良く記憶力のいいこの四人でそれをやっても一巡で全部札を開けられそうだよね・・・。私が対戦しても絶対勝てる気がしない。
だけどまあ、ポーカーなら頑張ればいいところまでイケるのでは?と思ってレジナスさんの説明を聞きながらルールを覚えているところだ。
「そういえばこれって何か賭けてるんですか?負けたらお酒を一杯飲むとか、お仕事の一部を代わるとか?」
いい大人が四人集まって、ただゲームをしているとかあるのかな?
しかも円卓にはヒルダ様から贈られた、あの氷瀑竜のグラスが置かれていてお酒が入っているのだ。酔ったノリで何か賭けていてもおかしくない。
そう言ったらリオン様に
「酔うほど飲みながらゲームをしているわけではないけど・・・。ユーリの世界ではカードゲームは酔っ払いながらやるの?宴席での定番のゲームだったり?」
と聞かれた。
「え?いえ、さすがに酔いながらやるのとは違いますかね?」
お酒と一緒に楽しむなら個人的にはトランプよりもマージャンの方がイメージとしてぱっと頭に浮かぶ。
「あと宴席でのゲームなら王様ゲームとか・・・?」
これまた、昭和のおじさん世代が多かった職場の飲み会の席で半ば定番のように毎回誰かが必ず言い出していた。
絶対やりたくない私は前の体がお酒に強かったのをいいことに「それより飲み比べにしましょー!」と酔ったフリをしながら無理やり別の方向に持って行っては強いお酒でおじさん達を潰していたけど。懐かしい。今のお酒に弱いこの体ではとてもじゃないけど出来ない荒技だ。
しかもよく考えてみたら、それっていわゆる飲みの強制・・・アルコールハラスメント的なやつじゃない?危なかった、昭和世代のおじさん達は何も言わなかったけど世が世なら私は訴えられていたかも知れない。
しみじみとそんな事を思い出していたら
「王様ゲーム?それって何?」
「ゲームで王様を決めるのか?」
「王になった者は何か出来るのですか?」
「興味深いな、聞いたことのないゲームだ。それはカードゲームなのか?」
そう四人に口々に聞かれた。
・・・あれ?まさかこれって、前の世界では散々避けようとしていた王様ゲームをやってみせなきゃいけない流れ?
レジナスさんの手元を覗き込んでいたら、その当の本人に遠慮がちに声をかけられた。
「あ、大丈夫ですよ!見てるだけでも面白いので。」
「それでいいんだ?」
リオン様も私を見てくすりと笑う。
「まだルールを勉強中です!」
からかわれた!ぷんと膨れっ面をした私は、円卓に隣り合っている二人の間に座ったままリオン様から顔を背けると、またレジナスさんの手元を覗き込んだ。
そんな私達に、円卓の向こうからシェラさんとシグウェルさんが口々に
「むくれた顔のユーリ様も大変愛らしいですが、学ぶというならオレの手の内も見ていただきたいですね」
「殿下はともかく、レジナスの手は直情過ぎてつまらなくないか?」
そう声を掛けてきた。
「それがいいんですよ!まだゲームのルールが良く分かっていない私に、基本に忠実なレジナスさんのやり方はすごく分かりやすくて覚えやすいです!」
と返す。レジナスさんも
「シェラやシグウェルのカードゲームのやり方は勝ちにこだわった変則技が多くて、今から覚えようとしているユーリには分かりにくいからな」
シェラさんを鼻で笑った。おお、珍しく好戦的だ。
「まあまあ君達、口よりも手を動かしてくれないかな?ゲームが止まってしまっているよ。これじゃいつまで経っても勝敗がつかないじゃないか。」
レジナスさんに鼻で笑われたシェラさんがキラリと目を光らせたのを見逃さなかったリオン様が無駄なケンカを避けようと仲裁に入った。さすが。
今リオン様達四人は円卓を囲んでカードゲーム・・・いわゆるトランプをしている。
結婚式まで半年を切り、王宮の衣装室で様々なドレスの仮縫い状態のものに袖を通したりそれに合わせる靴やら小物やらを選ぶなどの打ち合わせを終え、夕方になってからようやく解放されて奥の院に帰ってきた私の目に飛び込んできたのはカードゲームをしている四人の姿だった。
この四人が仲良く卓を囲んでゲームに興じている姿なんて初めて見た。なんて珍しい。
そうしげしげと見つめていたらリオン様に
「ユーリが知らないだけで、僕らはわりと伴侶だけの集まりをしているよ?」
と言われて、これまた驚いたけど。
「ええ?みんな仲良く集まって、一体なんの話をしているんです⁉︎」
この四人が集まって盛り上がるような共通の話題なんてある?
不思議に思ってそう聞けば、なぜかリオン様は私から目を逸らして「えーと・・・それは色々と・・・」と言い淀んだ。怪しい。しかもそれに助け舟を出したのがシェラさんで、
「オレ達が集まってする話題などユーリ様のこと以外にありますか?日々ユーリ様の愛らしさについて語りあい、どうすればよりユーリ様に喜んでいただけるかを考え話し合っているのです。」
とあの胡散臭ささえ感じる色気たっぷりの笑顔でにこやかに答えたのだ。
「なんかもう、その流れるように弁の立つ説明が怪しいんですよね・・・」
騙されないぞ、と生温かい目で見つめればそんな私にもシェラさんは楽しそう・・・って言うか嬉しそうに
「本当に、オレがこんなに頑張ってユーリ様の気を引こうと精一杯の色気を振り絞った笑顔を見せているというのに相変わらず全くなびく気配がありませんねぇ。」
と目を細めた。するとシグウェルさんが
「君が無駄に振りまく色気に惹かれないのはユーリぐらいのものだが、君はそれでいいのか?」
とトランプ片手にちらりと自分の隣に座っているシェラさんを見たけど
「それがいいんですよ。オレの笑顔に対してあんなに不審そうな目で見つめてくるのはユーリ様しかおりませんが、もっとそんな眼差しで見つめてもらっても構いません。むしろオレの女神にそんな目で見られるほど、その視線を一身に受けている喜びに胸が打ち震える思いです」
と、なぜか誇らしげにますます饒舌に語っている。大変だ。狂信者が変態の道に片足を突っ込み掛けている気がする。
だから私は、これ以上この話題を続けるのは危険だと判断して慌てて話を変えたのだ。
「そ、そういえばこの世界に来てからこうしたカードゲームを間近に見るのは初めてかもしれません!」
と、そのままリオン様とレジナスさんの間に割り込んだ。そんな私にレジナスさんは
「そうだったか?これは昔からあるカードゲームを勇者様が整備したものだから、もしかするとユーリのいた世界のゲームの形に近いかも知れないぞ?」
と教えてくれた。へえ、そうなんだ。
召喚されてこの世界に来てからはあちこちの土地へ加護を付けに行ったり病気の人を癒したりしていて、よくよく考えてみればこういう遊びに触れる機会は今までほとんどなかった。
通りすがりに他の人達がテーブルを囲んでカードゲームに興じている姿を見かけても「あれ?なんかトランプやってるなー、こっちの世界にもトランプってあるんだ」程度の認識だった。
改めてレジナスさんやリオン様が手にしているカードを見れば、なるほどトランプと同じハートやクローバーの印と数字がついている。
だけどジャックには勇者様であるレンさんの絵姿が、クイーンにはイリューディアさんだろう白い雌鹿、キングにはグノーデルさんらしい白い虎の絵が描いてある。
そしてジョーカーは2枚あり、一枚はヨナスの絵、もう一枚には黒いドラゴンが描かれていた。
そのドラゴンはどうやら勇者様がキリウさんのサポートを受けながら三日三晩戦ったという悪竜らしい。
そんなジョーカーはゲームによっては対戦相手を一回休みさせたり順番を飛ばしたり、カードを取る順番を逆転させたりもできるという。
それっていわゆるスキップとかリバースでは・・・?
なんだかトランプにウノの要素が混ざっていて、その辺りがいかにも勇者様が整備したこの世界独自のカードゲームっぽい。
そんなわけで、トランプのようで微妙にそうじゃないそのカードゲームをこの際私も覚えてみようと思ったのだ。
二人の間に割り込んだまま、椅子も持って来て腰掛けレジナスさんとリオン様に今やっているゲームのルールを教えてもらっていた。
ちなみに今四人がやっているのはいわゆるポーカーみたいなゲームだ。ルールもほぼ一緒。
聞けば他にも神経衰弱みたいな遊び方もあるらしいけど、人並外れて頭が良く記憶力のいいこの四人でそれをやっても一巡で全部札を開けられそうだよね・・・。私が対戦しても絶対勝てる気がしない。
だけどまあ、ポーカーなら頑張ればいいところまでイケるのでは?と思ってレジナスさんの説明を聞きながらルールを覚えているところだ。
「そういえばこれって何か賭けてるんですか?負けたらお酒を一杯飲むとか、お仕事の一部を代わるとか?」
いい大人が四人集まって、ただゲームをしているとかあるのかな?
しかも円卓にはヒルダ様から贈られた、あの氷瀑竜のグラスが置かれていてお酒が入っているのだ。酔ったノリで何か賭けていてもおかしくない。
そう言ったらリオン様に
「酔うほど飲みながらゲームをしているわけではないけど・・・。ユーリの世界ではカードゲームは酔っ払いながらやるの?宴席での定番のゲームだったり?」
と聞かれた。
「え?いえ、さすがに酔いながらやるのとは違いますかね?」
お酒と一緒に楽しむなら個人的にはトランプよりもマージャンの方がイメージとしてぱっと頭に浮かぶ。
「あと宴席でのゲームなら王様ゲームとか・・・?」
これまた、昭和のおじさん世代が多かった職場の飲み会の席で半ば定番のように毎回誰かが必ず言い出していた。
絶対やりたくない私は前の体がお酒に強かったのをいいことに「それより飲み比べにしましょー!」と酔ったフリをしながら無理やり別の方向に持って行っては強いお酒でおじさん達を潰していたけど。懐かしい。今のお酒に弱いこの体ではとてもじゃないけど出来ない荒技だ。
しかもよく考えてみたら、それっていわゆる飲みの強制・・・アルコールハラスメント的なやつじゃない?危なかった、昭和世代のおじさん達は何も言わなかったけど世が世なら私は訴えられていたかも知れない。
しみじみとそんな事を思い出していたら
「王様ゲーム?それって何?」
「ゲームで王様を決めるのか?」
「王になった者は何か出来るのですか?」
「興味深いな、聞いたことのないゲームだ。それはカードゲームなのか?」
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