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番外編
西方見聞録 36
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何でもするし満足させるから新しい伴侶を迎えるのは考え直して欲しいとユーリ様に訴えているシェラザード様に、ウチの皇子は
「キミまでそんな事を言うなんて悲しいよ!別にキミに少しくらい足りないところがあったっていいじゃないか、その足りない部分をボクや他の伴侶の人達で埋めればいいんだし!」
とか何とか声を上げた。だけどシェラザード様は勝手に握手させられていまだに掴まれたままの自分の手を、あの綺麗な金色の瞳に剣呑な光を浮かべながらちらりと見ると
「・・・男に手を握られる趣味などないので、そろそろ切り落としてもよろしいですか?」
なんておかしな事の許可をユーリ様に求めている。
やめて、この人が言うとホントにすぐやりそうだから怖いから!なんで普通に手を振りほどくんじゃなくて切り落とすなんて物騒な方法をまず選ぶんだよ!
そう思っていたのは僕だけではないらしく、ユーリ様も「ダメに決まってますよ!」と小さく悲鳴みたいな声を上げると
「シェラさん、こっち!私と手を繋ぎましょう⁉︎」
皇子に危害を加える前になんとかしようと自らの両手を差し出した。
すると皇子にガッチリと握られていたはずの手からするりと縄抜けでもするようにあっさりと抜け出したシェラザード様は
「ありがとうございます。相変わらずユーリ様はオレをなだめるのがお上手ですね。」
と微笑みながらユーリ様の腰に両手を回してぎゅっと抱きしめると、その瑞々しい艶を放つ黒髪に顔を埋めるようにして頬ずりをした。
「握手は⁉︎」
「せっかくユーリ様がオレを求めてくださっているのですから、全身でそれを感じさせてください。手を繋ぐだけなど勿体無いことはしませんよ。」
まるで飼い猫が大好きな主人に擦り寄っているようにユーリ様の髪に頬を擦り寄せながらシェラザード様がそう話している様子は、ゴロゴロと喉を鳴らしている音まで聞こえてくるみたいだ。
「ふぐっ・・・!ま、満足したら離してもらえませんか⁉︎」
シェラザード様に抱きしめられたまま、その懐から赤く染まった顔で見上げたユーリ様の言葉には答えずに
「久しぶりに感じるユーリ様のぬくもりやその香りには長旅の疲れも、意味不明な事を言う伴侶立候補者に与えられるストレスも、全てが癒やされ消えていくようです。やはりオレの女神は偉大ですね。」
と言ってユーリ様を抱きしめているその手を緩めない。その様子にレジナス様が
「おい・・・」
と注意しようとしたのを当のユーリ様が「だ、大丈夫です!」と止めると自分からもシェラザード様の背中に手を回し、なだめるようにぽんぽんとその背をたたいた。
「大丈夫ですよ、さっきシグウェルさんが言ってたみたいに私はちゃんとジェン皇子からの伴侶の申し出はお断りしましたから。シェラさんが心配するようなことは何もありませんからね!」
リオン王弟殿下達に僕やジェン皇子に見られる中、気恥ずかしそうにしながらもシェラザード様にそう話しているユーリ様を見ていてふと思い出す。
そういえばここに来る前、ユーリ様に呼ばれたお茶の席で皇子が求婚していることをシェラザード様に知られたらどうするかという話になった時、
『その時は私が体を張ってでも止めますから。頑張ります!』
って顔をうっすらと赤らめてユーリ様は自分に気合を入れていた。
あれって今まさに目の前で起きているこういう事なんだろうか。
みんなの目の前で恥ずかしいのを我慢して自分からもシェラザード様を抱きしめながら、ジェン皇子におかしな事をしないように止めている。なんだかものすごく申し訳ないなあ・・・。
なのにジェン皇子はそんなユーリ様の気遣いにも全く気付いてなくて、のん気にも
「ユーリ様の方から抱きしめてもらえるなんていいなあ。やっぱり伴侶って特別なんだね、羨ましい。」
なんて言っている。
ちなみにリオン王弟殿下達はユーリ様とシェラザード様とのやり取りから、この行動がどういう意味なのかは理解したみたいでレジナス様なんかは
「シェラを甘やかし過ぎだユーリ。」
とため息をついた。ユリウス様も
「そうっすよ、そんな事しなくても自分の言うことを聞かなかったらもう口を聞きません!とかもっと強く叱ってもいいと思うっす!」
とそれに頷いていたけど、当のシェラザード様はユーリ様からも抱きしめ返してもらったのとウチの皇子がそれを羨ましそうに見ているのに満足したのか、
「なんとでも言ってください。お優しいユーリ様は決してオレを見離しませんからね。甘やかされているというなら本望です、遠慮なく甘えさせていただきますよ。」
なんて言い返して
「それは甘えているのではなくユーリの優しさにつけ込んでいるだけじゃないのか?」
とレジナス様に怖い顔で睨まれている。するとそれを見ていたシグウェル様がふっ、と口の端を僅かに上げて皮肉げな笑みをもらすと
「残念だったなジェン皇子。どうやら君がさっき主張していた、俺達にはなく君だけにあるはずの魅力はシェラザードがすでに備えていたようだぞ。これではやはり君が伴侶になる意味はないな。」
と言った。ジェン皇子はシグウェル様のその言葉の意味が分かっているらしく
「ズルイなあシェラザード殿は。これじゃホントにボクがお婿さんに入る隙がなくなるよ」
なんて口を尖らせているけど・・・。僕やユーリ様はどういう意味か分からずに、頭の上にハテナマークでも浮かんでいるような顔をしていたんだろう、シグウェル様が呆れたように
「見て分からないか?ユーリよりも歳上なのに、臆面もなくこうして人前で堂々とユーリに甘えて見せて、その上きつく叱られるでもなく甘やかされてその背を撫でられている男が目の前にいるだろう?こんな事が出来るのは彼しかいないだろうが。」
とまだユーリ様に背中をポンポンされながらなだめられているシェラザード様を顎で示した。
あ、なるほど確かに。納得して頷いた僕とは逆にユーリ様はレジナス様とシグウェル様、二人に揃ってシェラザード様を甘やかしていると言われたのが恥ずかしかったのか
「別にシェラさんを甘やかしているつもりはないですよ⁉︎これはただ、シェラさんが他の人におかしな事をしないように掴んでいるだけで・・・!」
なんて話してるけど、この状況では説得力がまるでない。
「も、もう!シェラさんが手を切り落とすとか変なことを言うからですよ⁉︎落ち着きましたか?もう離れますからね・・・って離れない⁉︎」
思わぬ指摘にシェラザード様から慌てて離れようとしたユーリ様だったけど、どうやらシェラザード様の方がユーリ様を離してくれないらしい。
「よく分かりませんが、オレがこうしていることであの皇子がユーリ様の伴侶に申し出るのを諦めるのならば、もうしばらくの間こうしていた方がいいのでは?」
とシェラザード様はもう一度その頬をユーリ様の髪にすり寄せた。
その様子に
「あーあ、ボクの魅力の一つがダメになるなんて」
と、あからさまに落胆している皇子を見たリオン王弟殿下は
「さあ、それじゃあ今度こそ本当に二国間の交渉に入ろうか?」
と何故か満足げに微笑んで、王宮へと場所を移すように促した。
「キミまでそんな事を言うなんて悲しいよ!別にキミに少しくらい足りないところがあったっていいじゃないか、その足りない部分をボクや他の伴侶の人達で埋めればいいんだし!」
とか何とか声を上げた。だけどシェラザード様は勝手に握手させられていまだに掴まれたままの自分の手を、あの綺麗な金色の瞳に剣呑な光を浮かべながらちらりと見ると
「・・・男に手を握られる趣味などないので、そろそろ切り落としてもよろしいですか?」
なんておかしな事の許可をユーリ様に求めている。
やめて、この人が言うとホントにすぐやりそうだから怖いから!なんで普通に手を振りほどくんじゃなくて切り落とすなんて物騒な方法をまず選ぶんだよ!
そう思っていたのは僕だけではないらしく、ユーリ様も「ダメに決まってますよ!」と小さく悲鳴みたいな声を上げると
「シェラさん、こっち!私と手を繋ぎましょう⁉︎」
皇子に危害を加える前になんとかしようと自らの両手を差し出した。
すると皇子にガッチリと握られていたはずの手からするりと縄抜けでもするようにあっさりと抜け出したシェラザード様は
「ありがとうございます。相変わらずユーリ様はオレをなだめるのがお上手ですね。」
と微笑みながらユーリ様の腰に両手を回してぎゅっと抱きしめると、その瑞々しい艶を放つ黒髪に顔を埋めるようにして頬ずりをした。
「握手は⁉︎」
「せっかくユーリ様がオレを求めてくださっているのですから、全身でそれを感じさせてください。手を繋ぐだけなど勿体無いことはしませんよ。」
まるで飼い猫が大好きな主人に擦り寄っているようにユーリ様の髪に頬を擦り寄せながらシェラザード様がそう話している様子は、ゴロゴロと喉を鳴らしている音まで聞こえてくるみたいだ。
「ふぐっ・・・!ま、満足したら離してもらえませんか⁉︎」
シェラザード様に抱きしめられたまま、その懐から赤く染まった顔で見上げたユーリ様の言葉には答えずに
「久しぶりに感じるユーリ様のぬくもりやその香りには長旅の疲れも、意味不明な事を言う伴侶立候補者に与えられるストレスも、全てが癒やされ消えていくようです。やはりオレの女神は偉大ですね。」
と言ってユーリ様を抱きしめているその手を緩めない。その様子にレジナス様が
「おい・・・」
と注意しようとしたのを当のユーリ様が「だ、大丈夫です!」と止めると自分からもシェラザード様の背中に手を回し、なだめるようにぽんぽんとその背をたたいた。
「大丈夫ですよ、さっきシグウェルさんが言ってたみたいに私はちゃんとジェン皇子からの伴侶の申し出はお断りしましたから。シェラさんが心配するようなことは何もありませんからね!」
リオン王弟殿下達に僕やジェン皇子に見られる中、気恥ずかしそうにしながらもシェラザード様にそう話しているユーリ様を見ていてふと思い出す。
そういえばここに来る前、ユーリ様に呼ばれたお茶の席で皇子が求婚していることをシェラザード様に知られたらどうするかという話になった時、
『その時は私が体を張ってでも止めますから。頑張ります!』
って顔をうっすらと赤らめてユーリ様は自分に気合を入れていた。
あれって今まさに目の前で起きているこういう事なんだろうか。
みんなの目の前で恥ずかしいのを我慢して自分からもシェラザード様を抱きしめながら、ジェン皇子におかしな事をしないように止めている。なんだかものすごく申し訳ないなあ・・・。
なのにジェン皇子はそんなユーリ様の気遣いにも全く気付いてなくて、のん気にも
「ユーリ様の方から抱きしめてもらえるなんていいなあ。やっぱり伴侶って特別なんだね、羨ましい。」
なんて言っている。
ちなみにリオン王弟殿下達はユーリ様とシェラザード様とのやり取りから、この行動がどういう意味なのかは理解したみたいでレジナス様なんかは
「シェラを甘やかし過ぎだユーリ。」
とため息をついた。ユリウス様も
「そうっすよ、そんな事しなくても自分の言うことを聞かなかったらもう口を聞きません!とかもっと強く叱ってもいいと思うっす!」
とそれに頷いていたけど、当のシェラザード様はユーリ様からも抱きしめ返してもらったのとウチの皇子がそれを羨ましそうに見ているのに満足したのか、
「なんとでも言ってください。お優しいユーリ様は決してオレを見離しませんからね。甘やかされているというなら本望です、遠慮なく甘えさせていただきますよ。」
なんて言い返して
「それは甘えているのではなくユーリの優しさにつけ込んでいるだけじゃないのか?」
とレジナス様に怖い顔で睨まれている。するとそれを見ていたシグウェル様がふっ、と口の端を僅かに上げて皮肉げな笑みをもらすと
「残念だったなジェン皇子。どうやら君がさっき主張していた、俺達にはなく君だけにあるはずの魅力はシェラザードがすでに備えていたようだぞ。これではやはり君が伴侶になる意味はないな。」
と言った。ジェン皇子はシグウェル様のその言葉の意味が分かっているらしく
「ズルイなあシェラザード殿は。これじゃホントにボクがお婿さんに入る隙がなくなるよ」
なんて口を尖らせているけど・・・。僕やユーリ様はどういう意味か分からずに、頭の上にハテナマークでも浮かんでいるような顔をしていたんだろう、シグウェル様が呆れたように
「見て分からないか?ユーリよりも歳上なのに、臆面もなくこうして人前で堂々とユーリに甘えて見せて、その上きつく叱られるでもなく甘やかされてその背を撫でられている男が目の前にいるだろう?こんな事が出来るのは彼しかいないだろうが。」
とまだユーリ様に背中をポンポンされながらなだめられているシェラザード様を顎で示した。
あ、なるほど確かに。納得して頷いた僕とは逆にユーリ様はレジナス様とシグウェル様、二人に揃ってシェラザード様を甘やかしていると言われたのが恥ずかしかったのか
「別にシェラさんを甘やかしているつもりはないですよ⁉︎これはただ、シェラさんが他の人におかしな事をしないように掴んでいるだけで・・・!」
なんて話してるけど、この状況では説得力がまるでない。
「も、もう!シェラさんが手を切り落とすとか変なことを言うからですよ⁉︎落ち着きましたか?もう離れますからね・・・って離れない⁉︎」
思わぬ指摘にシェラザード様から慌てて離れようとしたユーリ様だったけど、どうやらシェラザード様の方がユーリ様を離してくれないらしい。
「よく分かりませんが、オレがこうしていることであの皇子がユーリ様の伴侶に申し出るのを諦めるのならば、もうしばらくの間こうしていた方がいいのでは?」
とシェラザード様はもう一度その頬をユーリ様の髪にすり寄せた。
その様子に
「あーあ、ボクの魅力の一つがダメになるなんて」
と、あからさまに落胆している皇子を見たリオン王弟殿下は
「さあ、それじゃあ今度こそ本当に二国間の交渉に入ろうか?」
と何故か満足げに微笑んで、王宮へと場所を移すように促した。
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