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番外編
西方見聞録 12
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僕の目の前に立つ、すらりと均整のとれた体付きの男性はどう見ても全身包帯だらけのケガだらけだ。
だけどそんな風体だというのに黒い眼帯でふさがれた片目とは別の、長めの前髪の間から覗くもう片方の金色の瞳をすっと細めて
「先に中へ入っていただけますか?ここを片付けてすぐに向かいますから」
と微笑んだ。それだけでも何とも言えない人を惹きつけるような色気があるし、目の下の泣きぼくろもその色っぽさに拍車をかけていて、思わずぼうっと見とれてしまう。
男なのにただ立っていてちょっと笑うだけでもこんなに色っぽい人がいるんだぁ・・・しかも片目しか見えてない状態で。まるで人を惑わす妖しい魔物の類のようだ。
そんな事を思ってボヤッとしている僕の反応の鈍さに構わず・・・もしかするとそんな反応をされるのは日常茶飯事で慣れているのかもしれないー・・・シェラザード様は、傍らの騎士に何事かを指示していた。
そして僕と使用人はその騎士に案内されるまま、訓練場の近くの建物の中へと案内された。
「ここはキリウ小隊専用の宿舎になっているので、他の騎士達に用件の邪魔をされる事もありません。時間の許す限り隊長とじっくり打ち合わせが出来ますよ。」
そう説明されて通された部屋は、広々とした中にすでに色とりどりのいくつもの布見本があったり、宝石が無造作に並べてある。
そしてさっと目を走らせて盗み見た、大きなテーブルの上にある地図はなぜかルーシャ国ではなく小さな島々が転々としている海沿いの国のものだったりする。
なんていうか、およそ騎士らしくない部屋だ。まるでそう、強いて言うなら商人ぽい。
そんな僕の考えに気付いたのか、案内してくれた騎士さんは苦笑している。
「驚かれましたか?現在この部屋はユーリ様のために隊長があれこれ準備したり下調べしている物をまとめておく部屋になっておりまして。この通りユーリ様にふさわしい物を国内はおろか近隣国からも、ありとあらゆる物を取り寄せています。ですからまあ・・・うん、あなた方も頑張ってください。」
どういうこと?シェラザード様が納得できる物を見せられないと今日はここから帰れないとか?
気になることを言いっぱなしにしたまま、僕達を案内してくれた騎士はいなくなってしまった。
「ええ・・・大丈夫かなあ」
不安を漏らしながら持って来た見本を出していれば、それを手伝いながら使用人が
「それにしても、ほとんど顔は見えていませんでしたが噂通りの色男でしたねぇ」
と感心したようにため息をついた。
「ちょっと微笑まれただけなのに、男である私でもどきどきしてしまいました。」
と言っているから見惚れていたのはどうやら僕だけじゃなかったらしい。
「うーん、でもあんなにケガだらけで大丈夫なのかな?挙式は半年後なんですよね?」
疑問を口に出せば、使用人も首を傾げた。
「あ、そうなんですよ。さっきはあの雰囲気にのまれて気付きませんでしたが、そもそもシェラザード様がケガをしていること自体が不思議です。」
「そっか、国でも有名な小隊の隊長で強いはずなのにあんなにケガをしてるのは変ですよね?」
「いえ、それ以前にユーリ様のご加護があるはずなのでケガをするわけがないと思います。」
へぇ、それは知らなかった。ユーリ様の力はケガや病気を治すだけじゃなく、そもそもそんな事にならないようにも出来るんだ。だけどそれなら確かに変だ。
「じゃああのケガは一体・・・?」
布見本を並べる手を止め、使用人と二人で顔を見合わせた時だ。
「さあ、それではさっそく見せてもらいましょうか?」
さっき聞いたあの艶やかな声がして、振り向けばティーセットを持って立つシェラザード様がいた。
服装はさっきと同じ黒い騎士服だけど、優雅な仕草で片手にティーセットの乗ったお盆を持ち、もう片方の手でパタンと扉を閉めるその姿のどこにもさっきの包帯は見当たらない。
それどころか、両手を使ってるし大型の猫型の獣みたいな軽やかな足取りでこちらに歩いて来るし、その金色の瞳は両方ともしっかりこちらを見つめて微笑んでいるし。
「あ、あれ?ケガは・・・」
思わずそう言うとああ、と頷いたシェラザード様は僕らに座るように促すと自らもその正面に腰掛けた。
そのまま流れるように優雅な手付きでお茶を入れるシェラザード様はまた一つ色っぽい笑みをこぼす。
「あれですか。訓練の一環ですよ。ユーリ様をお守りするには、どんな状況であっても対応出来ませんとね。いくらユーリ様のご加護があろうとも、いつでも己が五体満足の万全な状態でお側にいるとも限りませんし」
「五体満足」
バカみたいなおうむ返しをすれば、艶然と微笑まれる。
「たとえ目を抉られようとも手足の一、二本を無くそうともユーリ様をお守り出来ませんと。そのための訓練ですよ。ただ、もう少し強度を上げても良さそうでしたので明日は両腕は後ろ手に拘束して、足も重り入りの捕虜用の拘束具を使ってもいいかもしれませんねぇ・・・」
ふむ、と長い指先を顎に当てて考えているその姿にも思わずうっとり見惚れてしまいそうになる。
だけど言ってることはちょっとおかしい。いくらユーリ様を守るためだからって、そこまでする?
僕らの国でも日常訓練では自分に不利な状況を考えた鍛錬はするけど、せいぜい目隠しするとか耳栓をするくらいだ。
普段からそんな自虐行為めいた訓練はしない。
そもそも自分の手足や視覚を犠牲にしてまで誰かを守る事を念頭においた訓練自体しないし。
シェラザード様という人はユーリ様に対して普段からそこまで考えるほど献身的なんだなあと感心した。
多分ウチの皇子には一生かかっても出て来ない発想だ。
と、そこで
「なるほど、これが作り直した布地ですか。」
シェラザード様の声にハッとする。気付けばシェラザード様は真剣な目で僕の持って来た布地をじっと見つめていた。
「ああ、やはり金毛大羊の糸が入ると面白いですね。見たことのない輝きです。手触りも軽さも素晴らしい。」
その言葉にホッとする。どうやらこれ以上の作り直しはなさそうだ。
「これはユーリ様のものではなくオレ達の礼装服用ですよね?」
「そ、そうです。同じ白の布地でも金糸の混入割合によって反射する光の色味が変わるので、その辺りも選んでいただこうと思いまして!」
僕の説明を聞きながらふむ、とシェラザード様はその隣に並べてあったパッと見は全く同じ白い布を手に取った。
「なるほど、こちらは淡い緑がかった輝きですね。緑はユーリ様もお好きな色ですが、ユーリ様の清廉さと白い肌の美しさを際立たせるならば隣に立つオレ達もやはり青みがかった白地の方が良いのか・・・」
呟きながら、数種類の布地を真剣な目で見比べているそれはまるで一流の商人に目利きをされているようで緊張する。あれ?この人って商人じゃなくて騎士だったよね?
「・・・ではオレ達の礼装と手袋はこちらの布で。それからユーリ様の衣装はこちらの金色の光を反射する布地を。そうそう、ユーリ様の手袋は同じ色味でドレスよりも薄手で柔らかな布地を使ってください。握力の弱い方ですからね、ブーケを持つ手や指先が動かしにくくてはかわいそうです。」
「あ、え、はい・・・!」
しばし考え込み、どの布地にするか迷っていたと思ったら顔を上げたシェラザード様は自分やユーリ様の衣装をてきぱきと選び出した。
なんていうかその判断の速さも商人ぽい。商人と違うのはまとっているその雰囲気がやたらと色っぽいってことだけど。
しかもユーリ様の手袋の話をしながらブーケを持つその姿を思い描いたのか、手にしている布地をまるで愛しい人を見るかのような目で見て見つめて微笑んだら、また更に周りに振りまく色気が増した。
おかげでシェラザード様の言葉をメモっていた使用人がそれに見惚れて手が止まっている。
なるほど、こんな色気をしょっちゅう振りまいて歩いていたらぶつかるだけで妊娠するなんて言われるわけだ。
ていうかこんな色気ダダ漏れな人といつも一緒にいるユーリ様ってどうしてるんだろう。僕ならぼーっとして会話にならなくなりそう。
そんな僕らにシェラザード様は
「きちんと書き留めていますか?間違いがあってはいけませんよ。ユーリ様の一番美しい姿を国民に見せる場なのです。その輝くばかりに美しい女神のようなお姿で、見る者全てを圧倒するようなドレスの元となる布地を作る重責は理解していますか?」
と布を織る重責をさらに重くするようなプレッシャーをかけてきた。
「わ、分かりました」
身を固くしてコクコク頷くと、シェラザード様はふと僕の横に視線を移した。
「その小箱はなんです?」
「あ!これは」
まだ並べていなかった。慌てて箱を開けて見せる。その中身は布じゃない。
「レースの見本ですか」
箱の中から小さなレース編みの見本を手に取ったシェラザード様へ慌てて説明する。
「はい。ユーリ様の手袋の裾やドレスに付けるレースです。お色はドレスに合わせますが、模様の種類やレース地の厚さも様々ですのでどれにするか選んでいただこうとお持ちしました。」
もちろん全て職人の手編みだ。シェラザード様もそれは理解しているらしく、
「東国の職人達の手仕事の見事さには感心するばかりですね。これほど細くこまやかで目の揃ったレースを編めるとは」
と感心している。やったね!早く帰って工房のみんなに褒められたって教えてあげたい。
浮かれた僕は、それまでシェラザード様の振りまく色気に圧倒されていたこともあって、その小箱の奥に見せるつもりのない物を隠し入れていたのをすっかり忘れていた。
思い出したのはシェラザード様が小箱の奥深くに突っ込んで隠していたはずのそれを目ざとく見つけて手に取ったからだ。
「おや、これは・・・。素晴らしいですね。」
そう感嘆の声をもらしたシェラザード様がその色気がただよう指先で掬い上げたのは僕が工房の職人達に無理やり持たされた、例の金糸で出来たネックレスだった。
だけどそんな風体だというのに黒い眼帯でふさがれた片目とは別の、長めの前髪の間から覗くもう片方の金色の瞳をすっと細めて
「先に中へ入っていただけますか?ここを片付けてすぐに向かいますから」
と微笑んだ。それだけでも何とも言えない人を惹きつけるような色気があるし、目の下の泣きぼくろもその色っぽさに拍車をかけていて、思わずぼうっと見とれてしまう。
男なのにただ立っていてちょっと笑うだけでもこんなに色っぽい人がいるんだぁ・・・しかも片目しか見えてない状態で。まるで人を惑わす妖しい魔物の類のようだ。
そんな事を思ってボヤッとしている僕の反応の鈍さに構わず・・・もしかするとそんな反応をされるのは日常茶飯事で慣れているのかもしれないー・・・シェラザード様は、傍らの騎士に何事かを指示していた。
そして僕と使用人はその騎士に案内されるまま、訓練場の近くの建物の中へと案内された。
「ここはキリウ小隊専用の宿舎になっているので、他の騎士達に用件の邪魔をされる事もありません。時間の許す限り隊長とじっくり打ち合わせが出来ますよ。」
そう説明されて通された部屋は、広々とした中にすでに色とりどりのいくつもの布見本があったり、宝石が無造作に並べてある。
そしてさっと目を走らせて盗み見た、大きなテーブルの上にある地図はなぜかルーシャ国ではなく小さな島々が転々としている海沿いの国のものだったりする。
なんていうか、およそ騎士らしくない部屋だ。まるでそう、強いて言うなら商人ぽい。
そんな僕の考えに気付いたのか、案内してくれた騎士さんは苦笑している。
「驚かれましたか?現在この部屋はユーリ様のために隊長があれこれ準備したり下調べしている物をまとめておく部屋になっておりまして。この通りユーリ様にふさわしい物を国内はおろか近隣国からも、ありとあらゆる物を取り寄せています。ですからまあ・・・うん、あなた方も頑張ってください。」
どういうこと?シェラザード様が納得できる物を見せられないと今日はここから帰れないとか?
気になることを言いっぱなしにしたまま、僕達を案内してくれた騎士はいなくなってしまった。
「ええ・・・大丈夫かなあ」
不安を漏らしながら持って来た見本を出していれば、それを手伝いながら使用人が
「それにしても、ほとんど顔は見えていませんでしたが噂通りの色男でしたねぇ」
と感心したようにため息をついた。
「ちょっと微笑まれただけなのに、男である私でもどきどきしてしまいました。」
と言っているから見惚れていたのはどうやら僕だけじゃなかったらしい。
「うーん、でもあんなにケガだらけで大丈夫なのかな?挙式は半年後なんですよね?」
疑問を口に出せば、使用人も首を傾げた。
「あ、そうなんですよ。さっきはあの雰囲気にのまれて気付きませんでしたが、そもそもシェラザード様がケガをしていること自体が不思議です。」
「そっか、国でも有名な小隊の隊長で強いはずなのにあんなにケガをしてるのは変ですよね?」
「いえ、それ以前にユーリ様のご加護があるはずなのでケガをするわけがないと思います。」
へぇ、それは知らなかった。ユーリ様の力はケガや病気を治すだけじゃなく、そもそもそんな事にならないようにも出来るんだ。だけどそれなら確かに変だ。
「じゃああのケガは一体・・・?」
布見本を並べる手を止め、使用人と二人で顔を見合わせた時だ。
「さあ、それではさっそく見せてもらいましょうか?」
さっき聞いたあの艶やかな声がして、振り向けばティーセットを持って立つシェラザード様がいた。
服装はさっきと同じ黒い騎士服だけど、優雅な仕草で片手にティーセットの乗ったお盆を持ち、もう片方の手でパタンと扉を閉めるその姿のどこにもさっきの包帯は見当たらない。
それどころか、両手を使ってるし大型の猫型の獣みたいな軽やかな足取りでこちらに歩いて来るし、その金色の瞳は両方ともしっかりこちらを見つめて微笑んでいるし。
「あ、あれ?ケガは・・・」
思わずそう言うとああ、と頷いたシェラザード様は僕らに座るように促すと自らもその正面に腰掛けた。
そのまま流れるように優雅な手付きでお茶を入れるシェラザード様はまた一つ色っぽい笑みをこぼす。
「あれですか。訓練の一環ですよ。ユーリ様をお守りするには、どんな状況であっても対応出来ませんとね。いくらユーリ様のご加護があろうとも、いつでも己が五体満足の万全な状態でお側にいるとも限りませんし」
「五体満足」
バカみたいなおうむ返しをすれば、艶然と微笑まれる。
「たとえ目を抉られようとも手足の一、二本を無くそうともユーリ様をお守り出来ませんと。そのための訓練ですよ。ただ、もう少し強度を上げても良さそうでしたので明日は両腕は後ろ手に拘束して、足も重り入りの捕虜用の拘束具を使ってもいいかもしれませんねぇ・・・」
ふむ、と長い指先を顎に当てて考えているその姿にも思わずうっとり見惚れてしまいそうになる。
だけど言ってることはちょっとおかしい。いくらユーリ様を守るためだからって、そこまでする?
僕らの国でも日常訓練では自分に不利な状況を考えた鍛錬はするけど、せいぜい目隠しするとか耳栓をするくらいだ。
普段からそんな自虐行為めいた訓練はしない。
そもそも自分の手足や視覚を犠牲にしてまで誰かを守る事を念頭においた訓練自体しないし。
シェラザード様という人はユーリ様に対して普段からそこまで考えるほど献身的なんだなあと感心した。
多分ウチの皇子には一生かかっても出て来ない発想だ。
と、そこで
「なるほど、これが作り直した布地ですか。」
シェラザード様の声にハッとする。気付けばシェラザード様は真剣な目で僕の持って来た布地をじっと見つめていた。
「ああ、やはり金毛大羊の糸が入ると面白いですね。見たことのない輝きです。手触りも軽さも素晴らしい。」
その言葉にホッとする。どうやらこれ以上の作り直しはなさそうだ。
「これはユーリ様のものではなくオレ達の礼装服用ですよね?」
「そ、そうです。同じ白の布地でも金糸の混入割合によって反射する光の色味が変わるので、その辺りも選んでいただこうと思いまして!」
僕の説明を聞きながらふむ、とシェラザード様はその隣に並べてあったパッと見は全く同じ白い布を手に取った。
「なるほど、こちらは淡い緑がかった輝きですね。緑はユーリ様もお好きな色ですが、ユーリ様の清廉さと白い肌の美しさを際立たせるならば隣に立つオレ達もやはり青みがかった白地の方が良いのか・・・」
呟きながら、数種類の布地を真剣な目で見比べているそれはまるで一流の商人に目利きをされているようで緊張する。あれ?この人って商人じゃなくて騎士だったよね?
「・・・ではオレ達の礼装と手袋はこちらの布で。それからユーリ様の衣装はこちらの金色の光を反射する布地を。そうそう、ユーリ様の手袋は同じ色味でドレスよりも薄手で柔らかな布地を使ってください。握力の弱い方ですからね、ブーケを持つ手や指先が動かしにくくてはかわいそうです。」
「あ、え、はい・・・!」
しばし考え込み、どの布地にするか迷っていたと思ったら顔を上げたシェラザード様は自分やユーリ様の衣装をてきぱきと選び出した。
なんていうかその判断の速さも商人ぽい。商人と違うのはまとっているその雰囲気がやたらと色っぽいってことだけど。
しかもユーリ様の手袋の話をしながらブーケを持つその姿を思い描いたのか、手にしている布地をまるで愛しい人を見るかのような目で見て見つめて微笑んだら、また更に周りに振りまく色気が増した。
おかげでシェラザード様の言葉をメモっていた使用人がそれに見惚れて手が止まっている。
なるほど、こんな色気をしょっちゅう振りまいて歩いていたらぶつかるだけで妊娠するなんて言われるわけだ。
ていうかこんな色気ダダ漏れな人といつも一緒にいるユーリ様ってどうしてるんだろう。僕ならぼーっとして会話にならなくなりそう。
そんな僕らにシェラザード様は
「きちんと書き留めていますか?間違いがあってはいけませんよ。ユーリ様の一番美しい姿を国民に見せる場なのです。その輝くばかりに美しい女神のようなお姿で、見る者全てを圧倒するようなドレスの元となる布地を作る重責は理解していますか?」
と布を織る重責をさらに重くするようなプレッシャーをかけてきた。
「わ、分かりました」
身を固くしてコクコク頷くと、シェラザード様はふと僕の横に視線を移した。
「その小箱はなんです?」
「あ!これは」
まだ並べていなかった。慌てて箱を開けて見せる。その中身は布じゃない。
「レースの見本ですか」
箱の中から小さなレース編みの見本を手に取ったシェラザード様へ慌てて説明する。
「はい。ユーリ様の手袋の裾やドレスに付けるレースです。お色はドレスに合わせますが、模様の種類やレース地の厚さも様々ですのでどれにするか選んでいただこうとお持ちしました。」
もちろん全て職人の手編みだ。シェラザード様もそれは理解しているらしく、
「東国の職人達の手仕事の見事さには感心するばかりですね。これほど細くこまやかで目の揃ったレースを編めるとは」
と感心している。やったね!早く帰って工房のみんなに褒められたって教えてあげたい。
浮かれた僕は、それまでシェラザード様の振りまく色気に圧倒されていたこともあって、その小箱の奥に見せるつもりのない物を隠し入れていたのをすっかり忘れていた。
思い出したのはシェラザード様が小箱の奥深くに突っ込んで隠していたはずのそれを目ざとく見つけて手に取ったからだ。
「おや、これは・・・。素晴らしいですね。」
そう感嘆の声をもらしたシェラザード様がその色気がただよう指先で掬い上げたのは僕が工房の職人達に無理やり持たされた、例の金糸で出来たネックレスだった。
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