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番外編
なごり雪 19
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目の前で茶番を見せられていると私とレジナスさんを眺めたシェラさんには言われたけど、私だってまさかレジナスさんに今さらながら初対面の印象を語られるとは思っていなかった。
おかげでレジナスさんの後にシェラさんにも一口あーんをしてあげようと思っていたのに、一瞬それを忘れてしまっていた。
「ユーリ様を一目見て惹かれたという点ではオレも同じなのですが、声の大きい男には敵いませんねぇ・・・」
肘をついたまま生暖かい目でまだ私達を見ていたシェラさんがそう言ったものだから、我に返って慌ててそちらにもパイを一つ差し出す。
「シェラさんもどうぞ!」
「・・・オレにもいただけるので?」
キョトンとしたシェラさんに勢いよく頷く。
「王都のケーキ屋さんでの出来事の逆ですよ。あの時は二人に食べさせてもらいましたよね?だから今回は私が二人に一口ずつ食べてもらいます!」
前回は小競り合いする二人をなだめるためにしたことだけど今回もまあ同じようなパターンだ。あーんをして食べるのが私か相手かってだけで。
「それでは遠慮なくいただきましょう。」
パイを持つ私の手と顔を交互に見たシェラさんがまるでリオン様のようにふんわりと微笑む。
そのまま私の手首を掴みテーブルに身を乗り出すと、パイをつまんでいる私の指ごとあの形の良い唇で口に含んだ。
「⁉︎」
驚いて私は固まり、レジナスさんは「おい‼︎」と声を上げたけど私が膝の上にいるので止めようにも身動き出来ないでいる。
そんな私達に構わずパイを咀嚼して飲み込んだシェラさんは、それでもまだ掴んでいる私の手首を離さない。それどころか、
「・・・なるほど、大変甘くておいしいですね。」
と言って、わざと口に含んだ私の指先をぺろりとひと舐めした後にかしりと密やかに噛んでまた微笑んだ。
今度はさっきのふんわりとした柔らかな微笑みではなく、いつものあの無駄な色気全開の妖しい微笑みだ。
「何してるんですか‼︎」
「おやまあ、逆毛を立てた仔猫のように愛らしい反応ですね。そう恥ずかしがらないでください、伴侶なのですから。」
瞳を笑ませてそう言うシェラさんの方こそ、まるで仔猫がいたずらに甘噛みをするようにかしりとまた指を噛んだ。
・・・痛いわけじゃないその絶妙な刺激はまるで噛まれてるって言うか指を食べられているみたいで背中がムズムズする変な気分になる。
恥ずかしいやら何やらで赤くなっているそんな私の反応が面白いのかシェラさんは目を細めてまだ私の指をかじかじしている。
と、突然私の顔の横からレジナスさんの腕がにゅっと伸びたかと思うと
「いい加減にしろ!」
とシェラさんの鼻をギュッとつまんだ。
息が出来ないシェラさんはたまらず、ようやく私の指を口から離す。
何をするんですか、と鼻をさすりながら眉間に皺を寄せたシェラさんを無視してレジナスさんは
「消毒しろユーリ!」
と言うが早いかお茶の追加用に用意されていたらしいお湯でいつの間にか濡らしてあった温かなタオルを手にして、さっきまでシェラさんに噛まれていた私の指がぐいぐいとぬぐわれた。
なんか似たようなことがユリウスさんにイチゴを食べさせられた時にあったなあ、あれは指を食べられたんじゃなくてユリウスさんの指が私の口に当たったんだっけ?と思い出していたら、
「本当にお前は油断も隙もないな!」
まだ私の指を一本ずつ丁寧に拭いているレジナスさんが文句を言い、それに答えているシェラさんとの会話が耳にはいってきた。
「ですがユリウスはイチゴごと自分の指先をユーリ様のこの愛らしい小さなお口に食まれたと聞いております。偶然とはいえ、伴侶でも何でもないその辺のただの輩がそんな僥倖に見舞われるなど、一体どれだけ徳を積めばそうなるのか分かりませんが・・・それを聞いた時ぜひオレも同じような事をする機会に恵まれないものかと思っておりました。」
いや、ユリウスさんをその辺の輩扱いって。ていうか、ノイエ領でのあのイチゴ事件を連想したのは間違いじゃなかった⁉︎
「どこでその話を聞いてきたんですか⁉︎リオン様にはもの凄く怒られたし、あの件はほぼ禁句になってるんですけど!それにあれは指を食べたんじゃなくて、たまたまユリウスさんの指に私の口が当たったんです!」
思わず二人の会話に割り込んでしまった。あの件の後、リオン様にお仕置きと称して羞恥プレイのようにむりくりイチゴを食べさせられた上にレジナスさんまで巻き添えで私にブドウを食べさせたのだ。
するとシェラさんは
「ユーリ様が魔導士院を訪れて軽食やお菓子を出されても、毎回ユリウスは不自然にユーリ様から距離を取り決して同じテーブルにはつきませんでしょう?公的な場での食事では同席して食事を取るのに、妙に警戒しているその様子が怪しかったので直接本人に聞きました。」
と、こともなげに言ったものだから思わずユリウスさんに同情した。多分シェラさんにこの笑顔でめちゃくちゃ圧をかけられて言わされたんだろうなあ・・・。
「あれは不可抗力でしたから!」
一応反論したけどシェラさんには
「初めてそれを聞いた時は、ユーリ様のお口に触れたユリウスのあの指先を切り落としてやりたい衝動を抑えるのが大変でした・・・。ユーリ様が悲しむと思い自制したオレを褒めてください。」
と真面目な顔で言われた。冗談じゃないところが恐ろしい。
しかも続けて
「さすがに同じ事をしたいと思っても、恐れ多くもまさかオレがユーリ様の愛らしいお口の中に指を入れるわけにはいかないでしょう?それはまだ早いですからね。ですが逆ならまあ、ユーリ様の指を清めるという意味ではご奉仕の範囲内かと・・・」
なんておかしな事を言う。
「まだ早い⁉︎ご奉仕?何言ってるんですかシェラさん!」
「無事結婚式を終えたら色々としましょうね。あと半年が実に待ち遠しい。」
え、何それ怖い。結婚式が終わったら私、何をされるんだろう。
目の前の爽やかな初夏の朝に似つかわしくない艶然とした笑みを浮かべているシェラさんをじっと見つめても全然考えが読めない。
するとふいに体が勝手にくるりと回れ右をして目の前が暗くなった。
レジナスさんが私を膝に乗せたまま、自分の胸元へ顔を埋めるように私の体の位置を変え腕の中に抱き込んだのだ。おかげで視界どころか耳まで塞がれたような感じになる。
「もういい!ユーリ、これ以上シェラを見るな話を聞くな、碌なことにならないぞ!」
そんな忠告する声がレジナスさんの腕の向こうから聞こえてくる。
「心外ですね、具体的に何をどうこうと言うならまだしも、大したことは言っていないというのに。」
「充分言っているだろうが!」
「どこがです?例えば『早くユーリ様をオレの手でトロトロに蕩かし悦びの頂きから降りて来られないようにして、その中にずっとオレ自身を埋めたままでいたいです』ぐらいのことを言うならまだしも。いえ、これでもまだ婉曲な表現だとは思いますが」
「どこが婉曲だ、何を言ってるんだお前は!正気か?ユーリに聞こえていたらどうする!」
私を抱き込んでいるレジナスさんの腕にグッと力がこもった。く、苦しい。
あとバッチリ聞こえてるんですけどホント何言ってるのシェラさん。これも結婚式が近付いて浮かれているってことなんだろうか?
色んな考えが頭の中を巡ったけど、とりあえずもう少し腕の力をゆるめてもらおうとレジナスさんの胸板をギブアップとばかりにトントン叩く。
だけどまだシェラさんへの説教に夢中なレジナスさんは私の非力な力で叩かれても全然気付かない。
あ、ヤバい。なんかちょっと息苦しくなってきた。
硬い筋肉に四方をガッチリ囲まれている上にレジナスさんの体温の高さに少し暑くなって頭がぼんやりしてくる。
気絶したらどうしよう、そんなことになったら絶対レジナスさん落ち込むよね?
そう内心焦り始めた時だった。
エル君の「お話中失礼しますが」と言う声が遠くで聞こえてきた。
エル君はレジナスさんと一緒にここに現れたけど私達が朝食を食べている間は少し離れた所から静かに見守ってくれていたはずだ。
「そろそろユーリ様のお支度をしないと今日の予定に間に合わなくなります。あとさっきからユーリ様が苦しそうです。」
私の状態より先に朝の支度の話を優先するとかさすがエル君だ、私に対する塩対応は全くブレない。
変なところで感心していたらパッと視界が開けて呼吸が楽になった。
「すまないユーリ、大丈夫か⁉︎つい話に夢中になってしまった!」
肩を掴んでレジナスさんが私の顔を覗き込む。シェラさんは呆れたように
「あなたの馬鹿力でユーリ様を窒息させたらどうするんですか?」
と仰いで風を送ってくれている。
「だ、だいじょーぶ・・・です!ちょっと暑くなっただけで」
ふうはあと息をつきながらレジナスさんにニコリと微笑んで見せて、大丈夫アピールをした。
するとそんな私を見たレジナスさんがウッと言葉を詰まらせて何故か赤くなり目を逸らす。
「・・・?どうかしました?」
「いや、あまりそんな顔で俺を見ないでもらえるか・・・」
ごもごもとレジナスさんにしては珍しく口ごもって歯切れが悪い。
するとシェラさんがああなるほど、と頷いた。
「ユーリ様、どうかその男の膝から降りてあげてください。ほのかに上気した頬と暑さに潤んだ瞳に乱れた髪で膝に乗り上げられたまま好いた女性に見上げられるなど、朝から刺激が強過ぎますからね。」
「え?」
「自分の膝の上でそんな可愛いおねだりをされるような顔を見せられてはレジナスでなくオレでもさすがに腰に来ます。」
「・・・~っ‼︎」
シェラさんの説明は婉曲ではあったけどすぐに理解した。
慌ててレジナスさんの上から降りたけど、その時手をついた場所が悪かった。
僅かにレジナスさんの股間の辺りにさっと触れてしまい、周りとはほんの少し固さの違うモノを手に感じた。
あ、まずいまずい!ただでさえアレなところに更に刺激を与えてしまった。
そしてそれまでシェラさんの言葉に言い返しもしないで黙って私から顔を逸らしていたレジナスさんが体をびくりと震わせて、
「ユーリ⁉︎」
と声を上げた。
「ご、ごめんなさい!わざとじゃないんですよ、その・・・着替えてきます‼︎」
レジナスさんに触れてしまった片手を隠すようにもう片方の手でぎゅっと包み込み、じりじりと後ずさりながら言い訳をして逃げるようにその場を後にする。
背後ではシェラさんがレジナスさんに、
「ユーリ様に触っていただけるなど羨ましいことこの上ないですね。というか、これであなたはオレがユーリ様の指を口にしたとは怒れなくなりましたね。」
なんて言っている。うう、恥ずかしい。
顔から火が出そうになりながら、片手を包み込むようにしたままバタバタと自室に戻る。
・・・だけどあれ?この仕草ってなんか、レジナスさんのモノを触った余韻を感じてるみたいな変な誤解を与えないよね?とハタと気付いたのは、その後赤い顔のままシンシアさんに着替えを手伝ってもらっている時なのだった・・・。
おかげでレジナスさんの後にシェラさんにも一口あーんをしてあげようと思っていたのに、一瞬それを忘れてしまっていた。
「ユーリ様を一目見て惹かれたという点ではオレも同じなのですが、声の大きい男には敵いませんねぇ・・・」
肘をついたまま生暖かい目でまだ私達を見ていたシェラさんがそう言ったものだから、我に返って慌ててそちらにもパイを一つ差し出す。
「シェラさんもどうぞ!」
「・・・オレにもいただけるので?」
キョトンとしたシェラさんに勢いよく頷く。
「王都のケーキ屋さんでの出来事の逆ですよ。あの時は二人に食べさせてもらいましたよね?だから今回は私が二人に一口ずつ食べてもらいます!」
前回は小競り合いする二人をなだめるためにしたことだけど今回もまあ同じようなパターンだ。あーんをして食べるのが私か相手かってだけで。
「それでは遠慮なくいただきましょう。」
パイを持つ私の手と顔を交互に見たシェラさんがまるでリオン様のようにふんわりと微笑む。
そのまま私の手首を掴みテーブルに身を乗り出すと、パイをつまんでいる私の指ごとあの形の良い唇で口に含んだ。
「⁉︎」
驚いて私は固まり、レジナスさんは「おい‼︎」と声を上げたけど私が膝の上にいるので止めようにも身動き出来ないでいる。
そんな私達に構わずパイを咀嚼して飲み込んだシェラさんは、それでもまだ掴んでいる私の手首を離さない。それどころか、
「・・・なるほど、大変甘くておいしいですね。」
と言って、わざと口に含んだ私の指先をぺろりとひと舐めした後にかしりと密やかに噛んでまた微笑んだ。
今度はさっきのふんわりとした柔らかな微笑みではなく、いつものあの無駄な色気全開の妖しい微笑みだ。
「何してるんですか‼︎」
「おやまあ、逆毛を立てた仔猫のように愛らしい反応ですね。そう恥ずかしがらないでください、伴侶なのですから。」
瞳を笑ませてそう言うシェラさんの方こそ、まるで仔猫がいたずらに甘噛みをするようにかしりとまた指を噛んだ。
・・・痛いわけじゃないその絶妙な刺激はまるで噛まれてるって言うか指を食べられているみたいで背中がムズムズする変な気分になる。
恥ずかしいやら何やらで赤くなっているそんな私の反応が面白いのかシェラさんは目を細めてまだ私の指をかじかじしている。
と、突然私の顔の横からレジナスさんの腕がにゅっと伸びたかと思うと
「いい加減にしろ!」
とシェラさんの鼻をギュッとつまんだ。
息が出来ないシェラさんはたまらず、ようやく私の指を口から離す。
何をするんですか、と鼻をさすりながら眉間に皺を寄せたシェラさんを無視してレジナスさんは
「消毒しろユーリ!」
と言うが早いかお茶の追加用に用意されていたらしいお湯でいつの間にか濡らしてあった温かなタオルを手にして、さっきまでシェラさんに噛まれていた私の指がぐいぐいとぬぐわれた。
なんか似たようなことがユリウスさんにイチゴを食べさせられた時にあったなあ、あれは指を食べられたんじゃなくてユリウスさんの指が私の口に当たったんだっけ?と思い出していたら、
「本当にお前は油断も隙もないな!」
まだ私の指を一本ずつ丁寧に拭いているレジナスさんが文句を言い、それに答えているシェラさんとの会話が耳にはいってきた。
「ですがユリウスはイチゴごと自分の指先をユーリ様のこの愛らしい小さなお口に食まれたと聞いております。偶然とはいえ、伴侶でも何でもないその辺のただの輩がそんな僥倖に見舞われるなど、一体どれだけ徳を積めばそうなるのか分かりませんが・・・それを聞いた時ぜひオレも同じような事をする機会に恵まれないものかと思っておりました。」
いや、ユリウスさんをその辺の輩扱いって。ていうか、ノイエ領でのあのイチゴ事件を連想したのは間違いじゃなかった⁉︎
「どこでその話を聞いてきたんですか⁉︎リオン様にはもの凄く怒られたし、あの件はほぼ禁句になってるんですけど!それにあれは指を食べたんじゃなくて、たまたまユリウスさんの指に私の口が当たったんです!」
思わず二人の会話に割り込んでしまった。あの件の後、リオン様にお仕置きと称して羞恥プレイのようにむりくりイチゴを食べさせられた上にレジナスさんまで巻き添えで私にブドウを食べさせたのだ。
するとシェラさんは
「ユーリ様が魔導士院を訪れて軽食やお菓子を出されても、毎回ユリウスは不自然にユーリ様から距離を取り決して同じテーブルにはつきませんでしょう?公的な場での食事では同席して食事を取るのに、妙に警戒しているその様子が怪しかったので直接本人に聞きました。」
と、こともなげに言ったものだから思わずユリウスさんに同情した。多分シェラさんにこの笑顔でめちゃくちゃ圧をかけられて言わされたんだろうなあ・・・。
「あれは不可抗力でしたから!」
一応反論したけどシェラさんには
「初めてそれを聞いた時は、ユーリ様のお口に触れたユリウスのあの指先を切り落としてやりたい衝動を抑えるのが大変でした・・・。ユーリ様が悲しむと思い自制したオレを褒めてください。」
と真面目な顔で言われた。冗談じゃないところが恐ろしい。
しかも続けて
「さすがに同じ事をしたいと思っても、恐れ多くもまさかオレがユーリ様の愛らしいお口の中に指を入れるわけにはいかないでしょう?それはまだ早いですからね。ですが逆ならまあ、ユーリ様の指を清めるという意味ではご奉仕の範囲内かと・・・」
なんておかしな事を言う。
「まだ早い⁉︎ご奉仕?何言ってるんですかシェラさん!」
「無事結婚式を終えたら色々としましょうね。あと半年が実に待ち遠しい。」
え、何それ怖い。結婚式が終わったら私、何をされるんだろう。
目の前の爽やかな初夏の朝に似つかわしくない艶然とした笑みを浮かべているシェラさんをじっと見つめても全然考えが読めない。
するとふいに体が勝手にくるりと回れ右をして目の前が暗くなった。
レジナスさんが私を膝に乗せたまま、自分の胸元へ顔を埋めるように私の体の位置を変え腕の中に抱き込んだのだ。おかげで視界どころか耳まで塞がれたような感じになる。
「もういい!ユーリ、これ以上シェラを見るな話を聞くな、碌なことにならないぞ!」
そんな忠告する声がレジナスさんの腕の向こうから聞こえてくる。
「心外ですね、具体的に何をどうこうと言うならまだしも、大したことは言っていないというのに。」
「充分言っているだろうが!」
「どこがです?例えば『早くユーリ様をオレの手でトロトロに蕩かし悦びの頂きから降りて来られないようにして、その中にずっとオレ自身を埋めたままでいたいです』ぐらいのことを言うならまだしも。いえ、これでもまだ婉曲な表現だとは思いますが」
「どこが婉曲だ、何を言ってるんだお前は!正気か?ユーリに聞こえていたらどうする!」
私を抱き込んでいるレジナスさんの腕にグッと力がこもった。く、苦しい。
あとバッチリ聞こえてるんですけどホント何言ってるのシェラさん。これも結婚式が近付いて浮かれているってことなんだろうか?
色んな考えが頭の中を巡ったけど、とりあえずもう少し腕の力をゆるめてもらおうとレジナスさんの胸板をギブアップとばかりにトントン叩く。
だけどまだシェラさんへの説教に夢中なレジナスさんは私の非力な力で叩かれても全然気付かない。
あ、ヤバい。なんかちょっと息苦しくなってきた。
硬い筋肉に四方をガッチリ囲まれている上にレジナスさんの体温の高さに少し暑くなって頭がぼんやりしてくる。
気絶したらどうしよう、そんなことになったら絶対レジナスさん落ち込むよね?
そう内心焦り始めた時だった。
エル君の「お話中失礼しますが」と言う声が遠くで聞こえてきた。
エル君はレジナスさんと一緒にここに現れたけど私達が朝食を食べている間は少し離れた所から静かに見守ってくれていたはずだ。
「そろそろユーリ様のお支度をしないと今日の予定に間に合わなくなります。あとさっきからユーリ様が苦しそうです。」
私の状態より先に朝の支度の話を優先するとかさすがエル君だ、私に対する塩対応は全くブレない。
変なところで感心していたらパッと視界が開けて呼吸が楽になった。
「すまないユーリ、大丈夫か⁉︎つい話に夢中になってしまった!」
肩を掴んでレジナスさんが私の顔を覗き込む。シェラさんは呆れたように
「あなたの馬鹿力でユーリ様を窒息させたらどうするんですか?」
と仰いで風を送ってくれている。
「だ、だいじょーぶ・・・です!ちょっと暑くなっただけで」
ふうはあと息をつきながらレジナスさんにニコリと微笑んで見せて、大丈夫アピールをした。
するとそんな私を見たレジナスさんがウッと言葉を詰まらせて何故か赤くなり目を逸らす。
「・・・?どうかしました?」
「いや、あまりそんな顔で俺を見ないでもらえるか・・・」
ごもごもとレジナスさんにしては珍しく口ごもって歯切れが悪い。
するとシェラさんがああなるほど、と頷いた。
「ユーリ様、どうかその男の膝から降りてあげてください。ほのかに上気した頬と暑さに潤んだ瞳に乱れた髪で膝に乗り上げられたまま好いた女性に見上げられるなど、朝から刺激が強過ぎますからね。」
「え?」
「自分の膝の上でそんな可愛いおねだりをされるような顔を見せられてはレジナスでなくオレでもさすがに腰に来ます。」
「・・・~っ‼︎」
シェラさんの説明は婉曲ではあったけどすぐに理解した。
慌ててレジナスさんの上から降りたけど、その時手をついた場所が悪かった。
僅かにレジナスさんの股間の辺りにさっと触れてしまい、周りとはほんの少し固さの違うモノを手に感じた。
あ、まずいまずい!ただでさえアレなところに更に刺激を与えてしまった。
そしてそれまでシェラさんの言葉に言い返しもしないで黙って私から顔を逸らしていたレジナスさんが体をびくりと震わせて、
「ユーリ⁉︎」
と声を上げた。
「ご、ごめんなさい!わざとじゃないんですよ、その・・・着替えてきます‼︎」
レジナスさんに触れてしまった片手を隠すようにもう片方の手でぎゅっと包み込み、じりじりと後ずさりながら言い訳をして逃げるようにその場を後にする。
背後ではシェラさんがレジナスさんに、
「ユーリ様に触っていただけるなど羨ましいことこの上ないですね。というか、これであなたはオレがユーリ様の指を口にしたとは怒れなくなりましたね。」
なんて言っている。うう、恥ずかしい。
顔から火が出そうになりながら、片手を包み込むようにしたままバタバタと自室に戻る。
・・・だけどあれ?この仕草ってなんか、レジナスさんのモノを触った余韻を感じてるみたいな変な誤解を与えないよね?とハタと気付いたのは、その後赤い顔のままシンシアさんに着替えを手伝ってもらっている時なのだった・・・。
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