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番外編

なごり雪 18

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二人で朝日を見ながら朝食を取ると聞いたのは俺の聞き間違いか?と言っているレジナスさんの声がちょっと怖い。

まだシェラさんに頬をつかまれたままの私にその姿は確かめられないけど、明らかに不満げだ。

まあそうだよね、レジナスさんにしてみれば私とシェラさんが日も昇らないうちからいちゃついているようにしか見えないだろう。

「レジナスさん、おはようございます!」

とりあえずシェラさんに向けられた不満げな気持ちを中和させようとわざと明るく声を上げた。

「・・・おはようユーリ。大丈夫か?シェラに迷惑をかけられているようだが」

そう私に声を掛けるレジナスさんの声はさっきまでとは違って気遣いを感じる声色だ。

「だ、大丈夫です!シェラさんのいつもの悪ふざけみたいなものですから。ほらシェラさんももう離して⁉︎レジナスさんも、こっちに来て朝ごはんをどうぞ!」

「悪ふざけとは心外ですね。オレはユーリ様に対しては常に真剣に向き合っておりますのに。」

これ以上レジナスさんを心配させてはいけないと思って言った私の言葉は逆にシェラさんをがっかりさせたらしく、シェラさんは私の頬に手を添えたまま眉を下げた。

「あっ、いえ!シェラさんを傷付ける気はなかった・・・んむ⁉︎」

慌ててフォローしようとしたら、そのシェラさんにもう一度口付けられた。

「とは言え、ユーリ様のお言葉には従いましょう。離れ難いその花の如く美しいかんばせから手を離さねばならないお別れの挨拶です。」

そんな言い訳をされてにっこりと微笑まれ見つめられる。

「お前なぁ・・・‼︎」

途端に私の背後のレジナスさんの怒りが増したのを感じる。

それはシェラさんも同じらしく、

「おっと、ほら離れましたよ?」

と言って私からパッと離れた。

「朝からユーリを困らせるような事をするんじゃない!」

すぐに私のそばへとやって来たレジナスさんがそう注意をすれば

「ユーリ様の伴侶になるのですからこれ位のことで目くじらを立てられても。むしろあなたも、朝の挨拶としてこの程度の事はして当然では?もしよろしければどうぞ。オレはあなたと違って目の前でユーリ様が口付けられてもそんなに分かりやすい嫉妬はしませんので。」

と肩をすくめて私へのキスを勧める始末だ。

そんなシェラさんにレジナスさんは言葉を詰まらせて私を見て、目が合うとさっとその頬に赤みが差した。見られた私も思わずつられて赤くなる。

「・・・出来るか!」

そう言ったレジナスさんに加勢して

「そうですよシェラさん!何を勧めてるんですか、どうぞじゃないですよ私の意思は⁉︎」

と訴えたら

「お二人とも息ピッタリですね。目の前で口付けられるよりもそちらの方にオレは嫉妬しそうです、実に羨ましい。」

と訳の分からない事を言われて本当に羨ましそうな顔をされた。相変わらず意味不明だ。

「と、とにかくレジナスさんどうぞ。私はもう充分食べましたから。」

シェラさんの用意した席は二人分しかないので慌てて椅子を譲ると、ユーリを立たせて俺が座るのは・・・とレジナスさんが渋ったので強引に座らせる。

「私はほら、立ったままの方が朝日も良く見えますから!」

イチゴ牛乳の入った木のコップを手にレジナスさんの隣に立ちながらそう笑ったら、そんな私と自分の正面に座るシェラさんを見比べたレジナスさんにぐいと手を引かれた。

「ええ⁉︎」

そのままストンと座らせられたのはレジナスさんの膝の上だ。

「・・・何ですかあなた、それはさっきユーリ様へ口付けたオレへの意趣返しですか?」

シェラさんが僅かに眉を寄せた。あのいつもレジナスさんをからかって飄々としているシェラさんが表情を変えるのは珍しい。

そんなシェラさんにレジナスさんは堂々と

「そうだ、羨ましいか?お前のせいで席が二つしかないからな、となればリオン様の膝の次にユーリが座り慣れているのは俺の膝の上だからこうするのが当然だ。」

と言い放った。え?レジナスさんって臆面もなくこんな事をしたり言ったりする人だっけ。人が変わってないかな?

びっくりして座らせられた膝の上からレジナスさんを見れば、僅かに赤くなって

「俺だってこれくらいは出来る。」

と呟かれた。どうやらシェラさんに伴侶らしく朝の口付けも出来ないのかと煽られたので何かそれらしい事をしようと考えた結果、主君であるリオン様に倣って私を膝に抱くことにしたらしい。

まったく、二人して何を朝から張り合っているんだか・・・とちょっと呆れた。

だけど以前ヨナスの悪夢にうなされて寝不足だった時にレジナスさんの膝の上で何度か昼寝をして以来、まるで人間座椅子のようにがっしりとして暖かなレジナスさんの膝の座り心地の良さは知っているので自分からそこを降りるのも惜しい。

仕方ない。今回は二人とも私の伴侶として同行してくれた上での休暇だし、伴侶らしくというなら私からも何かしてあげようかな。

そう思って、一口サイズのアップルパイを手に取ってレジナスさんの口元に近づける。

「はいレジナスさん、あーんです。口を開けてください?」

「は⁉︎」

予想外の私の行動に面食らったレジナスさんが目を丸くして口をポカンと開けた。

すかさずその口へアップルパイをねじ込ん・・・もとい食べさせて、私も自分の指についたパイ生地のかけらをぺろりと舐める。

「おいしいでしょ?ダーヴィゼルド特産の甘いリンゴを煮詰めたアップルパイですよ!」

舐めとった指についていたパイのかけらだけでもふんわりとバターの良い香りがするなあと思いながらレジナスさんに笑いかければ、

「な、なん・・・ユーリ、一体何をする⁉︎」

無理やり私に食べさせられたパイを飲み込んだレジナスさんがさっきよりも更に赤くなった。

その目には昇り始めた朝日の光が反射してすごく綺麗だ。こうして見ると、いつも夕陽の色を写したようだと思っていたその瞳の色は朝焼けのような美しさもある。

・・・さっきシェラさんの目の色を褒めたら嬉しそうにしていたし、レジナスさんにもついでに思うところを伝えてみるのもいいのかも。

そう言えばレジナスさんには今まで伝えていない事がある。

「伴侶になるし、リオン様にもこうして食べさせてあげたりもしてるし、たまにはいいんじゃないですか?それに王都の街歩きをした時には私がケーキ屋さんで一口食べさせてもらいましたよね?それよりもレジナスさん、」

そこで内緒話をするようにひそひそとレジナスさんに耳打ちをする。

「知らないと思うので教えてあげますけど。私、召喚の儀式で初めてレジナスさんを見た時からその瞳の色が夕焼けみたいで綺麗だなあって見惚れてたんですよ?もしかするとその時から私、レジナスさんのことがちょっと好きだったのかも知れませんね?」

今にして思えばそうかも知れない。それは恋愛感情と言うにはあまりにも淡すぎるものだったろうけど。

あの大きな手に優しく抱き上げられて初めて目が合った時のことを思い出して思わず微笑む。

するとぎしっ、と固まったレジナスさんは次の瞬間更に顔を赤くして

「・・・大人をからかうんじゃない‼︎」

と声を上げた。照れ隠しかな?

「ええー?何ですかそれ、私もいい年した大人なんですけど?」

それこそ、からかうように反論したら

「俺の方こそユーリを一目見た時からこんなにも美しく可憐な少女がいるものかと信じられなかった!ユーリが俺をちょっと好きかも知れないと思ったのとは違う!そう、あれはいわゆる一目惚れというやつだ、ユーリよりも俺の方がもっとユーリのことを最初から好きだったんだからな!」

なぜか私の打ち明け話に張り合うようにそんな事を言われた。・・・天然かな⁉︎

「はい?えぇ~⁉︎」

ちょっとからかったら私の方がもっと恥ずかしい目に遭ってしまった。

一気に顔が熱くなる。え、これなんて返せばいいのかな?

口をパクパクさせて何も言えないでいれば、そんな私達の正面でシェラさんには

「何ですかこの茶番は。こんなものを目の前で見せられてオレは一体どうすればいいんでしょうねぇ・・・」

と肘をついて呆れたように眺められてしまった。



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