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番外編

夢で会えたら 10

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乗馬をしたシャル君はとても上機嫌で、その後のおやつ休憩の時には

「ボクねぇ、まだ背がひくいからダメなんだけど5歳になったら専用のお馬さんを選んでプレゼントしてもらうって、とうさまとレジーとうさまに約束してもらってるの!」

とニコニコしてかわいい事を教えてくれた。

「そうなんですか!それは楽しみですねぇ。」

リオン様とレジナスさんのことだから、きっとシャル君に合った良い馬を選ぶんだろうなあと思いながら相槌を打てば

「はい!だから今はユリウスでれんしゅうしてるんです‼︎」

と元気良く頷いた。

「ユリウスさんで練習・・・?」

「はい?俺っすか?え、なんか魔法でおもちゃの馬でも動かしてるとか?」

首を傾げたユリウスさんに

「ユリウスがおうまさんになってくれてるの!ルーとうさまが、おとなしくてあばれないし、いうことを聞くからいいれんしゅうになるよって。だからまどうしいんに遊びに行くときはいつもユリウスでれんしゅうしてるんですよ!」

だから今日は、ほんもののお馬さんに乗ってもこわくなかったです!とシャル君は無邪気な笑顔を振りまいた。

四つん這いになってシャル君を背中に乗せて遊び相手をしてあげてるなんて、未来のユリウスさんも相変わらず人が良くてちょっぴり不憫だ。

「団長、アンタって人は・・・!人を馬扱いして幼児の遊びに付き合わせるとか!ユーリ様も前に酔っ払って俺に肩車をしてもらおうとしてたし親子揃って人に馬乗りになりたがる性癖でもあるんすか⁉︎」

「何言ってるんですかユリウスさん、人に変な性癖のレッテルを貼らないでください⁉︎」

「未来の俺が何を言おうが今の俺が知ったことか。・・・だがお前にそういう役目は向いていそうだな。」

「いや、おかしいでしょ⁉︎そういうのは父親の役目であって、赤の他人の俺がやるとか!まあ団長がそんな事するイメージはないし殿下にそんな事させるのもアレなんで、せめてレジナスの役目じゃないっすか⁉︎」

だけど話を振られたレジナスさんは

「俺がやってもいいが俺だと背が高すぎて膝をついてもシャルには大きすぎるだろうな。」

と冷静に答えた。うーん、確かに。

「今のシャルにレジナスさんはまだ少し大き過ぎますもんね。」

私の膝の上に座るシャル君を撫でながら言えばシグウェルさんも

「適材適所というやつだな」

と皮肉げな笑みを漏らし、ユリウスさんは

「またそれ⁉︎俺、適所が多過ぎじゃないっすか⁉︎」

と文句を言った。するとシグウェルさんは

「では本来の役割をさせてやろうか?シャルに渡すアレを出せ。」

と命じる。あれ?二人とも、ただシャル君を見に来たわけじゃないんだ?

「アレってなんです?シャルへのプレゼントですか?」

「ルーとうさまからのプレゼント⁉︎ありがとうございます‼︎」

シグウェルさんに言われて思い出したように慌てて持って来ていた物を出して来たユリウスさんに私もシャル君も興味津々だ。

「団長に言われてクレイトス領から取り寄せた白石はくせきっす!魔石じゃなくて、玄武岩とか花崗岩かこうがんみたいな普通の石なんすけど、そのくせ魔石よりも魔力の吸収率がいいんすよ。採掘場所が決まっててなかなか取れないんで魔物が結晶化した魔石並に希少なんですけど俺が交渉を頑張りました!」

ユリウスさんはそう胸を張った。クレイトス領ってあれだ、少し前にそこの公女のミアさんとシグウェルさんの婚約騒ぎで大変な事になったところだ。

「あんな事をしておいてよく連絡を取れましたね・・・」

しかもそこから希少な石を取り寄せるとか。

「だから交渉を頑張ったって言ってるじゃないっすか。何しろある程度の大きさで質のいい白石が確実に手に入るのは、研究用に白石を保管してるクレイトス領が一番なんすもん。おかげで魔導士院謹製の超高級魔道具や俺が加工した魔石をいくつ譲渡しなきゃいけなくなったことか!」

「ルーシャ国の宮廷魔導士団の副団長が作る魔石なら奴らも文句がないだろう?何しろ大公と公女以外は保有する魔力が乏しいんだ、自分達の魔力を補強や補完できる物は喉から手が出るほど欲しいはずだ。」

フンとシグウェルさんは冷たく鼻で笑ったけど、あの騒ぎから一ヶ月は経っている。それなのにまだ魔力は元通りになってないんだ・・・。

「ミアさんに渡した指輪にかけている防護魔法、そんなに難しくなく解呪できるようなこと言ってませんでしたっけ?」

魔力が戻っていないということはシグウェルさんが指輪にかけた魔法をクレイトス大公もミアさんもまだ解けていないということだ。

「結構意地悪な魔法をかけたんですね?」

もっとあっさり解けると思ったのに、とシグウェルさんを見たけど当の本人は

「俺にしてみれば易しい部類の魔法なんだがな。俺をハメて自分達の思うままにしようとした報いだ。」

と平然としている。そしてシャル君はそんなシグウェルさんを見て、

「むずかしいことはよく分かんないけど、ルーとうさまカッコいいです!お顔がすてき‼︎」

とパチパチ拍手をした。

「団長を褒めるのに顔の良さにも言及するとか、リシャル様って団長の顔に弱い正直者の子供版ユーリ様ってカンジっすね・・・」

ユリウスさんがちらりと私を見る。その言葉になぜか恥ずかしくなって

「シャル、いい子だからちょっと静かにしましょうね⁉︎」

と慌ててお菓子をあげて物理的に口を塞いだ。だけどそんな私達のやり取りを見ていたシェラさんは

「シャル、オレもわりと顔がいいと思うのですがオレでは駄目なんでしょうか?」

となぜか謎の対抗心を見せた。

「何言ってるんですかシェラさん⁉︎」

「いえ、シャルに褒められるとまるでユーリ様に褒められているようですのでシグウェル殿のことが少し羨ましくなりまして。」

だからそれ、なんの対抗心?

するとお菓子をもぐもぐして飲み込んだシャル君が首を振った。

「シェラとうさまもまぶしいくらいきれいだけど、ルーとうさまのお顔のほうがボクは好きなの。ごめんなさい。」

「残念ですねぇ。ユーリ様もそうなのでしょうか。」

本当に残念そうな顔をしたシェラさんに、リオン様が苦笑する。

「確かにユーリって、いくらシェラが色気のある笑顔を見せても動じない時が多いよね。かわいそうだけど諦めたら?結局は好みの問題で、ユーリもシャルもシグウェルの顔に弱いんだから」

「リオン様まで!何バカなこと言ってるんですか⁉︎それよりもほら、ユリウスさんが苦労して手に入れて来た白石とやらを見せてもらいましょうよ‼︎」

これ以上私の好みがシグウェルさんの顔だなんだと揶揄われてもたまらない。

話を逸らそうとユリウスさんの手にしている箱をみんな見るように促す。ユリウスさんも

「そうっすよ、俺の交渉の努力の賜物を見るっす!」

と箱の中から絹のハンカチに包まれた物を取り出した。シャル君にシェラさんの顔よりも好きだと言われたシグウェルさんも珍しく機嫌の良さを隠そうともせず

「石の加工はユールヴァルト領から呼んだ一流の魔石細工職人にやらせている。まだ仮加工の段階だが、ノイエ領に行くまでには完成させる予定だ。とりあえず今日はシャルに見合ったサイズかどうか確認するために持参したんだが・・・やはり少し大きいな。もう一回り小さく加工させよう。」

と説明しながらシャル君の胸元と白石を見比べている。

ハンカチの中からは青白く輝いて見えるほど真っ白な、動物の顔を形どった胸飾りのような物が覗いている。

「ペンダント・・・じゃなくてブローチですか?」

それは白石を鹿の顔に飾り彫りしてあって、目のところにはぽっかりと黒く空間が空いていた。

ブローチですかと聞いた私にシグウェルさんはそうだと頷くと、今度は自分の懐からコトンと深い青色の魔石を取り出してきた。

魔石の中にはきらきらと金色の光がいくつも輝いている。

「これってノイエ領の魔石鉱山で私が祝福をした魔石じゃないですか?」

「そうだ。イリューディア神様の象徴である白鹿を白石でブローチに加工し、目の部分には君の祝福がついたこの魔石を嵌める。その前にこの魔石にシャルの安全を願った加護をつけてくれないか?勿論、俺もこの白石には結界魔法をつけるつもりだ。」

なるほど。私とレニ様が過去の世界から戻ってくる時には一つ目巨人が結晶化した魔石が役に立った。

今回はその時同様、イリューディアさんの加護を持つ私が力を込めた魔石をシャル君に持たせるんだ。

それも魔力をよく吸収するという白石に更にシグウェルさんが魔法をかけてから魔石を嵌めるから、より高い効果を発揮してシャル君をしっかりと安全に元の世界に導いてくれるだろう。

青い魔石と、白石で出来た鹿のブローチを見比べながら私達の様子を見ていたシャル君が

「ルーとうさまとかあさまが二人でいっしょにつくったブローチをボクにくれるんですか?どうしよう、すごくうれしいです!ラーズにじまんしちゃうかも。」

うわあ、と瞳をキラキラさせた。するとそんなシャル君を見たシグウェルさんはふっと僅かに微笑むと、シャル君を膝に抱く私の手を取って言う。

「ああそうだ。俺達二人の共同作業だ。」

それは星の砂に二人で一緒に魔法をかけようと提案した私が、ためらうシグウェルさんへと手を伸ばし「二人の初めての共同作業ですよ!」と声をかけた時をなんだか思い出させるものだった。
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