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番外編
未来夢想図 1
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「あと一週間もすればリオン達の結婚式だなんてなあ、お前もまさかこうも短い期間で何度もこっちに来ることになるとは思ってなかったんじゃねぇの?」
ルーシャ国王を引退して、今や気楽な隠居生活を送っているナジムートは目の前の白髪混じりの男に酒を注ぎながらそう笑った。
相手は同じ剣の師を仰ぎ、昔から苦楽を共にしてきた友人であるベルゲン・ザハリ・・・キリウ小隊隊長シェラザードの養父でもあり前中央騎士団長、かつ現ルーシャ国王イリヤ・ラダリス・アルマ・ルーシャの剣の師匠という立派な肩書をいくつも持つ人物だ。
その立派な肩書だけを聞いた者からは、さぞ威厳と迫力に満ちた軍人気質の恐ろしげな人物だろうといつも思われてしまっているが、実際の本人はその目に理知的な光をたたえて穏やかな微笑みを絶やさない賢者然とした人間である。
そのベルゲンはナジムートの言葉に
「まったくです。イリヤ陛下の戴冠式のために王都に滞在したのは一年と少し前でしたか?まさかあれからまたすぐこちらに来ることになるとは・・・。王都から離れてのんびり暮らしているじいさんにはその移動だけでも一苦労ですよ。」
やれやれと首を振り、穏やかな笑みのまま酒を煽った。
それを見たナジムートがハン、と鼻で笑う。
「ウソつけ!ついこの間、西のコーンウェル領に頼まれて三日間も魔物討伐に行ってたじゃねぇか。しかもあの近辺の主だった魔物どころか盗賊団まで壊滅させたって聞いてるぞ。」
「あれは西方守護伯であるオーウェン殿直々に頼まれたので仕方なくですよ。盗賊団もたまたま出くわしたついでです。それに、あの程度の魔物の数に三日もかかるなど昔に比べて腕は落ちておりますよ。やはりもう無理のきかない年ということですねぇ。」
そう謙遜するベルゲンにナジムートは生暖かい目を向ける。
一人の方がやりやすいからとベルゲンはコーンウェルの騎士団の助勢を断り、一人単独で魔物の討伐に向かったという。
そうして三日も音沙汰がないと心配した騎士達が探しに行ってみれば、竜三頭を含む大型から中型の魔物までがいくつも小山のように積み上げられていたそうだ。
しかもその隣では縛り上げられた二十人余りの盗賊と、彼らが奪ったと思われる宝物も一緒に並べてあってベルゲン本人は盗賊団の物とおぼしき酒を飲んで昼寝をしていたとナジムートは報告を受けている。
「お前なぁ、あんまり魔物を狩り過ぎたらオレの楽しみがなくなるだろーが。二人で一緒に辺境の魔物狩りをしながら野営や温泉を楽しむっていう老後の夢を自らブチ壊してどーするよ⁉︎」
市井で昔から人気の、勇者の魔物討伐と冒険の軌跡を活き活きと記した「冒険の書」という物語風の行動録に、若い時分の二人も夢中になったものだった。
いつか国が安定して落ち着いたら、引退した自分達も勇者様の軌跡を辿る旅に出ようと剣の稽古の合間の休憩時間にはまだ見ぬ未来のそんな話でよく盛り上がったものだ。
しかしベルゲンは、
「ですが今となってはユーリ様のおかげでヨナス神の影響を受けて凶暴な魔物が数多く出ることもなくなりましたし、老後の夢というなら他にも出来たではないですか。」
「おん?」
何言ってんだこいつ、とジロリと自分を見たナジムートにベルゲンはわざとらしそうに小首を傾げて目を細めると微笑んだ。
「おや、お分かりにならない?」
こいつのこーいう仕草や物の言い方、実の息子でもないのにマジでシェラは憎たらしい位そっくりに育ったよなあ、とナジムートは思いながら
「そーいう勿体ぶったものの言い方はヤメロ、意地の悪いジジイなんざ嫌われるだけだぞ」
と言えば、
「あなたも公職を辞したからと言って油断しているとその口の悪さを可愛い孫たちに真似されてしまいますよ」
と返される。
「オレはいいんだよ、ヴィルマがしっかりしつけてるからオレの口の悪さは移らねーし、そもそも最近はディアナにもあんまり会わせてもらえねーし!」
「それ、自分で言ってて悲しくなりませんか?またカティヤ様の時と同じく加減を知らずに構い過ぎて遠ざけられましたね・・・」
ベルゲンのその言葉は図星だったらしく、ナジムートは目を逸らすとごもごもと言い訳をした。
「高い高いをした時に普段よりちょっと高く放り投げただけだぜ・・・?でもちゃんとキャッチ出来る投げ方だったし、乳母が大袈裟に騒ぎ過ぎだっつーの・・・」
イリヤやリオンの時は喜んでたし、レニの小さい時もおんなじようにしたけどちょっと驚いただけで泣かなかったし、とまだ言い訳をしているナジムートをベルゲンは呆れたように見つめる。
「ディアナ姫がいくつだと思っているんですか。まだ一歳かそこらで、しかも女の子でしょう?今からこれではリオン王弟殿下やうちのシェラの子供がどうなることか、思いやられますねぇ」
その言葉にナジムートがテーブルをガタガタッ!と大きな音を立てて動かした。
「何⁉︎ユーリちゃんに子供が出来たのか⁉︎リオンかシェラの子ってどっちだよ⁉︎」
「落ち着いてくださいよ、あの子達が結婚式を前にそんな節操のない事をするわけがないじゃないですか。将来の話をしているんですよ私は。それこそ、私達の新しい老後の夢はそれだと言いたいんです。」
「なんだよ、驚かせんなよ」
椅子にストンと座り直したナジムートは律儀にも自らが動かしたテーブルを整えながらベルゲンに聞く。
「それで?リオン達とユーリちゃんの子供がなんでオレらの老後の夢なんだよ?」
「カンが鈍いですねぇ・・・。私はもし良ければ剣技と体術を教える養育係に手を挙げるつもりなんですが。老いたこの身も、小さな子の面倒を見るくらいなら丁度いいでしょう?」
ちなみに、とベルゲンは更に続けた。
「今日久々にお会いしたレジナスのご両親も、もし孫が出来たら地方の研究職を辞して学術面での教師をしたいと申しておりましたよ?」
「はァ⁉︎」
何でオレ抜きでそんな話をしてんだよ、とナジムートが目を剥いた。
だけどベルゲンはそんな彼を面白そうに眺めながら、
「あなた、明日は同じく結婚式のために王都へやって来るドラグウェル殿やアントン殿にマディウス騎士団長も交えてまた離宮で飲むんでしょう?恐らくドラグウェル殿からも同じような話が出るはずですよ」
と酒を煽った。
「魔法学や魔術を教えるのにドラグウェル殿ほど適した者はおりませんからね。今回王都へ来た際、ユールヴァルト家のタウンハウスの前を通りましたが、何やら工事をしておりました。あれは早くもアントン殿の指図で孫のための部屋を増築しているとみましたが。」
「まじか」
え?まさかオレだけ出遅れてる感じ?いつの間にみんなしてそんな先の事まで考えていたわけ?
やべえ、とあからさまに焦った顔を見せたナジムートをベルゲンは面白そうに眺める。
・・・先の事までなんの心配もなく準備していないのは、それだけナジムートが現状に満足しているからだ。
事実、リオン王弟殿下は目の怪我の事さえなかったら何の心配もない良く出来た息子なのだから。
しかし自分やドラグウェル達はちょっと違う。
ドラグウェル殿の息子のシグウェルと来たら変わり者で、ユールヴァルト領の者達はその誰もが由緒正しい本家の血筋がこれで途絶えると本気で思っていたほどだ。
レジナスにしても真面目と実直が過ぎて、加えて騎士や傭兵などの男受けは抜群だが全く女性受けしない迫力のあるあの大柄な体躯と顔付きで、今まで浮いた噂の一つもなく孫の顔を見るどころか恋人を連れて来ることすら到底ないだろうと両親は嘆いていた。
ベルゲンがレジナスの剣の指導をしながらそんな風に息子を心配する両親の相談に乗ってやったことがあるのは、勿論レジナス本人には内緒だ。
そしてうちのシェラだ。子供の頃に引き取ってからずっとどこか暗い陰を瞳の奥に宿している子で、いくら生きる意味をといてやってもそんなもの無意味だとばかりにいつかふらりといなくなってしまいそうな危うさを持っていた。
それがいつぞやよこした手紙で『やっとこの世に生きる意味とその価値を見つけました。』と嬉しそうに書いてきた。
その後、折につけて届く手紙の中でユーリ様の伴侶になったと報告してくれた際も
『ユーリ様はオレのような者でもずっと寄り添ってくれると仰いました。善良な者だけに価値があるのではなく、そうではないオレだからこそ何にも縛られずどこへでも自由に行けて生きていけるのだと、そんなオレで良いと仰ってくださいました』
としたためてあった、その筆跡からも喜びが伝わってくるような文面は今も忘れられない。
自分を含めドラグウェル殿もレジナスの両親も、気苦労ばかりかけられたそんな息子達だからこそ幸せを掴んだその先のことも気になるし幸いであれと願う。
そしてまだ見ぬ未来、もしかしたら生まれて来るだろう孫についても同じようにその思いを馳せるのだ。
「魔物討伐で辺境巡りも勿論付き合いますが、もし孫が生まれたらあの四人の誰の子かに関係なく私は王都へ戻って来てその養育係を優先しますからね。」
一応念を押してそう言ったが、
「え・・・待て待て、剣技をお前が教えて勉強はレジナスのとこだろ、魔法がドラグウェルで・・・おい、オレは何をすればいいんだ⁉︎」
ナジムートは指折り数えて役目を探していたがどうやら何も思いつかなかったらしい。
すがるような目でベルゲンを見てきた。
「知りませんよ、あなたにあるのは権力と財力でしょう?お金でもあげたらどうです?」
「バカお前、そんなのなんの触れ合いもないタダの金ヅルじゃねぇか!」
「じゃあ明日会うドラグウェル殿達に相談なさい、何か役目をくれるはずですよ」
「くっそー、マジで出遅れた・・・」
式ではユーリちゃんの親代わりに腕を組んでエスコートするんだぜー、明日ドラグウェルの奴と飲む時は自慢してやる!とついさっき飲み始めた頃のナジムートはたいそう上機嫌だった。
どうやらそれが楽しみ過ぎて結婚式から先のことは本当に何も考えていなかったらしい。
「肝心なところで詰めが甘いんですよねぇ・・・だから剣でも私に勝てないんですよ」
ギリギリと悔しがるナジムートを酒の肴に眺める。
幸せそうな自分の息子と悔しがるナジムート。こんなに酒の美味いことは滅多にないなとベルゲンは目を細めてまた一口酒を煽った。
ルーシャ国王を引退して、今や気楽な隠居生活を送っているナジムートは目の前の白髪混じりの男に酒を注ぎながらそう笑った。
相手は同じ剣の師を仰ぎ、昔から苦楽を共にしてきた友人であるベルゲン・ザハリ・・・キリウ小隊隊長シェラザードの養父でもあり前中央騎士団長、かつ現ルーシャ国王イリヤ・ラダリス・アルマ・ルーシャの剣の師匠という立派な肩書をいくつも持つ人物だ。
その立派な肩書だけを聞いた者からは、さぞ威厳と迫力に満ちた軍人気質の恐ろしげな人物だろうといつも思われてしまっているが、実際の本人はその目に理知的な光をたたえて穏やかな微笑みを絶やさない賢者然とした人間である。
そのベルゲンはナジムートの言葉に
「まったくです。イリヤ陛下の戴冠式のために王都に滞在したのは一年と少し前でしたか?まさかあれからまたすぐこちらに来ることになるとは・・・。王都から離れてのんびり暮らしているじいさんにはその移動だけでも一苦労ですよ。」
やれやれと首を振り、穏やかな笑みのまま酒を煽った。
それを見たナジムートがハン、と鼻で笑う。
「ウソつけ!ついこの間、西のコーンウェル領に頼まれて三日間も魔物討伐に行ってたじゃねぇか。しかもあの近辺の主だった魔物どころか盗賊団まで壊滅させたって聞いてるぞ。」
「あれは西方守護伯であるオーウェン殿直々に頼まれたので仕方なくですよ。盗賊団もたまたま出くわしたついでです。それに、あの程度の魔物の数に三日もかかるなど昔に比べて腕は落ちておりますよ。やはりもう無理のきかない年ということですねぇ。」
そう謙遜するベルゲンにナジムートは生暖かい目を向ける。
一人の方がやりやすいからとベルゲンはコーンウェルの騎士団の助勢を断り、一人単独で魔物の討伐に向かったという。
そうして三日も音沙汰がないと心配した騎士達が探しに行ってみれば、竜三頭を含む大型から中型の魔物までがいくつも小山のように積み上げられていたそうだ。
しかもその隣では縛り上げられた二十人余りの盗賊と、彼らが奪ったと思われる宝物も一緒に並べてあってベルゲン本人は盗賊団の物とおぼしき酒を飲んで昼寝をしていたとナジムートは報告を受けている。
「お前なぁ、あんまり魔物を狩り過ぎたらオレの楽しみがなくなるだろーが。二人で一緒に辺境の魔物狩りをしながら野営や温泉を楽しむっていう老後の夢を自らブチ壊してどーするよ⁉︎」
市井で昔から人気の、勇者の魔物討伐と冒険の軌跡を活き活きと記した「冒険の書」という物語風の行動録に、若い時分の二人も夢中になったものだった。
いつか国が安定して落ち着いたら、引退した自分達も勇者様の軌跡を辿る旅に出ようと剣の稽古の合間の休憩時間にはまだ見ぬ未来のそんな話でよく盛り上がったものだ。
しかしベルゲンは、
「ですが今となってはユーリ様のおかげでヨナス神の影響を受けて凶暴な魔物が数多く出ることもなくなりましたし、老後の夢というなら他にも出来たではないですか。」
「おん?」
何言ってんだこいつ、とジロリと自分を見たナジムートにベルゲンはわざとらしそうに小首を傾げて目を細めると微笑んだ。
「おや、お分かりにならない?」
こいつのこーいう仕草や物の言い方、実の息子でもないのにマジでシェラは憎たらしい位そっくりに育ったよなあ、とナジムートは思いながら
「そーいう勿体ぶったものの言い方はヤメロ、意地の悪いジジイなんざ嫌われるだけだぞ」
と言えば、
「あなたも公職を辞したからと言って油断しているとその口の悪さを可愛い孫たちに真似されてしまいますよ」
と返される。
「オレはいいんだよ、ヴィルマがしっかりしつけてるからオレの口の悪さは移らねーし、そもそも最近はディアナにもあんまり会わせてもらえねーし!」
「それ、自分で言ってて悲しくなりませんか?またカティヤ様の時と同じく加減を知らずに構い過ぎて遠ざけられましたね・・・」
ベルゲンのその言葉は図星だったらしく、ナジムートは目を逸らすとごもごもと言い訳をした。
「高い高いをした時に普段よりちょっと高く放り投げただけだぜ・・・?でもちゃんとキャッチ出来る投げ方だったし、乳母が大袈裟に騒ぎ過ぎだっつーの・・・」
イリヤやリオンの時は喜んでたし、レニの小さい時もおんなじようにしたけどちょっと驚いただけで泣かなかったし、とまだ言い訳をしているナジムートをベルゲンは呆れたように見つめる。
「ディアナ姫がいくつだと思っているんですか。まだ一歳かそこらで、しかも女の子でしょう?今からこれではリオン王弟殿下やうちのシェラの子供がどうなることか、思いやられますねぇ」
その言葉にナジムートがテーブルをガタガタッ!と大きな音を立てて動かした。
「何⁉︎ユーリちゃんに子供が出来たのか⁉︎リオンかシェラの子ってどっちだよ⁉︎」
「落ち着いてくださいよ、あの子達が結婚式を前にそんな節操のない事をするわけがないじゃないですか。将来の話をしているんですよ私は。それこそ、私達の新しい老後の夢はそれだと言いたいんです。」
「なんだよ、驚かせんなよ」
椅子にストンと座り直したナジムートは律儀にも自らが動かしたテーブルを整えながらベルゲンに聞く。
「それで?リオン達とユーリちゃんの子供がなんでオレらの老後の夢なんだよ?」
「カンが鈍いですねぇ・・・。私はもし良ければ剣技と体術を教える養育係に手を挙げるつもりなんですが。老いたこの身も、小さな子の面倒を見るくらいなら丁度いいでしょう?」
ちなみに、とベルゲンは更に続けた。
「今日久々にお会いしたレジナスのご両親も、もし孫が出来たら地方の研究職を辞して学術面での教師をしたいと申しておりましたよ?」
「はァ⁉︎」
何でオレ抜きでそんな話をしてんだよ、とナジムートが目を剥いた。
だけどベルゲンはそんな彼を面白そうに眺めながら、
「あなた、明日は同じく結婚式のために王都へやって来るドラグウェル殿やアントン殿にマディウス騎士団長も交えてまた離宮で飲むんでしょう?恐らくドラグウェル殿からも同じような話が出るはずですよ」
と酒を煽った。
「魔法学や魔術を教えるのにドラグウェル殿ほど適した者はおりませんからね。今回王都へ来た際、ユールヴァルト家のタウンハウスの前を通りましたが、何やら工事をしておりました。あれは早くもアントン殿の指図で孫のための部屋を増築しているとみましたが。」
「まじか」
え?まさかオレだけ出遅れてる感じ?いつの間にみんなしてそんな先の事まで考えていたわけ?
やべえ、とあからさまに焦った顔を見せたナジムートをベルゲンは面白そうに眺める。
・・・先の事までなんの心配もなく準備していないのは、それだけナジムートが現状に満足しているからだ。
事実、リオン王弟殿下は目の怪我の事さえなかったら何の心配もない良く出来た息子なのだから。
しかし自分やドラグウェル達はちょっと違う。
ドラグウェル殿の息子のシグウェルと来たら変わり者で、ユールヴァルト領の者達はその誰もが由緒正しい本家の血筋がこれで途絶えると本気で思っていたほどだ。
レジナスにしても真面目と実直が過ぎて、加えて騎士や傭兵などの男受けは抜群だが全く女性受けしない迫力のあるあの大柄な体躯と顔付きで、今まで浮いた噂の一つもなく孫の顔を見るどころか恋人を連れて来ることすら到底ないだろうと両親は嘆いていた。
ベルゲンがレジナスの剣の指導をしながらそんな風に息子を心配する両親の相談に乗ってやったことがあるのは、勿論レジナス本人には内緒だ。
そしてうちのシェラだ。子供の頃に引き取ってからずっとどこか暗い陰を瞳の奥に宿している子で、いくら生きる意味をといてやってもそんなもの無意味だとばかりにいつかふらりといなくなってしまいそうな危うさを持っていた。
それがいつぞやよこした手紙で『やっとこの世に生きる意味とその価値を見つけました。』と嬉しそうに書いてきた。
その後、折につけて届く手紙の中でユーリ様の伴侶になったと報告してくれた際も
『ユーリ様はオレのような者でもずっと寄り添ってくれると仰いました。善良な者だけに価値があるのではなく、そうではないオレだからこそ何にも縛られずどこへでも自由に行けて生きていけるのだと、そんなオレで良いと仰ってくださいました』
としたためてあった、その筆跡からも喜びが伝わってくるような文面は今も忘れられない。
自分を含めドラグウェル殿もレジナスの両親も、気苦労ばかりかけられたそんな息子達だからこそ幸せを掴んだその先のことも気になるし幸いであれと願う。
そしてまだ見ぬ未来、もしかしたら生まれて来るだろう孫についても同じようにその思いを馳せるのだ。
「魔物討伐で辺境巡りも勿論付き合いますが、もし孫が生まれたらあの四人の誰の子かに関係なく私は王都へ戻って来てその養育係を優先しますからね。」
一応念を押してそう言ったが、
「え・・・待て待て、剣技をお前が教えて勉強はレジナスのとこだろ、魔法がドラグウェルで・・・おい、オレは何をすればいいんだ⁉︎」
ナジムートは指折り数えて役目を探していたがどうやら何も思いつかなかったらしい。
すがるような目でベルゲンを見てきた。
「知りませんよ、あなたにあるのは権力と財力でしょう?お金でもあげたらどうです?」
「バカお前、そんなのなんの触れ合いもないタダの金ヅルじゃねぇか!」
「じゃあ明日会うドラグウェル殿達に相談なさい、何か役目をくれるはずですよ」
「くっそー、マジで出遅れた・・・」
式ではユーリちゃんの親代わりに腕を組んでエスコートするんだぜー、明日ドラグウェルの奴と飲む時は自慢してやる!とついさっき飲み始めた頃のナジムートはたいそう上機嫌だった。
どうやらそれが楽しみ過ぎて結婚式から先のことは本当に何も考えていなかったらしい。
「肝心なところで詰めが甘いんですよねぇ・・・だから剣でも私に勝てないんですよ」
ギリギリと悔しがるナジムートを酒の肴に眺める。
幸せそうな自分の息子と悔しがるナジムート。こんなに酒の美味いことは滅多にないなとベルゲンは目を細めてまた一口酒を煽った。
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