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番外編

チャイルド・プレイ 2

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「・・・なるほど、それは明らかに失敗だな」

事の次第を聞いたシグウェルさんはあっさりとそう認めて一体何が悪かったのかと考えながら膝の上に乗せた私の頭を撫でている。

「いつ戻りましゅ・・・ますか⁉︎」

ええい、話しにくい。さっきから話そうとするとどうしてもさ行が赤ちゃん言葉になってしまう。

それにいつもの話し方だとまだるっこしくてうまくしゃべれない。いっそ敬語は抜きにして単語だけにした方が話しやすそうな気がする。

いや、元はと言えば早く魔力を取り戻そうとして焦った私が悪いんだけど。

反省しながらテーブルの上のクッキーに手を伸ばす。・・・届かない。手が短いのだ。

というか、全体的に縮んでしまったので、シグウェルさんの膝の上にただ座らされただけでもテーブルの高さが合わずに、その膝に更にクッションを一つ置いてその上に座っている。

服は全部脱げてしまった上にぶかぶかなので、別室に控えていた今日のお供のシンシアさんをユリウスさんが急いで呼んでくれた。

するとさすがシンシアさん、その場でささっと脱げた服から簡易ドレスを作ってくれた。

そしてシンシアさんはそのまま、「小さいユーリ様の着られる物を探してすぐに戻ってまいります」と言って急いで王宮へと走ってくれている。

なのでシンシアさんが戻るまではこうしてお茶を飲みながらこれからの対策を考えていた。

・・・でも結局は対策といっても、この魔法薬の効果が切れるのを待つしかないんだけど。

「なんだこれが食べたいのか?」

テーブルに手を伸ばしてもクッキーに届かない私を見たシグウェルさんがあっさりとそれを取ってくれる。

「はい!ありあとーでしゅ‼︎」

お礼を言ってクッキーを齧れば・・・今度はそれが全く食べられない。か、固い。

嘘でしょ?クッキー一つ食べられないとかこの体はどうなっているの?

「た、食べられにゃい・・・!」

四苦八苦する私を見ていた正面に座るユリウスさんが突然ガタン!と大きな音を立てるとがばっとテーブルに顔を伏せた。

「にゃっ⁉︎」

何?って言いたかったのに猫の鳴き声みたいな声が出た。恥ずかしい。

「も、もうダメっす!何スかその破壊的なかわいさは‼︎今まで団長のやらかした事の中でこんなにもそれに感謝する日が来るとは思わなかったっす‼︎今すぐ絵師を呼んで来てもいいっすか⁉︎」

「何を言ってるんだお前は」

シグウェルさんは冷たい眼差しでユリウスさんを見ているけど私の頭を撫でるその手は止めない。

ついでに私からクッキーを取り上げるとそれをミルクに浸してからもう一度渡してくれた。

このミルクも急遽小さくなった私のために紅茶の代わりにユリウスさんが準備してくれた、砂糖とハチミツがたっぷりの甘々なやつだ。

その甘いミルクに浸されて、やっとクッキーを食べられてほっとする。

「ありあ、・・・が、とーでしゅ!しぎゅえるしゃん!」

ああー、シグウェルさんの名前もちゃんと言えない。幼児の舌にはシグウェルさんの名前は言いにくいんだな、どうしよう。

「しぎゅえるしゃんて!全然言えてないのかわいいっす‼︎え、俺は?俺の名前もちょっと言ってみて欲しいっす‼︎」

「ユリ、うるしゃい‼︎」

あ、やっぱり単語で敬語なしの方が言いやすい。試しに言ってみたそれに、ユリウスさんは

「なんで急に呼び捨て⁉︎でも新鮮っす‼︎」

と悶えている。大丈夫かな、いきなり呼び捨てされて喜んでるとか変な性癖でも持ってるんじゃないよね?

するとシグウェルさんが、

「ユリウスの奴を呼び捨てるなら俺もそれでいいんじゃないか?」

となぜか少し不満げに言ってきた。

「まあまあ、いいじゃないっすか団長!ユーリ様は伴侶の四人を誰も呼び捨てにしてないんすから!俺だけ特別・・・!」

そう言いかけたユリウスさんの顔に、次の瞬間目の前に置いてあったまだ熱い紅茶がばしゃりとかかった。

「う熱っちぃ⁉︎ちょっと団長、何するんすか‼︎」

「ユリウスうるさい。顔を洗って出直せ」

シグウェルさんが魔法を使ってユリウスさんに嫌がらせをしたらしい。子供か。

「ルーしゃん、めっ‼︎」

慌ててシグウェルさんを注意する。すると二人の動きがぴたりと止まった。

「・・・なんだそれは」

「え?ルーしゃん?団長のことっすか?めっ、て何スか?かっ、かんわいい~‼︎」

だって仕方ないじゃない?シグウェルさんって言えないんだもの。

シグウェルさんは今までに見たことのない妙な顔付きで私を見つめているし、ユリウスさんはニヤニヤしながら

「もう一回今の言い方で団長のこと叱ってみて!じゃなかったら俺を叱って‼︎」

っておかしな事を言ってくるしどうしたものか。

「・・・ごめんしゃい!」

ちゃんと名前を呼べなくてごめんなさいという意味を込めてシグウェルさんに謝る。

するとシグウェルさんは肘をついたまま私をちらっと見下ろして、

「・・・呼び捨てではないが悪くない」

と言って撫でるのが止まっていたもう片方の手でまた優しく頭を撫でてくれた。

いつもと違う呼び方になったけど許してくれるらしい。良かった。元の姿に戻るまではそれでいこう。

ほっとしてもう一度シグウェルさんに尋ねる。

「ルーしゃん、わたし、いつ戻りゅ?」

「モリー公国の時の副作用と同等と考えるなら早くて一日、遅くても三日以内には戻ると思うが・・・。体が小さくなった分だけ薬の分解速度が遅くなることも考えられるから、やはり二、三日はかかると見た方がいいだろうな。」

「なんか、魔力、今ないよ?」

「ああ、あの元の姿でもまだ完全に魔力が戻り切っていなかったからな。その姿では更にその少ない魔力を使いこなすのは無理だろう。体が小さ過ぎて魔力を感じにくくなっているだけだ、魔力が無くなったわけではないから心配するな。」

「そうでしゅか、よかったー!」

ほっとしたら、またシグウェルさんがミルクに浸したクッキーを渡してくれたのでそれを齧る。

そんな私達を見てユリウスさんは

「そんな状態のユーリ様と普通に会話出来てるのがすごい不思議っす。つーか、そうしてるとなんか親子みたいに見えるっすね。」

と言っている。まだ一応独身のシグウェルさんに子持ちに見えるとか言うのはどうなのよ?とちらっとシグウェルさんを見上げる。

だけどシグウェルさんは

「まあ確かにこの状態のユーリを捕まえて幼妻おさなづまと言うにはさすがに無理があるからな。これから俺達の間に生まれるだろう子の相手の予行練習をしているとでも思った方がいいか」

と平然としている。いや、幼妻って。俺達との間の子って。

あんまり考えたことのなかったあれこれを言われて急に恥ずかしくなったというか、そういえばもうすぐシグウェルさんと結婚するんだったと思い出して赤くなった。

「え、何スかユーリ様、なんで赤くなってるんすか?ていうか、赤いほっぺが可愛いっす、ちょっと触ってもいいっすか?」

とユリウスさんは私のほっぺをつつこうと指を伸ばして来た。

「ユリ、だめ‼︎」

「ええー、何すかそれ、かわいい‼︎」

ユリウスさんを注意してシグウェルさんに抱きついていたら、

「今すぐその手を降ろしてユーリ様から離れないと腕を切り落としますよ」

と物騒なセリフが聞こえてきた。こんな事を言う人は一人しかいない。

声のした方を見れば、やっぱりシェラさんだった。

「シェラしゃんだ!」

声に出して言ってみれば、大体いつも通り呼べた。良かった、シェラさんの名前は私の短い舌でも呼びやすい。

でもなんでここに?そう思っていたら

「お迎えに上がりましたよユーリ様。シンシアに大まかな事情は聞きましたので、帰る前にお召し物を着替えていきましょうね。」

とにっこりと滴るような色気を顔に乗せて微笑まれた。幼児にまでいつもの色気を垂れ流したような笑顔を向けるのはどうなのかな?

そう思いながら手に持っているものを見れば、なぜか大荷物だ。

「シェラしゃん、にもつ、多いよ?」

そう言った私に一瞬目を見張ったシェラさんはまた嬉しそうな色気垂れ流しの笑顔を見せた。

シェラさんの物騒な発言にすぐさま手を引っ込めていたユリウスさんが、「眩しっ!」と声を上げている。

「ユーリ様にいつもと違う話し方をされると新鮮ですね。それになんて愛らしいお姿なんでしょう。シンシアに話を聞いた時に想像した姿の数倍上をゆく、尊ささえ感じる愛らしさです。それなのにオレ如きがユーリ様の愛らしさを想像出来るなどおこがましい事この上ありませんでした。」

不遜なオレをお許し下さい、と頭まで下げられた。一体何を言っているのかな?

久しぶりに癒し子原理主義者の片鱗を見たような気がする。

そう戸惑う私をよそにシェラさんはいそいそと目の前で持ってきた荷物を広げ始めていた。










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