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第十九章 聖女が街にやって来た

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※誤字脱字報告ありがとうございます、訂正しました!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あー、やっぱりまだダメみたいっすね。」

ポカンとして自分の手を見ている私にそうユリウスさんは言うと、自分の治癒魔法で切り傷を治してしまった。

「ちょ、ちょっと待って下さい⁉︎」

急いでシェラさんの淹れてくれた紅茶を飲み干し、今度はそのカップを手にもう一度祈ってみる。

このカップいっぱいに、並々と紅茶を。

だけど空になったティーカップはいつまでもそのままで、傍目からみれば私は空っぽのカップをただ睨みつけている人だろう。

「お茶も増えませんよ⁉︎」

癒しの力どころか豊穣の力もうまく使えない。

あせる私にシグウェルさんは、まあそうだろうなと納得顔だ。

「倒れた直後から今まで、君の中の魔力は本当に少しずつしか増えていない。あれだけ大がかりな力を使ったからな、さすがの召喚者もただでは済まなかったということだろう。」

そう説明された。

「一体いつになったら回復するんですか・・・?」

このまま元に戻らなかったらどうしよう。

イリューディアさんとの約束を果たせないし、あの力がなければ生活能力が皆無な私はこのままだとニートだ、穀潰しだ。

ショックを受けている私にシグウェルさんは、

「目覚めたことだしこれから先はよく食べてよく休み、体調を整えることだ。それが回復への一番の近道だろう。そんなに心配することはない。」

私の頭を慰めるようにさらりと撫でてくれた。

そしてシェラさんは私の手から空になったカップを受け取りながらなぜか嬉しそうだ。

「そうですよユーリ様。それに前にも話しましたが、むしろオレはユーリ様がそのお力を失っても歓迎いたします。ユーリ様を養える良いチャンスですから。またリオネルの港町にでも出掛けて保養しますか?」

「ちょっと待ってよシェラ」

シェラさんの言葉にリオン様が異議を唱える。

「ユーリを養うって、それなら僕の方がいいだろう?財力は僕の担当だって言ったのは君だよね⁉︎」

「おや、忘れておりませんでしたか。ではそれこそその言葉通りにするならば、今度こそ家庭的なオレは家に入り殿下方が働いている間はしっかりとユーリ様を内からお守りいたしますよ。」

「お前にはまだ騎士団は辞めさせん!」

リオン様の異議に応えたシェラさんに今度はレジナスさんが噛み付いた。

リオン様が財力担当とかシェラさんが家庭的で家を守るとか一体なんの話だろう?

首を傾げていればルルーさんが、

「まあまあ、ユーリ様がお目覚めになり皆様すっかりいつも通りですね。まるで光が差し込んだかのようで、こんなに明るい雰囲気も随分と久しぶりです。」

朗らかにそう笑うと、嬉しそうにリオン様達を部屋から追いやる。

「さあ、ユーリ様はお目覚めしたばかりでまだお疲れでしょうし皆様、今日はこれくらいで。・・・ユーリ様とはまた明日もお話できるのですから。」

その言葉にわいわいと話し合っていたリオン様達はぴたりと静かになった。

「・・・そうだね。ユーリとはまた明日もこうして顔を見て話が出来るんだね。」

噛み締めるようにリオン様は言った。

実感のこもったその言葉に情緒が死んでいると言われる私もさすがにじんとする。

生きていればこそ、こうしてお互い顔を見て話が出来るのだ。

久しぶりに見たリオン様の髪が伸びているのも、私が早く目覚めるようにとの願掛けだったのだとさっきまでの話の中で聞いた。

周りを見渡せば、飾られている花の中にはモリー公国のあの青い薬花もたくさんある。

私のことを密かに伝えて、回復に役立つかもと取り寄せてくれていたらしい。

ベッドサイドのテーブルにはマールの町で栽培してもらっているあの金のリンゴもいくつか籠に入っているし。

あのリンゴはそれほど日持ちがしないはずだから悪くなるたびに新鮮なものに取り替えて、きっとこの一年間ずっと送り続けてもらっていたんだろう。

みんなにどれだけ心配をかけたのか、申し訳なく思うと同時にその心遣いが嬉しくて暖かい気持ちにもなった。

「早く回復できるように頑張りますね・・・!」

改めてそう誓う。そんな私にリオン様はふっと微笑み、

「そうだよユーリ、せっかくヨナス神の呪いが外れて本来の姿に戻れたんだから。早く良くなってくれないと困るよ。」

と言う。本来の姿に戻っている・・・?

その言葉にあっ、と思う。

そういえばエリス様を助けるためにお酒の力を借りて本来の姿になって、そのままあのヨナスのチョーカーを壊されたんだった。

てことはあの時、私の中にあったらしいヨナスの力・・・っていうか呪いみたいなものから解放されたんだ。

「私、大きい姿のままなんですか⁉︎」

「気付いてなかったの?まあその直前にも成長したばかりだったからね。その時の姿とそう大差ないから分かりにくかったのかな?」

「全然実感がないです・・・!」

するとリオン様はレジナスさん達三人と顔を見合わせた。・・・うん?何かな?

「えーとね、ユーリ。」

リオン様が何故か嬉しそうに口を開いた。ほんの少しだけその頬も薄く朱に染まって照れているようにも見える。

「ついでに今話すね。ユーリが本来の姿を取り戻したから、後は体調さえ整えばいつでも式を挙げられるように一応準備はしてあるんだ。父上もすごく乗り気でね」

言っていることの意味がよく分からない。

「式?なんの式ですか?私が回復したら何かやらなきゃいけない儀式でもあるんですか?しかも陛下・・・あ、元陛下か。元陛下まで関係して?」

するとシグウェルさんが

「・・・まあ儀式といえば儀式か?一つのけじめだな。大神殿にも、召喚者が本来の姿を取り戻したのなら早いうちに式を挙げて召喚者との結び付きの強さを国の内外に知らしめた方がいいだろうとは言われている。」

と頷いた。

「大神殿まで関係するような儀式ですか⁉︎」

なんだそれ。そんな大がかりな儀式、ここに来てから一度もしたことがないんですけど⁉︎

するとレジナスさんにはその目元をうっすらと赤くして

「リオン様、ユーリには意味が全く伝わっていないようですが」

とダメな子認定をされた。し、失礼な!

「今の会話でなんとなく分かりましたよ!私の癒し子としてのお披露目でしょう?元々戴冠式の後にやる予定になってましたもんね⁉︎」

分かってるもんね、と勢い込んで言ったら四人に微妙な顔をされた。

「・・・やっぱりユーリって、はっきり言わないと伝わらないんだね。」

そう呟いたリオン様にユリウスさんが、

「そりゃそうっすよ、ユーリ様ですよ?こんなに鈍い人、俺は見た事ないっす!ていうか、久しぶりでもそういうところが変わってなくてある意味安心するっす!」

と本人を目の前に失礼なことを言ってくれた。

「ええ?違うんですか⁉︎」

じゃあ一体何。そう思っていたら、部屋から退出しかけていた四人のうちシェラさんがくるりと踵を返して戻って来て、ベッドに跪くと私の手を取った。

「式というのはオレ達とユーリ様の結婚式のことですよ。まあそれをそのまま召喚者のお披露目の場にしてもいいかも知れませんね」

とそのまま取った手に口付けて嬉しそうにあの金色の瞳で見上げられる。

「けっ・・・⁉︎」

結婚式?予想外の話に言葉が出てこなくなった。
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