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閑話休題 ジュースがなければお酒を飲めばいい

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騎士のみんなに口付けをして加護を贈ろう。

その言葉に騎士達は一瞬何を言われたのか分からず頭の中にハテナマークが浮かんだ。

「・・・え?ユーリ様がオレ達に?」

「口付けって・・・あの口付け?」

「どこだ⁉︎額か、それともほ、頬に・・・⁉︎」

「全員にか?さすがにそれはないよな、誰か代表した数人の奴らにとか⁉︎」

場が更にざわつく。

騎士達を混乱させるような言葉を言い放ったユーリだけがにこにこと両手を合わせて
そんな騎士達へ嬉しそうに笑いかけていた。

「バカなことを言うんじゃない!」

レジナスがユーリの肩をつかんで叱っても、

「ええー、でも謝礼は感謝を込めた口付けがいいってシグウェルさんは言ってたし、この一週間騎士さん達には訓練でおせわになったし」

「あいつ、そんな事を⁉︎シグウェルみたいな変わり者の言葉を判断基準にするんじゃない!騎士達には微笑んで心からの感謝の言葉を伝えるのが一番だと教えただろう⁉︎」

酔ったユーリは無駄に他人への身体接触が増える。

酒で力が解放されたのと同じように、いつもは必要以上に恥ずかしがり屋なその部分もまるでタガが外れたように途端に大胆な行動を取り始めるのだ。

そう、いつぞやユリウスの上に肩車で馬乗りになりあの柔らかな太ももで相手の頭を締めあげていたように。

このままだとキス魔のごとく本当に騎士達へ口付けをして回らないとも言えない、とレジナスは必死になってユーリを説得した。

肩を掴まれて説教をされているユーリはそれでも

「レジナスさんが必死でかわいい~」

と頭を揺らして笑い、精一杯その細腕を伸ばしてレジナスの頭をよしよしと撫でる始末だ。

その行為を見た騎士達が衝撃を受ける。

「あの恐ろしい形相で説教するレジナス様をかわいいだと・・・⁉︎」

「しかもあんなに気安く頭を撫でるとか」

「おい見ろ、撫でられているレジナス様の耳が気持ち赤くなってないか?」

「さすがユーリ様、オレ達には出来ないことを平然とやってのける」

そこに痺れる憧れるぅ、とまでは言わないものの騎士達は怖いもの知らずなユーリの行動を固唾をのんで見守っていた。

と、そこでユーリはそうだ!と何か思い出したように声を上げてレジナスの頭を撫でる手を止めた。

そしてくるりとシェラザードに向き直ると、

「レジナスさんやリオン様達には前にへーかの離宮で加護を付けたんですけどシェラさんにはまだでした。シェラさんにも同じように加護を付けますね!」

と無邪気に笑いかけた。

「離宮での加護と言いますと、オレが王都を離れていた時ですね。ユーリ様のあの金の矢での加護を受け取った時のことでしょうか?」

ふむ?と少し考えて思い出したように話した彼にユーリはそうそう、と頷いた。

そのままレジナスの元を離れて再びシェラザードの方へとフラフラ歩み寄る。

「おい待てユーリ、嫌な予感しかしない」

止めるレジナスに構わずユーリはシェラザードに近付いて、ふらつく体をしっかりと抱き留められればそのままにっこりと彼を見上げた。

「えっとぉ、あの時はわたしのだんなさまになる人達にはみんな口付けで加護をつけたんです。だからシェラさんにもそうした方がいいかなあって。なんでしたっけ、伴侶は公平にしなきゃいけないとかナントカ」

「伴侶は平等、ですね?」

「そう、それです!」

我が意を得たりとウンウン頷くユーリをまたさっきのように抱き寄せながら、美貌の隊長は人外の色気を更に垂れ流しにして喜んだ。

そしてその喜びように直視できない、目が潰れる!

と近くにいた騎士は顔を顰める。

「ユーリ様の口から旦那様という言葉を聞けるとは何という幸せでしょう。」

シェラザードの垂れ流しの色気にも動じないユーリはキョトンとして小首を傾げた。

いつも通りのその仕草も、大人びた今の姿ではその無邪気ささえもなぜか不思議と見ている者を惑わせる色気に変換されて、思わず触れたい衝動にかられる。

周囲にいた騎士達はぐっとその衝動を堪えて二人のやり取りを見続けた。

「伴侶ってことはだんなさまですよね?なにか間違ってましたか?」

酒で潤んだ瞳をパチパチと瞬いてそう聞いたユーリに

「いえいえ、何も間違ってはおりませんよ。ただその言葉の響きの美しさに感動しておりました。」

その黒髪を一束掬ってうやうやしくそこに口付けたシェラザードにまたユーリは笑う。

「おおげさですよそんなぁ!そんなので良ければいくらでも言ってあげます!」

「そうですか?」

「はい、わたしのだんなさま!」

「ああ、やはり良い響きですね。」

にっこりと微笑み見つめ合うその姿は完全に二人だけの世界だ。

そんな二人のやり取りというかイチャつきを見続けていた騎士達は、オレ達のユーリ様は本当にこの隊長を選んでしまったのだ・・・

と改めて実感して悲嘆に暮れた。

同じようにユーリのすることを見守っていたレジナスもたまらず

「まさかユーリ、こんなに騎士達が見ている前でシェラに口付けるつもりか⁉︎やめておけ‼︎」

と声を上げ、シェラザードに抱き寄せられていたユーリを彼から引き剥がした。

そんなレジナスをシェラザードは一瞥する。

「せっかくユーリ様がオレにも直接加護を授けてくださると言っているのです、ありがたく受け取るのが筋というものでしょう。オレは構いませんが、人目が気になるというならばそこの救護室の中にでも篭らせていただきましょうか?」

「なお悪い!人目がなくなったらお前は一体何をするつもりだ⁉︎」

「さあ?ユーリ様の御心のまま、オレの女神のなさりたいようにこの身をまかせるだけです。」

とシェラザードは妖しい笑みを浮かべる。

その様子に、今のユーリならこの男の甘言に上手いこと乗せられて口付け以上に大胆なこともしかねないとレジナスは顔を険しくした。

そんな二人に挟まれて、当の本人であるユーリは

「あいかわらず二人ともなかよしですねぇ、いいことです!」

とニコニコしていた。

そしてヒック、と小さなかわいいしゃっくりも一つすると

「さあシェラさん、少しだけかがんでくださいね。シェラさんに加護を付けたら騎士さん達にも前と同じよーな無病息災の加護を付けますから!」

と両手を広げた。

「承知しましたオレの女神。」

そう言ったシェラザードはレジナスが止める間もなく両手を広げたユーリを素早く抱き上げる。

その手に高く持ち上げられたユーリはたのしーい、とまた無邪気な笑い声を上げた。

シェラザードがそのまま自分の上にふわりとユーリを降ろせば、覆い被さるようにしてユーリは彼の唇へ口付ける格好になる。

「んっ・・・」

高く持ち上げられたままのその口付けは、集まった騎士達の後方の者にまでよく見えた。

ぎゃあ!とかうわあ!とかいう野太い悲鳴があちこちから聞こえてきてレジナスが頭を抱える中、

口付けたユーリとそれを受けているシェラザードの体が淡い金色に輝く。

穏やかで優しいその光はすぐに消え、シェラザードは唇を離したユーリをにっこりと見上げた。

「ありがとうございます。確かにその加護のお力を受け取りました。」

「どーいたしまして!えっと、かがんでって言ったのにどうしてわたしを持ち上げたんです?」

まだ高い高いをされているように持ち上げられたまま首を傾げたユーリに

「ファレルの東屋の時といい、どうもオレはユーリ様を見上げながら口付けるのが好きなようです。まるで星とその女神を見上げているような気分になるからでしょうか?」

とシェラザードはうっとりと見つめながら言い、それに対してユーリは

「シェラさんてほんとに星が好きですね!」

と笑う。

二人の間に漂う甘い雰囲気・・・というか甘いのは一方的にシェラザードだけだったが、そんなものを見せられたくない騎士達は

「この隊長を早くどうにかして下さい!」

とレジナスに目で訴えた。










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