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第十八章 ふしぎの海のユーリ

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何かと理由をつけてはいつも以上に私に構って
スキンシップを取るシェラさんとシグウェルさんに
解せない、と不満げな顔をしたままシンシアさんに
着替えを手伝ってもらう。

これが休暇だというのなら、私よりもあの二人の方が
ずいぶんと休暇を楽しんでいるような気がする。

「さあユーリ様、出来ましたよ。いつまでもむくれて
いるとせっかくの衣装の可愛らしさも半減ですよ。」

シンシアさんが私達のさっきの様子を思い出したのか
苦笑しながら私のスカートの裾を整えてくれた。

まだお昼前のおやつを食べた時間だというのに
すでに本日二度目の着替えだ。

白を基調に、明るい青が入ったスカートはボリューム
も控えめな膝丈のドレスで港町のリオネルにぴったり
の爽やかな服だ。

「やっぱりシェラザード様の選ばれるお洋服はどれも
ユーリ様に良くお似合いですね。」

私の頭に青いリボンの髪飾りを付け、手首には金色の
細いブレスレットを通しながらシンシアさんはそう
言っている。

ちらりと横を見ればドレスや髪飾りとお揃いの、
青に金色の刺繍が入ったサンダルも置いてあった。

「いやシェラさん、服やアクセサリーもですけど
靴もドレスに揃えて持って来てるんですか?」

「ユーリ様に着ていただきたいお洋服が多過ぎて
選べなかったとおっしゃっていました。そのために
持ち込んだ荷物が多くなったようですよ?今回の
私は、そんなシェラザード様のご要望を叶えるべく
滞在中はなるべく多くのドレスをユーリ様に袖を
通していただこうと思っております。」

自分の仕事に目標を掲げてキリリとした顔を見せた
シンシアさんに、これは無人島から戻って来ても
今日はあと二回は着替えさせられそうだと覚悟した。

そうして着替え終わってから船着き場で待っている
シェラさんの所へエル君と一緒に合流すれば、私の
格好を見て嬉しそうな顔をされる。

「ユーリ様は何を着てもよくお似合いなので準備の
しがいがありますね。ですが・・・うーん、履き物は
やはり編み上げリボンが付いたものでも良かったかも
知れないですね、ユーリ様の白い足には爽やかな青い
色の編み上げリボンは素晴らしく美しく映えたこと
でしょう。」

まずい、シェラさんがまた何か買ってきそうな勢いで
考え始めた。

これ以上の無駄遣いはやめさせないと、と慌てて
声を上げてシェラさんの興味を買い物から逸らす。

「大丈夫です!それより早く行きましょう⁉︎無人島
なんて初めてだから楽しみだなあ‼︎」

「そうですか?」

「そうですよ!私の格好なんかよりもずっと楽しみ
です!」

ウンウン、と頷けばそこまで言うならとさっそく
シェラさんは小型の船に私を案内した。

私とエル君、シェラさんの三人だけがその船に乗り
櫂を操る漕ぎ手はシェラさん本人だ。

「シグウェル魔導士団長が揺れ防止の魔法をかけて
くれたので酔ったりはしないはずですよ。今回は
オレが漕いでいますが、島へ本格的に滞在する際は
昨日シグウェル団長が話していたように魔法の使える
専用の漕ぎ手も雇う予定です。」

そんなところまで考えてたんだ。たかが私一人の滞在
にそこまで、とも思うけど町に雇用が生まれるのは
いいことなのかな・・・?

「ちなみに他にも雇う予定の人がいるんですか?」

気になって尋ねれば、

「ええ。館の管理人に厨房など人手はある程度必要
ですからね。いつでも搾りたての新鮮なジュースが
飲めるように果樹園も作り、庭師とは別に果樹園専用
の管理人も置こうかと。」

すいすいと力強く漕ぎながらシェラさんはあれこれと
楽しそうに話す。

「そうだ、王都に戻りましたらリオン殿下に話して
奥の院にもユーリ様専用の果樹園を作っていただき
ましょうか。毎朝オレが新鮮なジュースをお届け
しますよ。無人島に植える果樹はシグウェル魔導士
団長がノイエ領の叔父に交渉してノイエの甘い果物を
植える予定ですから、ついでにその一部を奥の院へ
回してもらいましょう。小さな小川も作り、樹の下で
そのせせらぎを聴きながらお昼寝するのもいいかも
しれませんね。」

「そこまでするつもりですか⁉︎」

無人島の話が奥の院の改装にまで話が飛び火した。

ついこの間、私のために改装したばかりなのに
今度は果樹園と小川を作るとかちょっとした工事に
なってしまう。

「い、いえ、いいんですよ?私にはこの島がある
だけで充分ですから」

「そうですか?」

小首を傾げるシェラさんに私の言葉は届いていない
気がする。帰ってから数ヶ月後には奥の院に小川と
果樹園が出来上がっているのを覚悟しておこう。

そんな話をしていれば、いつの間にか船は島へと
ついていたらしい。

着きましたよ、とシェラさんに縦抱きにされて
降り立った船着き場には桟橋全体にも屋根がかかり
船を収納するだけにしては立派な二階建ての建物が
立っていた。

まるで観光地にあるクルーズ船の発着場の小型版にも
似た建物だ。

「なんかもう、ここだけでもお金がかかってそう
なんですけど・・・」

「天候が悪い時に濡れないためです。この二階から
見える海の眺めも素晴らしいですよ?館からここまで
散策して来て、この二階でお茶を飲んでゆっくりと
景色を楽しんでからまた館へ戻るのも良いでしょう」

館から馬で急ぎここまで来た時のための馬小屋も
備え付けてありますが、まだ馬はおりませんので
それはまた後でお見せしましょうね。と微笑まれて
あ、これでもまだ完成してないんだ・・・と
そら恐ろしくなった。

その後も緩い坂道を登りながらその道沿いに植えて
あるグミみたいな小さくて甘い実をつまんで食べたり
ユリウスさんが月光花の原種だと言っていた鮮やかな
赤い花を見たりしてシェラさんの説明を受ける。

月光花の原種だというその花は、お世話になっている
お屋敷で見た方が大ぶりで華やかだったので、地植え
してあるのと鉢植えだと違うんだなあと思いながら
眺めていれば、そんな私を見て

「あの屋敷の庭師をこちらに住み込みで雇い直し
ましょうかねぇ・・・」

とシェラさんは呟いている。

いや、たまにしか来ない場所のために今お世話に
なっているところの人を無人島に住み込みで引き抜く
とか迷惑過ぎない?

ダメですよ、と注意すれば「ユーリ様がお花を見て
物足りなさそうなお顔をしていらっしゃいました
ので」と私のせいにされた。

ちなみに船着き場から坂の上にある昔の砦を改装した
という館まではずっとシェラさんに縦抱きにされた
ままだった。

歩きますよ、と言っても「ユーリ様の体力では
上に着く頃には疲れてしまってますから」という
理由で降ろしてもらえなかった。

そんな風に、リオン様やレジナスさんよろしく私を
ずっと縦抱っこ移動していたシェラさんは

「やはりユーリ様と伴侶として過ごす休暇は良いもの
ですね。これほど幸せな時間を過ごせるとは。
・・・受け入れていただけて本当に良かった。改めて
お礼を申し上げます。」

と海を見ながら噛み締めるように言うと、その手に
抱き上げている私をふいに穏やかな微笑みで見つめて
きた。

金色の瞳にはいつもの人たらしな色気も周囲を警戒
している時のような鋭さもない。

静かに輝く星の光のように凪いだ穏やかさに、私と
一緒にいたシェラさんを見たシグウェルさんが

『やはり君はユーリと一緒にいると魔力が安定して
いる。君が伴侶に選ばれたのは周りにとっても
良かったのかもしれない』

と言っていたのを思い出した。

この休暇の間中、いつもよりもスキンシップが多めで
無人島どころか奥の院までまた手を加えようとして
いて・・・あまつさえ私のことを見ず知らずの人達に
「妻です!」と張り切って話したり色々と突っ込み
たいところはあるシェラさんだけど。

私と一緒にいることで自分を卑下することなく、
満足して幸せだと思っているなら良しとしよう。

見つめられている気恥ずかしさからそっと視線を
外しながらそう思った。




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