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第十八章 ふしぎの海のユーリ

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それじゃ夜中に歌が聴こえて来たのも、リンという
鈴の音が鳴った気がしたのも気のせいじゃなく、
あれは結界が何かを弾いた音だったのかな。

ユリウスさんは呆れたようにシグウェルさんを見て

「団長、つけた結界が強力過ぎて逆にそこまで強く
ない魔物を弾いた時の反応が分かりにくくなってる
じゃないっすか。だからもっと手加減した結界でも
良かったのに。そもそも最初にこの近辺には俺も結界
を張ってたのに、団長がその上から更に念入りに
結界を上掛けしちゃってるから。」

肩をすくめた。

「そこまで強力な結界じゃなきゃ魔物の気配をもっと
探って探索出来たのに。やっぱ竜も弾くような結界を
付けたのはやり過ぎっすよ!」

「逆に言えば、この人攫いをする魔物はそこまで
強くないと言うことだろう?それならこれから先
ユーリがここで安心して過ごすための魔物退治も
簡単に終わるということだ。」

嫌そうな顔をしたユリウスさんをそうやり込めて
シグウェルさんは続ける。

「それに今のユーリの話やお前の聞いてきた話から
考えるに、この魔物の声はある一定の歳までの少女に
しか聴こえていない。人間を性別や一定の年齢で
食好みする魔物ということだな。」

その言葉にエル君もそういえば、と口を開いた。

「昨日浜辺でもユーリ様、何か聞こえたと仰って
ましたね。僕やユリウス副団長には何も聴こえて
いませんでしたけど、あれもそうだったんじゃない
ですか。」

確かにあの時もなんだか女の人の声みたいなのが
聴こえていた。

まさか着いて早々、魔物に遭遇するところだった
なんて思いもよらなかった。

「シグウェルさんの方は他に何か収穫はありましたか?」

「ここから見える入り江があるだろう?あそこには
海の神を祀る祠があるそうだ。月に一度、そこへ
肉や果物などの供物を捧げに行く風習がここには
昔からあるというのは聞いた。あとはユリウスが
聞いて来たのと同じような話くらいか。」

ちなみにこのお屋敷に結界石のお守りはないと
言われたそうだ。

元からこのお屋敷に住んでいる貴族に小さい子供が
いなかったのと、少女でも癒し子ならまさか魔物に
害されるようなことはないだろうと民間伝承のような
この魔物の話はシェラさん達にしなかったらしい。

シグウェルさんが聞いて来たその話にシェラさんは

「・・・むしろ癒し子が滞在するからこそ、どんなに
小さな取るに足らない話でも取りこぼすことなく
滞在前に教えて貰いたかったですがね。おかげで
ユーリ様に余計な心配をかけてしまいました。この
屋敷の主人とは後で話し合う必要がありますね。」

と、なんだか背中が寒くなるような迫力のある笑み
を顔に浮かべていた。お、お手柔らかに。

そんな風にして断片的だけど集まった情報を元に
シグウェルさんは考え込んだ。

「歌で獲物を引き寄せるなら幻影魔法か精神錯乱系
の魔法を使う魔物だろう。それでいて海の魔物と
いえば一番可能性があるのはセレネという魔物だが
奴らは食好みはせずに人間なら老若男女全てが捕食の
対象だからな。今回とは少し様子が異なるが・・・」

「とりあえず海の神様を祀ってあるとかいう入り江の
祠を調べに行ってみるっすか?食いもんをお供えに
してるなら魔物か何かが食べに来てるかもしれない
っすよ?」

ユリウスさんの提案にそうしよう、とシグウェルさん
は頷いた。

「ではその間、オレはせっかくですからユーリ様を
例の無人島にでも案内しましょうか?せっかく休暇
で来ているのに、いつまでも屋敷に閉じこもって
いるのはさすがにかわいそうですから。」

シェラさんがにこりと私に笑顔を見せた。

「いいんですか?」

それは嬉しいけど、じっとしていなくて大丈夫
なんだろうか。

「さすがにこの真っ昼間から襲って来るような魔物
ではないでしょう。セレネの類いだとすればそこまで
高等な魔物ではありませんし、念のためシグウェル
魔導士団長に保護魔法をかけてもらいましょう。」

まあ確かにシェラさんやエル君がいれば大抵のことは
平気だろう。

ユリウスさんも、「単なる下調べっすから昼には
戻って来るっすよー」と気楽に話しているのでそう
深刻なことではなさそうだ。

おやつを食べたらさっそく出掛ける準備をして、
このお屋敷に備えてある船着き場から直接無人島へ
渡ることになった。

「じゃあさっそく準備しますね!」

急いでドーナツを口に詰め込んで椅子から降り立てば
シェラさんとシグウェルさんの二人が私を見つめて
立っている。

「・・・シェラザード隊長、君がおやつにこの砂糖が
たっぷりかかった揚げ菓子を選んだのはわざとか?」

「そういうわけではありませんが、まあいい口実には
なりますよね」

「では俺からでも?」

「どうぞ?」

「それではついでに保護魔法も今付けてやろう」

なんだろう、そのよく分からないやりとりは。

何となく私によくないことな気がする。

「何ですか⁉︎」

思わずじりっ、と一歩下がれば私よりも足の長い
シグウェルさんは同じように前に一歩踏み出しても
あっという間に私の目の前に迫って来る。

そして腰をかがめて私の唇の近くにその口元を
寄せるとそのまま口付けられた。

そのままぺろりとシグウェルさんの舌がそこを
舐め上げる。

「⁉︎」

びっくりしてその部分を押さえた手や体がほんのりと
光っているから保護魔法もかけたらしい。

「君は自分でもう子供じゃないと主張するなら口の
周りを砂糖だらけにしたまま歩き回るのはやめた方が
いいな」

「そっ・・・!」

砂糖だらけとかそんな事ないし!と言おうとしたら
シグウェルさんはすいと後ろに下がった。

と、入れ替わりで今度はシェラさんが私の前に
跪いて私の手を取る。

「今度は何です⁉︎」

声を上げたわたしに答えず、シェラさんは取った手の
指先に口付けを一つ落としてそのままその指先を、
・・・わたしの右手の人差し指と中指の先をちゅっと
軽く吸われた。

「なんで⁉︎」

「指先もお砂糖だらけですよユーリ様。オレが
お拭きいたしましょうか?」

跪いて下から見上げたまま艶然と微笑まれる。

「口も指もちゃんと拭いてるし!」

さっと手を抜き取って抗議しても、それはどうで
しょうね?と微笑んだままシェラさんは立ち上がる。

「では俺はこれから入り江に行こう。ユーリは
まかせた」

シグウェルさんがそう言ってシェラさんの肩をぽんと
軽く叩けばシェラさんの体もほんのりと光を帯びた。
私と同じく魔法を付けたらしい。

「行くぞユリウス」

踵を返してスタスタ歩き出すシグウェルさんに、
二人のしたことを目の前で見ていたユリウスさんは

「だからアンタら二人、ユーリ様に対して息が
合いすぎなんすよ‼︎」

と大きな声を出して赤くなりながら慌ててその後を
追って行った。








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