415 / 709
第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし
35
しおりを挟む
「シェラさん?」
呟いたシェラさんに、そのまますとんと地面に
降ろされる。
ちょっとだけよろめいたけどシェラさんの服の裾を
掴んでちゃんと立てた。
「・・・やはり証人が欲しいですね」
そう言っていたシェラさんはさっきみたいに私の前に
片膝をついた。そのまま私の片手を取ると自分の胸に
当てさせる。
「ユーリ様、オレの女神。オレの全てをあなたへの
愛に捧げます。この身と命と、心に誓いこの先一生
それを違えることはありません。求婚を受け入れて
くださり本当にありがとうございます。」
真剣な表情でそう言って頭を下げられた。
「え?どうしたんですか突然。」
急に改まって。そう思っていたら、にっこりと
微笑んだシェラさんは胸に当てていた私の手をぐっと
引いて抱き寄せた。
バランスを崩してどこかに掴まろうと慌てて伸ばした
私のもう片方の手が鐘に当たる。
カランカラーン、という軽やかな音がしてピンク色
の花びらが降って来た。
どうやらさっきの加護は鐘が鳴ると花びらが降り
注ぐ仕様で固定されてしまったらしい。
そんな事を考えていたら、抱き寄せられた私は
そのままシェラさんに口付けられた。
また・・・‼︎と思ったら、少し離れたところで
きゃあ‼︎と言う浮き足立った若い女の人達の悲鳴の
ような歓声が上がったのが聞こえた。・・・ん?
口付けからはすぐに解放されて、にこやかで満足そう
な笑顔のシェラさんを尻目に声のした方を見る。
顔を真っ赤にした若い女性が数人に、目を丸くして
いる巫女さんが二人。
「どうやら神殿を訪れたついでにこちらへ散策しに
来た信者の方達とその案内役の巫女のようですね。」
弾むように嬉しそうなシェラさんの声がする。
女の人達は口々に「プロポーズよ!」「素敵ねぇ」
「誓いを立てて鐘を鳴らしたら花が降って来たわ!」
「格好良い騎士さん」「相手は誰⁉︎」などと好き放題
言っていた。
その彼女達を案内して来た巫女さん達は当然私達が
誰か分かっている。
最初は呆気に取られていたけどすぐに顔を赤くして
「な、なぜ癒し子様がここで結婚の誓いを⁉︎」とか
「お相手はまさかあの恐ろしい騎士の方・・・⁉︎」
とかなんとか動揺していた。
突然の出来事にぽかんとしてしばらくそれを聞いて
いたけどやがてハッと我に返った。
「まさかシェラさんわざとですか⁉︎」
さっき散々告白したのに、なんでまた言ったんだろう
と思ったけど。
人の気配に聡いシェラさんだ、誰かがここへ近付く
のが分かってわざとあんなことをしたんだ。
証人が欲しいとか言って、目撃した人達の噂を利用
して周りに私達の関係を知らせるつもりだ。
「まあ遅かれ早かれ分かることですが、ユーリ様は
恥ずかしがり屋でしょう?ご自身の口からオレ達の
事を皆に公表するよりも、こうしていつの間にか
皆にそれとなく認知される方が良いのでは?」
「良くないですよ!恥ずかしいのには変わりない
ですからね⁉︎」
カッ!と真剣に怒っても
「おや、照れておられる」
シェラさんは平然として、・・・むしろ愛しい者を
見る目で嬉しそうに私に微笑みかけるだけだ。
そのやり取りも全部その場に居合わせた若い女性達に
見られていて、
「じゃれあいよ、微笑ましいわ」
「包容力のある護衛騎士様とお転婆な貴族のお姫様
かしら、身分差の恋?素敵ね!」
「応援したくなるわ」
ヒソヒソと勝手な作り話をされてしまっていた。
ほらあ!また話が曲解されて伝わる。
「し、信じられない・・・!こんなの、帰ったら
絶対リオン様に怒られます‼︎」
一体ファレルで何をして来たのユーリ?ってあの
怖い笑顔で詰められる。
「大丈夫ですよ。その時はオレも隣に座って手を
握り、一緒に怒られてあげますからね。」
「なんにも大丈夫じゃないしそんな事したらますます
怒られるし!」
レジナスさんだけでなくリオン様まで煽りにかかる
つもりだろうか。不安しかない。
そんな私の心境も知らずにシェラさんは
「帰ったらすぐに騎士団の自分の宿舎を引き払い
ますから。奥の院に住んだらまた朝からオレに
ユーリ様のお世話をさせて下さいね、楽しみです。」
きゃあきゃあ盛り上がっている女性達に聞こえない
ようにこっそりそう囁かれた。
・・・そんな風にして最後はとんでもなく精神的に
疲れて王都へ帰ると
「お帰りユーリ。お疲れ様・・・と言いたいところ
だけど僕達に何か言うことはない?」
奥の院では、忙しいはずのリオン様がレジナスさんと
二人でわざわざ私を出迎えてくれた。
「えっ」
ギクッとして歩みを止めてしまう。
そんな私にお帰りなさいユーリ様!とアンリ君と
リース君が世話をしようといつものようにまとわり
ついて来る。
そしてなんだか怖い笑みを浮かべるリオン様と眉間に
皺を寄せたレジナスさんにおかまいなしの二人は
「シェラザード様とのご成婚おめでとうございます
ユーリ様‼︎」
「お二人だけで誓いを交わされたなんて素敵です、
厨房にも話してお祝いの膳を今日の夕食に出して
貰うようにしてありますからね!」
と口々に言ってきた。
なんで私がファレルから戻って来るよりも早くそんな
話が広まって⁉︎と驚けば、
「侍女の情報網ですよユーリ様」
「巫女さん達からの連絡でそれを知った姫巫女の
カティヤ様からもお祝いの品が贈られてきましたよ!
さっそく見てみますか?とっても素敵な絹のドレス
生地やアクセサリーです!」
二人が無邪気に教えてくれた。
侍女の情報網・・・ってあれだ、やたら噂の回るのが
早いありとあらゆる貴族の侍女達みんなで共有して
いる独自のネットワークだ。
それに加えてカティヤ様にまでこの事を知られた?
あ、でもそうかファレルは神殿を中心にした街だし
今回の件ではカティヤ様も祭具に祝福を授けてくれて
いたから、何かあればカティヤ様へもすぐに連絡が
行くようになっていたのか・・・。
それがまさか私とシェラさんのことまで報告される
とは思っていなかったけど。
「一体向こうで何して来たのユーリ。こっちでは
シェラと君が二人だけでひっそりと式を挙げたとか
街の人を証人に結婚の誓いを立てたとか色んな噂が
飛び交ってるんだけど。」
予想通りのセリフと予想外の噂話をリオン様に
聞かされてしまった。
「はっ?ええ⁉︎何ですかそれ!」
誤解です!と声を上げればレジナスさんにも
「・・・何もなかったのか?」
と重々しく聞かれてしまった。リース君とアンリ君は
そんなぁ、ウソなんですか?とあからさまにがっかり
した顔で私がなんて言うのか待っている。
ちなみにこの騒ぎの元凶のシェラさんはこの場には
いない。王都に着くなり
「イリヤ殿下に報告をしたらすぐに引っ越す準備を
して来ますからね」
と言って足取りも軽くさっさといなくなってしまった
のだ。
何がリオン様に怒られる時は一緒にいてあげます
からね、だ!
今の私のこの有り様を見て欲しい。
「これには深いわけがあるんです・・・!」
帰って早々、おっかない顔をしたリオン様達に
シェラさんと何があったのかを話す羽目になって
しまった。
脱走しないようにとがっちりとリオン様の膝の上に
座らされた状態で。しかも、
「へぇ、シェラにそんな事を言ったんだ。じゃあ
僕とレジナスにも言って欲しいな。ユーリの口から
愛してるって言われたら嬉しくてきっと大抵のことは
何でも許せてしまうよ。」
案の定リオン様にはそうにっこりと微笑まれた。
「許してもらわなきゃいけない事なんか今回私は
何にもしてないですよ・・・⁉︎」
反論したらレジナスさんに
「これは人目のある場所でわざと求婚をして見せた
シェラが悪いが、そのインパクトのせいでファレルと
その近郊ではリオン様を差し置いてユーリの第一の
伴侶はシェラではないかと認識されてしまっている。
それでもいいか?」
と聞かれてしまった。
それは・・・一番最初に気持ちを伝えてくれた
リオン様に申し訳ない。
メンツも立たないだろうしリオン様のプライドも
傷つけてしまったかも・・・?
ウッ、とちらりとリオン様を見上げれば
「悲しいなあ、ユーリに告白したのは僕が一番最初
だったのに。」
と嘘ぶいてわざとらしく首を振っている。
その様子はちっとも悲しそうにも悔しそうにも
見えなかったけど本心を隠しているだけかも
知れない。
そうじゃなきゃあんな焼きもちを焼いたように
奥の院の入り口で私を待ち構えているわけがない。
仕方ない。リオン様の両頬に手を伸ばし、座った
まま伸び上がってサッと素早く口付けた。
突然のことに口付けられたリオン様もそれを見た
レジナスさんも目を丸くして固まってしまったけど
私にしてみれば一瞬でもまだキスする方が愛してる
なんて口に出して言うよりマシだ。
そのまま必殺の上目遣いでリオン様を見上げて
「リオン様を傷付けてごめんなさい」
と謝る。ユリウスさんが見たら絶対に「あざとい
っす!」って叫ぶやつだ。
するとリオン様は言葉に詰まったのか、さすがに
それ以上は私に何も言わなかった。
うっすらと頬を染めて
「どこでそんなズルい仕草を覚えてくるの・・・」
と呟いて、仕方ないなあ。とお許しを得ることに
成功した。
・・・それから数ヶ月後、ファレルの神殿に関する
とある噂話が私の耳に入ってきた。
ファレルの神殿にある庭園の、小さな東屋の鐘を
愛の誓いと共に恋人同士で鳴らすと神の祝福を受けた
花びらが二人に降り注ぎ、その二人は永遠に幸せに
結ばれるという。
そのためファレルの街と神殿は若い恋人達の巡礼や
そこで結婚式を希望する人達で活気にあふれている
そうだ。
私とシェラさんの出来事を元に広がった全くの
虚偽情報だ。
そんな無責任な噂が広がって別れるカップルがいても
責任は取れないんだからね・・・!と思っていたら、
どうやらイリューディアさんの加護の力はそんな
善良で純粋な恋人達の願いをきっちり叶えてくれて
いるらしい。別れた人達の話はまだ聞こえてこない。
あの日の出来事を元にしたそんな噂話を聞くたびに、
あの時のシェラさんと見つめ合ったまま口付けて
私の背で鳴っていた鐘の音を思い出してしまう。
そうして真実を知る私だけがただひたすら恥ずかしく
ベッドの上でその時の事を思い出してはジタバタと
悶絶する日々をしばらくの間は送ったのだった。
呟いたシェラさんに、そのまますとんと地面に
降ろされる。
ちょっとだけよろめいたけどシェラさんの服の裾を
掴んでちゃんと立てた。
「・・・やはり証人が欲しいですね」
そう言っていたシェラさんはさっきみたいに私の前に
片膝をついた。そのまま私の片手を取ると自分の胸に
当てさせる。
「ユーリ様、オレの女神。オレの全てをあなたへの
愛に捧げます。この身と命と、心に誓いこの先一生
それを違えることはありません。求婚を受け入れて
くださり本当にありがとうございます。」
真剣な表情でそう言って頭を下げられた。
「え?どうしたんですか突然。」
急に改まって。そう思っていたら、にっこりと
微笑んだシェラさんは胸に当てていた私の手をぐっと
引いて抱き寄せた。
バランスを崩してどこかに掴まろうと慌てて伸ばした
私のもう片方の手が鐘に当たる。
カランカラーン、という軽やかな音がしてピンク色
の花びらが降って来た。
どうやらさっきの加護は鐘が鳴ると花びらが降り
注ぐ仕様で固定されてしまったらしい。
そんな事を考えていたら、抱き寄せられた私は
そのままシェラさんに口付けられた。
また・・・‼︎と思ったら、少し離れたところで
きゃあ‼︎と言う浮き足立った若い女の人達の悲鳴の
ような歓声が上がったのが聞こえた。・・・ん?
口付けからはすぐに解放されて、にこやかで満足そう
な笑顔のシェラさんを尻目に声のした方を見る。
顔を真っ赤にした若い女性が数人に、目を丸くして
いる巫女さんが二人。
「どうやら神殿を訪れたついでにこちらへ散策しに
来た信者の方達とその案内役の巫女のようですね。」
弾むように嬉しそうなシェラさんの声がする。
女の人達は口々に「プロポーズよ!」「素敵ねぇ」
「誓いを立てて鐘を鳴らしたら花が降って来たわ!」
「格好良い騎士さん」「相手は誰⁉︎」などと好き放題
言っていた。
その彼女達を案内して来た巫女さん達は当然私達が
誰か分かっている。
最初は呆気に取られていたけどすぐに顔を赤くして
「な、なぜ癒し子様がここで結婚の誓いを⁉︎」とか
「お相手はまさかあの恐ろしい騎士の方・・・⁉︎」
とかなんとか動揺していた。
突然の出来事にぽかんとしてしばらくそれを聞いて
いたけどやがてハッと我に返った。
「まさかシェラさんわざとですか⁉︎」
さっき散々告白したのに、なんでまた言ったんだろう
と思ったけど。
人の気配に聡いシェラさんだ、誰かがここへ近付く
のが分かってわざとあんなことをしたんだ。
証人が欲しいとか言って、目撃した人達の噂を利用
して周りに私達の関係を知らせるつもりだ。
「まあ遅かれ早かれ分かることですが、ユーリ様は
恥ずかしがり屋でしょう?ご自身の口からオレ達の
事を皆に公表するよりも、こうしていつの間にか
皆にそれとなく認知される方が良いのでは?」
「良くないですよ!恥ずかしいのには変わりない
ですからね⁉︎」
カッ!と真剣に怒っても
「おや、照れておられる」
シェラさんは平然として、・・・むしろ愛しい者を
見る目で嬉しそうに私に微笑みかけるだけだ。
そのやり取りも全部その場に居合わせた若い女性達に
見られていて、
「じゃれあいよ、微笑ましいわ」
「包容力のある護衛騎士様とお転婆な貴族のお姫様
かしら、身分差の恋?素敵ね!」
「応援したくなるわ」
ヒソヒソと勝手な作り話をされてしまっていた。
ほらあ!また話が曲解されて伝わる。
「し、信じられない・・・!こんなの、帰ったら
絶対リオン様に怒られます‼︎」
一体ファレルで何をして来たのユーリ?ってあの
怖い笑顔で詰められる。
「大丈夫ですよ。その時はオレも隣に座って手を
握り、一緒に怒られてあげますからね。」
「なんにも大丈夫じゃないしそんな事したらますます
怒られるし!」
レジナスさんだけでなくリオン様まで煽りにかかる
つもりだろうか。不安しかない。
そんな私の心境も知らずにシェラさんは
「帰ったらすぐに騎士団の自分の宿舎を引き払い
ますから。奥の院に住んだらまた朝からオレに
ユーリ様のお世話をさせて下さいね、楽しみです。」
きゃあきゃあ盛り上がっている女性達に聞こえない
ようにこっそりそう囁かれた。
・・・そんな風にして最後はとんでもなく精神的に
疲れて王都へ帰ると
「お帰りユーリ。お疲れ様・・・と言いたいところ
だけど僕達に何か言うことはない?」
奥の院では、忙しいはずのリオン様がレジナスさんと
二人でわざわざ私を出迎えてくれた。
「えっ」
ギクッとして歩みを止めてしまう。
そんな私にお帰りなさいユーリ様!とアンリ君と
リース君が世話をしようといつものようにまとわり
ついて来る。
そしてなんだか怖い笑みを浮かべるリオン様と眉間に
皺を寄せたレジナスさんにおかまいなしの二人は
「シェラザード様とのご成婚おめでとうございます
ユーリ様‼︎」
「お二人だけで誓いを交わされたなんて素敵です、
厨房にも話してお祝いの膳を今日の夕食に出して
貰うようにしてありますからね!」
と口々に言ってきた。
なんで私がファレルから戻って来るよりも早くそんな
話が広まって⁉︎と驚けば、
「侍女の情報網ですよユーリ様」
「巫女さん達からの連絡でそれを知った姫巫女の
カティヤ様からもお祝いの品が贈られてきましたよ!
さっそく見てみますか?とっても素敵な絹のドレス
生地やアクセサリーです!」
二人が無邪気に教えてくれた。
侍女の情報網・・・ってあれだ、やたら噂の回るのが
早いありとあらゆる貴族の侍女達みんなで共有して
いる独自のネットワークだ。
それに加えてカティヤ様にまでこの事を知られた?
あ、でもそうかファレルは神殿を中心にした街だし
今回の件ではカティヤ様も祭具に祝福を授けてくれて
いたから、何かあればカティヤ様へもすぐに連絡が
行くようになっていたのか・・・。
それがまさか私とシェラさんのことまで報告される
とは思っていなかったけど。
「一体向こうで何して来たのユーリ。こっちでは
シェラと君が二人だけでひっそりと式を挙げたとか
街の人を証人に結婚の誓いを立てたとか色んな噂が
飛び交ってるんだけど。」
予想通りのセリフと予想外の噂話をリオン様に
聞かされてしまった。
「はっ?ええ⁉︎何ですかそれ!」
誤解です!と声を上げればレジナスさんにも
「・・・何もなかったのか?」
と重々しく聞かれてしまった。リース君とアンリ君は
そんなぁ、ウソなんですか?とあからさまにがっかり
した顔で私がなんて言うのか待っている。
ちなみにこの騒ぎの元凶のシェラさんはこの場には
いない。王都に着くなり
「イリヤ殿下に報告をしたらすぐに引っ越す準備を
して来ますからね」
と言って足取りも軽くさっさといなくなってしまった
のだ。
何がリオン様に怒られる時は一緒にいてあげます
からね、だ!
今の私のこの有り様を見て欲しい。
「これには深いわけがあるんです・・・!」
帰って早々、おっかない顔をしたリオン様達に
シェラさんと何があったのかを話す羽目になって
しまった。
脱走しないようにとがっちりとリオン様の膝の上に
座らされた状態で。しかも、
「へぇ、シェラにそんな事を言ったんだ。じゃあ
僕とレジナスにも言って欲しいな。ユーリの口から
愛してるって言われたら嬉しくてきっと大抵のことは
何でも許せてしまうよ。」
案の定リオン様にはそうにっこりと微笑まれた。
「許してもらわなきゃいけない事なんか今回私は
何にもしてないですよ・・・⁉︎」
反論したらレジナスさんに
「これは人目のある場所でわざと求婚をして見せた
シェラが悪いが、そのインパクトのせいでファレルと
その近郊ではリオン様を差し置いてユーリの第一の
伴侶はシェラではないかと認識されてしまっている。
それでもいいか?」
と聞かれてしまった。
それは・・・一番最初に気持ちを伝えてくれた
リオン様に申し訳ない。
メンツも立たないだろうしリオン様のプライドも
傷つけてしまったかも・・・?
ウッ、とちらりとリオン様を見上げれば
「悲しいなあ、ユーリに告白したのは僕が一番最初
だったのに。」
と嘘ぶいてわざとらしく首を振っている。
その様子はちっとも悲しそうにも悔しそうにも
見えなかったけど本心を隠しているだけかも
知れない。
そうじゃなきゃあんな焼きもちを焼いたように
奥の院の入り口で私を待ち構えているわけがない。
仕方ない。リオン様の両頬に手を伸ばし、座った
まま伸び上がってサッと素早く口付けた。
突然のことに口付けられたリオン様もそれを見た
レジナスさんも目を丸くして固まってしまったけど
私にしてみれば一瞬でもまだキスする方が愛してる
なんて口に出して言うよりマシだ。
そのまま必殺の上目遣いでリオン様を見上げて
「リオン様を傷付けてごめんなさい」
と謝る。ユリウスさんが見たら絶対に「あざとい
っす!」って叫ぶやつだ。
するとリオン様は言葉に詰まったのか、さすがに
それ以上は私に何も言わなかった。
うっすらと頬を染めて
「どこでそんなズルい仕草を覚えてくるの・・・」
と呟いて、仕方ないなあ。とお許しを得ることに
成功した。
・・・それから数ヶ月後、ファレルの神殿に関する
とある噂話が私の耳に入ってきた。
ファレルの神殿にある庭園の、小さな東屋の鐘を
愛の誓いと共に恋人同士で鳴らすと神の祝福を受けた
花びらが二人に降り注ぎ、その二人は永遠に幸せに
結ばれるという。
そのためファレルの街と神殿は若い恋人達の巡礼や
そこで結婚式を希望する人達で活気にあふれている
そうだ。
私とシェラさんの出来事を元に広がった全くの
虚偽情報だ。
そんな無責任な噂が広がって別れるカップルがいても
責任は取れないんだからね・・・!と思っていたら、
どうやらイリューディアさんの加護の力はそんな
善良で純粋な恋人達の願いをきっちり叶えてくれて
いるらしい。別れた人達の話はまだ聞こえてこない。
あの日の出来事を元にしたそんな噂話を聞くたびに、
あの時のシェラさんと見つめ合ったまま口付けて
私の背で鳴っていた鐘の音を思い出してしまう。
そうして真実を知る私だけがただひたすら恥ずかしく
ベッドの上でその時の事を思い出してはジタバタと
悶絶する日々をしばらくの間は送ったのだった。
25
お気に入りに追加
1,916
あなたにおすすめの小説
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ
Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます!
ステラの恋と成長の物語です。
*女性蔑視の台詞や場面があります。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる