412 / 706
第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし
32
しおりを挟む
「ここが神殿なんですね。」
ざり、と土と瓦礫を踏み締めたシェラさんに抱かれた
まま目の前の建物を見上げる。
白い壁がところどころ剥がれ落ちていて屋根も
かかっていないところもある。
・・・それは私の力のせいで屋根が抜け落ちた
んだろうか。
いやいや、古神殿って言ってたし、元から壊れかけて
いたと思いたい。
こっちっすよ、と言うユリウスさんを先頭に進めば
大きなホールのような場所に出た。
壁には25メートルプールくらいの幅と大きさを
持つ巨大なフレスコ画が描かれている。
傷みがひどくてやっぱりところどころ消えかけて
いるけど、全体的に深い青というか青紫の夜の海を
思わせるような絵だ。
だけど左上の方には月らしいものが描かれているし
これは夜空なんだろうか。
右側にはヨナスだろうか、濃い紫色で髪の長い女の人
が自分を見上げる人達に手を伸ばして抱きしめて
いる。
「ここが神殿の中央祭壇で、祭事の時にはみんなが
集まって祈りを捧げた場所っすよ。」
そう話したユリウスさんが、
「これはヨナス神の恵みを表している絵っすね。」
コンと壁のフレスコ画をノックするように叩いて
みせた。
ヨナスの力はいい方に働けば精神的な安定や穏やかさ
をもたらしてくれるというから、この絵もそういう事
を表しているのかな。
「・・・この神殿を修復したら、この絵も綺麗に
元通りに直せますか?」
「えっ⁉︎いいんすかユーリ様、ヨナス神の絵っす
よ!」
ユリウスさんに驚かれた。
「だってここは元々ヨナスの神殿ですから。今回の
件でいくら周りに被害を与えたからって言っても
まさかその存在を否定してイリューディアさんの
神殿に作り変えたりするのはちょっと。」
もちろん私はヨナスに殺されかけてるし個人的には
許せない。
だけど、だからって神殿を潰すとかはできない。
それは今までこの神殿を守ってきたり祈りを捧げて
来た人達の信仰を否定することになるから。
「ユーリ様がそういうならトマス様に相談してみます
けど・・・。一旦更地に戻して公園や記念碑的なもの
に変えちゃうとか色々できるんすよ?」
話しながら促されて隣の部屋へと移動する。
するとドーム状の天井を持つそこはあるはずの屋根が
なく、ぽっかりと穴が開いていた。
「ここにヨナスの魔石があったんですか?」
「そうっすよ。ほら、あっちに穴が見えるっすよね」
指さされたほうには確かにぽっかりと穴が開いて
いる。
シェラさんにお願いして近くに寄ってみれば確かに
細かく砕けた紫色の魔石の破片が散らばっていた。
「とりあえず回収、っと」
パチンと指を弾いたユリウスさんが持参した箱に
魔石はふわふわ浮くと勝手に自ら収まっていく。
全ての破片が綺麗に片付いたのを確かめて、
「よし、後は団長に任せるっすよ!」
と満足そうに頷いた。
「急ぎじゃなければ復元した魔石についての結果を
聞くのは王都に帰ってからでもいいっすか?」
と聞かれたのでそれで構わないと答える。
もし欠けている部分が見つかった時のために辺りを
見回して崩れた壁に沿うように這っている蔦に手を
伸ばした。
興味津々なシェラさんに抱っこされたまま力を使って
それを成長させるとエル君にお願いして伸びたツタを
切ってもらう。
「巫女さんか誰かにお願いして、これでツル籠か
箱のような入れ物を作ってもらえませんか?一応
イリューディアさんの加護の力を使ったので、もし
欠けている部分の魔石を見つけたら入れて下さい。
そうすれば多分その力を抑えられて悪さはしない
んじゃないかと思います」
「コーンウェル領で作った魔除け効果のある吊り橋の
応用のようなものですか」
なるほどとシェラさんが頷いた。
その後は集落の中を見回り、広場の中心にある井戸や
荒れた畑に加護を付けたりする。
「さて、この後はどうします?」
一通り集落を見終わってファレルの神殿へ帰る馬車に
乗るとシェラさんに聞かれた。
「せっかくだから帰る前にファレルの神殿にある
大鐘楼じゃない方の鐘にも加護を付けようかなと
思ってます!」
確か大鐘楼と違う場所にもう一つ鐘があると聞いて
いる。
神殿を訪れた信者さん達も鳴らせるものだとか。
それに加護を付けて、鳴るたびにみんなを癒せる
ような綺麗な音がすればいいな。
響く音はファレルを越えこの集落まで届くように。
そうすれば儀式で祭具を鳴らす時だけでなく普段から
ヨナスの力を慰め抑えられるかもしれない。
そんな話をしながら戻り、ユリウスさんは
「じゃあ俺はさっそく団長に連絡を取ってこれを
転送するっす!」
と小箱を手に鏡の間として使われている部屋へ行き
エル君も、
「それでは僕はこれを巫女に渡してユーリ様のお話を
伝えてきます。今からお願いすれば王都に帰るまで
には出来ると思いますので」
ぺこりと頭を下げるとシェラさんに私をお願いした。
「もう少しでおやつの時間です。シンシアさん達と
準備をしておくので、なるべく早くお戻り下さい」
「おやつですか!」
そう言えばお腹が空いてきたような気がする。
「ここで育てている蜂の巣から作られた蜂蜜と
ミツロウに、バターをたくさん乗せたパンケーキ
だと聞いています」
エル君の説明にテンションが上がる。
ミツロウってあれだ、いわゆるコームハニー、
蜂蜜が固まった食べられる蜂の巣だ。
それにたっぷりのバターも乗っているなんて最高だ。
ふわふわの甘い香りのパンケーキに甘じょっぱい味の
それを想像したら堪らない。
「早く行きましょう!」
「相変わらずおいしい物の話になるとその瞳は
素晴らしく美しく輝きますねえ。」
私の目を覗き込んでそんな事を言っているシェラさん
を促して案内してもらう。
神殿に着いてもなぜか自然な流れで縦抱っこ移動
しているのが少し不満だけど、私は鐘のある場所を
知らないので仕方がない。
神殿の中庭にあると聞いていたのでシェラさんの
腕の中に収まっておとなしく辺りの景色を眺めて
いれば、やがて広い庭園のような場所に出た。
散策できるように小径があり、ところどころにベンチ
も備え付けてある。少し離れたところには噴水のある
池も見えた。神殿を訪れた人達が散歩出来るように
なっているらしい。
「ここが中庭のようですね」
綺麗な花も植えてある小径を歩き、ところどころに
ある標識のような物を確かめながら歩いていた
シェラさんが鐘のある場所を見つけたらしくそちらに
足を向ける。
せっかくの綺麗な場所なのでお願いして降ろして
もらい隣を歩けば、ゴーンと言う大鐘楼の音が鳴り
響いてきた。
「神官達の礼拝の時間を告げる鐘の音ですね。だから
オレ達以外に誰もいないようです」
「通りで人が少ないと思いました」
ここに来るまで数えるくらいの人達としかすれ違って
いないし、中庭に着いてからは誰にも会っていない。
だから鐘がどこにあるのか教えてもらえなくて
こうして二人で散策がてら鐘を探していたんだけど。
だけど人が少ない方が加護を付けるのに集中できる
から好都合だ。
そうじゃないとまたお祈りポーズを捧げられたり
してなんだか気恥ずかしい。
「礼拝が終わって人が増えてくる前に早くやって
しまいましょう!」
標識に沿って歩くとやがて目の前に緑のツタのアーチ
が現れた。その奥に鐘が見える。
近付けば、鐘を吊るしてある簡単な東屋のような
造りのそこで庭園は終わっていて鐘の後ろはファレル
の街並みを見下ろせるようになっていた。
これが元の世界だったなら絶景の写真スポット、
映えスポットだ。
あと造り的に何だかこう、結婚式のチャペルなんかが
あるガーデンパーティをする場所っぽく見えて既視感
がある。
ここってそういう場所も兼ねているのかな。
そんな事を考えていたらまさにシェラさんが、
「どうやらここは希望すれば信者が結婚の誓いも
立てられる場所のようですね。ここにはない植生の
花びらが落ちていますから、最近誰かがここで誓いを
立てて神官の祝福を受けたのでしょう。」
そう言って足元に落ちていた淡いピンク色の花びらを
一枚拾い上げた。
そのまま香りをかぐように鼻先へとその花びらを
近付けてちらりと意味ありげに私を見る。
その視線に思わずどきりとして鐘に手を付けば、
ひんやりするその感触にハッと思い出したことが
ある。
「そういえばシェラさん、大鐘楼で私が力を使った
時に何か言いかけてませんでしたか?」
眠くてちゃんと覚えてないけど、確かに何か
言いたそうだった。
するとシェラさんはぴたりと動きを止めてああ、と
呟くと私からそっと視線を外した。
その様子が今朝目を覚まして初めてシェラさんと
目があった時と同じく、まるで純真な青少年みたいで
いつものシェラさんらしくない。
「何か言いたいことがあるなら言って下さい!」
気になる。ちゃんとシェラさんの告白には応えたし、
他に何かあっただろうか。
そう思っていたら
「ユーリ様はオレの求婚は受け入れて下さいました」
「そ、そうですね」
改めて言われると恥ずかしい。ですが、と私に
近付いたシェラさんは膝をついて手を取った。
「オレのことを愛しているという言葉はまだ聞いて
おりません」
「えっ」
「オレの告白には応えていただきましたが、ユーリ様
ご自身の気持ちを言葉にしていただきたいのです」
手を取られ、じっと見つめられているとじわじわと
顔が熱くなってきた。
「いっ、言いたかったのってそれですか⁉︎」
「言葉を下さい。他の者達に与えたのと同じく、
オレへの愛をその口から聞かせてください。」
伴侶は平等、なのでしょう?
そう言われる。いやそれはそういう意味じゃなくて
普段の対応であって・・・!
手を握られていて逃げ出せないし、礼拝時間で誰か
がやって来て邪魔が入ることもない。
じいっと真摯な目で私を見つめるシェラさんに
応えない限りは、どうあってもこの状況からは
抜け出せそうになかった。
ざり、と土と瓦礫を踏み締めたシェラさんに抱かれた
まま目の前の建物を見上げる。
白い壁がところどころ剥がれ落ちていて屋根も
かかっていないところもある。
・・・それは私の力のせいで屋根が抜け落ちた
んだろうか。
いやいや、古神殿って言ってたし、元から壊れかけて
いたと思いたい。
こっちっすよ、と言うユリウスさんを先頭に進めば
大きなホールのような場所に出た。
壁には25メートルプールくらいの幅と大きさを
持つ巨大なフレスコ画が描かれている。
傷みがひどくてやっぱりところどころ消えかけて
いるけど、全体的に深い青というか青紫の夜の海を
思わせるような絵だ。
だけど左上の方には月らしいものが描かれているし
これは夜空なんだろうか。
右側にはヨナスだろうか、濃い紫色で髪の長い女の人
が自分を見上げる人達に手を伸ばして抱きしめて
いる。
「ここが神殿の中央祭壇で、祭事の時にはみんなが
集まって祈りを捧げた場所っすよ。」
そう話したユリウスさんが、
「これはヨナス神の恵みを表している絵っすね。」
コンと壁のフレスコ画をノックするように叩いて
みせた。
ヨナスの力はいい方に働けば精神的な安定や穏やかさ
をもたらしてくれるというから、この絵もそういう事
を表しているのかな。
「・・・この神殿を修復したら、この絵も綺麗に
元通りに直せますか?」
「えっ⁉︎いいんすかユーリ様、ヨナス神の絵っす
よ!」
ユリウスさんに驚かれた。
「だってここは元々ヨナスの神殿ですから。今回の
件でいくら周りに被害を与えたからって言っても
まさかその存在を否定してイリューディアさんの
神殿に作り変えたりするのはちょっと。」
もちろん私はヨナスに殺されかけてるし個人的には
許せない。
だけど、だからって神殿を潰すとかはできない。
それは今までこの神殿を守ってきたり祈りを捧げて
来た人達の信仰を否定することになるから。
「ユーリ様がそういうならトマス様に相談してみます
けど・・・。一旦更地に戻して公園や記念碑的なもの
に変えちゃうとか色々できるんすよ?」
話しながら促されて隣の部屋へと移動する。
するとドーム状の天井を持つそこはあるはずの屋根が
なく、ぽっかりと穴が開いていた。
「ここにヨナスの魔石があったんですか?」
「そうっすよ。ほら、あっちに穴が見えるっすよね」
指さされたほうには確かにぽっかりと穴が開いて
いる。
シェラさんにお願いして近くに寄ってみれば確かに
細かく砕けた紫色の魔石の破片が散らばっていた。
「とりあえず回収、っと」
パチンと指を弾いたユリウスさんが持参した箱に
魔石はふわふわ浮くと勝手に自ら収まっていく。
全ての破片が綺麗に片付いたのを確かめて、
「よし、後は団長に任せるっすよ!」
と満足そうに頷いた。
「急ぎじゃなければ復元した魔石についての結果を
聞くのは王都に帰ってからでもいいっすか?」
と聞かれたのでそれで構わないと答える。
もし欠けている部分が見つかった時のために辺りを
見回して崩れた壁に沿うように這っている蔦に手を
伸ばした。
興味津々なシェラさんに抱っこされたまま力を使って
それを成長させるとエル君にお願いして伸びたツタを
切ってもらう。
「巫女さんか誰かにお願いして、これでツル籠か
箱のような入れ物を作ってもらえませんか?一応
イリューディアさんの加護の力を使ったので、もし
欠けている部分の魔石を見つけたら入れて下さい。
そうすれば多分その力を抑えられて悪さはしない
んじゃないかと思います」
「コーンウェル領で作った魔除け効果のある吊り橋の
応用のようなものですか」
なるほどとシェラさんが頷いた。
その後は集落の中を見回り、広場の中心にある井戸や
荒れた畑に加護を付けたりする。
「さて、この後はどうします?」
一通り集落を見終わってファレルの神殿へ帰る馬車に
乗るとシェラさんに聞かれた。
「せっかくだから帰る前にファレルの神殿にある
大鐘楼じゃない方の鐘にも加護を付けようかなと
思ってます!」
確か大鐘楼と違う場所にもう一つ鐘があると聞いて
いる。
神殿を訪れた信者さん達も鳴らせるものだとか。
それに加護を付けて、鳴るたびにみんなを癒せる
ような綺麗な音がすればいいな。
響く音はファレルを越えこの集落まで届くように。
そうすれば儀式で祭具を鳴らす時だけでなく普段から
ヨナスの力を慰め抑えられるかもしれない。
そんな話をしながら戻り、ユリウスさんは
「じゃあ俺はさっそく団長に連絡を取ってこれを
転送するっす!」
と小箱を手に鏡の間として使われている部屋へ行き
エル君も、
「それでは僕はこれを巫女に渡してユーリ様のお話を
伝えてきます。今からお願いすれば王都に帰るまで
には出来ると思いますので」
ぺこりと頭を下げるとシェラさんに私をお願いした。
「もう少しでおやつの時間です。シンシアさん達と
準備をしておくので、なるべく早くお戻り下さい」
「おやつですか!」
そう言えばお腹が空いてきたような気がする。
「ここで育てている蜂の巣から作られた蜂蜜と
ミツロウに、バターをたくさん乗せたパンケーキ
だと聞いています」
エル君の説明にテンションが上がる。
ミツロウってあれだ、いわゆるコームハニー、
蜂蜜が固まった食べられる蜂の巣だ。
それにたっぷりのバターも乗っているなんて最高だ。
ふわふわの甘い香りのパンケーキに甘じょっぱい味の
それを想像したら堪らない。
「早く行きましょう!」
「相変わらずおいしい物の話になるとその瞳は
素晴らしく美しく輝きますねえ。」
私の目を覗き込んでそんな事を言っているシェラさん
を促して案内してもらう。
神殿に着いてもなぜか自然な流れで縦抱っこ移動
しているのが少し不満だけど、私は鐘のある場所を
知らないので仕方がない。
神殿の中庭にあると聞いていたのでシェラさんの
腕の中に収まっておとなしく辺りの景色を眺めて
いれば、やがて広い庭園のような場所に出た。
散策できるように小径があり、ところどころにベンチ
も備え付けてある。少し離れたところには噴水のある
池も見えた。神殿を訪れた人達が散歩出来るように
なっているらしい。
「ここが中庭のようですね」
綺麗な花も植えてある小径を歩き、ところどころに
ある標識のような物を確かめながら歩いていた
シェラさんが鐘のある場所を見つけたらしくそちらに
足を向ける。
せっかくの綺麗な場所なのでお願いして降ろして
もらい隣を歩けば、ゴーンと言う大鐘楼の音が鳴り
響いてきた。
「神官達の礼拝の時間を告げる鐘の音ですね。だから
オレ達以外に誰もいないようです」
「通りで人が少ないと思いました」
ここに来るまで数えるくらいの人達としかすれ違って
いないし、中庭に着いてからは誰にも会っていない。
だから鐘がどこにあるのか教えてもらえなくて
こうして二人で散策がてら鐘を探していたんだけど。
だけど人が少ない方が加護を付けるのに集中できる
から好都合だ。
そうじゃないとまたお祈りポーズを捧げられたり
してなんだか気恥ずかしい。
「礼拝が終わって人が増えてくる前に早くやって
しまいましょう!」
標識に沿って歩くとやがて目の前に緑のツタのアーチ
が現れた。その奥に鐘が見える。
近付けば、鐘を吊るしてある簡単な東屋のような
造りのそこで庭園は終わっていて鐘の後ろはファレル
の街並みを見下ろせるようになっていた。
これが元の世界だったなら絶景の写真スポット、
映えスポットだ。
あと造り的に何だかこう、結婚式のチャペルなんかが
あるガーデンパーティをする場所っぽく見えて既視感
がある。
ここってそういう場所も兼ねているのかな。
そんな事を考えていたらまさにシェラさんが、
「どうやらここは希望すれば信者が結婚の誓いも
立てられる場所のようですね。ここにはない植生の
花びらが落ちていますから、最近誰かがここで誓いを
立てて神官の祝福を受けたのでしょう。」
そう言って足元に落ちていた淡いピンク色の花びらを
一枚拾い上げた。
そのまま香りをかぐように鼻先へとその花びらを
近付けてちらりと意味ありげに私を見る。
その視線に思わずどきりとして鐘に手を付けば、
ひんやりするその感触にハッと思い出したことが
ある。
「そういえばシェラさん、大鐘楼で私が力を使った
時に何か言いかけてませんでしたか?」
眠くてちゃんと覚えてないけど、確かに何か
言いたそうだった。
するとシェラさんはぴたりと動きを止めてああ、と
呟くと私からそっと視線を外した。
その様子が今朝目を覚まして初めてシェラさんと
目があった時と同じく、まるで純真な青少年みたいで
いつものシェラさんらしくない。
「何か言いたいことがあるなら言って下さい!」
気になる。ちゃんとシェラさんの告白には応えたし、
他に何かあっただろうか。
そう思っていたら
「ユーリ様はオレの求婚は受け入れて下さいました」
「そ、そうですね」
改めて言われると恥ずかしい。ですが、と私に
近付いたシェラさんは膝をついて手を取った。
「オレのことを愛しているという言葉はまだ聞いて
おりません」
「えっ」
「オレの告白には応えていただきましたが、ユーリ様
ご自身の気持ちを言葉にしていただきたいのです」
手を取られ、じっと見つめられているとじわじわと
顔が熱くなってきた。
「いっ、言いたかったのってそれですか⁉︎」
「言葉を下さい。他の者達に与えたのと同じく、
オレへの愛をその口から聞かせてください。」
伴侶は平等、なのでしょう?
そう言われる。いやそれはそういう意味じゃなくて
普段の対応であって・・・!
手を握られていて逃げ出せないし、礼拝時間で誰か
がやって来て邪魔が入ることもない。
じいっと真摯な目で私を見つめるシェラさんに
応えない限りは、どうあってもこの状況からは
抜け出せそうになかった。
18
お気に入りに追加
1,904
あなたにおすすめの小説
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
世界を救いし聖女は、聖女を止め、普通の村娘になり、普通の生活をし、普通の恋愛をし、普通に生きていく事を望みます!
光子
恋愛
私の名前は、リーシャ=ルド=マルリレーナ。
前職 聖女。
国を救った聖女として、王子様と結婚し、優雅なお城で暮らすはずでしたーーーが、
聖女としての役割を果たし終えた今、私は、私自身で生活を送る、普通の生活がしたいと、心より思いました!
だから私はーーー聖女から村娘に転職して、自分の事は自分で出来て、常に傍に付きっ切りでお世話をする人達のいない生活をして、普通に恋愛をして、好きな人と結婚するのを夢見る、普通の女の子に、今日からなります!!!
聖女として身の回りの事を一切せず生きてきた生活能力皆無のリーシャが、器用で優しい生活能力抜群の少年イマルに一途に恋しつつ、優しい村人達に囲まれ、成長していく物語ーー。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる