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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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「これが氷瀑竜の鱗ですか・・・!」

ユリウスさんが手にする布の上でそれはつやつやと
光を放っている。

奥の院に運ばれて来たヒルダ様の贈り物の中にあった
竜の鱗はすでに装飾品や盾などに加工された物ばかり
だった。

無加工にも見える本当にただの鱗状のものは初めて
目にする。

私やユリウスさんを囲む騎士さんや神官さんも、
物珍しげにそれを見つめていた。

「それにしても随分と早くシグウェルさんは鱗を
加工してくれたんですね?半日半は時間が欲しいって
いってたし、今日のお昼の通信の時はてっきりその
進捗状況をまずは聞くんだとばかり。」

昨日の鏡の間でのやり取りを思い出しながら言った
私にユリウスさんが嫌そうな顔をして口を開いた。

「団長、多分あの通信の後に徹夜でこれを作ったと
思うっす。今までにした事のない加工だから面白く
なっちゃって徹夜で作り上げた挙句に夜も明けきるか
どうかってうす暗い時間帯に俺を叩き起こしてきた
んじゃないすかね?昼の通信の時間まで仮眠するって
手紙がこれと一緒に魔法陣で送られてきましたし。」

あ、なるほど。夜中から朝にかけて働くのも朝から
昼にかけて働くのも、時間的にはどちらも同じく
半日だ。

だからってまさか徹夜してまで試作品を作り上げて
しまうとは思わなかったけど。

「叩き起こされたって何をされたんですか?
シグウェルさん、個人的に通信できる方法でも
持ってたんですか?」

不思議に思えば、

「手のひらサイズのちっちゃい擬似魔物を魔法陣で
転送してよこしたんすよ!おかげで部屋の中がヒドイ
有り様っす!寝起きで魔物退治とか勘弁して欲しい
っす‼︎」

あれか、逃げ回る目覚まし時計みたいな感じ。
さすがある意味シグウェルさんらしい。

そしてユリウスさんがやっとの事で魔物を消したら、
いつの間にか魔法陣の上にこの鱗と手紙があったと。


「氷瀑竜の鱗は元から魔法を弾きやすいからそれに
更に魔法を乗せて加工するのは大変そうなことを
確か話してたのに・・・さすがシグウェルさん。」

話しながらそれに力を込めてみる。竜の鱗は一瞬だけ
青白く輝くとすぐにその光は消えてしまった。

ユリウスさんはどれどれ、とそれを手にしてみると

「おおー、いい感じっす!ちゃんとユーリ様の魔力を
感じるっす!後はこれを試しにあの集落に持って
行ってみて霧を弾くかを確かめたらすぐに団長に
連絡を取るっす!」

そしたら今度はこっちから団長を叩き起こしてやる
っすよ!と言うのでユリウスさんもお返しに擬似魔物
でも送るのかな?と思ったら、

「そんな魔力の無駄遣いみたいな小器用なことが
出来るのはあの団長ぐらいなものっすよ!俺は
普通に向こうの同僚に手紙を転送してそいつに団長を
起こしてもらうっす!団長の他人に対する起こし方が
特殊なんで、アレを普通と思わないで欲しいっす!」

そう話しながら、じゃあちょっと行ってくるっすね!
と一緒について来ていた騎士さん達と一緒にバタバタ
と慌ただしく行ってしまった。

「あれでうまくいけばいいんですけど・・・」

もしダメだったらもう一度シグウェルさんに鱗への
加工を調整してもらわないといけないけど、貴重な
それをそんなにいくつも無駄には出来ない。

果たして結果はというと、数時間後に

「大成功っす!やっぱ団長は人に迷惑をかけるのと
魔法についてはズバ抜けてるっす、人並み外れた
天才っす‼︎」

まだ早朝に叩き起こされたことを根にもっているのか
本人が聞いたらまた眉を顰めそうなちょっとおかしな
褒め方をしてたけど、そんな風に嬉々としてユリウス
さんは戻って来た。

「ていうことは・・・」

「竜の鱗をくくりつけた馬を長いロープに繋いで
あの結界の中に入れて様子を観察したっす。ちゃんと
霧を弾いて元気に馬は戻って来たっすよ!時間に
して大体二時間前後っすかね~。効力が切れそうに
なるとあの鱗、淡く光って最終的にはひび割れて
しまったっす。活動限界時間と光るのを見逃さなきゃ
うまく行きますよ!」

その結果についてはここに戻ってくる前に集落から
すでに手紙にして魔導士院へ転送したという。

勿論、今朝言っていたように向こうで手紙を受け取る
人にはすぐにシグウェルさんを叩き起こして、集落へ
救助に向かう人数分の鱗の加工をして送るようにと
頼んだらしい。

「だから昼の通信時には団長とは最終的な打ち合わせ
をする程度で、午後には予定変更で結界を張り直す前
でもすぐにでも集落の中に残っている人達を助けに
行けるかも知れないっすよ!」

それは朗報だ。ユリウスさんの言葉にシェラさんも

「ではオレもユーリ様がシグウェル団長と打ち合わせ
をしている間、馬車と人員配置の最終的な確認をして
おきましょう。」

と頷いた。いよいよだ。集落の中の人達を助けて
結界をしっかり張り直したら、ヨナスの神殿の中に
あるあの壊れた魔石もどうにかして霧を消す。

そこでふと、・・・魔石をどうにかするってどう
すればいいんだろう?と思い当たった。

昨日あの集落で頭の中に流れ込んできた光景を
思い出す。

濃い紫のグラデーションになっている魔石はひび割れ
欠けていて、そこから霧が出て来ていた。

あの時はそこを塞げれば、と手を伸ばしたけど
どうやって?欠けている部分を接着剤みたいな物で
くっつける?

だけどいくら思い出しても大きめに欠けた部分に
相当するような魔石のかけらはそこになかった気が
する。

じゃあ魔石を壊しちゃえばいいんだろうか。
でも中途半端な壊し方だとあの霧が更に出てくるかも
しれない。

てことは、グノーデルさんの力でダーヴィゼルドの
山中に大穴を開けたのと同じやり方で木っ端微塵に
破壊することになるけど・・・それをやったら魔石
どころか神殿や、下手をすれば集落の大半を壊して
しまってあそこに住む人達の居場所をなくして
しまう。

集落の中に残る人達を助ける算段はついたけど、
大元の魔石をどうすればいいのかすっかり悩んで
しまった。

これはシグウェルさんに相談してみよう。

シグウェルさんなら私には思いつかないような
解決策を提示してくれるかも。だって天才だもんね。

そう思ってお昼の通信にユリウスさんと一緒に同席
させてもらえば、こちらがそれを言い出す前に
シグウェルさんが口を開いた。

「竜の鱗の件とは別に、ユーリには試してもらいたい
ことがある。」

なんだろう?そう思ったら、

「ぶっつけ本番になるが多分大丈夫だ。面白いことを
思いついたんでな。」

そう言ったシグウェルさんは、変わった魔法を
見つけたり興味を惹かれる魔法を見た時のように
紫色の瞳を煌めかせた。

あ、なんか大丈夫じゃない気がする。

私の隣でユリウスさんも一瞬ヒュッと息を呑むと、

「この非常時に魔法実験をしたいとか碌な提案じゃ
ないっす!」

と声を上げた。



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