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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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成婚祝いって・・・まだ別に式を挙げた訳でも国の
人達へ正式にそれを発表したわけでもない。

むしろ今それを公表するとこの先の大声殿下の
戴冠式に差し障りがあるかもしれないので、それが
終わってから改めて公表しようということになって
いた。

それなのになぜこんなにたくさんの贈り物をくれた
のかな。

そう思っていたらレニ様がリオン様へ、

「叔父上、どうしてこのグラスは5個もあるの
ですか?ユーリと叔父上、レジナスの分なら3個で
いいのでは?予備ですか?」

そんな事を言っているのが聞こえた。

対してリオン様はその返答にこれまた珍しく一拍
間をおくと渋々と言った風に答える。

「・・・予備じゃないよ。それは僕らの分の他に
シグウェルと・・・シェラの分だそうだ。」

シェラさんの?何で?

「わっ、私まだ何の返事もしてませんけど⁉︎
ていうか、どうしてヒルダ様はシェラさんとの事まで
知ってるんですか⁉︎」

シェラさんに告白されたあのコーンウェル領からは
まだ帰って来て数日しか経っていない。

もちろん、帰って来てからすぐにリオン様へそれは
話した。

『決めるのはユーリだから、僕はそれがどんな結論
でも受け入れるよ』

リオン様もレジナスさん同様そう言ってくれた。

だけどそれ以外の人にはまだその話はしていないのに
どうなってるの・・・?

そこへ背後から、

「ほう、シェラザード隊長もついにユーリに告白
したのか」

いつもの感情をあまり感じない温度の低い声がした。

シグウェルさんだ。

「俺に渡す物があると言うことで訪ねてみましたが
思いがけない話を聞きました。」

そう言ってリオン様に一礼したシグウェルさんは
私をじっと見つめると面白そうな顔をした。

「その様子では俺の時と同じくまた迷っているな。
まったく、無駄な時間だ。」

そうしてフッと鼻で笑う。

「む、無駄って!そんな事ないですよ⁉︎」

文句を言えば、シグウェルさんもグラスを一つ手に
取りその飾り彫りを観察しながら続けた。

「どうせ答えは決まっている。今はそれに向かって
一歩踏み出すのに必要な覚悟を決める猶予が欲しい
だけだろう?彼もそれが分かっているから待って
くれているんだろうが・・・あまり時間をかけると
返事を迫られて恥ずかしい目に遭うのはユーリ、
君の方じゃないのか?」

そう言われて、返事が欲しいと温泉で迫られた時の
ことを思い出す。

すでに恥ずかしい目には遭っている。

「どうしてこう、まるで見て来たかのようなことを
言うんですかね・・・⁉︎」

思わずこぼせばその言葉にリオン様とレジナスさんの
二人が反応した。

「え?なにユーリ、シェラに何かされたの?」

「あいつ、まさかお前に手を出したのか⁉︎」

私に過剰なスキンシップを取って告白の返事を迫って
来たりして悪いのはシェラさんのはずなのに、なぜか
私が責められている。

「なんにもないですよ!なんで私が怒られてる
んです⁉︎」

シグウェルさんが余計なことを言ったせいだ。

じりじりと私に迫って本当にシェラさんに何もされて
いないのかまだ聞き出そうとする二人から逃れようと
レニ様の後ろに隠れてシグウェルさんをキッと見る。

レニ様は「何だよ!」と声を上げて固まり、そんな
私達を見たシグウェルさんはまた鼻で笑った。

「君、そこは殿下の後ろでなく俺の後ろに隠れる
べきじゃないか?そこで伴侶を頼らず別の男に頼って
どうする、俺の立場がないだろう?」

「元凶の後ろに隠れる人なんかいませんからね⁉︎」

それにレニ様はリオン様から見て可愛い甥っ子だ、
さすがにこの二人もレニ様をどけてまで私に説教は
しないだろう。

そう思っていたら、当のレニ様が振り返って私に
向き直った。

「ていうか、お前!シェラザード隊長の告白とか
その返事がどうこうってまだ伴侶を増やすつもり
なのか⁉︎」

あれ?私を責める人が二人から三人に増えた。

「まるで私が積極的に伴侶を増やしてるみたいな
言い方ですけど誤解ですよ⁉︎そんなつもりはないし
それをヒルダ様に報告もしていないですし!」

「だって5個のグラスはお前と叔父上、レジナスだけ
じゃなく魔導士団長とシェラザード隊長の分だろ?
ヒルデガルド・ダーヴィゼルド公は叔父上とレジナス
がお前の伴侶になった時は何にも贈って来なかった
のに、もっと伴侶が増えたって聞いたら喜んで貴重な
竜を献上した上に増えた伴侶の人数分のグラスまで
わざわざ贈って来たんだから、伴侶が増えるほど
喜ばれてるってことじゃないか!だからお前ももっと
伴侶を増やそうとしてるんじゃないのか?」

「違いますって。ヒルダ様はきっと単純に私にいい
人が見つかったのが嬉しかったのと、贈り物をする
タイミングがたまたま今回になっただけですよ?」

ヒルダ様はキリッとした男前な性格なのにああ見えて
案外恋バナ好きだ。

ダーヴィゼルドでも私から好きなタイプを聞き出して
誰かいい人を見つけてくっつけようとしていたし。

もしかして今回もリオン様達はともかく、どこかから
まだ正式には公表されていないシグウェルさんの事や
シェラさんの告白の事を聞きつけてテンションが
上がったのかも知れない。

その結果が竜退治とその献上での先走った成婚祝い
というのがヒルダ様らしいと言えばらしいけど。

お前はあとどれだけ伴侶を増やすつもりだと言う
レニ様の非難めいた目にひるむ。

まさか自分より年下の子にこんな追求をされる日が
来るなんて。

「ご安心くださいレニ殿下。恐らくユーリにこれ以上
伴侶は増えないと思いますよ。というか求婚者自体が
もう現れない可能性もありますから」

私の肩にぽんと手を置いたシグウェルさんはそう
言った。

どうやら私が頼らないので自分から助け舟を出す
ことにしたらしい。

「え?どういう意味だ?」

レニ様はきょとんとしている。私もその理由を
知りたい。

「考えてもご覧ください。リオン殿下は国政にも
欠かせない才気溢れる国の貴重な王族、レジナスは
国で一番と言っても過言ではない比類なき実力の
騎士。俺も他に追随を許さない優秀な高位魔導士で
ユーリ好みの顔の持ち主、シェラザード隊長もあの
通り色男な上に何でも人並み以上に器用にこなす、
レジナスに遜色ない優れた実力を持つ騎士です。
この面々を前にしてまだユーリに求婚してくるような
胆力の持ち主がいると思いますか?」

「う・・・」

レニ様はぐうの音も出ない。

「だから恐らくユーリへの求婚者はこの先そう
現れないかと。」

平然としてそう言うの、すごいな!

リオン様達のことはおろか自分のことも顔がいいとか
私好みだとかよく言える。

いや、自分も含めて徹底的に客観視して言ってる
だけなのかな?

「なんだ、どうかしたか?」

物言いたげな私の視線に気付いたシグウェルさんは
不思議そうに見てきた。

「伴侶を顔で選んだって改めて言われるとこう、
その人の中身を見ずに見た目だけで選んだって
言われてるみたいでなんだか自分がダメ人間な気が
しただけです・・・」

そう、イケメンに弱いとは言え前からそれが少し
引っかかっていた。ついそうこぼせば、

「くだらないことを考えていたんだな。前にも
言った気がするが、この顔がなければ君に選ばれ
なかったと言うなら俺はこの顔を存分に利用する
だけだ。見た目で選んで何が悪い?それに性格や
中身に好感を持つなど後からでもついてくる。」

そんなもんなのかな。私は顔だけでなくちゃんと
シグウェルさんの中身も好きで選んだんだろうか?
なんとなく自信がなく複雑な心境でいたら、

「君は俺を顔で選んだんだろうが、人であればいずれ
容色は衰える。そうなった時、君は俺を捨てるか?」

シグウェルさんがそう聞いてきた。

「す、捨てないですよ⁉︎そんなわけないです!」

「ということは君は俺を顔だけでなく中身でも選んで
ずっと側にいてもいいと思ってくれているんじゃ
ないのか?それは光栄だ。」

そう言ってシグウェルさんは薄く笑った。

皮肉めいたその微笑みの瞳の奥は優しく甘やかだ。

「え?何だいこれ。ねぇレジナス、僕らは今目の前で
何を見せられてると思う?」

「・・・シグウェルがなぜかユーリを口説いている
場面です。一体いつの間にこんな流れになったんで
しょうか」

リオン様とレジナスさんのひそひそ言う戸惑った声が
聞こえてきた。

そこへ突然

「それは団長の仕様っす!ユーリ様を目の前にした
会話になぜかいつの間にか口説きが入るのはもう
仕方ないし諦めてるつもりっすけど、やっぱり
見てられないっす‼︎」

いつものユリウスさんのツッコミが割り込んで
きた。何か足りないと思ったらこれだった。







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