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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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黒くくすぶり流れの止まった溶岩をよしよしと
眺める。どこもかしこも冷え固まったようだった。

あとはこれを、イリューディアさんの力で開拓
しやすい農地にでも変えることができれば・・・と
考えていたらヒック、とまた一つしゃっくりが出た。

「あっつい・・・」

自分の両頬に手を当てれば熱を持っている気がする。

頭の中はなんだかふわふわしているけど全然
眠くないし、力もまだ使えそうなくらい気分はいい。

「あ、そうだ温泉。温泉入りたいなぁ」

いい仕事を終えた後の小休止にお風呂に入りたい。

グノーデルさんの力ならどこかに温泉でも掘り当て
られないだろうか。

さっきシェラさんを助けた森林とかどうかな?

さっき火を消すために落とした雷で穴でもあいて
いそうだし、火山が近くにあるならそこの下にも
温泉の素になりそうな水脈はないだろうか。

よし、さっきの場所に戻ってみよう。

そう思っていたら、馬の駆ける音と共にレジナスさん
が現れた。

「大丈夫かユーリ!物凄い落雷が見えて地面もひどく
揺れていたが。」

怪我はないかとあちこち確かめられる。

「大丈夫ですよぉ、元気です!」

にっこり笑ってみせたけど

「あぁ、また足をこんなに汚して・・・」

私の言葉を無視したレジナスさんは眉間に皺を
寄せると私を座らせた。

そしてさっき私が水を飲んだ水筒の水で布を湿らせ
丁寧に爪先の方から指の一本一本を拭い始める。

「沁みないか?あちこちに擦り傷も出来ているぞ。
早く自分で治した方がいい。」

「えー、やですよメンドくさい。それにレジナスさん
にこうしてもらってる方が気持ちいいですもん!」

大きな手で力を入れすぎないように加減して
拭いてくれているのがまるで足マッサージをして
もらってるみたいで気持ちいい。

さっきまで必死に走って来たからその心地よさは
なおさらだ。

もう少し、足首より上のふくらはぎとかまで
マッサージして欲しいなあ。

バタンと仰向けに寝転ぶ。片膝をついて足を拭いて
くれていたレジナスさんの、その膝の上に両足を
乗せたら驚かれた。

「おい!」

「レジナスさん、もーちょっとこう、上の方まで
触ってくれません?」

仰向けに寝たままレジナスさんを見上げてお願いを
すれば、

「スカートがはだけてめくれるからよせ!それに
そんな顔をして妙なお願いの仕方をするんじゃない、
俺を煽るな‼︎」

眉間に皺を刻んだまま赤くなったレジナスさんに
注意された。

「あはは、顔が面白いですよレジナスさん!それは
怒ってるんですか照れてるんですか?」

寝転んだままケラケラと笑えば、

「いいから足を降ろせ!」

両足をひとまとめに掴まれて降ろされてしまった。

ちえっ、つまらない。面白くないのでわざと甘えた
ような声を上げる。

「やーん」

「だからどうしてそういう声を出す⁉︎くそ、本当に
タチが悪いな。頼むからおとなしくしてくれユーリ。
まだ力は使えるか?避難した住民達に見えない場所
から癒しの力を使い怪我人を治して欲しいんだが。」

あ、そうだ。溶岩の流れも止まったし次はそっちか。

「おっきくなってる私を見られないようにしながら
治せばいいんですよね?まかせて下さい、じゃあ
まずは・・・」

足を降ろされてしまったので仕方なく立ち上がる。
そのまま、まだ片膝をついていたレジナスさんの
背中に身を預ける。

「今度は何だ⁉︎」

またレジナスさんが声を上げた。

「何って、おんぶですよおんぶ。しっかり掴まって
ますからこのまま馬に乗せて下さい!」

「ローブを纏っているとはいえ、そんな下着の上に
直接ほぼ上着しか羽織ってないような格好で密着
してか⁉︎」

驚いたレジナスさんに振り落とされないように
ぎゅっと抱きつけば、

「今のユーリは普段よりもずっと力が強いから
そんなにきつく抱きついて来なくても落ちないから
大丈夫だ、それよりもそんなに強く押し当てて
くるんじゃない‼︎」

身を固くしたレジナスさんにまた怒られた。

「レジナスさん、ちょっと私のこと怒りすぎじゃ
ないですか?これくらいのことダーヴィゼルドでも
シェラさんにしてもらいましたよ?」

子泣き爺みたいに背中に私をへばりつかせたまま、
仕方なく馬に飛び乗ったレジナスさんにそう言えば

「奴の背中にもこんな風に胸を押し当てたのか⁉︎」

非難めいた声を上げられる。

「だってこの方が楽なんだもん。えー、焼きもち
ですかレジナスさん、かわいい‼︎」

「かっ、かわいい⁉︎」

ぎょっとして動揺したレジナスさんの耳まで赤く
染まったのが後ろからも見て取れた。

・・・ふむ、そういえばこの姿になるとリオン様や
レジナスさんになんだかいいようにされてしまう
よね。よし、お返しだ。

「うんうん、かわいいですよレジナスさん!」

真っ赤に染まった耳元で囁いて、そのままかぷりと
耳に噛みついた。

「何をする⁉︎」

「ふぁにっへ、おはえしれす」

「お返し⁉︎何がだ⁉︎」

驚いたレジナスさんの操る馬のスピードが上がった。

その振動でたまらず噛みついた耳から口を離して
ひゃあ、と声を上げて笑ってしがみつく。

「ああ楽しー!レジナスさん、みんなを治す前に
このままさっきシェラさんを助けた森にも寄って
もらえますか?あっ!そうだ赤ちゃんとシェラさんも
無事ですか?」

告白されたのに動揺して、シェラさんには最低限の
癒ししか使わないまま慌てて逃げるようにして
来てしまった。

それにシェラさんが助けて私に託してくれた赤ちゃん
もそのまま置いてきた。

「・・・あの後すぐに避難誘導を終えたユリウスが
騎士を二人連れて引き返して来て合流した。今頃は
シェラに回復魔法をかけて、赤子と一緒に避難先へ
運んで改めて治療をさせているだろう」

私が噛んだ耳をさすりながらレジナスさんは教えて
くれた。

良かった、どちらも無事なんだ。ほっとすると同時に
さっきのシェラさんの告白をレジナスさんに教えて
おかないと・・・と思った。

「ねぇレジナスさん」

「何だ?」

「私、さっきシェラさんに伴侶にして欲しいって
告白されちゃったんですけど」

抱きついているレジナスさんの体に力が入って
固くなり、はっと息を飲んだのが分かった。

「・・・どうしましょう?」

こてんと頭をレジナスさんの肩に預けて聞く。

「・・・俺やリオン様、シグウェルはユーリの決定に
従う。ユーリの伴侶という立場はそういうものだ。
よほどの事でない限り、ユーリの意思を妨げたり
その判断に影響を与えるような意見は言わない。
だからユーリが決めるんだ。俺達はそれに必ず
従うし、反対はしない。」

「ええー・・・そんなあ。人一人の一生がかかって
るんですよ?私の責任、重大じゃないですかぁ」

文句を言えば、レジナスさんが薄く笑った気配が
した。

「そうだ、重大だ。ユーリにそうした決断を下されて
選ばれたからこそ俺達は『ユーリの伴侶』という
立場を何よりも誇りに思うし、生涯を懸けてユーリを
大事にするんだ。」

「そんなに重く考えてたんですか⁉︎」

「よく考えて選べ。そうして選ばれた者は例え今は
不仲にある者だとしても、俺達は身分立場や互いの
信条の違いに関係なく助け合い、ユーリを心から
想ってその側に寄り添うだろう。」

・・・うん?その言い方って、なんだかまるで
私がシェラさんを選ぶって思ってるように聞こえる
んだけど?

「レジナスさん、それって」

私がシェラさんを選ぶと思ってますか?

そう聞きたかったけど、そんな私の言葉を遮って

「ああ、ユリウスがいるな。どうやら俺達を待って
いてくれたらしい」

レジナスさんは目の前の焼け焦げた森に向かって
馬のスピードを上げた。










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