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第十六章 君の瞳は一億ボルト
18
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着いて早々やらかしたかも知れない。
そう思ってフラフラしながら急いで靴をぽいと
脱ぎ捨てる。
服は・・・しまった、今日着ているのは首の後ろを
いくつかのボタンで留めているタイプのドレスだ。
まさかこんな事になって着替えるとは思って
いなかったから。
仕方ないので着替えのための場所から飛び出す。
早くしないと姿が変わってしまう。
「レジナスさん!」
「どうしたユーリ、何かあったか?というかまた
裸足なのか、足は痛くないか?」
何事かと歩み寄ったレジナスさんは私の足元を
気にしているけどそれどころじゃない。
早く脱がないと、この服が破ける。
「後ろのボタン外して下さい‼︎」
「はっ⁉︎」
さっと三つ編みを持ち上げてうなじを見せた私に、
レジナスさんは動きが止まった。
「な、何を言っている?脱がせろと・・・⁉︎」
そんな事は言っていない。
「ボタンを外すだけでいいです、手が届かなくて!
それさえ外れたら後は自分で着替えられますから」
「ああ、そういう事か・・・」
ぎこちなくレジナスさんは私の首の後ろに手を
伸ばす。そうしている間にも体はどんどん熱くなり
頭がぼんやりし始めた。
「何というかいかがわしい事をしているような
後ろめたい気分になるな・・・」
レジナスさんはそう呟いているけど何を言って
いるんだろう。大きい姿の私を前後に挟んで、
リオン様と二人がかりであんな事やこんな事を
したくせに。
「レジナスさんのえっち!」
「なっ⁉︎」
私の言葉が思いがけないもので驚いたレジナスさんの
手が止まったけど、ちょうどボタンは外れたよう
だった。
「小さい私を脱がそーとするのはだめでおっきく
なったわら・・・わたしはぬがしていいとかどーいう
りくつ・・・ヒック‼︎」
あ、ダメだこれ。頭がぐらぐらする。しっかり
意識を集中しないと気を失いそう。
木につかまりながら、もう一度着替えのための
場所に入ってよたよたしながら服を脱ぐ。
脱いでいる私の腕や足が金色の光に覆われているのが
目の端に見える。
布越しに聞こえてくる大丈夫かユーリ、と言う
レジナスさんの声もなんだか遠い。
「だ、だいじょぶ・・・れす‼︎」
誰が聞いても大丈夫じゃない返事をして着替えて
いる途中でふっと気が遠くなった。
「・・・ユーリ‼︎」
レジナスさんの声にパチリと目を開ける。
あ、あれ?危ない。一瞬気を失っていた。
パチパチと目を瞬けば、いつの間にか大きい姿に
なっている。
自分の姿を見下ろせば、着替えかけの服を手に
下着姿で立っていた。
と、そこへ布の間からレジナスさんの手だけが
ズボッと差し出された。
水筒を持っている。
「平気か⁉︎とりあえず水を飲め‼︎」
どうやらエル君、レジナスさんに水も持たせてくれて
いたらしい。
ありがとうございますとそれを取れば、レジナスさん
の手はまた布の向こうに引っ込んだ。
それをぐいと一口飲むとさっきよりも頭は冷える。
とりあえず着替えないと。
・・・でも暑いなあ。パンツスタイルよりも
スカートの方が涼しそう。
上も、下着はちゃんと付けてるしこれに上着を
きちんと羽織ればそれで良くない?
しかもこの上から、他の騎士さん達にバレない
ようにさらにローブも着るんだよ?絶対暑い。
荷物入れを逆さにしてひっくり返す。どさどさっと
散乱した中身を見れば、一応ワンピースもあった。
汚れた時のための着替えかな?薄手だしこれなら
涼しいかも。
「ユーリ、大丈夫か?何をしている⁉︎」
荷物をひっくり返した音にレジナスさんは何事かと
心配して声を掛けてきた。
「あ、ヘーキヘーキ、着替えてるだけです!」
ワンピース型のドレスを着てちょっと考えて、
胸元をビーッと縦にお腹の辺りまで裂く。
うん、これで良し。涼しくて動きやすい。
「なんだユーリ今の音は!まさか服を破いたのか⁉︎」
布の向こうでレジナスさんが慌てている。
早く出て行って安心させてあげなくちゃ。
「はい!大丈夫ですよ‼︎」
ほら、と姿を見せてあげたら
「だからどうして胸を出す⁉︎シンシアの用意した
服はそれじゃないだろう⁉︎上着もちゃんと着ろ‼︎」
さっそくお小言を言われた。そしてきちんと着た
つもりの上着もちゃんと羽織れていなかったらしい。
レジナスさんが私の上着の前をかき寄せて素早く
ボタンを留めた。
「えー、すごーい!早業ですねレジナスさん!
さっきはボタンを外すのに戸惑ってたのにー。」
あは、と笑えば
「くそ、酔いすぎだろう⁉︎これで本当に大丈夫
なのか・・・⁉︎」
そう言われた。おやぁ、聞き捨てならない。
「信じてください、大丈夫ですよレジナスさん!
わたしはさいきょー‼︎」
見てて下さいね、と目を閉じる。
ふつふつと胸の内に感じる熱さの中に、レンさんが
グノーデルさんの力を使っていた時と同じ温かい
力の流れを探す。
イリューディアさんの癒しの力を使うのと同じ
要領だ。温かい力の流れを感じたら、それを掬い
上げるようにして更に増幅する。
深呼吸をしてその力を体の隅々まで行き渡らせ、
目を開けるのだ。
それをイメージすれば、自分の中からぶわっと
湧き上がる温かい力が波のように体全体に広がる
のを感じた。
レンさんが山を崩した時、足元に感じたのと同じ
ような感覚の力だ。
ふーっ、と息を吐いて目を開ける。
気持ちはまだなんだかふわふわして少し夢心地だけど
体は妙に軽く感じる。
「ユーリ、瞳の色が金色だ。前にグノーデル神様の
力の一部に体を操られていた時のようだ。」
私を見つめたレジナスさんの言葉にパチリと瞬く。
そういえばダーヴィゼルドの山で力を使った時も
目の色が金色だったってシェラさんが言ってたっけ。
ということは、今の私はうまくグノーデルさんの力が
体に行き渡っているんだろう。
「行きましょうレジナスさん!」
上着の上から更にローブを被せてくれたレジナスさん
の腕をぽんと叩く。
「レジナスさん、シェラさん達の所まで行ったら
私のことがバレないように先に騎士さん達を離して
もらえますか?」
山の斜面を崩すとか、危ないせいもあるし少し
距離を取ってもらう方がいい。
再度二人で馬に乗って、さらに森の先へと進めば
やがて人の声が聞こえてきた。
「遅れて避難している者達だな。ユーリ、ここで
馬を降りて少し身を隠していてくれ。」
レジナスさんの言う通りにすれば、一人だけ馬で
声のする方へ行ったレジナスさんが
「ここは自分と後から来る魔導士で何とかするから
先に行け」
と言う声が聞こえてきた。
そして木の影に隠れている私の目の前を何人もの
人達が騎士さん達に先導されて急いで通り過ぎて
行くのをこっそり見守る。
「よし、もういいぞユーリ。」
人のざわめきが消えてレジナスさんが姿を見せた。
「・・・何をしている?」
木にぺったりと頬を寄せて抱きつくようにくっついて
いる私を見たレジナスさんが戸惑っている。
「体があっつくて・・・。こうして木にくっついて
いると冷たくて気持ちいーんです」
「早く力を使って休んだ方がいいな。そこまで
酔っているのに本当にやるつもりか?」
まだ心配してる。大丈夫ですってば。
「それよりもレジナスさん、今の人達の中に
シェラさんはいました?私が見てなかっただけ?」
通り過ぎる人達の中にその姿はなかった気がする。
そう思って聞けば、
「シェラはまだ後方だ。逃げ遅れがいないか最終確認
をしているそうだ」
「ええっ⁉︎」
がばっと木から身を起こす。
「だってかなり火が近いですよ?溶岩の熱で燃えた
森に囲まれてたら大変です‼︎」
クン、と鼻を効かせる。シェラさんの匂いって
どんなだっけ。
護衛で近くに立っている時や馬に二人乗りをして
いる時、縦抱っこされている時。
考えてみればいつもやたらと距離感が近かった。
ええと、リオン様とはまた違う微かな甘さに柑橘系や
ユーカリみたいにキリッとした涼やかさがあるような
感じの・・・。
思い出しながら、木々の焼け焦げた匂いが立ち昇る
中でクンクンする。
まるで犬みたいだけど、グノーデルさんの力なのか
そうすれば望むものの在りかが分かる気がした。
そしてそんな私の鼻先をシェラさんの香りがふっと
かすめた。
「こっちです!」
香りのする方へたっ、と走る。
「待てユーリ、裸足で走るんじゃない!馬で」
言いかけたレジナスさんを置いて走れば、いつもの
私よりもずっと早く走れている気がした。
グノーデルさんの力を使っている時は力持ちに
なっているらしいけど足も早くなるらしい。
身体強化でもされているんだろうか。
馬で駆けてくるレジナスさんが追い付けないほどの
速さで森の中を駆けていけば、やがて前方が赤々と
燃え上がっているのが見えた。
そしてそこには何か布の包みを抱えたシェラさんの
姿もあった。
「シェラさん危ない‼︎」
私の気配に気付いてこちらを見たシェラさんの
後ろで燃えている木が倒れて来たのが見える。
私の声に、サッとそれを避けたシェラさんは
「まさかユーリ様ですか⁉︎」
そう言って、自分の抱えているものに目を落とすと
「これを!」
そう言ってまるでラグビーボールをパスするように
正確に私にそれを投げた。
落とさないように慌ててそれを受け取って確かめれば
ぐったりと気絶している赤ちゃんだった。
逃げ遅れたこの子を助けていたらしい。親は一体
どうしたんだろう。いや、でも今はそれよりも。
「シェラさんも早く」
顔を上げた私から少し離れた場所で、私が赤ちゃんを
受け取ったのを確かめて安心したんだろうか。
ほっとしたように、少し汚れたあの綺麗な顔に笑顔を
浮かべたシェラさんと私の間に、燃え盛る木々が
いくつも倒れて来てシェラさんの姿が見えなくなった。
そう思ってフラフラしながら急いで靴をぽいと
脱ぎ捨てる。
服は・・・しまった、今日着ているのは首の後ろを
いくつかのボタンで留めているタイプのドレスだ。
まさかこんな事になって着替えるとは思って
いなかったから。
仕方ないので着替えのための場所から飛び出す。
早くしないと姿が変わってしまう。
「レジナスさん!」
「どうしたユーリ、何かあったか?というかまた
裸足なのか、足は痛くないか?」
何事かと歩み寄ったレジナスさんは私の足元を
気にしているけどそれどころじゃない。
早く脱がないと、この服が破ける。
「後ろのボタン外して下さい‼︎」
「はっ⁉︎」
さっと三つ編みを持ち上げてうなじを見せた私に、
レジナスさんは動きが止まった。
「な、何を言っている?脱がせろと・・・⁉︎」
そんな事は言っていない。
「ボタンを外すだけでいいです、手が届かなくて!
それさえ外れたら後は自分で着替えられますから」
「ああ、そういう事か・・・」
ぎこちなくレジナスさんは私の首の後ろに手を
伸ばす。そうしている間にも体はどんどん熱くなり
頭がぼんやりし始めた。
「何というかいかがわしい事をしているような
後ろめたい気分になるな・・・」
レジナスさんはそう呟いているけど何を言って
いるんだろう。大きい姿の私を前後に挟んで、
リオン様と二人がかりであんな事やこんな事を
したくせに。
「レジナスさんのえっち!」
「なっ⁉︎」
私の言葉が思いがけないもので驚いたレジナスさんの
手が止まったけど、ちょうどボタンは外れたよう
だった。
「小さい私を脱がそーとするのはだめでおっきく
なったわら・・・わたしはぬがしていいとかどーいう
りくつ・・・ヒック‼︎」
あ、ダメだこれ。頭がぐらぐらする。しっかり
意識を集中しないと気を失いそう。
木につかまりながら、もう一度着替えのための
場所に入ってよたよたしながら服を脱ぐ。
脱いでいる私の腕や足が金色の光に覆われているのが
目の端に見える。
布越しに聞こえてくる大丈夫かユーリ、と言う
レジナスさんの声もなんだか遠い。
「だ、だいじょぶ・・・れす‼︎」
誰が聞いても大丈夫じゃない返事をして着替えて
いる途中でふっと気が遠くなった。
「・・・ユーリ‼︎」
レジナスさんの声にパチリと目を開ける。
あ、あれ?危ない。一瞬気を失っていた。
パチパチと目を瞬けば、いつの間にか大きい姿に
なっている。
自分の姿を見下ろせば、着替えかけの服を手に
下着姿で立っていた。
と、そこへ布の間からレジナスさんの手だけが
ズボッと差し出された。
水筒を持っている。
「平気か⁉︎とりあえず水を飲め‼︎」
どうやらエル君、レジナスさんに水も持たせてくれて
いたらしい。
ありがとうございますとそれを取れば、レジナスさん
の手はまた布の向こうに引っ込んだ。
それをぐいと一口飲むとさっきよりも頭は冷える。
とりあえず着替えないと。
・・・でも暑いなあ。パンツスタイルよりも
スカートの方が涼しそう。
上も、下着はちゃんと付けてるしこれに上着を
きちんと羽織ればそれで良くない?
しかもこの上から、他の騎士さん達にバレない
ようにさらにローブも着るんだよ?絶対暑い。
荷物入れを逆さにしてひっくり返す。どさどさっと
散乱した中身を見れば、一応ワンピースもあった。
汚れた時のための着替えかな?薄手だしこれなら
涼しいかも。
「ユーリ、大丈夫か?何をしている⁉︎」
荷物をひっくり返した音にレジナスさんは何事かと
心配して声を掛けてきた。
「あ、ヘーキヘーキ、着替えてるだけです!」
ワンピース型のドレスを着てちょっと考えて、
胸元をビーッと縦にお腹の辺りまで裂く。
うん、これで良し。涼しくて動きやすい。
「なんだユーリ今の音は!まさか服を破いたのか⁉︎」
布の向こうでレジナスさんが慌てている。
早く出て行って安心させてあげなくちゃ。
「はい!大丈夫ですよ‼︎」
ほら、と姿を見せてあげたら
「だからどうして胸を出す⁉︎シンシアの用意した
服はそれじゃないだろう⁉︎上着もちゃんと着ろ‼︎」
さっそくお小言を言われた。そしてきちんと着た
つもりの上着もちゃんと羽織れていなかったらしい。
レジナスさんが私の上着の前をかき寄せて素早く
ボタンを留めた。
「えー、すごーい!早業ですねレジナスさん!
さっきはボタンを外すのに戸惑ってたのにー。」
あは、と笑えば
「くそ、酔いすぎだろう⁉︎これで本当に大丈夫
なのか・・・⁉︎」
そう言われた。おやぁ、聞き捨てならない。
「信じてください、大丈夫ですよレジナスさん!
わたしはさいきょー‼︎」
見てて下さいね、と目を閉じる。
ふつふつと胸の内に感じる熱さの中に、レンさんが
グノーデルさんの力を使っていた時と同じ温かい
力の流れを探す。
イリューディアさんの癒しの力を使うのと同じ
要領だ。温かい力の流れを感じたら、それを掬い
上げるようにして更に増幅する。
深呼吸をしてその力を体の隅々まで行き渡らせ、
目を開けるのだ。
それをイメージすれば、自分の中からぶわっと
湧き上がる温かい力が波のように体全体に広がる
のを感じた。
レンさんが山を崩した時、足元に感じたのと同じ
ような感覚の力だ。
ふーっ、と息を吐いて目を開ける。
気持ちはまだなんだかふわふわして少し夢心地だけど
体は妙に軽く感じる。
「ユーリ、瞳の色が金色だ。前にグノーデル神様の
力の一部に体を操られていた時のようだ。」
私を見つめたレジナスさんの言葉にパチリと瞬く。
そういえばダーヴィゼルドの山で力を使った時も
目の色が金色だったってシェラさんが言ってたっけ。
ということは、今の私はうまくグノーデルさんの力が
体に行き渡っているんだろう。
「行きましょうレジナスさん!」
上着の上から更にローブを被せてくれたレジナスさん
の腕をぽんと叩く。
「レジナスさん、シェラさん達の所まで行ったら
私のことがバレないように先に騎士さん達を離して
もらえますか?」
山の斜面を崩すとか、危ないせいもあるし少し
距離を取ってもらう方がいい。
再度二人で馬に乗って、さらに森の先へと進めば
やがて人の声が聞こえてきた。
「遅れて避難している者達だな。ユーリ、ここで
馬を降りて少し身を隠していてくれ。」
レジナスさんの言う通りにすれば、一人だけ馬で
声のする方へ行ったレジナスさんが
「ここは自分と後から来る魔導士で何とかするから
先に行け」
と言う声が聞こえてきた。
そして木の影に隠れている私の目の前を何人もの
人達が騎士さん達に先導されて急いで通り過ぎて
行くのをこっそり見守る。
「よし、もういいぞユーリ。」
人のざわめきが消えてレジナスさんが姿を見せた。
「・・・何をしている?」
木にぺったりと頬を寄せて抱きつくようにくっついて
いる私を見たレジナスさんが戸惑っている。
「体があっつくて・・・。こうして木にくっついて
いると冷たくて気持ちいーんです」
「早く力を使って休んだ方がいいな。そこまで
酔っているのに本当にやるつもりか?」
まだ心配してる。大丈夫ですってば。
「それよりもレジナスさん、今の人達の中に
シェラさんはいました?私が見てなかっただけ?」
通り過ぎる人達の中にその姿はなかった気がする。
そう思って聞けば、
「シェラはまだ後方だ。逃げ遅れがいないか最終確認
をしているそうだ」
「ええっ⁉︎」
がばっと木から身を起こす。
「だってかなり火が近いですよ?溶岩の熱で燃えた
森に囲まれてたら大変です‼︎」
クン、と鼻を効かせる。シェラさんの匂いって
どんなだっけ。
護衛で近くに立っている時や馬に二人乗りをして
いる時、縦抱っこされている時。
考えてみればいつもやたらと距離感が近かった。
ええと、リオン様とはまた違う微かな甘さに柑橘系や
ユーカリみたいにキリッとした涼やかさがあるような
感じの・・・。
思い出しながら、木々の焼け焦げた匂いが立ち昇る
中でクンクンする。
まるで犬みたいだけど、グノーデルさんの力なのか
そうすれば望むものの在りかが分かる気がした。
そしてそんな私の鼻先をシェラさんの香りがふっと
かすめた。
「こっちです!」
香りのする方へたっ、と走る。
「待てユーリ、裸足で走るんじゃない!馬で」
言いかけたレジナスさんを置いて走れば、いつもの
私よりもずっと早く走れている気がした。
グノーデルさんの力を使っている時は力持ちに
なっているらしいけど足も早くなるらしい。
身体強化でもされているんだろうか。
馬で駆けてくるレジナスさんが追い付けないほどの
速さで森の中を駆けていけば、やがて前方が赤々と
燃え上がっているのが見えた。
そしてそこには何か布の包みを抱えたシェラさんの
姿もあった。
「シェラさん危ない‼︎」
私の気配に気付いてこちらを見たシェラさんの
後ろで燃えている木が倒れて来たのが見える。
私の声に、サッとそれを避けたシェラさんは
「まさかユーリ様ですか⁉︎」
そう言って、自分の抱えているものに目を落とすと
「これを!」
そう言ってまるでラグビーボールをパスするように
正確に私にそれを投げた。
落とさないように慌ててそれを受け取って確かめれば
ぐったりと気絶している赤ちゃんだった。
逃げ遅れたこの子を助けていたらしい。親は一体
どうしたんだろう。いや、でも今はそれよりも。
「シェラさんも早く」
顔を上げた私から少し離れた場所で、私が赤ちゃんを
受け取ったのを確かめて安心したんだろうか。
ほっとしたように、少し汚れたあの綺麗な顔に笑顔を
浮かべたシェラさんと私の間に、燃え盛る木々が
いくつも倒れて来てシェラさんの姿が見えなくなった。
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